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トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!  作者: 利中たたろー
第二章 女子校生活と千春峰
21/85

#16 制服コスプレ女装?

語り手さん「ちなみに、いつごろに女子高生活が始まるんです? 章タイトル詐欺ですか?」


たたろーさん「ちょっとだから! あとちょっとだから! 具体的には18話ぐらいからだから許して!」


語り手「本当にタイトル詐欺の体たらくで申し訳ありません。華炎ちゃんの女子校潜入まで、もうしばらくお待ちくださいませ」



「……最近、妙に女装に慣れてきたなぁ……」



 早朝の時間、緋色(赤色)の髪を(くし)かしながら思った。


 今の時間は朝の6時前。僕は一日のメイド業務のために、ルーティンワークと化した髪のセットをしていた。こうやってメイドになるまでは十六夜さんと話したように、ヘアーケアとか手入れとかぐらいしかしなかったけど、女装するとなってからはもっと細かく、そして時間をかけて丁寧にするようになったと思う。

 女性の苦労と水面下での努力の一端が見えた気がする。そのくらい割と大変な作業なのである。本格的にやると本当に手間隙かける必要があるのだ。


 しかしそれにしても……


 今まで後ろで結っていた長髪を下ろし、肩から下まで伸ばしているその様はどう見ても女性そのものだ。鏡を見ていると女顔なのも相まって、女装せずとも女性と見紛う容姿をしていることを、改めて突きつけられたような思いだった。

 ……男性として複雑であることは変わらないけどさ……



「そういえば昔、中学校の頃に悪ふざけ気味に髪下ろしてそれっぽい仕草してみたっけ?」



 思い返されるのは中学一年生の時分(じぶん)

 記憶が正しければ『髪ほどいてみて』と言われ、罰ゲームのノリで実際にやったはずだ。男子制服着ていたものだから、僕は男にしか見えていなくて、普通に気持ち悪く見えるだけかと思ってたんだけど……



「……うん。『女の子よりも女の子みたい』って言われたんだよなぁ……」



 その後謎の赤髪美少女の噂が学校に広まったのを知って、土下座されても二度とやってやるもんか、って心に誓ったっけ。現在進行形でその誓いは破られてるんだけど、それについては本当にごめん昔の僕。



「……さて、メイド服に着替えよう」



 まぁ過去のことはいいんだ。過ぎ去ったことに執着しても意味はない。人間は前を見て生きなければならないんだから。そうとも。どれほど昔の僕に申し訳が立たなかったとしても、それとこれとは関係ない。

 ……関係ないったら関係ないもん。

 そうしてハンガーに掛けたメイド服一式のセットに手を伸ばそうとしたその瞬間、何の前触れもなく僕に与えられた部屋のドアが開け放たれた。



「華炎! 喜びなさい!」

「ひあっ!?」



 勢いよく開けられた音に驚きつつ、音のしたドアの方を見れば……



「どうしたの? そんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」

「い……十六夜さん……!?」



 普段この時間に起きることのない十六夜さんが、どういうわけか仁王立ちで決めポーズをしているではないか!

 なんとなく背中の方から色つきの爆炎が見える! 幻覚だけど! うーん。でも、着てるのが寝間着というのが妙に抜けててシュール。



「……いや、あの。ほんとーに何をされているんですか。まだニチ○サキッズタイムには早いと思うんですけど」



 そもそも日曜じゃないし。



「ああ、そうね。おはよう華炎…………いえ、焔くんって言った方が正確かしら?」

「そういうことじゃないんですけどね~…………おはようございます十六夜さん」



 挨拶されたらちゃんと返す。これ大事。古事記にもそう書かれてある。

 まぁそんなことはさておき……



「あの、どうしてここに来たんです? というかなぜこんな早起きを?」



 僕はまずどうしても疑問に思ったことを問いただした。

 十六夜さんは基本的に早く起きない。起きれないのではなく、起きないのだ。十六夜さんを起こすのはメイドの仕事。つまり、付き人たる僕の役割なのである。故に、彼女は自発的に起きることはない。

 ……ない、はずだったのだが。



「今日の私はとても気分がいいの。だからあなたが起こしに来るよりも早く遊びに来てあげた、ということよ!」



 十六夜さんが再びポーズを決める。本当にテンション高いなぁ。普段のキャラに見合わないはしゃぎっぷりだ。

 やっぱり寝間着なのがシュールだけど。


 

「何に対して興奮しているのか知りませんけど、これから着替えるので出てってください」



 鼻息を荒くする十六夜さんとは対照的に、僕はあくまでも冷静に言った。 ほら、着替えるのに他人の目があるのは、ちょっとね。そう言いながら強引に部屋の外へ押し出すべく、十六夜さんの背中をぐいぐいと押す。



「ちょ、押さないでってば! これでも早起きしたのには理由があって――――」

「はいはいはい。後でいくらでも承りますから、着替えるのを見られるとまずいので出てってください。ほら、早く」

「いや、だからそもそも着替えに用があるのよ」

「はい? 着替えに? どうして?」



 意味不明な要件を告げられ、僕は困惑することしかできなかった。

 着替えに用がある? 何だそれは。覗き趣味? 覗き趣味をお持ちでいらっしゃるのですか? いかに恩を感じてるとはいえ、そんな変態に仕えるのは遠慮したいんだけど……



「な、何よその変人を見る目は」



 なんて思っていたのが顔に出ていたのか、十六夜さんに責められてしまった。まぁ変態に責められてもねぇ……

 ……あっ。お前も女装してメイド服着てるだろ、というツッコミは無しで。これは不可抗力だから。うん。ノーカンなのです。ノーカウントだ、ノーカウント。

 しかし、メイドであるならばその『要件』とやらも聞かねばならないのもまた事実。気は進まないけど、僕は大人しく十六夜さんの押し出すのをやめるのだった。



「仕方ありません……誰かが聞きつけてしまうかもしれませんから、奥まで入ってください」



 廊下に繋がるドアを開けながら話すのもアレなので、そのまま十六夜さんを部屋まで招き入れる。十六夜さんは急な身の変わりように驚きつつも、しかし「よくやった」と言わんばかりの顔を浮かべてズイズイと部屋に入ってくる。図々しい……いや、この屋敷じゃあこの人が最高権力者なんだから、当然と言えば当然なのかなぁ……?

 現実逃避気味にとりとめのない思考をしつつ、インスタントの紅茶をさっと出した。なぜか部屋にあったそこそこお高い奴だけど、果たして十六夜さんの口に合うかどうか……



「はい、どうぞ」

「あら、気が利くじゃない。流石は私のメイドね」



 実に満足げな笑顔を浮かべる十六夜さん。教育が行き届いていることにご満悦らしい。そして湯気を立ち昇らせる高級カップを傾けて……



「……まっず」



 ひどく不機嫌な顔になった。

 まぁ、そうなるよね。実に予定調和である。

 超一流メイドたちが淹れてきた紅茶で舌が肥えてしまったものだから、こういう大量生産を是とした市販のものは受け付けなくなってしまったのだろう。吐き出さなかっただけまだ忍耐力があるかもしれない。

 いや、別にインスタントが不味いわけじゃなくて、比較するとどうしても劣ってしまうというだけだ。決してインスタントは美味しくないと言ってる訳ではないので、お間違えのないように。



「紅茶を淹れるのは好きですけど、労働時間外ですので」



 そう言いつつ、僕も一緒に淹れていたインスタントを口に含む。



「不味くはないけど、やっぱりセレンさんたちと比べると微妙だよなぁ~……」



 十六夜さんの気持ちも分からなくはない。ここにいるメイドは下っ端からしてオーバースペックな人が多いから、感覚が麻痺しやすいんだよね。特に味覚なんかは顕著だ。僕はお料理が大好きだから味覚が麻痺することは少ないと思ってるけど、時々こうやって庶民の味を思い出さないと危ない事になってしまうかもしれない。



「庶民に贅沢は敵だ、ってあながち間違いじゃないかも」



 そのまま一気に飲み干し、普段から美味しい高著を淹れてくれる人たちに感謝を捧げながら嚥下(えんげ)した。本当にありがとうございます。セレンさん、先輩方皆さん。



「それで? ご用件は何ですか?」



 空になったカップを受け皿に置き、僕の方から本題を切り出した。十六夜さんも同じようにして、僕の問いに答える。



「一言で片づけるならば……ズバリ、あなたに着てほしい服があるわ」



 ふむ。着てほしい服か。



「……どうせいつもの(女装)ですよね?」

「身も蓋もなく言えば」



 辟易(へきえき)しながら問い返すと、やっぱり想定していた通りの答えが返ってきた。なんだ。いつものことか。と、すっかり慣れてしまった自分が憎い。

 しかし、いつもなら強制してくるくせに、どうして今回はわざわざ僕の部屋まで来たのだろうか?どうにもそれが腑に落ちない。



「朝早くからここに来るんですから、何か特別な理由があるんですよね?」



 何かあるとしか思えなかった。そしてどうやらその考えは(あた)っていたようで、十六夜さんは頷きながらこう説明した。



「今回あなたに着てもらいたいものは、ちょっと特別なの」

「特別?」

「ええ。込み入った事情があるから、こうやってまだ仕事の始まってない朝方を狙ったのよ」



 込み入った事情ねぇ



「……どうしても着なきゃいけません?」

「そうね。どのみち着るのは必要になっていたわ」



 避けては通れない道、ということらしい。つまるところ、自分から進んで女装するか、強制されて女装するかという違いのようだ。



「……自分から女装するのもかなり屈辱的だけどさ」



 さもありなん。しかし、それとこれとは話が別だ。やりたくなくてもやらなきゃいけないこと、そういうものは往々にしてある。きっとこれもそうなのだろう。僕は腹を決めて、十六夜さんの頼みを承諾した。



「分かりました。仕方ありませんから、着て差し上げます。仕方ないから」

「本当? 嘘じゃないのよね?」

「ええ。本当ですよ」



 いつもは抵抗や抗議の末に強制女装されることがほとんどだからか、十六夜さんは僕の心変わりように驚いているらしかった。



「本当にいいの? 女装よ? あなたが抵抗してやまない女装なのよ?」

「男に二言はありません」

「……女の子の見た目してるくせに」

「ぐふっ」



 格好つけて言ってみたが、ものの数秒で論破された。やっぱり慣れないことはするものじゃないね。うん。



「ぼ、僕の見た目は置いといて……何を着ればいいんですか?」



 話を無理矢理切り上げ、僕はささっと本題に乗り出した。十六夜さんもそれに乗り、どこかにしまっていたらしい何かの服を取り出す。



()()よ」



 ハンガーにかけられた服。白と黒を基調とし、赤色のアクセントをちりばめた品のいい()()()()()()であった。スカートは十六夜さんチョイスのわりには長めである。



 ――――またコスプレかぁ――――



 心のなかで盛大に愚痴をこぼしつつ、コスプレ制服一式を受け取ったのだった。



「じゃあ着替えますから、出てってくださいね」

「どうして?」

「え?」

「え?」

「「…………」」

「私はいてはいけないの?」

「……出てけぇぇぇー!!」



 斯くして、僕は制服のコスプレをすることになったのだった。




ちなみに前回、十六夜が華炎の採寸でメイド服の上から採寸していましたが、普通にミスです。ごめんなさい。


お詫びとして、次回は華炎ちゃんのお着換えシーンからスタートです! (サービスシーンとは一言も言っていない)

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