私は辺境伯のお嬢様
目を覚ますとそこには長い金髪を陽の光で輝かせる青年が居て私に微笑みかけているのだ。
大丈夫かと声をかけられその美声にも心が揺れてしまう。
生返事しかできず、もしかしたら顔が茹で上がってしまっているかもしれないと思うと更に顔が熱くなるのを感じた。
目をそらすと自分が今この男性にお姫様だっこをされているのに気が付く。
「え、やだ、私ったら。あ、あの、下ろして…ください…」
「え、あぁ、ごめんごめん、嫌だったかな?」
「嫌だなんてとんでも!むしろ…」
「ん、むしろ?」
「い、いえ、なんでもございません!」
勢いではしたないことを口走りそうになって咄嗟に口を噤む。
私ったら何を舞い上がっているんでしょうか!
確かに目の前に物語に出てくるような殿方がいますが淑女たるものそれ相応の態度がありますわ!
ペシペシと頬を叩く。
これで顔が赤いことはごまかせるはずですわ。
振り返り再び騎士格好をした青年を見つめる。
「失礼しました。私はミッシェル・ディフォー・シーフィールドと言います。父はこの地を治める辺境伯アイゼイン・ケリオ・シーフィールドです。お見知りおきを」
スカートをつまんでお辞儀をするミッシェルはまさにお嬢様だった。
辺境伯がどういったものかは知らないが貴族なのは間違いないだろう。
「俺の名前はひろ…」
「ひろ?」
「あーえっと、ハイル・フィロードだ」
広夢と普通に言おうとして固まる。
この姿では一応ハイルというキャラクター名が存在しているのだ。
ステータスにもそう書いてある。
しかし出てしまった言葉をどうするか。戻せないのが世の常である。
なので咄嗟にフィロードとそれっぽい苗字を言ってみた。
「ハイル・フィロード様というのですね」
「ああ、よろしくミッシェル」
よかった。なんとか通じたみたいだ。
「所でミッシェルはなんで捕まっていたの?」
「捕まって?」
「そう、男に捕まってそこの麻袋に入ってたんだよ」
「ハッ、そうですわ!私お花の咲いている草原で絵を描いていましたの!そしたら急に後ろから掴まれて…そこからは良く覚えていませんの」
「なるほど、その時捕まったのか。護衛とかはいなかったのか?」
「三人いました。私が外出するときは必ず付いてきて下さる兵士の方が二人とお付の侍女が一人いました。私とても心配です!ハイル様どうか私をそこまでお連れしてはくださいませんか!?」
「あ、ああそれは構わないんだが道はわかるのか?」
「私を連れ去ったという方はどちらからいらしたんですか?」
「それならミッシェルの後ろの方だな」
「それなら問題ありません。川沿いにそちらへ行けば森を抜けて草原まで出られますわ!」
「そうか、じゃあ急がないとな」
「わっ!?」
ハイルはミッシェルを担ぎ上げると言われたとおりの方向へ走り始める。
落とさないようにしっかりとミッシェルを抱き抱える。
お、女の子ってこんなに柔らかいんだ。
ハイルも男である。そう思ってしまうのは仕方が無かった。
一方でミッシェルはそんなハイルの心中など知らず。
ハイルの足の速さに驚いていた。
「ハイル様はとてもお強いのですね!」
「ん、そうかな?」
「そうですわ、私をその誘拐犯から助けてくれたのでしょう?それに私を抱えてこのような馬車にも負けないほどの速さで走られるなんて余程ですわ!」
「ミッシェルが軽いから余裕なだけさ」
それを聞いてミッシェルが顔を赤くする。
しばらくするとハイルは森の切れ目を発見した。
「ミッシェル、そろそろ出口みたいだぞ」
「きっとそこに三人ともいますわ…そ、そうでした、ハイル様、もう大丈夫なので下ろしてください!」
「そうか?ミッシェルが大丈夫なら構わないが」
手前でミッシェルを下ろして一緒に出口に向かう。
すると言っていたとおり草原に出た。
真ん中あたりには倒れたイーゼルに散らかった画材。
そして気を失っているのか死んでいるのか分からないが倒れ伏している人影が三人いた。
「アンナさん!」
ミッシェルがそう言ってメイド服の女性に近寄る。
その後を追ってハイルも侍女に近づく。
見たところ死んではいないようで胸が上下に動いている。
兵士二人も鎧からでは分からないが口元に手を当てて息があることを確認する。
「状態異常…眠らされているのか?」
「アンナさん!アンナさん!目をお覚ましになって!」
「ミッシェル、大丈夫だ、多分だが濃度の高い睡眠薬か呪文によるものだろう」
先ほどの男がしたのであるならば前者の可能性が高いな。
ハイルはポーションを三つ取り出す。
「これはどんな状態異常も治すポーションだ。今は眠っているようにしか見えないがもしかしたら別の毒かもしれない、だからこれを飲ませるんだ」
「それは、高価な物では…いえ、そんなことを言っている場合ではありませんでしたね。ありがとうございます。この御恩は必ず」
そう言うとミッシェルはポーションを手に取って三人に飲ませた。
暫くすると三人とも無事に目を覚ました。
そして事の経緯を知らせた。
「我々が付いていながら御身を守れず申し訳ありませんでした。処罰はいかようにも受ける次第であります」
中年の兵士が膝を着いて謝罪する。
もうひとりいる若い兵士も顔を青くして同じように膝を着いていた。
侍女も頭を深々と下げている。
「皆さん私は大丈夫ですので、頭をお上げください。ほら、こんなにも私は元気ですよ?」
そう言ってミッシェルはぴょんぴょんとその場でジャンプをする。
「ですがこのことはアイゼイン様にご報告致します。しっかりとした処罰を受けなければ我々の気が済みませんので」
そう言うと中年の兵士は立ち上がってこちらに向き直る。
それに追随する形で若い兵士もこちらを向いた。
「この度は我々に代わってお嬢様を助けていただいて誠に感謝致します。我々の失態と共に貴殿の功績もアイゼイン様にはご報告させて頂く。どうか我々と一緒に屋敷へと来ては下さらないか?」
「ハイル様…」
「屋敷へ行くってことは俺は今日はそこへ泊まりってことですかね?」
「あ、ああ、お嬢様を助けてくださった方をアイゼイン様も無下にはしないだろう」
「なら丁度良かった。今日泊まる宿もまだ決めていなかったので助かるよ」
宿がないってもの本当だしミッシェルの上目遣いに絆されたとかじゃないんだからね!
「ではこちらへ」
「お世話になります」
しばらく歩いていると馬車が止まっているのが見えた。
御者の姿などはおらず馬だけが居た。
「なるほど、彼女が操縦するのか」
「はい、アンナは私の専属メイドで大抵のことは一人でできちゃうんです」
「パーフェクトメイドだな」
「パーフェクトメイドなんです」
すると馬車の窓が開かれてアンナが顔を覗かせる。
できる女といった感じの女性で黒髪を頭で纏めているので解くと背中ぐらいまでは届きそうである。
「ハイル・フィロード様でしたか?」
「え、ああ、はい、俺の名前はハイル・フィロード、旅をしている者です」
「改めましてお嬢様をお救い頂いて感謝します。恩人ではありますがこれから伺いますのは我らが主、アイゼイン・ケリオ・シーフィールド辺境伯がお屋敷、例え命の恩人であろうと粗相のないようにお願い致します」
「ちょっとアンナさんそんな言い方!」
「では、今しばらくお待ちください」
そう言うとアンナは再び前を向いて馬を操り始めた。
「すいませんハイル様、彼女は少し融通が効かないところがありまして」
「はは、クールなんだね」
「そう言ってもらえると助かります…」
その後は何事も無く屋敷の前へとたどり着いた。
その頃には太陽も傾いて辺りを茜色に染め上げていた。
屋敷を囲む塀は自分より高くその上に更に槍の様な鉄柵が付いている。
こういうのはあれだろうか、やっぱり不法侵入対策なのだろうか。
元の世界でも時折見かけてはいたがその時は深く考えることは無かった。
門の前で一度停車するとアンナが立っている門番に話しかけている。
直ぐに会話は終わったようで門が開かれる。
門と言っても横にスライドするものでこちらは槍の様な鉄柵がまんま門になっているみたいだった。
屋敷内に入ったがそこで直ぐに降りることは無く再び馬車に揺られることとなった。
どうやらこの中庭を抜けてやっと屋敷本体に到着するようだ。
これが金持ちの、貴族の家というものなのか。
「ん、ついたのか?」
「はい、えっと、これからお父様にお会いになると思いますがどうか緊張なさらずに」
「ああ、そうするよ…」
確かに偉い人とかに会う時って緊張するよな。
学校の校長先生ですら若干緊張するぐらいだしな俺。
屋敷の扉の前に馬車が停車すると若い兵士が先に降りて扉を開ける。
続いて中年の兵士が若い兵士の反対側に立つ。
「さあ行きましょうハイル様」
「ああ」
ミッシェルに続いてハイルも降りる。
アンナはというとどうやら後ろの荷台から荷物を降ろしているようだった。
大きい荷物は若い兵士に持たせている。と、アンナが革袋と木箱を手に持ってミッシェルに近づいてきた。
それは先程も見た画材であった。
「そういえばミッシェルは絵を描くんだったっけ?」
「はい、私絵を描くのが趣味でして今日も風景画を描こうとあそこの草原へ出向いたのです。生憎と下描きまでしかできませんでしたが…」
「後で見せてもらっても?」
「ええ、是非!お待ちしておりますわ!」
少し残念そうにしていたミッシェルだったがハイルの言葉を聞いて笑顔を見せる。
「ではお嬢様」
「ええ、屋敷へ入りましょうか」
どうやら馬車は他の兵士に任せるようだ。
ハイル達は屋敷へと入っていった。
中に入るとまず目に入るのが吹き抜けた玄関の階段中央に飾られている絵である。
この屋敷の初代当主を描いたものらしく凛々しい髭に鎧甲冑と勇ましさが見て取れる。
階段は左右から上がることができて交差する所でちょっとしたスペースがあった。
「ミッシェル、お帰りなさい。今日は…あら?」
「お母様、ただ今戻りました。こちらはお客様のハイル・フィロード様です
二階からドレスを着た女性が降りてくる。
どうやらミッシェルの母親のようだ。
「奥様、少々事情がございまして、急ではございますがこの方を屋敷へと招かせて頂きました。アイゼイン様は書斎においででしょうか?」
「ええ、アナタなら書斎で書類に目を通していますわ」
「ありがとうございます。では後ほど」
「ええ」
おお、これが貴族の会話なのだろうか。
ハイルは一度ミッシェルの母親に頭を下げるとアンナの後を付いて行く。
二階へと上がり屋敷の左側へと進んでいく。
左側の廊下を出て三つ目の部屋がアイゼインの書斎になっているらしく。
基本左側には仕事で使う部屋などが、右側に客室などがあるらしい。
私室などは奥へ続く別館にあるよらしい。
「アイゼイン様、侍女のアンナです。ただいまミッシェル様と戻りました。それで急遽報告したいことがございまして私共々入出の許可を頂きたく」
アンナが書斎をノックすると中から男性の声が響いてくる。
「そうか、では入ってくると良い。許可しよう」
「失礼します」
そう言ってアンナがドアノブを捻って扉を開ける。
入って直ぐ目に付いたのは窓際に置かれた机でありどこかの神様とは違い整理が行き届いていた。
始めにミッシェルが入り続いて俺、中年兵士と若い兵士、最後にアンナが扉を閉めて入ってくる。
ぞろぞろと入ってくる俺たちをみて顔をしかめるアイゼイン。
これがアイゼイン・ケリオ・シーフィールド辺境伯か。
四、五十代ぐらいのおじさんで口元の髭が綺麗に整えられ白髪まじりの金髪も後ろにワックスか何かでで纏められている。
壁には何かの勲章が数多く飾られていてどれほど国に貢献してきたかが伺えた。
「今日はまた随分と賑やかだなミッシェル」
「は、はい、ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。それでアンナよ、これは?」
「はい、率直に申し上げますと。私どもは今日、何者かに襲われてアンナ様を連れ去られました」
「どういうことだ?そこにいるではないか…」
そこでハイルとアイゼインの目が合う。
おお、怖い。これでは緊張するなというのが無理な話である。
「彼が助けてくれたということか?お前たちが付いていながら?」
「そのことにつきましては弁明のしようがございません。我々の不徳の致すところでございます」
そう言って中年兵士が頭を深々と下げる。
「君、名前を聞いても?」
「ハイル・フィロードと申します」
「私はこの屋敷の主、アイゼイン・ケリオ・シーフィールドだ。この度は我が娘を助けて頂いて感謝してもし足りない。だが、ハイル君、君が仕組んだことではあるまいな?」
「え、俺がですか?」
「お父様ハイル様は私を助けてくれたお方なのですよ!そんな言い方!」
「ミッシェル、貴族なら全ての事を考慮するべきだ、第一、素性の知らないものを信じるほど私はお人好しでも無くてね。そうでなくては我々の世界では生きていけないのだよ」
「まあ、俺は旅の途中でこの近くを寄っただけで偶然大きな麻袋を背負った男と出会ったってだけで本当にたまたまですけど。俺、人を拐うなんてしません」
「口では何とでも言える」
「お父様!」
「ただ、大事な娘を助けてくれた恩人に泥を投げるような真似は辺境伯として、父親としてできない。しばらくの間この屋敷に滞在する事を許可しよう」
「お父様!」
ミッシェルが笑顔を見せるとアイゼインも顔をほころばせた。
うん、良い父親ではあるようだ。そのぐらいならハイルにも理解できた。
「お前たちの処罰も追って知らせる。今は休むと良い」
「「ハッ!!」」
「では失礼します」
そう言ってハイル達は書斎を後にした。
「我々は一度兵舎に戻るよ」
「はい、今日はお疲れ様でした」
「あんたもな」
「お互い今後はもっと気を引き締めましょう」
「ああ、ってお前はわかってるのか?」
中年の兵士が若い兵士の背中を叩く。
「は、はひぃ!」
「全く、お前と来たら…いつまでも青い顔をして…ハイルって言ったか、今日は本当に世話になった。またな」
「ええ、しっかり休んでください」
「もうすぐで夕食になります。ミッシェル様は一度お部屋にお戻りください。私はこの方を客室に案内しますので」
「ついて行っても?」
「お召し物が汚れているのに?」
そう言われて確かに水色の洋服が土で汚れていることに気がついた。
「やだ、私ったら!すぐ着替えてきます!」
そう言うと走っていないギリギリのスピードで廊下を歩いて行った。
「ではハイル様、こちらへどうぞ」
「よろしくお願いします」
ハイルが案内されたのは書斎とは反対側の棟にある入ってすぐの客室だった。
ベッドに机とクローゼットとタンスと必要最低限のものが揃っている正にお客様用の部屋だった。
それでもかなり豪華な部屋だとハイルは思った。
壁には絵が飾られて机にも花瓶に花が添えられている。
「お召し物が汚れているようです。こちらで洗浄しておきましょうか?こちらには専属の鍛冶師などもおりますのでそちらの剣もメンテナンスをしておきましょうか?」
「あ、えっと、そうだね、うんお願いしようかな?」
そう言うとアンナが少しだけ、微かにだが目を開いて驚いたように見えた。
何か気に障ったのかなと思いつつも心当たりがまるでない。
「そうですか、では着替えをご用意させていただきます」
「あ、いいよいいよ、あるから」
「ですが見たところ手荷物などは見当たらないようですが?」
「あ、えーと、インベントリって言ったら分かる?」
「いえ、不勉強で申し訳ありません」
「ああ!こちらこそへんなこと言ってごめん、簡単に言うとえーと、そう物を空間に収納できる魔法が使えるんだよ。そこに色々入ってるから手荷物が内容に見えるんだよ!」
「…ハイル様はそのような事がお出来になるのですか。商人が聞いたらどの様な反応をするか見てみたいものですね」
「そ、そういうこと、だからここをこうしてっと」
ハイルがアンナの目の前で操作をして鎧ではない装備を実体化させる。
これは防御ではなく魔力を高める事に特化した神官服の一種で金をあしらったりもしているのでどことなく貴族の衣装にも見えなくないので選んだ。
「はい、これ、こんな感じです」
「これは…」
言葉を失っているのかどこからともなく出てきた神官服をまじまじと見つめている。
そんなにすごいものだろうか。
ハイルからしたらインベントリとは当たり前のものなのでいまいち実感がなかったが。
よくよく考えてみればもとの世界でもし知り合いが空間からものを取り出したらかなり驚くだろう。
そう思えばアンナの反応は普通である。
当人であるアンナはその収納魔法にも驚いていたが、それ以上にこの衣服に驚いていた。
精密に縫い上げられたそれは職人の域を超えておりそれ以上にこの衣服には魔法職を有していないアンナですらわかるほどの魔力が込められていた。
まるで神にでも作られたかのような代物だと。
「すいませんハイル様、もう少し普通の衣服はございますか?」
「え、何かまずかった?それ以外となると…」
必死にインベントリを探るハイル。
下の方に行けば行くほど古いものが出てくるのでそこに昔の装備が眠っていると信じてスクロールする。
しばらくしてめぼしいものを見つけた。
「これなんかどうかな?あんまりキラキラしてないよ?」
そういう問題じゃないんだけどなぁと思いながらもアンナは出された衣服を見る。
少し裕福な商人が着ていそうな白い背広だった。胸ポケットには金で刺繍された鳥がアクセントになっていて上品な感じが出ている。
それに先ほどとは違いこちらは魔力の感じがせずアンナから見ても問題は無かった。
「ええ、これなら問題ありません」
「ほ、良かった。じゃあ着替えるよ…あの?」
「お気になさらず」
「えぇー、なんだか恥ずかしいなぁ」
頬をかきながらアンナが出て行くのを待ったが動こうとしないので諦めて鎧を脱ぎ始める。
着替えるだけならステータス画面から一瞬だがメンテナンスをしてもらえるということなので実体化させた状態で装備を解除しなければならない。
と、現実でそんなことをしたことがないので脱ぐのに手間取ってしまった。
それを見兼ねたのかアンナが手伝うと言ってきた。
「面目次第もございません」
「いえ、お気になさらず」
先程よりも別の意味で恥ずかしと思うハイル。
と、今度はスムーズに鎧を脱ぐことができた。
「思ったよりも軽い鎧なのですね」
「そう?気にしたこともなかったよ」
「そうですか、ではこちらはお預かり致します。剣の方は改めて別のものを伺わせます」
「じゃあよろしくお願いします」
「では、失礼します」
扉が締まるとハイルは一人になったが直ぐにノックされた。
「失礼します。こちらにハイル様がいらっしゃると聞いたのですが」
声から察するにミッシェルが来たようだった。
「今開けるよ」
ハイルが扉を開けると案の定ミッシェルが立っていた。
「わっ、ハイル様もお召し物を変えたのですね」
「そういうミッシェルこそ」
今のハイルは先ほどのスーツを、そして今のミッシェルはピンクのワンピース姿だった。
「それで何か用事かな?」
「は、はい、この後、食事の後なのですがお暇でしょうか!」
「え、そりゃまあ、特には…」
「じゃ、じゃあハイル様を!ハイル様の絵を一枚描かせてはもらえないでしょうか!!」
「え、俺の?」
「はい!」
まさか自分の絵を描いてもらうことになるなんて人生で初めてである。
まあ、確かにこのキャラクターはかっこよくキャラデザしたものだから絵にはなる。
「わかった。いいよ」
「本当ですか!?」
「俺で良ければね」
「ありがとうございます!描きあげた暁には家宝にしたいと思います!」
「そんな大袈裟な…」
ともあれ喜んでもらえて良かった。
誘拐された後にして問題はなさそうである。
もしかすると誘拐自体は初めてのことではないのかもしれない。
貴族のお嬢様ならそれもありえるかも知れないと思った。
「失礼します。ハイル様…とお嬢様も居らしてましたか。夕食の準備が出来ましたのでどうぞ食堂の方へお越し下さい」
「ハイル様、行きましょう!」
貴族の食事、どんなものが出るかかなり楽しみなハイルだった。