♯32 妹でも愛があれば結婚できますよね?
今回は非常に難産でした。頑張って無理矢理仕上げた話ですので、おかしな点があっても読み流してくださいませ。
今日、千春峰女子学院の入学式があります。
入学式とは言わずもがな、新しくこの学校に入学してくる新入生を迎える式典のことです。
私はその入学式が今日あることを知り、お嬢様に頼んでその式に何らかの形で参加させてもらうようにお願いしました。
目的は勿論、あの赤紫の髪をした新入生総代の子です。彼女紫炎なのかどうか……この目で確かめたかったのです。
「華炎、用意はいい?」
「無論ですお嬢様。やる気、那由多パーセントです!」
「そうね、アナウンスは頼んだわ」
「はい。お任せを」
私はこの入学式で、式典の進行を進めるアナウンサー……所謂【陰アナ】をすることになりました。
お嬢様が教員の先生をなんとか説得して、私にやらせることを許可していただいたのだとか。
お嬢様とその先生のために、真剣にやりつつ私の目的を達成する所存です。
「村時雨さん、アナウンスをお願いします」
教員の先生がゴーサインを出します。私は小さく頷き、マイクのスイッチを入れて何度も練習した原稿を読み上げました。
『それでは只今より、令和○年度の入学式を始めます。まず、学園長代理の教頭先生からのお言葉です』
私のアナウンスを皮切りに、入学式が静かにその幕を上げました。
教頭先生が頑張って暗記したであろう台本を思い出しながら、当たり障りのないそれっぽいことをつらつらと並べ立てていました。
お嬢様学校なだけに並の他校と比べれば努力していることがわかりますが、お嬢様のあの『演説』と比べれば遥かに見劣りしてしまいます。
心を揺さぶる言葉も、聴衆を掻き立てる仕草も、聞き入るような面白さもないのですから。
教頭先生のお話が終わる頃にはおよそ二十分近くの時間が流れていました。
先生による来賓のご紹介や校歌のお披露目が終わり、ついにあの新入生総代のスピーチの番が回ってきます。
私ははやる気持ちを抑えながら、努めて平坦にプログラムを告げました。
『続いて、新入生総代のスピーチです。新入生総代は、舞台へどうぞ』
「はい」
そしてアナウンスに呼応し、一種の覇気のようなものを纏いながら舞台へと上がっていく一人の少女。
私は舞台袖に取り付けられたモニターから彼女の姿を見つめました。
彼女は私のよく知るあの子なのか、それとも他人なのか。
それとも…………
『この度、新たに千春峰女子学院へ入学することと相成りました――――』
赤紫色の少女は呼吸一つ分の空白を挟み、会場にいる全ての人の脳裏へ刻み込ませるように自分の名前を口にしました。
『――――私は村雨紫炎。どうぞよろしくお願いします』
あぁ、やっぱりそうだったんですね……
私の思い違いではありませんでした。
あの赤い髪は、紫がかった赤い髪の持ち主は……私の大切な妹だったのです。
「紫炎……どうして君がここにいるの……?」
私は舞台袖の小さなミキサールームで、ただ驚きのあまりに茫然自失となることしかできませんでした。
それから先のアナウンスをどうやったかは、私でもよく覚えていません。気付けば入学式は終わってしまっていたのです…………
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トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!
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あなたにとって、春とはどんな季節か。
答えは人によってバラバラだろう。
ロマンチックに『春は出会いの季節』と言うかもしれない。
桜の散る様を見て『春は別れの季節』と言うかもしれない。
新たな環境に期待を寄せて『春は恋の季節』と言うかもしれない。
片想いの人と離れて『春は失恋の季節』と言うかもしれない。
私にとって、村雨紫炎にとって春は…………忌まわしい季節である。
「……兄様と最後に別れたのも、丁度こんな季節でしたっけ」
あれは三年前、私が中学校に上がった時の頃。
兄様は進学が決まって喜ぶ私にお祝いの言葉と特別な自製プリンを送り――――私の知らないどこかの全寮制の中高一貫校に行ってしまったのだ。
元より私も全寮制女子校への進学だったために、平時に会えなくなってしまうのは覚悟していた。
だが……兄様が私に内密に。それどころか父と母にまで隠して転校していたことが、私はたまらなく悔しかった。
私たちは深く堅い絆で結ばれていると思ったのに。兄様と私はどこまでも信頼しあっていると信じていたのに。
兄様は何も告げず、私の前から去ってしまった。
……そしてつい先日、私は両親を亡くした……
春という季節はいつも私から大切なものを奪っていく。
心から大好きだった兄さんも。
優しかった母と父も。
春になれば何もかもが私の掌から砂のように零れ落ちていく。
だから私は春が嫌いだ。
「春なんて大っ嫌いです……いっそのこと温暖化で常夏になってしまえばいいのに」
私は嫌悪感もあらわに春という季節へ呪詛を投げつけたのだった。
しかしそこで、私の幼馴染兼従者兼お目付け役である栗色の髪をした少女が、私の不謹慎さを嗜めるような口調で苦言を呈する。
「荒れているな紫炎。さっき入学式が終わったばかりだぞ? そんな調子でどうする」
「そうは言いますが……この学校はあれですからね。あの憎たらしい豊葛のとこの娘が生徒会長をやっているんですよ? 腹も立てば余計な思考もしてしまいます」
「やれやれだ。君はそういう忍耐のなさがよく目立つな。それでは自分の立場の示しがつかんぞ?」
「むうぅ……」
彼女の名前は『守山灯音』。
ボブ気味に短くカットした栗色の髪。
刃物のような鋭利な印象を受ける釣り目。
低めなハスキートーンで発せられる男口調。
可愛いと言うより格好いい言うべき、女子からモテそうな美少女。
それが私の従者だ。一応私の親戚にあたる人物でもある。
「……まぁ、君の気持ちも分からなくはないよ。血を分けた同胞が行方不明ともなれば、誰だって落ち着けないだろうね」
「分かってくれますか! 分かってくれましたか灯ちん! 兄様を想う私の気持ちを汲み取ってくれるのはやはりあなただけです灯ちん!」
「いや、分からないよ……流石に血の繋がった兄相手に性欲を抱く気持ちは分からないから。あと灯ちん呼ぶな」
酷い言い種である。
私の兄様を想う気持ちはブラコンや兄妹愛といったものを遥かに超越しているというのに。
きっと兄様の好感度はカンストしているでしょうし、私の兄様へ対する好感度も上限を振り切って∞なんですから、分かってくれてると思ったんですけどねぇ……
「大体さぁ、君の辞書には『倫理』の二文字はないのかい? 兄妹でありながら結婚するだなんて、そんなこと周囲の人間も社会も認めてくれないぞ」
「倫理ィィ……? 倫理ですってェ……?」
倫理、倫理とな……
人として守るべき道、道徳 ※by広○苑
確かにそうかもしれない。人間は社会単位で生きていく生き物で、社会には必ず規律や戒律というものが存在する。
それは例えば強制力のある法であったり、例えば道徳であったり、例えばエチケットであったり……
しかし。しかしである。
かつて偉大なる人は言ったのだ!
「タブーは、破るためにあるとなぁ! あっはっはっはっは!」
「御大将の生き霊が乗り移ったか……」
「人間社会に倫理や道徳が必要なのは認めましょう。しかし、しかしですね。私にはブチ壊さなくてはならないものがあるのです!」
「参考程度に聞こうか」
「『兄妹同士では結婚できない』と抜かす因循姑息な倫理観ですよォォォ!!」
「待て、考え直すんだ紫炎。例え君が兄との結婚を望んでいたとしても、その兄は君と結婚したいと思っているとは限らないぞ」
なん……だと?
それは、それはまさか……まさかとは思うが……
「そんな!? 兄様が、兄様が浮気をしているとでも言うのですか!?」
嘘だ、そんなの嘘だ! 兄様がこっそり転校したのも、私以外の女の子と付き合ってどうっ……同棲するつもりだった……!?
「きっと君は的外れな妄想をしてるだろうから補足しておくけど、そもそも君の兄は君を恋愛対象として見てないから浮気も何もあったものじゃないと思うよ?」
「それはそれで大ショックです!」
ば、馬鹿な……この私がアウト・オブ・眼中だなんて……
おかしい、それはおかしい。花も恥じらう乙女があんなに猛アピールをしていたのに、恋愛対象外だった!?
どういうこと? これは一体どういうこと!?
「あー、これは私の推測だが……」
「何ですか物語る灯音」
「話に聞くところによると、君の兄は随分と鈍感だそうだな?」
「そうですね。遠回しに好意を伝えても伝わらないラブコメ主人公体質です」
「だろう? じゃあ、君の愛の告白(笑)は正確に伝わっていなかったということじゃないかな」
「それこそ論外です! 私はずーっと好き好き好きって言ってました!」
「そう、そこだよ。君が失念していたところはそこだ」
「え? どういう意味ですか灯音」
「君は『異性として』兄を好きだと言っていたが、君の兄は『妹として』好きだという風に解釈していたと考えられるんだが……どうかな? 思い当たる節があるんじゃないか?」
「…………」
待てよ、確かにそんなことがあったようななかったような……
思い出せ、昔の記憶を思い出せ。
私は脳細胞をフル回転させて、灯音の言ったような出来事がなかったか脳内検索した。
三年以上前、兄様とのべったりなラブラブ生活で私は絶えず『好き』と連呼していたはずだが……
『兄様ー! 大好きー!』
『うん、僕も好きだよー』
おや、おかしいな。
私も兄様も、『好き』の単語の前に○○として~という前置詞が抜けている。
もう一つの例を思い出してみよう。
『紫炎は兄様のことが(異性的に)大好きです!』
『そう? 僕も紫炎が(家族的に)好きかな』
…………
………………
これは、灯音の言う通りかもしれない。
私と兄様との間で、認識がズレていたのだ――――!!
「ノォォォォォォォォォォォ!! 私の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おい紫炎、落ち着け。みっともないぞ」
「これが落ち着いていられますか!? 私としたことがとんでもない大ポカやらかしたんですよ!? 落ち着くことの方が無理です!」
「……だから、君がやらかそうがしまいがどのみち兄が靡くことはなかっただろうけどね?」
「不覚! この村雨紫炎、不覚でありました!」
もーなにやってるんだもー。完全に私の意図が正確に伝わってませんよぅ。
穴があったら入りたいくらい綺麗に失敗してしまった。愚にもつかない大失敗だ。
正直兄様の鈍感具合を舐めていたのかもしれない。やっぱりストレートに告白しないとだめだったかぁ……
「通りで兄様が振り向いてくれなかった訳だぁ……」
「だめだなこりゃ。相当にブラコンをこじらせているよ」
「しかし、その失敗はこれから取り返すことのできる範疇です。兄様が生きていればどうとでもなります。そうでしょう灯音!?」
「あーうん、そうだね」
灯音もそう言っている。
そうだ、私と兄様のイチャラブストーリーはまだまだ始まったばかりだ。
落ち込んでばかりもいられない。
私は改めて、行方不明になっている兄様の捜索に全力を挙げることを胸に誓ったのだった。
「ところで灯音。どうして兄様が駆け落ちしようとした女って誰なんでしょうね?」
「…………なぁ柴炎。私は言っただろう? それは君の完全なる勘違いだと!」
「なっ、何ですってぇぇぇぇぇぇぇ!?」
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