第四話
「割り入って失礼。アレン王子、多分だけどなこのまま事実を国王に言っても、不利益を被るのはお前だぜ?」
「何…?そんなはずあるわけないじゃないか!父上ならちゃんとわかって…」
「残念だがなぁ?こっちにはれっきとした証拠も根拠もあるんだよ。君が偽装でこの断罪をでっち上げようとしたってね。なんならこの書類に書いてある君のサイン、今から筆跡鑑定でもして確かめてもらってくる?
あとね、いくら君が国王の息子であったとしても、犯した不正が裁かれないなんてことはないんじゃないかな?国王も正式な判決を下すと思うよ。多分だけど。その時にそんな口だけの証拠とどっちを信じると思う?」
「くっ…!」
さすがの殿下もこれには反論する余地もなかったのか、悔しそうにうなだれていた。
(さっすがレイくん!非の打ち所がないわ!素敵…!)
わたしがそう関心していると、アレン殿下が思いもよらなかったことを言い出した。
「お前は…いったい何者だ?」
殿下はレイくんに向かって言った。そう、レイくんに。
(え?レイくん呼んだの殿下自身じゃなかったっけ。なのに何者ってどういうことなの?)
わたしは殿下の発言に混乱していた。それはわたしだけではなかったようで、周りも疑問の声をあげているのがちらほら聞こえた。
「僕?僕は君の従者のレイだよ~!…ってもう信じてもらうのに無理があるか。へへっ」
「おふざけはそこまでにして、本当のことを言え。…今のでよくわかった。レイはお前のような男じゃない。今日はこの卒業パーティーのために厳重な警備が張ってあったはずだ。お前…いったいどこから入ってきた?」
(まあわたしはレイくんが何者であろうとも好きなのには変わりないけどね!…というかこういう時は殿下も少しは頭回るんだ。へぇー)
わたしは心のなかで殿下に対して少し…いや、かなり失礼なことを考えていた。まあこいつ相手ならどうでもいいか。
なんて思っていると、レイくんが笑顔のまま気楽な感じでおぞましい発言をしたのが聞こえた。
「ん?僕ならずっとこの城にいたよ?
僕は200年くらい前からずっとこの城の地下に封印されてたからね。でも最近、結界が緩くなってたから簡単に出ることができたのさ。
で、君たちがなんか企んでるのをたまたま見かけて、面白そうだからこの計画を立てたって訳!」
(え…?200年前?この城の地下に封印?ってことは…)
王妃教育を受けたときにこの国の歴史もやっていた。…その時に聞いたことがある。この国の大きな秘密を。
* * *
今から約200年前。この国、リール王国で大きな戦争が起きた。今まで大人しくしていたはずの魔族が攻めこんできたのだ。それは魔王の復活によるものだった。
国は酷く荒れ果て、多くの人が犠牲となった。隣国に助けを求めようにも既に壊滅状態で、援軍も見込めず、もうどうすることもできなかった。
そんな絶体絶命のとき、天界から一人の使者が現れた。その者は自らを“破壊神„と名乗り、人間がどう足掻いても敵わなかった魔族を瞬く間に一掃してしまった。
そして魔王の首を跳ね、あろうことかその首を持ち帰ってきたのだ。
いくら相手が敵と言えどその行為は残酷なもので、どうかと思われたが、そのお陰でリール王国が守られたというのも事実だった。
当時の国王はその者がこちらに牙を向くことを恐れ、目の届くリール城の地下に幽閉するべきだと判断した。しかしそれは建前であって、いつかまた起こるかもしれない戦争のために、“それ„を兵器として利用しようという魂胆の方が大きかった。
そうして魔術師30人がかりで、数百年間その破壊神を閉じ込めることのできる結界を張り、封印したと言われている。
* * *
この話は王家の汚点とも言える話なので、あまり伝えられてはいない。だからそれを知る者は王家とその関係者以外ほとんどいなかった。
わたしは王妃教育の一環で聞いたことがあったが、正直、神や魔族の存在なんて信じていなかった。
しかし本当に200年前からこの城の地下にいたというのなら、もしかすると彼は…
「200年?封印?…ふっそんな馬鹿げた話、信じられるとでも?正直にいえ。誰の差し金だ?シェフィ嬢だろう?彼女に言われて潜んでたんだな。」
「はぁ?」
(いや、馬鹿げてるのはそっちでしょ!…って、まさかとは思うけど…知らない?
あー。この人第一王子だし顔も…いい方だから周りから甘やかされて育って、勉強もまともにしてないとか?…あり得るわ)
呆れすぎてもはや可哀想にすら思えてきた。
「…そもそも彼女とは初対面だし、そんなこと出来るわけないじゃないか。まず今日の卒業パーティーは関係者以外立ち入り禁止なんだろう?それなのに厳重な警備をくぐり抜けて怪しまれずに外部から入ることなんて出来ると思う?こんなことちょっと考えればわかるだろ。馬鹿なのか?」
「ばっ…馬鹿だと!?」
レイくん(?)も呆れ果てた様子で言った。うん、全くその通りだと思う。
「別に僕の話は信じてもらわなくても結構だよ。でもね、この子のことは少しは信じてあげようよ?都合が悪くなったら途中で逃げ出す臆病者とどっちが王妃として相応しいか…一目瞭然だよね?まあシェフィちゃんは王妃にはなりたくないみたいだけど」
「………っ!」
(レイくん…!)
わたしは彼のかっこよさと優しさにジーンとしていた。それと同時に、わたしはさっきの台詞でとあることが引っ掛かっていた。
「…逃げ出す?」
「そこにいたピンク髪のb…令嬢だよ。…アイツも後で絞めとくか」
そういえば気づいたらいなかったような…。
隣でボソッと物騒なことが聞こえた気がしたのは気のせいだと思う。
「さーて、これからどうするかは君次第だよ。少なくとも僕はこれまでのことを反省するべきだと思うけどね?
じゃあそういうことで。言いたいことは言ったし、飽きてきたからそろそろ僕は行くね」
そういった直後、レイくん(?)を中心とした周りに大きな魔法陣が現れた。
「バイバーイ」と手を振る彼を追いかけようと、とっさに魔法陣のなかに足を踏み入れた。
「あっ待って…!」
その瞬間わたしは大きな光に包まれ意識を失った。
* * *
「あれは…転移魔法?それに彼の存在…伝説じゃなかったのか」
その一部始終を見ていたとある男性が呟いた。
会場は突然起きたことに動揺が隠せず、未だにざわついていた。
残されたアレン王子は呆然とその場に立ち尽くしたまま、消えてしまった二人の跡を見ていた。