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トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!  作者: 利中たたろー
第二章 女子校生活と千春峰
27/85

#22 壇上の独裁者/支配者

たたろーさん「いや、ちゃんと間に合ったし。金曜日は投稿できなかったけど、月曜日の分は間に合ったし」


語り手「ほう、そうでございますか。では主、今は何曜日かお分かりで?」


たたろーさん「……火曜日です」


語り手「普段投稿する曜日は?」


たたろーさん「……月曜日です」


語り手「主、日曜日は何をしておられました?」


たたろーさん「……君のような勘のいい」


語り手「そのネタはいいから早く続きを書け」


たたろーさん「アッハイ」



 千春峰女子学院の始業式は、他の学校に比べてかなり格式ばった【式典】というべき行事でした。

 わざわざ講堂なんていう設備を使うのですからむべなるかなと思うところですが、会式のブザーやスポットライトまで使われているとなると流石に驚くばかりです。


 そんなガンガン予算使ってて大丈夫なのかなぁーと考えつつ、私は始業式の最中(さなか)にちょっぴり退屈な思いをしていました。


 ほら、往々にしてあるでしょう? 話の長い先生とか、分かり切っていることを再三に渡って釘を刺されたりとか。

 その辺の『学校あるある』は生粋のお嬢様学校である千春峰にも通じる、ということには親近感のようなものも覚えますが、それでも退屈なことには変わりありません。


 周りをよく見ると、私と同じく退屈そうにしていらっしゃる方も少なくありません。中には当然お嬢様らしく真剣にお話を聞いている方もいましたが、そちらはむしろ少数派のように思えます。

 ちなみに遠くに見える教員にも退屈そうにあくびを噛み殺している先生がいらっしゃるようでしたが……まあ十中八九美波先生でしょう。シルエットからも態度からも簡単に想像がつきますね。あ、隣の教員に小突かれてる。



 ――――と、いった具合で式は進んでいきます。


 ……進んでいくのですけれど……



「…………流石に暇すぎやしませんか?」



 はい。

 暇です。

 滅茶苦茶暇です。

 することが無いのです。


 ずっとお話が続くだけでそれ以外の何物でもありません。

 何もせずじっと座っているだけというのは中々に苦痛なもので、言葉にし難いフラストレーションが溜まるかのようでした。


 私はお嬢様の付き人(見習い)として相応しいよう忍耐力には自信がありましたが、ちょっと私をもってしても退屈と感じずにはいられません。

 表面の態度や姿勢こそ真面目な優等生を装っていましたが、私は内心「速く終わらないかなー」と思っていました。



『では続いて、生徒会長からのお話です』



 だから、だったのでしょうか。



『生徒会長、壇上へ』



 予想もしなかったタイミングで、予想もしなかった人物が出てきたことに心底驚いたのは。



『――――豊葛十六夜(とよかずらいざよい)


「はい」



 スピーカーを経由してその名前が私の耳に届いた瞬間、私は思わず椅子から転げ落ちるかと思いました。



「おじょ―――」



 お嬢様、と言い切る前に自分の口を手で塞ぐことができたのは僥倖と言わざるを得ません。おまけに危うく立ち上がってしまうところでした。


 ……椅子から転げ落ちながら立ち上がる、というのも中々におかしな話ですけど。



 壇上に登りマイクを手にしたお嬢様は、まずは深々と一礼をします。直後にマイクのスイッチを入れ、開口一番に



『先生、省略して手早く終わらせて構いませんね?』



 と、挨拶よりも先にそんなことを仰いました。

 …………いや、よくないですよね?  式を省略しちゃったら駄目じゃないですかね?


 すると、教師陣の方から『グッ』とサムズアップする先生の姿が……。

 美波先生ではありません。ありませんが、回りの教員の方々はその人には反対することなく(というか反対する暇もなく)、お嬢様は満足そうに頷きました。



 というかお嬢様は生徒会長でいらっしゃったのですか!?

 なんでそんな重要なことを仰ってくれないんですか!?



 混乱するばかりの私は当然お嬢様の眼中になく、お嬢様はそのまま何事もなかったかのように挨拶を始めます。



『ごきげんよう皆、生徒会長の豊葛十六夜よ。退屈な式で迷惑を掛けるわ、ごめんなさい』



 サラッと式そのものを()()ろし、形ばかりの謝罪をします。


 ……つまり、こんな下らない式の段取りを考えた人を遠回しに非難しているのですね。多分にしてその人は先生の一人なのでしょうが、お嬢様は全く悪びれる様子もありません。

 ああ、きっと内心遅い進行にイライラしていらしたのでしょう。顔には出ていませんが、どことなく声色から苛ついた感情が表れていました。



『さて、生徒会長として話さなくてはならないことがあるのだけれど……そうね、春休み明けで気が弛んでいるから発破をかけるわ』



 お嬢様はそれだけ言うと、一呼吸を挟んで激しい言葉を投げ掛けます。



『学生の本文は学び、先達に教えを乞うことよ。それを疎かにするなど千春峰の生徒足る資格なし! そんな愚か者はこの学校には不要よ!』



 お嬢様は拳を胸元で強く握りしめ、マイクの乗った台をその拳で叩きます。激しい音が直接千春会館に響き渡りました。


 その音に多くの生徒が驚き、発信源であるお嬢様へいくつもの視線が向けられました。


 しかしお嬢様は微塵も動じる様子を見せることなく、むしろ一層熱が入ったかのように力強い演説をされます。



『けれど、学業のみに殉じるのもまた愚の骨頂。多感な時期にこそ、学業以外に学ぶべきことはあるわ。それは部活動(しか)り、委員会運動然り(しか)、個人で行う活動(しか)り』



 かつて、演説の天才と呼ばれた独裁者がいました。


 彼は国が大きな窮苦に立たされたとき、その見事なまでの演説術を用いて国民の支持を集めました。


 今のお嬢様は彼のように生徒たちの注目を集め、己の言葉を一字一句刻み付けるかのように演説を()ち上げています。



「……独裁者、ですか」



 あるいは支配者とも言うべきか。


 お嬢様が生徒会長であることは今さっき知ったことですが、そのカリスマ性は私もよく知っています。


 きっと、お嬢様はこの学校の支配者に限りなく近い存在にいるのではないのでしょうか。



『学びなさい。教科書を(めく)るだけの勉強では知り得ないことも多くあるわ。それを知りなさい。それが学生の本分……私たちに課せられた義務よ』



 周りを見渡してみればほとんどの人がお嬢様の演説に聞き入り、その素晴らしさに惜しみ無い拍手を贈っていました。


 割れんばかりの拍手の音が千春会館を支配します。


 ……なるほど。確かにお嬢様は独裁者(演説の天才)ですね。



「流石です、お嬢様」



 私もその演説に、そして誇るべき私の主人へ拍手を手向けました。


 お嬢様は頃合いを見て一礼すると壇上から降りるかと思いきや、更に衝撃的な言葉を一字一句放ちます。




『先生のねちっこいお説教の分まで言ったことだし、始業式はこれでお開きにしませんか?』


「え?」



 お嬢様は事も無げに教師陣へと提案をしました。確かに短縮するとは言いましたが、その後の行程まですっ飛ばすおつもりだったようです。


 いとも簡単そうに、ごく当たり前のことのように言っていますが、告げられた教師陣には混乱が見られました。

 そりゃあ生徒会長が段取りを無視して色々やっているのですから、そっちはしっちゃかめっちゃかでしょう。


 ついでにお嬢様はその前にご高説を垂れ流していた先生たちも貶しましたね。私もですが。



「……まあ、生徒会長は生徒の代表ですから、生徒の総意と言えばその通りですけど……」



 そう考えればある意味お嬢様のされたことはそれっぽく見えますが……


 ……うん、まあ、千春峰の生徒の皆さんがいいみたいだからそれで結構なのではないでしょうか。


 私一人が少数意見を言っても大同小異でどうしようもないのは目に見えていますし、そもそも私はお嬢様の付き人ですしお寿司の薄塩味……


 そうやって私がいつものようにとりとめのない思考をしていたら、教師陣にも動きがありました。

 教頭らしき女性の先生がマイクを持ち、アナウンスをします。



『え、えー。それでは生徒会長のお言葉を持ちまして、始業式は終了とさせていただきます。各生徒は順番に千春会館から出て教室に戻ってください』



 その言葉を聞いたお嬢様は満足そうな笑みを浮かべ、今度こそ壇上から退きました。それとは対照に教頭先生は冷や汗を浮かべ、何かに怯えるような顔をしています。

 あたかも絶対権力者に脅されているかのような……そんな顔です。


 私はそんな教頭先生をはじめとした教師陣の様子を不審に思いながらも、アナウンスの通りに席を立って教室へと戻るのでした。







―――――――――――――――――――――――


  トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!


―――――――――――――――――――――――







 アナウンスで指示された通り講堂を出た後、私はそのまま2-Aの教室に戻ろうとしたのですが……


 まあ結論から言ってしまうと、道に迷いました。



 …………



 道に迷いました。


 お前は何を言っているんだ、と思うかもしれませんが落ち着いて。私も何がどうなってるのか全く分かりません。ただ迷子になってしまったということしか分からないんです。


 言い訳がましく聞こえるかもしれませんが、私は姫小路さんに案内された道順はしっかりと記憶しています。2-Aの教室から講堂までは覚えていたんです。


 ただ、そのー…………


 ……講堂から出ていく人の波に揉まれてしまい、すっかり見覚えのない場所にまで押し流されてしまったんです。

 ここはどこ? ナタデココ?

 教室への帰りかたが分かりません。

 ここが『千春峰の敷地にあるどこかの施設』ということしか分かりませんでした。



 ……はい。それを予測せずに人の波に突撃した私が悪いんですけどね。あっはっは、はぁ……


 幸いなことに次の授業の時間まではまだ余裕があるみたいですが、このまま校舎を彷徨(さまよ)っていればどのみち同じことでしょう。



「……どうしたら……」



 私はどうしようもなくて、ただうわ言のように呟くことしかできませんでした。


 そのときのことです。



「お、転入生じゃん。どったの? 道に迷ったん?」


「ひゃ!?」



 背中越しに誰かが私に対して話しかけてきました。


 びっくりした……

 不意に声をかけられ、変な声が出てしまいました。


 早鐘を打つ心臓を抑えながら恐る恐る後ろを振り向けば……



「おーっす、さっきぶりだね転入生。あたしのことは分かるっしょ?」



 金髪の地毛と独特の言い回し、それから微妙に制服を着崩したその人は……



「こ、木暮(こくれ)さんですよね?」



 記憶が正しければ彼女の名前は木暮マグノリア。同じ2-A組のクラスメイトで、自称【ネオスーパーギャル】だったはずです。

 ネオスーパーの意味はさておき、唯一のギャルというのが印象的で記よく覚えています。


 私の記憶は間違っていなかったようで、木暮さんは首肯して「正解」と言います。



「すごいね。もしかして全員の名前ももう覚えてたりすんの?」


「はい。自信はありませんが、覚えられたはずです」


「ほうほう。流石に千春峰に転入してくるだけはあんね。あったまいい~」



 耳慣れない喋り方ですが、これがギャル語というものなのでしょうか。男子高校生にはてんで分かりません……

 

 木暮さんは私が対応に戸惑っているのを察したのか真面目な口調に切り替えます。



「あー、村時雨さんにはこっちの方がいいかな? ちょっとあたしのギャル語は厳しすぎたみたいだし」



 内心、ギャル語は意識して作っていた口調だったということに驚きました。


 ……キャラを作っていたのでしょうか? あえてギャルの体を装っているように見えました。

 さっきまでのは言ってしまえば軽薄な喋り方ですが、どこか思慮深く相手を洞察しているようだったのです。


 それをやめたということは、おそらくこちらが木暮さんの本来の口調ということなのかもしれません。



「え、えっと……わざわざありがとうございます」


「いや、全然気にしなくていいよ。あたしもちょっとギャル語は疲れるし」



 ……まぁ、あんな喋り方をしていたら疲れるでしょうね……



「っとと、本題を忘れるところだった」



 脱線しかけた話題を木暮さんが戻します。

 仕切り直しとばかりに咳払いを一つ挟み、木暮さんは核心を突いてきました。



「それで、もしかして村時雨さんは迷子になったんじゃないの?」


「ギクッ……」


「図星かぁ。まあそんなのだろうとは思ったけど」


「お恥ずかしい限りで……」



 うぅ、一瞬で見破られちゃいました。顔が熱いです。

 苦笑いする木暮さん。そんなに分かりやすいほど迷子っぽく見えたのでしょうか。


 赤面して恥じ入る私を見て、木暮さんは仕方ないとばかりに道案内を名乗り出てくれました。



「よし、じゃああたしが教室まで連れてってあげる」


「え、本当ですか?」


「うん、モチだよ」



 私にとってそれは願ってもないものです。

 それを拒む理由などあるはずもなく、私はありがたくその好意を受けとることにしました。



「ありがとうございます木暮さん!」


「いーのいーの。そこはお互い様、ってね」



 茶目っぽくウィンクした木暮さん。

 道が分からないので本当に助かります


 ――――なんか案内されることに既視感(デジャヴ)を覚えるのは気のせいと思いたいかなぁ。


 そんな奇妙な感覚はさておいて、私は改めて木暮さんに頭を下げます。



「重ね重ねありがとうございます。道案内、お願いしますね」


「うん、任された!」



 木暮さんは元気よく歩きだし、私は安堵の念と共にその後ろを着いていくのでした。


































「あ、そうだ。一つ確かめたいことが」



 立ち止まる木暮さん。

 私は疑問符を頭に浮かべながらも彼女のように立ち止まります。


 おもむろに振り返った木暮さんは、私のスカートあたりをじっくりと見つめています



「あの、そんなに私を見てどうされました?」


「ちょっち止まってて。あとあと両手を横に広げてて」



 やんわりと拒絶の意味を込めて言った言葉に答えることはなく、木暮さんはTの字に手を広げるよう求めました。

 その真意は計りかねますが、私はその通りに手を広げました。



「えっと、こう……ですか?」


「うんうん、そんなカンジ。じゃ~いくよ~?」



 返答もそこそこに、手をにぎにぎさせながら木暮さんがにじり寄ってきます。

 ……アレです。一昔二昔前の変態オヤジチックな動作でした。


 いや、ちょ、何ですか何ですか。怖いんですけど。「ふへへへ」とか「ひひひひ」とかそういう声が漏れ出ていて、身構えずにはいられないんですけども。



「こ、木暮さんっ? 何をされるおつもりで……?」



 本能的に何か()()()ものを感じ取った瞬間、私は急いでその場から飛び退こうとしましたが……



「それはね…………こうするんだよ!!」



 時既にお寿司、もとい遅し。 


 木暮さんは私が足に力を込めるよりも早く私の懐に飛び込んでいて――――



「そおぉいやっさぁぁ!」


「――――ッ!?」



 バサリ、と。


 私の長めの改造スカートが、大きく裏返るほど宙を舞っていました。



「え……?」



 何が起きたのか、当事者たる私にもすぐに理解することはできませんでした。



 ただ今の一瞬で理解できたのは、私のスカートがめくれあがっていることと、そのスカートの中を凝視する木暮さんがいることだけ。


 そして木暮さんは一言。



「……まあ想像はついてたけど色気の欠片もないや。よりによって男物の下着かぁ」


「え……? え? ええええええええ!?」



 そして木暮さんがスカートが落ちないよう片手で支えているのを見て、私は遅れて彼女が何をしたのか気が付きました。



「スカート捲りぃぃぃぃぃぃぃ!?」



 え、いやあのちょっと。


 スカート捲りって女子の間では普通にやることなんですか!? 待って待って待って。なんで木暮さんが私のスカート捲ってるわけですか!?

 そんな文化が千春峰にあるなんて微塵も聞いてませんよ!?

 女子校ってそんなにオープンな場所だったんですか!?



 訳もわからず混乱する私をよそに、木暮さんはスカートの内部を見続けていました。



「ふーん……男の下着ってこんなんなんだ」



 あれ、待てよ。


 私、スカートの中見られてるんですよね?

 無防備に下着を晒してしまっているんですよね?

 流石にどうかと思って女装用の偽装下着も履いていないんですよね?


 つまり、普段でも『焔』として使ってる下着がモロに見られている訳で…………



「で、()()()()()()()()()()()()()?」



 アッ…………



「ここは女子校だよ? ()()()()()


「な……なんで……なんでバレちゃったのぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!?」



 ごめんなさいお嬢様、セレンさん。


 転入初日で女装がバレてしまいました……



前回、前々回にて予め予告はしておりましたが、ガリトラ☆を金曜日に投稿できなかったことをお詫び申し上げます。

それと、主が月曜日に上げると宣っておきながら火曜日に投稿しやがったことについても、重ねてお詫び申し上げます。


言い訳としましては、優先せざるを得ないリアル事情がありほとんど執筆に手を付けられなかったという理由です。

……火曜日投稿については完全なミスでした。またか、と思われた方はどうぞご容赦くださいませ。


今日でもってリアル案件は終了致しますので、次回はしっかりと金曜日に投稿できるはずです。

……はずです(予防線)。


では、華炎ちゃんの女装バレを最後に、また次回をお待ちくださいませ。

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