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プロローグ・ドライ 迫るmalice(悪意)

トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ! ついに三章が幕を開けます。

ある意味ここからが真の本編。今までちょこちょこ顔を見せていたシリアスが前面に出る重い話(当社比)でございます。

十六夜をメインヒロインに据えた話ですので、華炎ちゃんとの主従コンビをお楽しみくださいませ。


第三章『豊葛十六夜と後継者たち』――――開演のお時間です!



 【豊葛グループ】とは、世界の三分の一を牛耳るとまで称される世界規模の超大型統合企業財閥だ。彼らは商業は元より、建築製造造船不動産運送食品、その他多くの主要産業を(つかさど)る一流企業を支配下に置き、その勢力を世界のいたるところに伸ばしている。

 今や多国籍大企業の半分以上は【豊葛グループ】に所属していると囁かれる現在、【豊葛グループ】は世界の覇権の獲得を目前にしていると言っていい。


 【豊葛グループ】は他の追随を許さないほどの規模へと成長したが、その反面経営は複雑なものになっていた。

 【豊葛グループ】を経営しているのは各グループの代表者たちだ。彼らは傘下企業・提携グループの代弁者として最高決定機関である総合議決会議に出席し、そこで主な経営方針や今後の進展が話し合われる。【豊葛グループ】はグループである以上総帥一人での独裁は不可能なのだ。


 しかし、それでもグループであるからには最高権力者も存在している。彼ら企業の代表者が、絶対に逆らってはならないただ一人の人物が。


 彼の名前は、豊葛朧(とよかずらおぼろ)

 父より受け継いだ『総合会議議長』の席に座って、激変する社会の中で【豊葛グループ】の舵を取った男だ。在任中でグループの規模を三倍近く拡大した彼の功績は、偉業と呼ぶに相応しいほどのものである。

 そして彼の妻の豊葛雪花(とよかずらせつか)は夫を支えるために議長補佐を務め、二人でグループを経営している。この二人がいればこそ、今日の【豊葛グループ】は存在するのである。


 だがここ最近、天才経営者の体調は陰りを見せはじめてきた。

 如何に天才といえどその身は人間。ただの人間である以上、世界の覇権を握る財閥の盟主という責務は一人で背負うにはあまりにも重すぎた。

 豊葛朧は入退院を繰り返し、病にかかっては治療をする日々が続いている。誰の目に見ても彼の体は限界だったのだ。そしてそれは朧本人も自覚している。


 だから豊葛朧は、己の命がまだ続く間に一つの決定を下した。


 

 ――――五人の子供たちの誰か一人に、自分の跡を継がせるという決断を。



 長男、豊葛白夜(はくよ)


 長女、豊葛千夜(ちや)


 次男、豊葛雨夜(あまよ)


 次女、豊葛十五夜(じゅうごや)


 三女、豊葛十六夜(いざよい)



 父親が後継者を選ぶ決断をしたその日。この五人はそれぞれが敵同士となり、互いが互いを蹴落とすための熾烈な争いが始まったのだ。

 それは経営者として実に合理的で効果的な判断であると共に――――父親として、あまりにも愚かな決断だった。生まれてきた子供に優劣をつける、親として最低な行為だったのだから。


 このようして、【豊葛グループ】を巡る身内での壮絶な闘争が始まったのである。







     ▽第三章

 ~豊葛十六夜と後継者たち~







 都内のとある高層ビルの最上階にて。



「おい、インテリクソメガネ。あの情報は本当なんだろうな?」



 一人の男がビルの最上階に構えられた個人オフィスの中へ怒鳴りながら入ってきた。

 彼は粗暴で粗雑なチンピラじみた言葉遣いをしながらも、最高級の衣服を纏って自分が只者ではないことを周りに誇示している。

 といっても、服に着られている感は否めないが。


 どかどかと乱暴に足音を立ててだだっ広いオフィスに唯一あるデスクに詰め寄り、そこに座る青年に罵声もとい声を浴びせる。



「もしもてめぇの言ったことが冗談だったりしたら、アイツの前にてめぇを消してやる。だから答えろ。あの情報は本当なんだろうな!?」



 そんな半分チンピラな男を前にして、詰め寄られた青年は人の良さそうな笑みを浮かべてその問いに答えた。



「まぁ落ち着いてくださいよ兄さん。私が何の目的もなしに偽情報を流すなんてことしないでしょう? 考えてくださいよ」



 青年は短絡的な思考しかしない兄へ丁寧な言葉に隠した侮蔑(ぶべつ)(あざけ)りをぶつける。

 男はそんなことにも気付かないまま、目の前で偉そうに椅子の上でふんぞり返る弟の姿をよく見た。


 彼は自分よりも年下ながらも、比較にならないほどの力を手に入れていた。この表社会で大企業と呼ばれるほどの会社を独力で作り出し、小さいながらも一つのコミュニティの頂点に君臨したのだ。

 地位という名の王冠に権力という暴力に勝る『力』。それは男にとって心から欲してやまないものであり、いつかこの手でつかんでやろうと目論むものであった。


 それを一足先に手に入れた弟は真っ白な高級フォーマルスーツに身を包み、完璧に着こなしている。だが、その目には分かりやすい程の傲慢と慢心が見て取れる。


 男はそこまで考えて湧き上がった怒りを誤魔化すために、わざと大きな声で青年を恫喝した。



「うるせぇ! そんなことよりもさっさとその情報を寄こせ!」

「分かってますよ。全員そろったことですし……ねぇ、二人とも?」



 しかし青年は柳に風といった風に受け流し、急かす男をなだめながらその後ろに彼の背後へ意味ありげに声をかける。

 それにつられて男は自分の後ろを振り返り、いつの間にかこのオフィスに侵入していた二人の女の姿を認めた。その二人を見て男は思わず悪態を吐きそうになる。


 そこにいたのは、一方はシックなレディーススーツを着込んだ艶やかな雰囲気を醸し出す女で、もう一方は何をトチ狂ったのかゴッシクロリータ調のドレスを纏った退廃的な女だ。

 青年はデスクから立ち上がると、大袈裟に両手を開きながら上辺だけの歓迎の言葉を吐いた。



「ようこそ私のプライベートオフィスへ。歓迎しますよ姉さん、君も」

「邪魔しているわ」

「私は世界に言われてここに来ただけ……余計な言葉はいいから早く本題を。世界もそれを望んでいるもの」



 スーツの女は素っ気なく、ゴシックロリータの女は狂気をにじませた声で青年の歓待を切り捨てる。

 青年は形式にこだわっていたのか手順を無視されたことに不快感を顔に出しながらも、何事もなかったかのように表情を戻してデスクに座った。

 その様子に男は胸がすくような思いをして溜飲を下げる。ざまぁみろ、と心の中でせせら笑ったのは言うまでもない。



「……まぁ、私もこの後は予定がありますからね。忙しい身ですので、手短に済ませてしまいましょう」



 さっきまで見栄のためにホスト(招待者)然とした態度を取っていたくせによく言う、とその場にいた全員が思ったが、そんなことには気が付かず芝居がかった様子で青年は喋り続けるのだった。

 それまで無関心に無表情だったゴシックロリータの女も、心なしか青年への不快感を抱いているようにも見える。



「今回お集まりいただいたのは他でもありません。()()()()()()! 今の今まで行方の分からなかった()()()()()()の居場所を突き止めたからです!」



 やたらと自分の手柄なのだと張している事には目をつむり、青年を覗く三人は改めて表情を険しいものへと変える。

 青年はその様子を見て満足そうに頷き、急かされる前に続きを口にする。



「その場所は……かつてあの憎き一族が根城にしていた関東です」



 青年はその一言と共に手元のスイッチを操作し、部屋のカーテンを閉めて照明を落とす。薄暗くなったオフィスだったが、次の瞬間にプロジェクターが起動して部屋の壁に巨大な地図を映し出された。

 その地図に向けて青年はレーザーポインターを放ち、大雑把に東京周辺を指し示しす。それから地図は拡大され、やや閑散とした地区が出現する。



「首都圏郊外にひっそりと構えられたこの豪邸……なんでも『()()()』とか『()()()』だとか呼ばれているそうで」

「へぇ、【月】? やっぱりあの子もなんだかんだ言って(こだわ)りはあるのね」



 するとスーツの女が感心した風に笑みを浮かべながら言った。その笑みにはどこか恍惚とした、()も言われぬ嗜虐心が見え隠れしている。

 彼女を心の中で変態と罵りながらも、青年は最後に締めをかけにいった。



「奴が本家の屋敷から専属のメイドともども逃げ出し個人の勢力を作りはじめてから五年近く、父たちの妨害もあって今の今まで特定できませんでしたが、様々なルートを辿った結果に確定しました。この情報は精度は百パーセントです」



 その言葉に現れるは自信、自賛、顕示欲、そして貴様らとは違うという優越感。目の前にいる碌に情報収集できない格下とは出来が違う、そんな悦に浸っていたのだ。

 そうやって自己陶酔を重ねる青年(きょうだい)に心底うんざりしながら、三人は結論を彼に求める。



「それで? てめえの情報を使って、これからどうしようってんだ?」



 それを待っていたとばかりに笑みを深め、青年はごく当たり前のことであるかのように言ってのける。



「どうする? どうするも何も、そんなこと決まっているじゃないですか」



 一呼吸分の時間を挟んで、凄惨に嗤う。 



「襲撃しますよ。今度こそ完膚なきまでに叩き潰すために」



 普段は政敵として与さざる三人が、初めて意見が一致した瞬間であった。



「【豊葛グループ】の後継者……()()()()()()()()()()()()()、私たちのために消しましょう?」



 己の道を邪魔する者を排除するために。利己的に、合理的に。

 血を分けた家族をこの世から消し去ろうとしていたのだった。







 彼らは『豊葛』。

 彼らは『後継者』。

 彼らは『家族』。

 彼らは『簒奪者』。

 彼らは父からグループを受け継ぐために、妹を犠牲にしようとする者たちであった。


 主に魔手が伸びつつあることを、緋色の少年はまだ知らない――――





今回はついに一章二章を終えて三章へと物語を進めることができました。相変わらずブックマークは三桁にも届かない雑魚駄作ですが、それでも毎日のPVやブックマークに励まされてきました。ありがとうございます!(定型文)


これからも頑張っていきますので、何卒ブックマークとか評価とかお願いします!(定期乞食)

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