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トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!  作者: 利中たたろー
第二章 女子校生活と千春峰
28/85

#23 その名はマグノリア

今回は駆け足で執筆したために、所々おかしな点がございますがご容赦くださいませ。



 ……木暮さんに性別を見破られてから、僕は現場から少し離れた場所にあったトイレ(女子校なので当然女子トイレ)に連れ込まれた。


 今は両手を後ろ手で拘束され、トイレの床に座らされている。

 こんなときに言うのもなんだけど、千春峰(ちはるみね)はトイレの床でさえ綺麗に掃除されているものだから感心したなぁ。


 現実逃避気味に考えていたことは置いといて、僕は俯き加減だった頭を上げて彼女を見た。



「んで、ふんじばる前に色々吐いてもらうから。あたしの聞くことにはちゃんと答えること。いいね?」



 金色の眉を吊り上げて木暮さんは僕を見下ろす。

 僕は彼女の命令に逆らうことができず、ただ頷くのみであった。



「はい…………」



 そして闖入者への尋問が幕を上げる。



「じゃ早速、君の本名は?」


「焔……村雨焔(むらさめほむら)


「そう、なら続いて二つ目。どうして男の焔君がここにいるのかな?」


「それは……」



 木暮さんに言ってしまってもいいのだろうか。

 お嬢様に怒られてしまうのは大前提としても、目的を喋ってしまっては僕のバックにお嬢様がいることを教えてしまうことになる。


 そうして躊躇する僕に、木暮さんは再び脅しをかけて喋るよう強要した。



「言わないなら本当に君が男だって全生徒にばらしちゃうけど? 焔君はそれでいいのかな?」



 選択肢など最初からなかった、ということなのだろうか。

 僕はどうしようもできず、素直に全てを話すしかできなかった。



「……僕はお嬢様に頼まれて……いや、僕がお嬢様に頼みました。学校に行きたい、と」


「ん? 頼まれたんじゃなくて頼んだ?」


「…………」


「まあいいや。そのお嬢様ってのは誰?」


「…………豊葛、十六夜さん…………」


「ふーん。あの生徒会長がねぇ」


「…………」


「…………」



 そこまで話して、僕と木暮さんの間には妙な沈黙の時間が訪れた。

 木暮さんは僕に問い詰めて得た情報を整理するために、目を閉じて静かに思考を纏めているようだ。


 僕は何としても十六夜さんに害が及ぶことのないよう、まだ事の全容を掴めてないであろう木暮さんに懇願した。



「……木暮さん。僕はどうなろうと構いません。警察に突き出して、訴えていただいても構いません。でも、どうかお嬢様だけは……十六夜さんにだは、何もしないでください!」


「んー? どして?」


「元はと言えば、僕が『学校に行きたい』と言ってしまったのが悪いんです。僕がそんなことを言わなければ、十六夜さんは僕を千春峰に連れていこうなんて考えることはなく、こんなことにもならなかったんです」


「…………」



 木暮さんは怪訝そうな目を向けてきた。普通、危機的状況に陥ったときに人は保身を優先するものだから、僕の言動に違和感を感じたのだろう。

 しかし僕にとって十六夜さんは恩のある人で、僕が支えたいと思った人だ。そんな人を出汁に保身できるほど、僕は恩知らずでも嘘つきでもない。


 僕は疑いの眼差しをする木暮さんの双眸を真正面から目を逸らさずに頼んだ。



「全部、全部僕が悪いんです。僕が諸悪の根元なんです。だから木暮さん、十六夜さんに、何もしないでください」



 木暮さんは手を口の下にあてて考えるそぶりをし、何かを思い付いたような顔をしてからこう答えた。



「…………じゃあ、こうしよっか」


「え?」


「君はあたしに――――――――すること。これが交換条件。君がこれをやると約束するなら、あたしも黙っててあげる」


「それは……」



 その要求は僕にとって…………


 いや、何よりも十六夜さんに被害が向いてはいけないんだ。僕が犠牲になって十六夜さんが助かるのであれば、僕はそれに喜んで身を捧げよう。



「別にあたしはいいんだよ? 君が男だとばらしても、あたしに実害は無いわけだし」



 最後にだめ押しとばかりに木暮さんが付け足し、僕の意思は完全に決まった。



「…………分かりました。木暮さんがそう言うのなら、僕はあなたの言うことに従います」



 僕はさっきと同じように目を逸らさず、彼女を正面から見据えて答えを口にする。

 木暮さんはそんな僕の様子に満足そうな表情を浮かべ、交渉の成立を宣言した。



「じゃ、そういうことで。一応ボイスレコーダーに今の声は録っておいたから、しらばっくれないようにね?」


「構いません。それで十六夜さんに何もしないと誓えるのなら」


「…………随分と生徒会長に入れ込んでるみたいだけど?」



 僕が十六夜さんのことを口にすると、どういうわけか木暮さんは一転して不機嫌そうな顔を浮かべた。

 その理由が分からず、僕は首を傾げることしかできない。



「どうしてそう思ったんですか?」



 それがあなたとどういう関係があるのか、という意味も含めて木暮さんに問い返した。



「だって君、やけにその人のことを慕ってるみたいじゃん。自分よりもそっちを優先するなんて、よっぽどのことがなきゃできないでしょ?」


「…………そういう性分ですから」



 何がどうしてそんなに気にしているのだろうか。

 十六夜さんのことを嫌っている訳じゃなさそうだけど、意識しているように見える。

 女性ゆえの問題というものなのだろうか。男である僕にはよく分からないが、女性にはそういうよく分からない問題が渦巻いているものなのだろう。きっと。

 僕はそこで思考放棄し、なるようになれとそれ以上考えるのをやめた。


 しかし木暮さんは未だに食って掛かる。



「……綺麗な人だもんね」


「は?」



 確かに十六夜さんは今更議論の余地もないほど綺麗な人だけれど……それがどうかしたのだろうか?



「あたしから見ても、あの人は本当に綺麗な人じゃん。そんな人なら焔君も鼻の下を伸ばして言うこと聞いちゃうよね」


「あの、なんのことですか?」


「だってそうじゃん。焔君がそんなに気にしてる人なんて、()()()()()ぐらいなものでしょ」


「…………」



 ――――なるほど。


 どうやら彼女は僕が十六夜さんの美貌に惹かれて尽くしているのではないか、と疑っているらしい。

 なぜそんなことで木暮さんが突っかかるのかは分からないが、そういうことなのだろう。


 それなら自信を持って答えることができる。



「そんなんじゃありませんよ」


「え?」


「僕は十六夜さんの見た目に惹かれてあの人の側にいるんじゃありません。僕は十六夜さんに恩があって、その恩返しをしたいと思って、心から尽くしたいと思って、あの人の側にいるんです」


「…………」



 木暮さんは納得できなさそうな顔をしている。



「僕が十六夜さんに抱いている感情は、おおよそあなたの思っているような異性に向ける感情……恋情とかそういったものからはむしろ程遠いものです」


「どういうこと?」


「僕は十六夜さんを崇拝している――――、といったところでしょうか」



 僕は十六夜さんに好ましい感情は持っていても、『愛している』という感情は持っていない。

 立場的にあの人は僕よりも遥かに高いところにる。そもそもが釣り合っていないんだ。


 それにさっき言った通り感謝の域を越えて、僕は十六夜さんを崇拝している。

 崇拝しているからこそ恋愛感情は湧いてこない。誓って言うが、僕は本当に十六夜さんを異性としては見ていない。



「…………本当に、焔君は『恩』とか『義理』とかで生徒会長を庇うわけ?」


「はい。それだけの恩が十六夜さんにありますから」



 そこまで説明して木暮さんはようやく納得――――というよりかは呆れていた――――したようで、それ以上の追求をしてこなかった。


 だから、今度は僕が木暮さんに問い返した。



「でも、どうしてそんなことを聞いてきたんですか? 木暮さんと僕は知り合って間もないのに、やけに踏み込んだ質問でしたけど……」



 その瞬間、木暮さんの僕を見る目がゴミ虫を見るかのような険しさになった。

 その詰めたい視線に晒されて、僕の体感温度が絶対零度にまで低下する。冷や汗がだらだらと背筋を流れていった。


 いや、あの、ちょっと。

 僕何かしましたか!? なんかまずいこと言っちゃいました!?


 本能的に恐怖する僕をよそに、苛立ちがピークに達した木暮さんは「ああもう!」と叫んで地団駄を踏んだ。



「あ、あの……木暮さん?」



 ギロッ!


 マグノリアのにらみつける!



「ヒッ……!?」



 こうかはばつぐんだ!


 め、めっちゃ怖い……!

 金髪ギャルとかそういうの越えて金髪ヤンキーだこれ!?


 わけもわからず心の中でボケと突っ込みを入れる僕はさておき、木暮さんはとても荒れている様子だった。



「あのさぁ! この顔見てなんも思わない訳!?」


「えっ? えっ!? ええええ!?」



 と、木暮さんは僕の制服の胸ぐらを掴んでお互いの顔を近づけた。


 顔を見ろ、と彼女は言ってくるが、特に何も思うところはなかった。

 いや、メイクが上手だからとても可愛いと思う。十六夜さんは何もしていなくても綺麗だけど、木暮さんは自分を的確に着飾っていて綺麗だと思う。


 僕は思ったことをそのまま伝えた。



「そ、その……可愛いと思いますけど……?」


「うぇ、えっ? あっいや、そういうことじゃなくて!」



 怒られてしまった……



「さっき初対面って言ったでしょ? それ、違うから。焔君の思い違いだから」


「思い違い?」


「そう。あたしの顔をもっとよく見て」



 初対面じゃない?

 僕と木暮さんは面識があったの?


 自分の記憶に彼女の顔がないか探してみたが、特に思い当たる人はいなかった。


 僕がいつまでたっても自分のことを思い出してくれないことに痺れを切らしたのか、木暮さんは自分の髪を指差してこう言った。



「髪っ! あたしの髪を黒くしたら思い出せるでしょ!?」


「く、黒髪ですか!? ちょっと待っててください。だからゆらっ、揺らさないで!」



 ぐわんぐわんされて苦しい。お願いだから落ち着いてほしかった。



 ――――黒い髪と、この可愛らしい顔立ち。それと、特徴的な名前のマグノリア――――



「うん? マグノリア?」



 あれ、マグノリア? 木暮さんの下の名前はマグノリアだったよな?

 待てよ、なんか僕はその名前に聞き覚えがあるぞ?



「マグノリア、マグノリア、マグノリア…………」



 マグノリア。確か、僕の身近にそんな人がいたような覚えがある。

 彼女は不自然なほどに黒い髪をしていて、お化粧が上手で、男女分け隔てなくフランクに接していて……



 そこまで思い出して、僕は改めて木暮さんの顔を見た。



「…………『マーちゃん』…………」



 その単語を口にした瞬間、木暮さんの顔と『マーちゃん』の顔が一致した。



「マーちゃん……! 【深山(みやま)マグノリア】!!」



 木暮さん……いや、マーちゃんがとても嬉しそうに顔を綻ばせた。



「久しぶり、焔君」



 深山(みやま)マグノリア……彼女は、僕の幼馴染みだった女の子だ。








ちなみに次回月曜日の投稿ですが、難しいかもしれません。期待しない程度にお待ちくださいませ

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