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プロローグ・ゼロ 運命が狂った日

まずはこの小説を読もうとしたそこのクレイジーなあなた。まことにありがとうございます。

わたくしは【語り手】。ここの著者はわたくしを通して物語を語るという、謎のメタ設定を設けております。ですので、これから先の活字は全て私が語っているものとしてお読みくださいませ。

以後お見知りおきを。


さて、前置きで必要以上に語るのは不粋というもの。

トラップ☆トラップ☆ガーリートラップ! 開幕でございます。



 これは誰かの見た夢のこと。いつかの過去にあった記憶の再生。

 それは霧雨の降る日のことだった。



 

「……この赤子が件の子か」


「はい。その通りでございます」


「そちらの申した通り、確かに『血』を引いていますね」


「ええ、ええ。間違いございません」



 古めかしい武家屋敷にて、四人の人間が前時代的な蝋燭の火に照らし出されている。


 赤い赤い、それは見事に鮮やかな赤い髪をした男女と、どこにでもいる黒髪の男。

 そして黒髪の男の腕の中で眠る、生後数ヶ月ほどの幼い赤子が一人。


 その一人の赤子を巡って、この三人の大人は一同に集まっているらしい。


 わざわざこんな場所で集っているからには、あまり世間で表沙汰にできない後ろ暗いものなのだろう。ひょっとすると、まだ何にも染まっていない無垢な赤子の身売りなのかもしれない。

 赤い髪の男は眠る赤子の顔を見て小さな呟きを漏らした。



「……こうして見ると、女か男かは言われなければ分からんな。確かに――――(思い出せない)のようだが、それに等しく――――(思い出せない)にも見える」



 すると、伴侶らしき赤い髪の女性が面白そうに口許を綻ばせた。



「赤子とはそのようなものですよ。女か男かは関係なく、男女の差などあってないものです」


「……そうか。人間は生まれたときばかりは等しく平等なのだな」



 男が表情の変化の乏しい顔で、感心したように眉毛を動かす。

 彼の言った言葉は暗に「人は平等ではない」と言いつつも、赤子に対して慈しみを感じさせるものだった。


 だが、そうではないと黒髪の男がすかさずその言葉に異を唱える。



「いいや、それは違いますとも。人は生まれたときから差別され、不平等の下に生まれるのですよ。受け継ぐ血筋、生まれた境遇、選べる選択肢、その生き方や在り方さえも、何もかもが平等ではありません」



 そう言い、黒い髪の男は腕に抱く赤子を見た。



「この子だって、きっと不平等な運命に振り回されて数奇な人生を歩むことでしょう」



 そう言った彼の顔には暗い影が落ち、その表情を読み取ることはできない。

 それに呼応して、赤い髪の女の顔が憂いを帯びたものになったのは記憶違いだろうか。



「……世界が、運命がこの幼子に試練と絶望を与えると言うのならば、それを跳ね返せるだけの力をこの子に与えましょう」



 赤い髪の女性が確固たる意思を感じさせる声色で黒い髪の男性に言った。隣に座る赤い髪の男性も無言で頷く。

 数秒の間、無音のもとに赤い髪の男女と黒い髪の男性の視線が交差した。



「……そうですかい。ならば、私はあなた方を信じてこの子を託しましょう」



 自嘲するような笑みを浮かべて黒い髪の男性はそう言った。

 その曖昧な笑みの裏には、自分では育てきれないという無責任とも言える感情が隠れている。


 彼は腕の中の赤子を起こさぬよう、ゆっくりと音をたてずに立ち上がった。それから瞬き一つぶん遅れて赤い髪の男女も立ち上がる。



「では約定の通り、『優れた血』を色濃く受け継ぐその赤子は我らが貰い受ける」


「決して不幸な子にしないことを誓います」


「ええ。何卒、幸薄いこの子をよろしく頼みます……」



 それぞれに言葉を交わし、黒い髪の男は赤子を二人の手に渡した。


 赤い髪の男女はそれを優しく抱え、己の未来を知らぬ無垢な赤子を出迎える。



「……ここに、遠き偉大な我らの先祖が定めた約定が果たされた」


「はい。私はお暇させていただきます」


「お気をつけて」



 黒い髪の男性はそのまま暗い部屋を出ていき、やがて薄い雨の霧の中へと姿を消していった。

 後に残されたのは、因果な運命を背負わされた――――の赤子と、その赤子を義務によって引き取った二人だけだった。


 女性は腕の中に眠る赤子を見つめ、悲しそうに目を伏せる。



「なんと憐れな――――(思い出せない)でしょう。親から見放され、血の定めに振り回されるだなんて……」


「……『優れた血』など、過去の遺物だと言うのにな」



 男性もそれに同意するかのように言葉を漏らした。顔にこそ現れていないが、その言葉からやるせない感情が胸中に渦巻いているであろうことは想像に難くない。



「……この子を跡取りにしましょう。私たちの跡を継がせ、知識を与え、技を与え、力を与えましょう。せめてもの運命への反抗に……」



 彼女はこれから自分の子となる――――を抱え、隣に立つ男性にそう語りかけた。男性は深く頷いて同意を示す。


 二人は大切に赤子を抱え、部屋を照らしていた唯一の蝋燭を吹き消して部屋を出ていく。じきに先程の黒い髪をした男性と同じように霧の中へ消えていくことだろう。


 最後に残されたのは、全てを平等に包み込む暗闇だけだった。



 これは、いつかの遠い日の回想。誰かが最期の刹那にふと思い返した編纂されし記憶である。




前書きで語りました通り、この小説をお読みになって頂きありがとうございます。

始まったばかりのガリトラではございますが、亀更新のため本編は一週間後の公開を予定しております。ストックしているためほんのちょっとの間は安心ですが、亀更新なのは変わりありません。


とにもかくにも、ガリトラをよろしくおねがいします

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