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トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ!  作者: 利中たたろー
第二章 女子校生活と千春峰
20/85

#15 髪と退学と採寸と

 豊葛十六夜(とよかずらいざよい)



 統合企業財閥【豊葛グループ】の息女。人の上に立つことが当然であるかのように振る舞い、それに見合うだけの実力とカリスマを(あわ)せ持つ、やんごとなきお嬢様。


 可愛いものが大好きで、気に入った女の子をメイドにスカウトしていたらしい。今は焔こと華炎に夢中(ただし愛玩動物的な意味で)。

 濡れ羽色の美しい黒髪をしている。



 ・性別 女性


 ・年齢 17歳


 ・血液型 B型


 ・誕生日 4/30


 ・趣味 他人(特に華炎)を(いじ)ること、経済を引っ掻き回すこと


 ・苦手なもの(嫌いなもの) 男性(華炎/焔のみ例外)、節足動物、兄姉たち


 ・家族構成 父、母、兄、姉、兄、姉




このままじゃ僕、二年生になれない……!!



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 忘れてたぁぁぁぁぁぁ!」



 そうだ。そうだよ。そうだったんだよ! 僕としたことが、学校という存在を完全に忘れてた!

 家が無くなったり、十六夜さんに拐われたり、女装がバレたり、メイドになったり、とにかく密度の濃い二週間を過ごしてたせいで忘れてた!

 ――――そもそも僕の本業って学生なのに!!



「学生であることを忘れててどうするんだよ僕ウウぅぅぅ!!」



 ゴロゴロゴロ、と床を転げまわってのた打ち回る。背骨に床のゴリゴリした感触がメイド服を通して伝わってくる。結構痛い。



「自己暗示をかけ過ぎたのか!? 自分がメイドであると思い込み過ぎて、本来の村雨焔を忘れていたのが原因か!?」



 普段のキャラも性格も言葉回しもかなぐり捨てて原因の考察をした。

 だって、進級できないんだよ? というか、恐らく多分メイビーで退学だよ? これを慌てず騒がず受け止めろと申すか!?



「口調、口調戻ってるわよ。()

「おっと僕としたことが」



 ああしまった。今の僕はメイド服を着ているから村時雨華炎なんだった。あまりにものショックで元に戻ってしまっていたらしい。もう一度暗示をかけ直そう。


 ……はい。私は村時雨華炎です……

 ああ、危なかった。ここがお嬢様の執務室でなければ性別がバレるところでしたね。



「…………で? そこまで悶々とするほどのこと?」

「することですよッ!!」



 お嬢様の問いに食い気味で答えました。流石にみっともないので埃を払いつつ起き上がります。



「うちの学校はお堅くて厳しい校風って、いつだかに言いましたよね?」

「ええ、言ったような覚えがあるわね。携帯電話の所持も許されていないのでしょう?」

「はい。時代錯誤なことに」



 それを言ったのは確か、僕が追い出される前のことだったような気がします。まだ私がセレンさんに女装バレしてなくて、メイドになることを拒否してた頃です。

 いやぁ、時が経つのは早いですね。それはそれとして。



「そんな極端な学校ですから、生徒の私生活にも口出ししてくるんですよね……」



 そう言いながら、入学してからの一年を回想しました。数々の驚くべき校則と、それに引っかかって注意を受ける生徒たちの姿を……



「……最初の二か月間は地獄でした。まさか入浴は十五分で済ませろと言われるなんて思ってもみなくて……」

「……髪、手入れは欠かせないものね……」

「まったくですよ……」



 二人揃ってため息をつくのでした。

 私ってこの通り髪を結構伸ばしてるから、ヘアケアには手間と時間がかかるんですよね。お風呂で髪を洗うのには注意をしないと痛んでしまいますし、急いでやっても逆効果ですし……。それを十五分以内に済ませて、身体も洗えって言われましても……ねぇ?

 それを抗議したら、じゃあ髪切れよって言われたものですから、そのときは憤慨(ふんがい)したなぁ。まぁ女性ならともかく、男である私が抗議してもそりゃ意味無い訳ですけども。



「……苦労してたのね」

「ええ。お陰様でヘアケアしながら体洗える器用さが身につきました」



 髪の話となると、性別と立場の垣根を越えて話すことができるようです。新発見ですねいや、とてもしょうもないじゃないですか。これ。



「まぁ髪の話は置いておくとして……なにをどうしてそんなに焦っているの?」



 あ、そうです。髪じゃなくて学校の話をしてたのでした。



「……十六夜さん、今まで行方不明だった人がひょっこり現れて、「知らない人の家に泊まってた」なんて言ったらどう思います?」

「…………」

「普通の学校なら停学で済んでいたかもしれませんけど、うちの学校はアレですから。とても厳しいですから」

「……つまり、「不埒なことを!」ってなって」

「一発退学も十分あり得ます……」

「あら……」



 泣きたくなる話ですね。

 しょうがないじゃないですか。家がなくなっちゃったんですよ? 苦学生だからホテルなんかも論外ですよ? 泊まるところがなかったんですよ? こうしてお嬢様たちのお世話になるしかなかったんですよ……



「じゃ、じゃあそれこそ豊葛の名前を出すときよ。流石に私の名前を出せば無理矢理にでも処分無しに……」

「そうですね。私があなたの下で女装して働いている、ということも広まりますね」

「あっ……」



 お嬢様が私の一言に凍り付きました。

 よかった。「それがどうしたの?」なんて言われた日にはどうしてくれようかと思いましたが、そこまで人でなしではなかったようです。

 お嬢様は目と目の間をつまみながら、「処置なし……」と呟きました。



「……ごめんなさい華炎。私の力じゃ打つ手なしね」

「そうですか……お手上げならどうしようもありませんね」



 申し訳なさそうな顔をするお嬢様。自分で私を拐っておきながら、その後のアフターケアもろくにできていないことに責任を感じているのでしょう。私は気にしなくていい、とそれとなく擁護しました。

 しかし、お嬢様の悔しそうな顔が変わることはありませんでした。口を硬くきゅっと結び、険しい目は足下に落ちています。私は声もかけることができず、ただその様を見ていることしかできませんでした。

 しばらくの沈黙の後、



「…………ねぇ華炎、あなたは学校に行きたいと思うかしら?」

「はい?」



 お嬢様の言った言葉の意味が分からず、思わず質問に質問で返してしまいました。

 学校に行きたい? なんか不登校の子に言うような言葉ですね。まあ、敢えて答えるとすれば……



「……私は、行きたいです。学校に行って、もうちょっと学ばなければならないことを学びたいと思います」



 高校は義務教育じゃありません。行くも行かないも自由です。でも、中学だけじゃ身に付かないものがあります。


 人間関係は義務教育だけじゃ理解できません。

 学ぶべき道徳も倫理観も義務教育だけじゃ定着しません。

 劣等感も万能感も、義務教育だけ拭底できません。


 だから多くの人は高校に通う……なんて、私はそんな風に考えています。勿論そうでない人だっていますし、したいけどできない人がいるのも知っています。

 もしかするとこの考え方は古いのかもしれませんけどね。



「そう……本当に、望むのね?」

「はい。望みます」



 念を押すような問いに即答します。僅かな迷いも見せてはいけない……そんな気がしました。お嬢様は私の目をじっと見つめ、やがて溜め息をつきました。



「そうね。きっとあなたならそう言うと思っていたわ」



 それはどこか安心したかのような……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というようなもので……

 もしかして、お嬢様は退学を免れられる起死回生の一手を持ってる――――!?



「まさか、お嬢様! 私はまだ学校にいることができるんですね!?」



 私は思わず身を乗り出しながらお嬢様に問い詰めていました。はしたないと反省する傍ら、早くその答えが欲しいと気持ちがはやります。

 お嬢様はそんな私を片手で制しつつ、焦らすかのようにゆっくりと言いました。



「そうねぇ。あることにはあるわ。たった一つだけね」

「本当なんですね!? 流石ですお嬢様! そんなことができるだなんて!」



 す、すっごい! すごいですよお嬢様! 一体どんなことをするのでしょうか。きっとお嬢様のことですから、私なんかでは到底想像もつかないような凄い事をするのでしょう。かっこいいなぁ~。



「ふふふ。当然じゃない。大事な付き人(おもちゃ)が巻き込まれたトラブルよ? しっかりと対処してあげるのが、上に立つ者の器量というものなのだから」

「わー。流石、お嬢様です。素晴ら……うん?」



 ……でも、あれ? なんかおかしいような気がするんですけど?

 いえ、嘘だと疑ってはいません。お嬢様が私を学校に通えるよう、手を回してくださることは確かだと思っています。ただ、えっと……何かが致命的に矛盾してるような? って思いまして。

 処置なし、ということで申し訳なさそうな顔をしてたのに、どうして今はあんなに笑顔を浮かべていらっしゃるのでしょうか。元からそんなプランがあったのなら、最初から気に病むような素振りをする必要も無かったはずなのに……

 …………何か、私は盛大に勘違いをしてるとか?

 お嬢様お考えになっていることと、私が勝手に想像しているものが、噛み合ってないような気がするんですよね。というよりかは敢えて正確なことを伝えず、私に曲解を促しているような……。非常に言葉にしづらいのですが、そんな奇妙な感覚がしました。



「どうかしたの? 顔色が優れないみたいだけれど」

「うぇ!? な、何でもないですよ~あははは~」



 どうやら顔に出てしまっていたようです。余程変な顔をしていたのか、お嬢様の黒曜石のような美しい瞳が私を見つめていました。

 ……うん。こうやって私の体調とかも気にしてくださる方なのですから、まさか私を騙そうだなんてするはずがないですよね。きっとそうです。私の考えすぎでしょう。嫌だなー私ってば。恩人にあらぬ疑いをかけるだなんて、そんな恥知らずはことをしちゃダメですよね。反省反省。



「……ふっ。やっぱり華炎はチョロいわぁ……」

「?」



 お嬢様が何かを仰いましたが、小さな声でしたので聞き取ることができませんでした。



「華炎、早速準備に取りかかるわよ。こっちに来なさい」

「は、はい!」



 お嬢様がいつになく真剣な様子で私に呼び掛けました。どうしてかは分かりませんが、お嬢様は謎のやる気スイッチが入っているようです。

 言われた通りに側に寄ると、お嬢様はどこからか一般に出回っている普通のメジャーを取り出しました。何をするのでしょうか?



「お嬢様? メジャーなんかを出して、どうされるのですか?」

「じっとしてて。ズレるわ」

「あっはい」



 私の質問に答えることはなく、お嬢様は素早くメジャーを私の体に巻き付けます。これは……採寸している?



「あの、もしかして採寸でしょうか?」

「見れば分かるでしょう? 必要なことなの」



 必要なこと? えーっと、どうして採寸が必要になるのでしょうか。学校と何か関係があるのかな?

 肩幅やウエスト、胸と首回りなどをさっと計り、お嬢様は用紙に書き込んでいきます。その手付きはとても手慣れたものに見えました。採寸をすることに慣れていらっしゃるようです。

 そんなことを考えていると、あっという間にお嬢様は採寸を終えてしまいました。早い、とても早いです。時間にしておよそ三分くらいでしょうか。

 私の体にぴったりとひっ付いていたメジャーが、しゅるしゅると本体に巻き取られていきます。なんか蛇みたいで可愛いですね。



「これで採寸は終わりよ。もう下がっていいわ」

「あ、はい。承知しました」

「さて、この数値を電子化してメールで工場に直接送れば……」



 お嬢様はデスクのパソコンに向き合い、そのまま何かの作業を始めてしまいました。目を合わせられることはなく、液晶に顔を向けたまま退出を促されました。

 一見ぞんざいに見える仕草ですが、これはお嬢様が立て込んだお仕事をするという合図でもあります。パソコンの操作に集中して、こちらとのやりとりが少しおざなりになってしまっているのです。

 さて、後は退出してしまえは終わりですが……。折角ですから、一つお仕事を貰ってしまいましょう。



「お嬢様」

「何かしら?」

「後程、焼きたてのアップルパイをお持ちしますね」

「そう。楽しみにしてるわ」



 短く、しかし期待を滲ませた答えが返ってきました。ただそれだけのことです。しかし、それだけで心の底からやる気が(みなぎ)るかのようでした。


 ええ、やる気、那由多パーセントです!



「では、また」



 私は最後にそれだけ言い、執務室から出ていったのでした。






◇     ◇     ◇






「フフフ、そうねぇ。私も楽しみよ、華炎」



 華炎の去った執務室の中で、十六夜は一人ほくそ笑む。彼女が指を滑らせるパソコンの画面には彼の寸法と、()()()()()()()()が浮かび上がっていた。



()()()()()()()()()()()()。もっとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ね……」



 心底愉しそうに、豊葛十六夜は笑い続けるのであった。



 月詠(つくよみ)セレン



 豊葛十六夜に仕える従順なメイド。屋敷のメイドを取り仕切るメイド長でもある。

 不幸な事故で華炎の女装を見抜いたが、一悶着あって屋敷にいることを許した。鬼のメイドと恐れられる一方で、優しい上司としても慕われる。

 西洋人の血が入っているクォーター。

 月の如きシルバーブロンドの髪が特徴的。



 ・性別 女性


 ・年齢 20代前半(自己申告)


 ・血液型 AB型


 ・誕生日 9/5


 ・趣味 家事、料理、ゲーム


 ・苦手なもの(嫌いなもの) クズ男(特定の人物の代名詞)


 ・家族構成 父(絶縁) 母(絶縁&行方不明)

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