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トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!  作者: 利中たたろー
第二章 女子校生活と千春峰
29/85

#24 お嬢様は友達が少ない?

たたろーさん「月曜日に投稿できたからセーフです。セーフったらセーフなんですぅー!」


語り手さん「宿題忘れて学校でやった小学生ですかあなたは」



 僕にとって、彼女はかけがえの無い唯一無二の存在であった。


 八方美人で他人と当たり障りのない距離感を維持していた僕は、彼女以外に親しいと呼べるような人はいなかったのだ。

 彼女は他人を近づけ過ぎず遠ざけ過ぎない僕に臆することなく接し、僕の中での存在感を大きくしていった。


 やがて僕と彼女の間柄が『親友』と呼べるようになった頃、僕たちは『幼馴染』とも呼べるほどの年月を重ねていたのである。

 当時は小学生で、『夫婦』だとかからかわれていじめられたりすることもあったけど、それでも僕たちはお互いに支え合っていた。


 成長するにつれて家に居場所を感じられなくなった僕には、学校で会える彼女が唯一の拠り所だったことは今でも覚えている。




 そして僕が中学二年生になり、妹の柴炎(しえん)が中学校に上がった頃だ。


 ――――僕は幼馴染だった彼女を置いていき、全寮制の中学校に転校してしまったのだった。




 僕が何も言わず目の前から去ってしまった少女……


 名前を、【深山(みやま)マグノリア】といった。







―――――――――――――――――――――――


  トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!


―――――――――――――――――――――――







「ええっと3-Cの教室は……あ、ここだ!」



 美波先生の相変わらず適当なオリエンテーションを終えると、私は2-Aの教室をこっそり抜け出していました。

 目的地はお嬢様のいらっしゃる3-Cです。

 私は今朝屋敷を出る前、お嬢様からオリエンテーションが終わったらすぐに教室へ来るよう仰せつかっていたのです。



「あの、すみません。こちらにお嬢様……じゃなくて、豊葛十六夜お嬢様はいらっしゃいますか?」



 私は教室に入る前に、このフロアにいらした三年生の先輩を捕まえて尋ねました。

 その先輩は私の顔……というよりかは髪を見てから珍しそうな顔をし、若干険のある声音で問い返してきます。



「あら、あなた見ない顔だけれど。豊葛さんとはどういうご関係なの?」



 しまった、先に名乗るのを忘れていました。



「失礼致しました。私、豊葛十六夜お嬢様の付き人をしております、村時雨華炎という者です」


「そうなの? ご免なさい、ちょっと刺々しい言い方をしてしまったわ」



 私が身分を明らかにすると、その先輩は少し驚いて申し訳なさそうな仕草をしました。



「いえ、お気になさらずとも構いません。それよりお嬢様はこちらにいらっしゃいますか?」


「ちょっと待ってて、今見てみるわ」



 先輩は教室の中を廊下からキョロキョロと見渡し、何かを見つけた様子で中へ入っていきます。

 そしてその先に、私の見知った黒髪の少女がいました。



「豊葛さん? 少しお時間いいかしら」



 物静かにハートカバーの英書(えいしょ)を読んでいたお嬢様は、先輩に声をかけられてゆっくりとその方に向き直ります。

 相変わらず所作の一つ一つが優雅でお綺麗でした。



「あら、どうかしましたか新井さん?」


「あなたの付き人ちゃんが来ていらっしゃるわ」


「そうでしたか、わざわざありがとうございます」


「どういたしまして。では、私はこれで失礼します」



 先輩はそれだけ言うとお嬢様の側から立ち去り、私に会釈して教室を出ていかれました。

 私も感謝の意を込めて会釈を返します。


 お陰さまでお嬢様と合流できました。ありがとうございます先輩。



「華炎、こっちにいらっしゃい」


「はいお嬢様、失礼します」



 お嬢様に呼ばれ、私は3-Cの教室へと足を踏み入れたのでした。



「あ、ご覧になって。あの子が豊葛さんのお話ししていた……」


「新しい付き人ですわね。まあ、赤い髪だなんて珍しい!」


「可愛らしい顔立ちだねぇ。肌も綺麗だし……」


「ほんとほんと。あの赤い髪とかすっごく艶々(つやつや)。シャンプーとかコンディショナーは何使ってるんだろうね」



 教室のあちこちから話し声が聞こえてきました。

 赤髪赤目の姿が珍しいのか、その声はほとんどが私の容姿についてのことを話しているようです。



「ふふ、みんなの視線はあなたに釘付けね」


「……正直複雑ですけどね」



 だって私男ですし。女装してて褒められても……ねぇ?


 それはともかく。



「それでお嬢様、何かご用でしょうか」



 私は世間話もそこそこに本題を切り出すよう促します。

 お嬢様も余計な長話はせず、簡潔に用件を述べました。



「華炎、あなたのことを紹介したいの」


「紹介、ですか?」


「ええ。私の友人にね」


「友人ッ!?」



 その一言に、私は天地がひっくり返ったかのような衝撃を覚えました。



「友人!? 友人と仰いましたか!? お嬢様に友人がいらっしゃったのですか!?」


「……何か凄く失礼なことを言われている気がするわ」



 こういってはなんですが、お嬢様は性格に難があ……大変性格に癖がおありです。

 そんなお嬢様と友人関係を築ける人がいるとは思えず、私はてっきりボッチでいるのだろうと考えていました。


 それにも関わらずお嬢様自らが『友人』と呼ぶのですから、驚きを隠すことができません。



「……それは、知りたいような知りたくないような……」



 ただ、なんというか……


 そんなお嬢様と仲良くできるというからには、私のような普通の人とはちょっと違うのでしょう。

 お嬢様のアレな性格を受け入れられるほど器の広い聖人君子(せいじんくんし)か、お嬢様と趣味嗜好が合ってしまう同じくらいヤバい人か


 ……後者でないことを祈るばかりです。



「ああそれと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ……それはつまり、私の女装に関しては何も知らせていないということですね。

 お嬢様のご友人には男だとバレてはいけないわけです。



「かしこまりました。なんとかやってみます」


「ええ、そのつもりでいなさい。じゃあ、早速彼女のところへ行きましょう」



 お嬢様はゆっくりと頷かれると、そのまま席を立って教室の一角へと歩いて行かれました。

 私もその後に続き、お嬢様のご友人の下へと向かいます。


 やがてお嬢様は教室の左斜め前のあたりで止まると、その席でうとうととうたた寝をする外国人風の先輩に声を掛けました。



「起きて、ルナ。起きなさい。豊葛十六夜よ」


「むにゃ、ふゎ……十六夜?」



 彼女は陽だまりの中で目を覚ますと、その金色の髪を揺らしながら上体を起こします。

 ごしごしとこすり、その端正な睫毛で飾られた双眸を開きました。



「おはよう、ルナ」


「わふぅ…………ええ十六夜、Доброе утро (ドーブラエ ウートラ(おはよう))」



 お嬢様のご友人は寝起きであくびを噛み殺しつつ、ロシア語で挨拶を交わしました。



「久しぶりー十六夜。終業式以来じゃない?」


「そうね、そのぐらいかも」


「一年生のときからだけど、三年生もよろしくね」


「こちらこそ、ルナ」



 ルナ……【LUNA】、月。

 それがお嬢様のご友人のお名前でしょうか。


 覚醒を果たしたルナ(?)様はお嬢様の後ろに控える私の存在を見つけると、不思議そうに首を傾げて問いました。



「十六夜、後ろの子は誰?」



 私はお嬢様に無言で促され、一歩前に出て腰を折りました。



「お初お目にかかります。この春から豊葛十六夜様の付き人になることになった、村時雨華炎です。どうぞよろしくお願いいたします」


「まあ! あなたが十六夜の言っていた新しい子なのね! 私は【ルナーシア=ライゼノーブナ=リドリーチェ】。Очень приятно (|オーチンプリヤートゥナ《はじめまして》)」



 なるほど、ルナーシア様……だから愛称が『ルナ』なのですね。


 時々飛び出すロシア語から予想はついていましたが、名前からしてみてもロシア系出身のようです。

 ○○ブナとか、○○ビッチだとかがミドルネームに入っていれば、その人は間違いなくロシア系ですので覚えておきましょう。


 まあそんなことはともかく。



「彼女はロシアの名家出身の留学生よ。あまり失礼のないように」


「かしこまりましたお嬢様」



 やはりロシアからの留学生でしたか。日本語がお上手でしたからそうだと思っていましたよ。


 それにしても、蓋を開けてみれば思いの外普通の人のように見えますね。

 お嬢様のご友人なのですから性格にどんな灰汁(アク)のある人かと思っていたら、まともな方っぽくてよかったです。

 心なしか胸のつっかえが取れた気持ちでした。



「ねぇ十六夜、この子はなんて呼べばいいかしら? 下の名前でいい?」



 ルナーシア様が私の赤い瞳を覗き込みながらお嬢様に尋ねます。そんなに赤い目が珍しいのでしょうか。


 お嬢様はルナーシア様の質問に対し、特に何かを考える素振りを見せずに答えました。



「私は構わないけれど、そういうものは本人に聞くのでは?」


「それもそうね、ごめんなさい」



 ルナーシア様は人当たりのよさそうな笑顔を浮かべ、今度は私に対して同じ質問をしてきます。



「赤髪の素敵なメイドさん、あなたのこと下の名前で呼びたいのだけれど、いいかしら?」


「ええ、構いませんよリドリーチェ様」



 しかし、私がルナーシア様をファミリーネームで呼ぶと、彼女は不機嫌そうに口をすぼめました。



「んー、リドリーチェで呼ばれるのは好きじゃないわ。ねぇ華炎ちゃん、私のことは気軽に『ルナ』って呼んでくれない?」



 ……『リドリーチェ』の名前があまりお好きではないのでしょうか。自分の家名を言うときの表情が複雑そうに見えたので、きっと何か事情がおありなのでしょう。

 出会ってすぐ『ルナ』の愛称で呼ぶのは流石に気が引けるので、ここは『ルナーシア』で呼ぶことにしました。



「では、ルナーシア様とお呼びいたします」


「むー、ここは素直にルナって呼んでほしかったけれど……まあいいわ」



 それはそうと、先ほどルナーシア様は私のことを少し知っているようでしたが、どういうことでしょう?

 少し気になったので、ついでにルナーシア様に尋ねてみました。



「ルナーシア様、いつ私のお話をお聞きになられたのですか?」



 すると、思ってもみなかった答えが返ってきました。



「華炎ちゃんのこと? えーっとね、十六夜からとってもよく聞かされていたのよ」


「お嬢様から?」


「そうよ。あなたは知らないでしょうけど、私とルナは春休みの間に連絡を取り合っていたの」


「そうそう。テレビ電話でずーっと、『新しく入ってきた付き人が~……』って言ってたわよね~」



 そんなことがあったんですか……


 話を聞く限りではほとんど毎日テレビ電話で会話をされていたようですが、それでいつも私の話をしていたのでしょうか? 

 私の話なんてつまらないでしょうに、それでもお嬢様と友達でいつづけてお話を聞いていただなんて、なんて素敵な方なんでしょう。

 お嬢様と仲良くできるのも頷けます。



「……本当にありがとうございますルナーシア様」


「えっと……どういたしまして?」



 ――――あれ、でもルナーシア様だけじゃなくてクラスメイトの方々も私のことを見て『お嬢様が言ってた~~』、と声を漏らしていましたが……あれは一体?



「……まあ、ちょっと今朝あなたのことをみんなにもポロっと言ってしまったのだけれどね……」


「……機密保持はどこへ……」



 お嬢様…………


 そんなにペラペラ喋ってしまっては、私の秘密がいつかバレてしまいますよ!

 バレたら私が社会的に死んでしまうのでできる限り気を付けてください!



「しょ、しょうがないじゃない。あなたが優秀なものだから、主としては自慢したくなってしまうのよ!」


「えっ!? あっ、いやっ、それはその……ど、どうもありがとうございます……」



 い、いきなり言い訳にそんな褒め言葉を混ぜないでくださいよ! なんの脈絡もなく褒められたせいで言いたいこと忘れちゃったじゃないですか!



「と、とにかくっ! 私は悪くないもん! あなたが優秀なのが悪いのよ! QED!」


「そんな横暴なっ!?」


「悪くないったら悪くないわ!」


「パワハラだ! パワハラですそれ! 労働問題ですよぅそれ!」




 そうしてやいのやいのと騒ぐ私たちのやり取り見て、ルナーシア様は楽しげに笑うのでした。



「……ふふっ。二人とも、本当に仲がいいのね。」




 ・姫小路綾姫


 華炎が所属することになった2-Aのクラスメイトの一人。黒い髪をしたたおやかな少女で、『大和撫子』と華炎は評している。


 中堅商会である【HIMENOKOZI商会】の代表取締役、姫小路真傘(ひめのこうじまがさ)の娘。母は幼い頃に死別した。


 柔らかな物腰と丁寧な言葉遣い、その振る舞いはどこをどう見ても文句のつけようのないお嬢様。十六夜もまた正真のお嬢様ではあるが、綾姫はまた別のベクトルでお嬢様。


 初対面である華炎にも優しく接し、その優しさは本物のように感じられるが……?



「着きました。ここが講堂――――正確な名前を【千春会館】と言います」


「どういたしまして、村時雨さん」


「まあ、美波先生ったら。村時雨さんを置いてきぼりにするなんて、相変わらずですね」


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