#21 向けられる猜疑心
唐突ですがまず、お知らせがあります。
ストックがまたもや尽きました。
主は常に二話分の量を確保していたのですが、リアル事情を優先せざるを得ず、ついにこの21話でその蓄えが無くなったことになります。
なんとか執筆しようにも、時間の確保が難しく難航すると思われます。
そのため金曜日の更新、あるいは来週の月曜日の更新ができなくなることも考えられるため、ご了承下さいませ。
たたろーさん「書きたいけど書けないんじゃー!」
さて、本編前の前語りでお耳汚し失礼いたしました。
次回の更新はちょっとお待ち頂きつつ、21話をご覧下さい
「着きました。ここが講堂――――正確な名前を【千春会館】と言います」
「ここが……」
校舎から直接繋がる通路を渡った先に、その場所はありました。
外観は千春峰の校舎と同じく、現代的なデザインと古風なデザインを組み合わせた独特の様式です。しかしその内装は校舎と打って変わって、ヨーロッパの古い建築様式で統一されていました。
「千春会館ですか……素敵な名前です」
「はい。私もそう思います」
教室を出てからゆっくり歩くこと五分強。
私は姫小路さんに案内されるまま、始業式の執り行われる講堂にやって来ました。道中の姫小路さんは美波先生と違い、度々こちらの様子を見てペースを合わせるという気遣いをしていただけました。本当にお優しい人です。
私は心の中で姫小路さんに感謝しつつ、さらっと美波先生を貶すのでした。
「……まあ、美波先生も悪い人じゃあないと思いますけども……」
「はい? 美波先生がどうかなさいましたか?」
「ああいえ、美波先生は私を置いてグイグイ歩いてしまう方でしたので……」
「まあ、美波先生ったら。村時雨さんを置いてきぼりにするなんて、相変わらずですね」
どうやら美波先生は新入生に対してもあんな感じのようですね。私ならともかく、新入生にそれは流石に不親切なのではと思いますけど……
……美波先生に関してのことは、今は置いときましょうか。その方がいい。
さて、この講堂こと千春会館。内装に目を向けるとやはり気になることが一つありました。
校舎の方は外観も内装も統一されていたのにも関わらず、千春会館は外と中が違う様式でできているという点です。
「……ここだけ中身が違うんですか?」
「ええ。校舎や他の棟も様式は同じなんですけど、ここだけはずっと昔のままなんです」
本当にここだけ特別なんですね、と思いました。
千春峰女子学院は設立当初【豊葛グループ】と競合していた財閥の支援を受けていたそうですから、その唯一の名残なのかもしれません。
「千春峰も何度も改装・改修工事はしているのですけれど、外装は変わっても内装だけは変わったことがないんだとか」
「明治時代から変わってない、かぁ……」
流石日本最初期の女子校の一角です。聞けば大戦の空爆でもこの講堂だけは焼け残ったそうですから、随分と歴史がありますね。
私はしきりに感心するばかりでした。
「さあ村時雨さん。そろそろ席へ参りましょうか」
「はい、お願いします」
私は手を引く姫小路さんに導かれるまま、私の座るべき席へと案内してもらいます。
「(うーん、なんか性別隠してることが本当に申し訳ない)」
姫小路さんは気付いていないのでしょうけれど私は男ですから、実は異性同士が手を繋いでいるという状況なんですね。
……誓って私にやましい下心はありません。絶対の絶対です。
ただ、姫小路さんは私たちが同性同士だと思ってるからよくしてくれているのでしょう。それがとても申し訳なく思えました。
「姫小路さん」
「はい?」
「本当に申し訳ありません」
「……? 何のことかは存じませんけど、気にしなくて結構ですよ」
謝らずにはいられなかったので、姫小路さんに深く謝罪しました。
お優しい姫小路さんは(何のことかよく分からないから)謝罪を受け入れてくれましたが、いずれ事のあらましをつまびらかに説明し、その上で謝罪をしなくてはならない日が来るかもしれません。
なんとなく、そんな気がしました。
――――とまあそんな寸劇を挟みつつ。
「はい。ここが村時雨さんの座席です」
「ありがとうございました、姫小路さん」
姫小路さんにお礼を述べてから席に座ります。
「では、私の席はあちらなので失礼しますね」
姫小路さんはそう言って、自分に割り当てられた席に座りました。
お互いに距離が離れているので、もう会話するのは難しそうですね。姫小路さんも席に座ったきり、じっと前を見つめて始業式が始まるのを待っています。
私もそれに倣い、じっと式が始まるのを待つのでした。
◇ ◇ ◇
あたしの名前は小暮マグノリア。
千春峰女子学院の2年A組に所属する現役JKだ。
好きなものはおよそスイーツ全般。嫌いなものはゴーヤとかピーマンとか苦い食べ物。
趣味は自分を可愛く見せること。得意なものは一般メイクと特殊メイク。
一応外国の血が入っているクォーターで、髪の色は金色だったり。プラチナブロンドと言ってほしいところではあるケド。
これがあたしの簡単なプロフィールだけど、実はもう一つ特筆すべき事項がある。
あたしは、千春峰の中の生徒で唯一のギャルでもあるのだ。
…………
あたしは、千春峰唯一のギャルだ。
……さては信じてないと見える。
嘘じゃない。あたしは立派なギャルだ。今をトキメク時代の最先端、文化街道をひた走るジャパニーズ・ギャルの一人なんだ。
え? そんなギャルが千春峰に入学できるわけないだろいい加減にしろ?
確かにその通りだ。勉強もまともにせず遊びに耽っていたら、この倍率十倍近くの千春峰に入ることなど出来はしないのは目に見えている。
しかし、しかしだ。それは世間一般に跋扈する有象無象のギャルの話であって、あたしには通じない話なんだ。
このあたしを、頭も体もユルユルな旧世代ギャルと十把一絡げにまとめないでもらいたい。
あたしは、言うなれば新世代……つまり、【ネオスーパーギャル】とでも言うべき新たなギャルの一形態なのである!
……語感が既にバカっぽい? ほっといてよ。
自分で言うのもアレだけど、あたしは頭がいい。小学校の頃から勉強してきたし、遊んでもいたけど学業を疎かにするほどでもなかった。
授業態度も良好だと褒められたし、なんだったらボランティアにもガンガン参加してた。
そう。あたしは他のギャルとは違う!
あたしこそ、新時代を担うネオスーパーギャルなのだ!
…………まあ、正直自分でもそれはギャルなのかという疑問を持ってはいるんだけどさ。中学校まで地毛の金髪じゃなくて黒に染めてたし…………
さておき、あたしはこうして千春峰にいて無事進級もした。それだけが唯一の事実だ。
素行も問題ない、成績もそこそこ、態度良好、それに加えて意欲もあるときた。それで進級できないわけがなかったのだ。
たまーにモノホンのお嬢様たちに品位を落とすなとか言われるけど、あたしは間違いなく優等生の部類に入るだろう。
――――いや、そんなことはどうだっていい。
本題はこれからの話なんだ。
千春峰にはクラス替えというものがない。二年生になろうが三年生になろうが、クラスメイトはずっと同じだ。
進級しても代わり映えしない面々とそれを嘆きつつ新しい学期を迎えようとしたその時、あたしらの担任である美波良子先生からおどろくべきことを伝えられた。
なんと、あたしらのクラスに転入生が入ってくることになったのだ。
それを伝えられたとき、クラスの皆はお嬢様多しといえど少なからず色めきたっていた。勿論あたしだってその一人だ。千春峰では滅多にお目にかかれない転入生が、自分のクラスに来るんだし。
美波先生が呼んでも教室に入ってこなかったというトラブルはありつつも、斯くしてそいつはあたしたちの前に姿を現した。
だが、あたしは彼女を見て強烈な違和感を覚えてしまった。
何せ、彼女はあたしがよく知っている人物と瓜二つだったのだ。
「失礼します」
美波先生が開けっ放しにしていたドアから入る、あたしらの新しいクラスメイト。
そいつは教室という空間に入ってきたその瞬間から、自身の持つ異様な存在感を放っていた。
いや、異能バトル系ライトノベルにありがちな『目に見えないオーラ』とかそういうものじゃない。もっと具体的で、もっと分かりやすいものだ。
髪である。腰に届くか届かないか程度の長さの髪だ。
そしてその髪は――――
――――赤かった。
紅かった。
朱かった。
文句難癖ケチクレームの一つもつけれないほど、真っ赤な色をした鮮やかな色彩の髪だったのだ。
――――深紅?
いや違う。深紅と言うには不純物のない、正真の赤色だ。
――――朱色?
それも違う。朱色と言うには濃い色彩で、正真の赤色だ。
――――茜色?
そうじゃない。茜色と言うには鮮やかな、正真の赤色だ。
ならばそれはなんて言うんだろうか。
周りがその髪について盛り上がっている傍らで、あたしはぼそりと呟く。
「緋色の髪って、まさか……」
【緋色】
赤くて紅くて朱い色の正体。英語ではスカーレットとも言われる正真正銘の【赤】だ。
同時に、あたしは酷く彼女の髪に見覚えがあった。
離ればなれになってしばらく経つが、あたしには一人の幼馴染と言うべき親友がいた。
そいつは教室の前方で注目を集めている転入生と同じように、真っ赤な緋色の髪をしていたのである。
……それがどうも、あたしの知る幼馴染と転入生の姿がダブって仕方がなかった。
いや、あたしだって頭ではあいつと彼女が同一人物な訳がないとは分かってる。だって、あいつは男で、転入生は女なんだから。
まあ、正直あいつは何度も性別詐称してるんじゃないかと思うほどには女の子みたいな身体してたケド。
……そいつの名前は、【村雨焔】と言う。
あたしの両親が離婚したことを機に離ればなれになった、とても仲の良かった親友だ。
そう思えば思うほど、あたしの中では疑惑が深まっていったのだ。
『この転入生は、私の知っている幼馴染と同一人物なのではないか』
という疑いである。
荒唐無稽な話なんてことはあたしが一番よく知っている。男が女装して女子校に通うなんて、そんなことありえないってあたしだって分かってる。
でもどうしても偶然には思えない。
髪の色が一緒なのも。顔立ちが似ていることも。あたしの中で、やけに姿がダブっていることも。
その全部が、あたしの思い過ごしだと思うのは納得できなかったからだ。
「今日からお世話になります。村時雨華炎むらしぐれかえんです! よろしくお願いしますね!」
簡単な自己紹介を済ませて、転入生は人当たりの良さそうな笑顔を浮かべる。
あたしはそんな彼女を見て、誰にも聞こえない大きさの声で独りごちた。
「【村時雨華炎】と、【村雨焔】……きっと、偶然なんかじゃない」
あたしは、あの転入生を調べてみようと思ったのだった。
千春峰唯一のギャル…………一体そんな彼女とヒンコーホーセーでユートーセーな焔君がなぜ知り合いなのか……!?
そんな適当な伏線を張りつつ、今回はここまでです。
次回は金曜日、または来週の月曜日、もしくは来週の金曜日に投稿されるやもしれません。
そこは主の頑張り次第ですので、ブックマークや感想評価をしていただければ間に合う……といいですね。
では、次回のガリトラ☆もよろしくお願いします