♯42 父として、家族として
十六夜の好感度をチェックするポイントだぞ!
各キャラクターの初期好感度は50前後になってるけど、十六夜の好感度はどうなってるかな?
ちなみに41話時点だと55/100くらいで、実は初期状態からあまり変わってなかったりする。だって十六夜は華炎のことを男性として見てないからね。仕方ないね。
「そうか。十六夜は今も月詠くんと共に過ごしているんだね」
「はい、セレンさんは……失礼。メイド長は一番近くでお嬢様を支えています。お嬢様もお嬢様で、自立した生活をつつがなく送っていらっしゃいますよ」
「よかった、それを聞いて安心したよ。ありがとう赤髪のお嬢さん」
「いえ、肉親としてお嬢様を気に掛ける心中はお察し申し上げます」
ショッピングモール屋上の片隅にて。
お嬢様の父と名乗った豊葛朧さんは、お嬢様の近況を聞いて安心したような表情をしていました。それは間違いなく父親としての表情で、家族へ向けた愛情がありありと見て取れます。
最初から疑ってはいませんでしたが、やはりこの人はお嬢様のお父様で間違いないでしょう。父を騙るニセモノであればあんな顔はできません。
「他にお嬢様についてお聞きしたいことはございませんか?」
私はそれ以外に知りたいことがないか尋ねました。
「いや、もういいよ。娘が息災なら父親として、経営者としてそれで満足だ」
「そうですか……?」
十分と答える朧さんのその言葉に、私は喉がつっかえるような違和感を感じました。
満足と言っているわりに、どこかその顔は曇り気味だったからです。後に続いた経営者としてという枕詞にも、それと似たようなニュアンスが含まれていました。
私はそれが不可解で、つい朧さんにお嬢様と面会することを勧めてしまいました。
「朧さん、折角ですからお嬢様とご歓談されてみては如何ですか? きっとお嬢様もお喜びに――――」
きっと、それがいけなかったのでしょう。
「だめだ、それはできない」
朧さんが厳しい目で私を睨みつけました。いえ、睨みつけるというより、それを厳しく咎めるように目を細めたのです。
その瞳と言葉には、これ以上ないほど明確な拒絶の意志が籠められていました。
私はその怒気に似た念にあてられて二の句を次げられなくなってしまいました。
「……すまない、年甲斐にもないことをしてしまった。怖がらせてしまったね」
「い、いえ……こちらこそ申し訳ありませんでした。差し出がましい真似をしたことをお許しください」
ハッとした朧さんがすかさず謝罪を入れたことで有無を言わさぬプレッシャーは消え去りましたが、私の胸の内にはまだその拒絶の言葉が深く食い込んでいます。
今後数日はトラウマになってしまうかもしれません。
朧さんは倍以上の年の開きがある未成年を怖がらせたことに引け目を感じているのか、お嬢様と会うことを拒んだ理由を自分の口から語りました。
「君も善意を踏みにじるようで申し訳ないが……きっと、あの子は私と会うことを望んでいないよ」
「お嬢様が、望んでいない?」
お嬢様が家族と会いたがらないと聞き、私の胸にはまず疑問が飛来してきました。
なぜなら普通は親元を離れて暮らす子供にとって、家族と会える時間はかけがえのないものに感じるはずだからです。
それをお嬢様が自ら拒むのは理由が分かりません。
しかし、その直後には合点がいく理由も同時に頭に浮かびました。
「……お嬢様は、『豊葛』と呼ばれることを望んでいらっしゃらない……」
「聞いたのかい?」
「え? あぁ、はい。姓で呼ばれることを嫌っていると、お嬢様本人から伺っています」
つい独り言として口をついてしまいましたが、きっとこれが会いたくない理由のヒントなのでしょう。
まだ私が村時雨華炎ではなかったとき、村雨焔としてその言葉を聞いていたのです。
私の記憶が確かなら、『名字呼びは頂けないわ。私を呼ぶなら十六夜の名前で呼びなさい』と……。
そのときはどうして名字呼びを嫌ったのか疑問でしたが、今ならなんとなくわかるような気がしました。
「その、お嬢様はもしや……」
いち使用人として、ただの付き人風情が口にするのは憚れました。
しかし、それでも問わずにはいられません。
「豊葛家そのものを、嫌っていらっしゃるのでしょうか……」
お嬢様は、普通ではない。普通じゃないから、家族と会いたがることを望んでいない。
きっと、これが理由だ。
「……そう、だね。少なくともあの子は私たちと顔を合わせることは望んでいない」
朧さんは私の考えを否定せず、しかし明確な肯定もせずに事実だけを述べました。
人はそれを、消極的な微肯定と呼びます。
家族として、お嬢様の父として、たとえその推測が本当だったとしても頷くわけにはいかなかったのでしょう。
願わくば私も頷いてほしくありませんでした。
私と朧さんの間に絶望のような沈黙が流れます。私は何も言うことができず、朧さんも何か気の効いたことを言えないか模索していました。
しかしそこへ、不意にその沈黙を打ち破るようにして私を呼ぶ声が聞こえてきました。
「華炎! どこにいるの? まさか迷子になったわけじゃないでしょうね!?」
私がゴミを捨てに行ったきり戻ってこないことに業を煮やしたのか、お嬢様が私を探していたのです。
面倒くさがりなお嬢様にしては珍しいことで驚くと同時に、この場を見られてはまずいという焦燥感が私の中で沸き上がりました。
「仕方ない、私はここで失礼しよう。あの子と顔を会わせても気まずいだけだからね」
お嬢様もじきに目立つ緋色を見つけて飛んでくることでしょう。朧さんはここが潮時と悟って踵を返しました。
私はその背中に向けて、無意識のうちにこんな言葉を投げ掛けてしまいました。
「また、次の機会にお話ししましょう!」
冷静に考えれば、それはおかしな言葉です。
私はお嬢様の使用人で、朧さんはお嬢様のお父上。立場が違えば気軽にお話ができる相手でもありせん。
そして私がお嬢様のそばにいる限り、朧さんとはお話もできません。朧さんはお嬢様のお屋敷に来ることができないのですから。
しかしそんな馬鹿らしい言葉に、朧さんは足を止めて言葉を返してきたのです。
「……そうだね、また君の口からあの子の事を聞かせてほしいな」
朧さんは振り返ることなく、しかし僅かな期待を乗せて応えました。
「また会おう、赤髪のお嬢さん」
「はいっ。さようなら!」
今度こそ、朧さんは歩を進めて屋上の雑多の中に消えていったのでした。
「そんなところで何をしているのかしら?」
「わぁっ!?」
そこへ一歩遅れてお嬢様が現れます。ニュッ、と突然前触れもなく。
不意打ちを成功させたお嬢様は一瞬だけ愉悦の表情を浮かべましたが、すぐに険しい顔をして朧さんが消えていった群衆に目を向けました。
「華炎、今の男は誰?」
「お嬢様……?」
一歩遅かったものの、お嬢様は私から離れていく朧さん姿を一瞬だけ目にしたのでしょう。その口振りから察するに、朧さんだとは気付いていないようです。
私はお嬢様と朧さんを守るために嘘をつきました。
「いえ、あの方が迷子になってお困りのようでしたから、ちょっとお手伝いをしただけですよ」
お嬢様を騙すことに罪悪感を感じましたが、それが何よりもお嬢様を守るためなのだと自分に言い聞かせます。
お嬢様が事実を知って傷つくくらいなら、私がほんの少し苦しい思いをする方がよっぽどマシでした。
「またあなたはそうやって……人助けをする前に、まずは自分のことをなさいな」
「あははは……申し訳ありません。やっぱり困ってる人がいたら、つい」
お嬢様はついた嘘に気がつくことなく、呆れたような目を私に向けました。既に朧さんのことなど眼中から消えています。
「えーっと、ペットボトルはこのまま私が持ち帰って処分します」
「そうしなさい。ポイ捨てでもしたら、ご主人様の名においてお仕置きをするわよ」
……嫌だなぁ、それ。
「ポイ捨てなんかしませんよ。私は環境を考える今ドキの16歳なんですよ?」
「そうね、流行に乗ってる現代っ子なら『今ドキ』なんて死語は使わないでしょうね」
「流れるように辛辣な言葉を吐かれました……」
うーん、やっぱり私には最近の子の流行は分かりません。今度マグノリアさんに流行とか色々聞いてみようかなぁ。
世俗から一歩離れた距離にいるお嬢様に非現代っ子の烙印を押されて、私はいつか見返してやろうと思ったのでした。覚えてろよ世捨て人モドキ。
「そろそろ帰るわよ。欲しいものも買ったし、何より一番欲しかったあなたの私服も何点か揃えられたもの」
お嬢様は抱えた荷物を私に見せて、これ以上長居する必要はないと言いました。
私も一刻も早くこの小恥ずかしい格好から抜け出したいので、異を唱えることなくお嬢様の提案に頷きます。
「――――って、この服以外にも買っていらっしゃったんですか!?」
事も無げに言ってのけたので聞き流すところでしたが、お嬢様は今着てる服以外にもいくつか購入しているようです。当然ながらレディースを。
よく見れば先ほど見せびらかしていた紙袋にも春物の服が詰まっていました。
「うぅぅ……なんでそんなにあるんですかぁ……?」
「あのね華炎……普通女性は何種類もの服を着て自分を着飾るのよ。前までのあなたはただ着れられればそれでよかったのかもしれないけれど、これから先でそんな態度は通用しないわ。だってあなたは女の子なのだから」
『本物の』女性の立場として、お嬢様が服の重要性を説いてくださいました。しかし『偽物の』女性である私からすると、しがらみだらけのように思えて仕方ありません。
女性の振りをするって、こういう部分でも気を付けないといけないんでしょうか。やっぱり性別の壁は歴然としているんですね……頑張ってなり切らなきゃ。
「女の子って面倒くさいんですね……あうっ」
「あなたも女の子でしょうに。さぁ、馬鹿をやってないで帰りましょう」
ありがたい講釈を終えたお嬢様は女の子らしからぬ愚痴をこぼした私の脇腹を小突き、地上一階に繋がるエレベーターの方へと歩いて行きます。諸々の入った紙袋をいくつも抱えて。
「……いけませんお嬢様! お荷物は私が持ちます!」
お嬢様に手荷物を持たせてはいけないという使用人根性が炸裂し、私はすぐにその背中に追いつきひったくるようにして荷物を奪い取りました。
「え? あ、そうね。お願いするわ」
「はいっ、お任せください」
お嬢様のお荷物を持つことが、数少ない『まともな』付き人見習いのお仕事でした。久々に本懐を果たすことができてちょっぴり満足です。
紙袋を右手に一つと左手に二つ。三つの紙袋は結構な重さで、あまり力のないお嬢様に持たせていたら大変だったでしょう。やっぱり荷物を強制的に回収して正解でした。
「随分重いですねこれ。流石にお嬢様一人で運ぶのは無理があったんじゃないですか?」
「失礼ねあなた。私でも流石にこれは……いけるわよ」
一人でこれ持って屋敷まで帰れるのなら、どうしてこっち見て話さないんですか? とは言いません。武士の情けです。
その代わり、私を頼ってほしいとお願いしました。
「荷物運びと荷物持ちは男性の甲斐性です。重いものを持ったばかりにお嬢様がお怪我でもしてしまったら嫌ですよ? 頼ってください、私はあなたのお傍にいる付き人なんですから」
「…………女の子のふり、忘れてるわよ」
呆れさせてしまったのか、お嬢様は顔を背けてそのまま再び歩き出してしまいました。
うーん、やっぱり半人前風情が言っていい台詞じゃないですね。もっと精進して、お嬢様に認めてもらえるようになってから言いましょう。
そうしたら、いつものように軽口じみた反応をしてくれるのかな。
「お嬢様。私もっと頑張ります」
「……男の子って、分からないわ」
「うん……? はぁ、そうですか」
微妙に噛み合ってない言葉のキャッチボールに首を傾げながらも、私はあえてそれに言及せずお嬢様の斜め後ろをついていったのでした。
「…………自分から言った言葉の意味も分かってないなんて、少し鈍感じゃないかしら?」
それではここで好感度チェック!
華炎ちゃんの主人公力が試されるぞ。さぁ、計測だ!
十六夜……62/100
これは……あれですね。可愛いだけの女装男の娘だと思ってたら、突然男性らしいイケメンムーブをかましたことにドキッとしたやつだ!
十六夜のデレ目指して頑張れ華炎ちゃん!