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トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!  作者: 利中たたろー
第一章 村時雨華炎のメイド試験
4/85

#3 ゴシック・アンド……?

※注意 この物語はSFでもバトルものでもありません。超能力なんてありません。イイネ?



 女装という文化が地球には存在する。


 説明不要かとは思うが、女装とは男性が女性の装いをして女性になりきることだ。ただし、性別違和症候群の生物学的男性が女性の服を着る場合には当てはまらない。


 さて、今日(こんにち)ではサブカルチャーなどで散見される女装だが、実を言うとその歴史はかなり古い。古くから女装という概念は存在し、その用途はどうであれ決して短い服飾文化ではないのだ。

 日本で一番有名な女装エピソードを語るのなら、源義経が弁慶を油断させるために女装したというものがそれにあたるだろう。人類史を更に遡れば、彼の古代ギリシアの英雄アキレウスさえ女装したという。


 とはいえ、あまりおおっぴらに公言できるものではないのもまた事実。もしも知人や隣人たちにそのことが知れ渡れば、白い目で見られたり好奇の視線に晒されることは間違いない。

 女装文化はその歴史の長さに反して、一般民衆の理解は深くないのである。



「そんな…………そんな馬鹿な!」



 ……とまぁそれっぽい言葉を並べ立てて女装について説明したが、結局言いたいことはこうだ。

 『女装しているところを見られたら、見た人たちの思いがどうであっても死ぬほど恥ずかしくなる』、ということだ。



「なんで僕…………こんなフリフリの女の子服着てるのおおおおおおおお!?」



 ――――つまるところの、今の僕の状態であった。







―――――――――――――――――――――――


  トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!


―――――――――――――――――――――――







「いやいや待って、おかしいよね? 何がどうしてこんなことになってるの?」



 僕は混乱する思考の中でなんとか今の状況を理解しようと試みた。



「まず僕。言うまでもないけど村雨焔(むらさめほむら)16歳、この春二年生になるはずの高校生」



 うん、なんとかここまでは思い出せる。つまり記憶喪失ではないということだ。自分のことを言えるのだから記憶喪失な訳がない。


 じゃあ次に、今僕がいるこの環境についてだ。状況確認大事、しっかりと隅々まで周囲を観察しなければ。


 周りに視線を巡らせてみると、僕はやけに豪華な天蓋つきベッドの上にいることに気がついた。



「……天蓋つき?」



 思わずつきぃ(↑)? と語尾が妙な伸び方をしてしまうほど驚いた。なにせ、こんな超高級調度品なんてお目にかかったこともないのだ。誰だって驚くというもの。


 これ以上このベッドの上にいることが憚られて、僕はいそいそと床に降りることにした。そっと床に降り、それから簡単にベッドメイキングをして綺麗に戻しておく。何がいいのかわからないけど、とりあえずこれでよし。


 それから僕は更に周囲を見て、やはりここはどこかの部屋だということを確認した。



「……でも、一体どこの誰の家の部屋なんだろう」



 ただそこだけが分からない。


 どことなく落ち着いた白を基調とするゴシック調の壁紙に、それに会わせた床や調度品たち。どれも高級インテリアなのは分かるけれど、実際に見るのは初めてのものばかり。

 ただ、それしか分からない。ここがどこなのかという手がかりはどこにもなかった。



「とはいえ、こんな全体的に高貴な雰囲気の部屋があるところなんて、結構限られてくるけどね……」



 高級ホテルのお高めな一室か、どこかの貴族やお金持ちの豪邸か……いずれにせよ、庶民の家でないことだけは確かだろう。だが、今はそれよりもより重大かつ喫緊の問題がある。



「この服どうしよう……なんで女装なんてしてるの……?」



 僕は調度品の中にあったスタンド式の姿鏡の前に立って今の自分を見てみた。


 そこにいたのは、なんともまぁ可愛らしくなった(愉快な格好をした)無惨な僕であった。

 部屋と同じようなゴシック調のブラウスと、若干装飾過剰とも言えるヒラヒラをつけたロングスカートを身に着けていて、ゴシック・アンド・ロリータ(所謂ゴスロリ)のような恰好をしていた。しかも後ろで纏めていた長い赤髪は肩まで伸ばされ、その上ヘッドドレスにも似たカチューシャをくっつけられている。



「…………(呆然)…………」



 しばしの間僕は鏡の中の人影が僕だと信じることができず、鏡の前で放心することしかできなかった。一分ちょっとは放心していたことは間違いない。そしてようやく鏡の中の人物が今の僕であるということを認めざるを得なくなり、掠れたような声しか出せなくなる。



「何で……正真正銘のレディースが似合ってるんだよ……!!」



 倒れ込むようにして床に手を付け、この世の終わりのような顔をした僕が鏡の前にいたことだろう。そんな状態になるくらいに僕の精神ヒットポイントは削られていたのだ。

 人として、男性として異性の服が似合うだなんてことがあっていいのか? いや、あってはならない(反語)。


 あってはならない、のに…………



「もうだめだ。僕はもう二度とメンズを着ることができない……レディースに一度でも袖を通してしまったからには、女性として生きていくしかないんだ……!」



 おおよそ自分でも意味不明なことを口走りながら、僕は深く深く自分の状況に絶望したのだった。






「あらあら、私のチョイスはお気に召したかしら?」



 広い部屋の入り口から、どこかで見たような気がする少女が現われるまでは。



「へ――――?」


「その服、私があなたのために街で見繕ってきた物なの。覚えていないでしょうけど、私を助けてくれたお礼に、ね……」

「お礼? 助ける? あの、一体何のことですか?」



 少女の言うことがよく理解できず、思わずそう問いかけてしまった。すると、彼女はちょっとだけ心外そうな顔をしたあと、意地悪な小悪魔チックな顔をして僕に答える。



「あの時は格好良かったわよ? 暴漢三人を相手に圧倒してたじゃない。可愛らしいけれど、ちょっとだけ白馬に乗ったプリンスを思い浮かべたわ」

「暴漢……? えっと、まさか……」



 その言葉でようやく僕はこの少女が誰かを認識することができた。彼女とは初対面ではない、()()()()()()()()()顔合わせだ。


 濡れ羽色の美しい黒髪。誰もが美しいと答えるであろう美しすぎる容姿。見ているだけでなぜか心臓が早鐘を打つ不思議な少女――――ベンチで寝ていた僕を起こし、三人の男たちに襲われていた少女だ。

 じっくりと目に焼き付けて顔を記憶したから彼女で間違いない。



「思い……出しました」

「そう? ならよかったわ」



 少女はそう言うと入り口のドアを閉めて部屋の中に入ってくる。僕はなぜか彼女を直視することができなくて、さりげなく視線を逸らすのだった。それを知ってか知らずか、少女は僕の正面に立ち、スカートの端をつまんで一礼した。



「私の名前は豊葛十六夜とよかずらいざよいと言うの。結局三回目で名乗るのことになってしまったけれど……以後お見知りおきを」



 優美な所作と共に少女は自分の名前を名乗る。


 僕たちは最初に出会ったときに『二回目に顔を合わせたら名乗る』という約束をしていたのだが、豊葛さんの言う通りその約束は守られなかったんだっけ。

 まぁ、名前を聞かなかった上に自分から言わなかった僕も悪いんだけど。


 僕も豊葛さんに倣い――――スカートを摘まむということじゃなくて――――右足を引いて右手を胸に添えるヨーロッパ系の礼をして自己紹介をした。



「僕は村雨焔と言います。……その、約束を守れなかったのは僕も同じです。お気になさらないでください豊葛さん」



 すると、豊葛さんは驚いたような表情をして僕に言った。



「あなた、そんな礼を知っていたのね」



 ちょっと褒められたようで嬉しかった。けれど、すぐに不機嫌そうな顔になってしまう。



「でも、名字呼びは頂けないわ。私を呼ぶなら十六夜の名前で呼びなさい」

「は、はい十六夜さん」



 謎のプレッシャーを浴びせられて、僕は十六夜さんと呼ぶように強制される。

 名字が嫌いなのかな……そんな風に思いながら名前呼びを心がけるようにした。


 しかし、「とよかずら」ってどこかで聞いた記憶があるけどなぁ……何だろう。こう、知人とかじゃなくて、もっとマスメディアとかで取り上げられているような有名どころというか……

 そんな風に戸惑う僕を見つめ、十六夜さんは口元に手をやってくすくすと上品に笑う。



「えっと、その……ここはどちらなのでしょうか」



 少し気恥ずかしくなったから、僕は十六夜さんに今がどういう状況なのかを聞こうとした。だが、十六夜さんはその問いには答えず、むしろ僕に諭すように質問で答えた。



「あら、覚えていないのかしら?」

「……? 何をですか?」



 僕は何のことか分からず首をひねる。「察しが悪いのね」、と十六夜さんが笑った。ちょっとだけムッとしたけど、僕はそれを無視して十六夜さんが言う「覚えていないこと」を思い出そうとした。



「ヒント、私はあなたに何かを頼みました」

「頼む……? ええっと……」



 ヒントを出してもらっても分からなかった。僕はこういった推理とか推測とかが苦手なので、ヒントを貰った程度では何がなんだかさっぱりなのである。……自慢するようなものじゃないけど。

 僕は必死に目覚める前の記憶を掘り起こし、十六夜さんの言わんとすることを読もうとする。



「ヒント、あなたはそれを強く拒否しました」

「拒否……頼み……」



 うん? なんか思い当たる節があるような……。僕は引っ掛かりを覚えた部分を中心に思い出していった。



 ――――メイドにならないかしら?

 ――――そうそう、拒否権はないわ



 僕はそこまで思い出して、ぶるぶると悪寒を感じた。だって、記憶が正しければ目の前にいる十六夜さんは僕の身柄を狙っているのだから。


 ああそうだ! 僕はメイドになれって言われて、交渉の余地がないことを悟って逃げ出そうとして…………

 それから? それからどうしたんだっけ? おかしい、覚えていない。僕が目覚める直前の記憶がないのだ。どういうことなのだろう。



「ふふふ。まだ、完全には思い出せないかしら?」

「……」



 十六夜さんの浮かべる笑みにどこか既視感を感じた……。あれはそう、獲物を爛々とした目で見つめる狩人、あるいは捕食者の目だ。

 いや待てよ。そういえば、そんな目に見覚えがある気がする。僕はそんなことを思い出し、そこから関連付けて記憶を掘り起こした。



 ――――拉致、とも言うわね。

 ――――あなたを私のお人形さんにするの。



「……お、思い出しました!!」



 僕はついに全てを思い出した。


 十六夜さんは僕をメイドにしようとして、それで拒否したら力ずくでメイドにしようとしたんだ。動機と目的があまりにもアレだけど、この人は本気で僕を女装させてメイドに仕立てるつもりだった。そして実際に僕は今女装をしていて、このゴスロリ服は十六夜さんが選んで着せた服だと言う。


 おや、これは……



「まさか、もう手遅れ……!」



 もしかしなくても手遅れかもしれない。ゴスロリ服の下からダラダラと大量の冷や汗が流れているのを感じる。


 おまけに、僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あれが何なのかは分からないけど、とにかく総合的に考えていろいろとまずいのは決定的だ。

 心臓がバクバク鳴っている。それは捕食者に対する本能的な恐怖だ。



「怖がらなくていいわ」

「ひっ……」



 十六夜さんが歩を進めて僕にゆっくり近寄ってくる。僕は恐怖のあまりじりじりと後ずさりした。十六夜さんが一歩進むたびに、僕は一歩後ろに下がる。また一歩近寄ってくる。また一歩遠ざかる。

 そんなことを繰り返しているうちに僕は壁際まで追い込まれてしまい、ついに退路を塞がれてしまった。



「し、しまった……!」


「ふふふふ。もう逃げられないわよ?」



 そう言う十六夜さんの目はギラギラした獰猛な目つきに変わっている。完全に僕を仕留める気らしい。打つ手のなくなった今、もう僕にできるのは無駄としか言いようのない抵抗しか残されていなかった。



「ど、どうして僕をメイドにしようだなんて思ったんですか!?」

「どうして、ですって?」



 交渉の余地のない相手とは分かっていながらも、もうそれぐらいしか手は無いのだ。しかし、その意味がなさそうな問いかけによって十六夜さんは歩みを止め、僕は少しの延命を手に入れることができたのだった。

 だが、むしろそれは逆効果だったのかもしれない。なぜなら、それによって()()()()()()()()()()()()()を入れてしまったのだから。



「ふふふふふ! そんなの決まっているじゃない! あなたが唯一無二の『天然資源男の娘』だからよっ!」

「は――――? へっ!?」


「世の中には確かに女の子に見える『女装男子』は存在するわ。けどあなたみたいな化粧も女装もしていないのに女の子に見える男の子なんて天上天下(てんじょうてんげ)三千世界(さんぜんせかい)全国津々浦々(ぜんこくつつうらうら)どこを探してもあなただけなのよ!」


「いや何言ってるんだこの人……」

「そんなあなたを目にして欲しくないと思わないはずが無いでしょう! それに、私は可愛い可愛い男の娘にメイド服を着させて侍らかせたいと思っていたの!」

「とんでもない欲望ですねそれ! もういっそ変態そのものですよ!」



 想像以上に大変なことになった。

 地雷を踏んだのか堰を切ったようにマシンガントークを繰り出すその姿は、普段の優美でエレガントな外見からは想像もつかないだろう。だが、残念なことにその本性はこんな具合に本当に残念なものだった。

 十六夜さんは僕を追い詰めることから、段々と男の娘の素晴らしさとその重要さ、ひいては僕の希少性を説くことへと変貌している。

 これはひどい……



「だからいい!? あなたのような正真の男の娘はメイドとして女装すべきで――――」

「絶っっっっっっっっ対にお断りさせていただきます!!!」



 いい加減にしてほしかったのでこれ以上ないほど強くお断りの意志を表明させてもらった。隙をつけば逃げられたかもしれないけど、それ以上にもうその講釈を止めていただきたかったからだ。ただでさえ女の子っぽい外見はコンプレックスだというのに、それを美点だの素晴らしいだの言われては気持ちが悪くて仕方が無い。

 だから僕は声を大にしてNoを叫んだのだった。



「メイドにはなりません! 女装もしたくありません! 僕は男です、男だからレディースを着たくありません!」

「わ、分からず屋……!」

「分からなくて一向に構いません! 僕は僕の意思によってそうならないと決めました!」



 十六夜さんの目を真正面から睨みつけ、僕は絶対にメイドにならないと宣言する。そんな僕の気に圧されて十六夜さんがたじろいだ。だが直後に十六夜さんは冷静さを幾分か取り戻し、前回と同様に強硬手段に出た。



「そこまで言うのなら仕方ないわ……〈()()()()()()()!〉」

「うぐっ!?」



 十六夜さんの言葉が耳に届くと同時に、僕の体の支配権が僕から誰かへ移っていく感覚がした。これは間違いない。十六夜さんの説明のつかない不思議な力の作用だろう。超能力……仮にこれを『ESP』と呼ぶとして、十六夜さんのESPは他人を意のままに操る力を持っているようだ。

 しかも肉体と精神のどちらにも作用するらしい。一度目は僕の意識だけを眠らせて、二度目は僕の体も服従させようとしている。

 つまり、十六夜さんのESPは他人に自分の望む行動を強制させる能力だということだ。外部からの強力な命令により、強制的に僕は十六夜さんの指示に従わなくてはならなくなる。



「だけ、ど!」

「……抵抗(レジスト)しているですって?」



 しかし、それならそれでやりようはある。十六夜さんが僕のよりも強い命令権を行使するというのなら、僕の命令権の方を強くしてしまえばいい!

 簡単に言うのなら、相手が強い数字のカードを出したからより強い数字のカードを出すようなものだ。



「うぐっ……! そんな、超能力ごときなんかが……!」

「か、重ね掛けしてるのに言うことを聞かない!? どうなっているの!?」

「僕にこれ以上……効くものか――――ッ!」

「いつから少年マンガになったのこれ!?」



 結局は十六夜さんの言うとおり少年マンガみたいな根性論になってしまったが、僕の目論見は見事に成功し、十六夜さんのESPの力を振りきることができたのだった。



「はぁ……はぁ……これでもう、あなたの変な力は通用しませんよ」

「な、なんてこと……」



 僕自身まさかESPに抵抗することができるとは思ってなかったけど、十六夜さんはもっと強い衝撃を受けたようだ。その証拠に目を見開き、体が全身で動揺を表現しているのだから。



「よし、今のうちに……!」



 その隙をついて僕は脱出することを決めた。姿勢を低くし、未だ動揺している十六夜さんの脇をすり抜けてようとして――――



「きゃひんっ!」



 盛大に転んでしまった。


 履き慣れないゴスロリ服のロングスカートのせいでつんのめり、顔面から床に衝突してしまったのである。言葉にならないほど痛い! 涙がちょっとだけ出た。

 しかし十六夜さんのすぐ側でこけるという失態は、あまりにも大きなツケとなって帰って来た。再起動を果たした十六夜さんに上から押さえられ、物理的に身動きが取れなくなってしまったのだ。



「は、離してー!」

「ダメよ。私の能力で押さえられないのなら、こうやって押さえるしかないでしょう」

「ふおぉぉー!」



 渾身の力を込めて暴れたが効果は今一つ。十六夜さんは僕を組み敷いたままこれ以上抵抗できないよう更に力を加えるのだった。



「諦めなさい。どれほど暴れようとしても無駄よ」

「諦めないです! 諦めたらそこで試合終了なんです!」

「残念だけど、その理屈が通用するのはバスケットボールだけなの」

「うぐぐぐぐ! むぐぐぐぐ……!」



 それでも諦めきれずに二、三度に渡って抵抗を試みたが、結局十六夜さんの拘束から逃れることは出来なかった。



「ううう……もうだめだぁ……」



 もう脱出できないと悟って全身の力を抜いて脱力した。


 ざんねん!! ぼくの ぼうけんは ここで おわってしまった!



「酷いや……酷いや……」

「そんなに嫌なのね……」



 そりゃ嫌に決まってる。普通の男性が女装するならその似合わなさから笑いのネタで済むけれど、僕の場合はなまじ似合ってしまうので、ネタどころの話ではないのだ。






 だけど……それだけじゃない。



「……何か、特別な理由でもあるのかしら?」

「…………!!」



 十六夜さんの口調が変わった。


 さっきまではどこか余裕と遊んでいたような雰囲気だったけど、一転して真剣な雰囲気を纏いはじめた。上から抑えられているせいで直接顔は見えなくとも、その視線が鋭いものになっているのも分かる。じっとりと背中に変な汗が流れた。



「話しなさい」

「…………どういうつもりなんですか」



 僕は十六夜さんの意図が掴めなくて問い返してしまう。今の今まで無理矢理女装させようとしていた十六夜さんが、いきなり僕の方の事情を汲むかのような言動をするからだ。

 


「……今日のこの日まで、私の催眠に逆らった人なんていなかったわ。だけどあなたは抵抗してみせた。なら、どうしてあなたは私の力を振り切ったの? それだけのことをしてのけた『支え』があったのではないのかしら?」

「……支えなんて、そんな大それたものじゃないですよ…………」



 僕は十六夜さんに組み敷かれたまま、呟くような細い声で言った。本当に大したことじゃない。使命というよりかは義務に近いのだから。


 僕は鮮やかで綺麗な赤い髪をした『二人』を思い出しながら、十六夜さんの言う【支え】とやらを口にした。



「僕は……僕にはただ、お父さんとお母さんを弔わなくちゃいけないっていう義務があるだけなんです……」

「っっ!!!」



 そう告げたとき、十六夜さんが心の底から驚愕したことをうっすらと感じた。




というわけで、記念すべき第一回目の焔君の女装は【ゴスロリ】でした! ゴスロリはいいですよねぇ。特に白黒のツートンカラーが大好きです。(主談)


さて、ここでようやくヒロインの十六夜さんの名前が出て参りました。

いきなり危ない雰囲気を醸し出していらっしゃいますが、ちゃんとしたメインヒロインさんです。……主はちゃんとちゃんと魅力を活かせますかね……


しかしながらESPというインチキ臭い超能力(仮)が出てきましたが、これはファンタジーでもSFでもありませんので、ご安心を。そのうち(結構未来)で説明します。



次回のガリトラは次の金曜日に投稿いたしますので、また来週。

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