憐れな国、強き国
馬車がコルクスへと向かうさなかで遠目からだが大勢の兵士が見えた。
同じ鎧を着た者達が互いに斬りかかっている。
あれが訓練なのだろうかと思っていると御者が補足をしてくれた。
「兵士を半々に分けて強かった方により良い装備を与えてるのさ、他にも数十人単位で殺し合わせて生き残った最後の一人を将軍にするなんてのもやってるって噂さ」
「え、でもそれじゃあ兵士はおろか国民が減ってく一方なんじゃ…」
「この国じゃ子供を一人産む度にかなりの金額が貰える。そしてこの国の面積は他の国よりも小さい、量を確保したら質の良い人材を生かすように仕組まれてるのさ」
それは、かなり惨いことをしているとハイルは思った。
人を人と思っていないのか、確かに数値だけをみるならそれは効率が良いのだろう。
ある種のリセットマラソンに近いかもしれない。
「おかげで小国にしてはかなりの軍力を誇っておる。それが良い事なのかはもう分かんなくなっちまったよ。子供を作っても帰っては来なかった。多額の金銭が侘びだと言わんばかりに積まれる。…っとすまねぇな、国民でもないあんたに愚痴っぽくなっちまって、それにしてもこんな国へなんのようだ?」
「頼まれごとで」
「まあなにはともあれこの国で揉め事は起こさない方がいいぞ、ロクなことにはならないからよ」
「わかりました…」
しばらくして小さな街に到着した。
最初は此処がコルクスだと思ったがどうやら違うらしい。
コルクスはこの街の次にある大きな街らしく、ここはその途中にあるカルカという街だった。
一度此処で馬の休憩をするのが御者の決まりらしい。
太陽は既に真上に行きかけている。
メニューウィンドウの時計も11:54と表示されていて昼であると示している。
街に出てお金を使うのもなんなので買っていた燻製肉を食べることにした。
硬いが食べられなくはないといった感じで、塩辛いジャーキーを食べている感覚だ。
となると喉が渇いてくる。飲み水は色々あって補充するのを忘れてしまった。
次に補充できる機会があったらインベントリに大量確保しておこうと決めた。
そうそう、ハイルが持っている飲み物等ポーションの類が大半である。
少なくともただの水は無いのだ。
ステータスを一時的に上げてくれる飲み物はあるが食事で使うものではない。
確かにソーダ、オレンジジュースなど種類はそれなりだが今飲むのは違うと思った。
仕方なく馬車から降りて街に出る。
流石に小さな街なのでそうそう大量に水を売っているとは思っていないが旅での必要分はあるはずだ。
しばらく歩いて通りに出る。
ハイルが最初に抱いた印象は寂しさだった。
静けさではなく、どことなく人の目が暗く感じたのだ。
と、酒場らしきところがあったのでそこで飲み水を売ってもらおうと両開きを扉を開いて中へ入る。
街の人であろうお客さんが数人食事をしているのが伺えた。
ただ、会話という会話は無かった。
奥の方のテーブルでは泣いている女性が見えた。
国境を跨ぐだけでこうも国というのは違うものなのか。
日本に居た時では決して感じることのできない感覚だ。
変に言葉が分かるのでそこらへんの感覚が麻痺していたのかもしれない。
そうだ、ここはある意味で外国で、自分は旅行者に等しい。
国が違えば文化も違う。先程聞いたではないか、この国のことを。
それで分かってしまう。納得してしまう。
亡命したいと言うクランク・サリマンがこの国を出ていきたい気持ちが。
軍が潤い、民が萎びていくこの国を。
ハイルはカウンターにたどり着くと店の店員であろう中年の女性に水はないかと声をかけた。
「すいません、飲み水を売ってもらえませんか?この水筒に入るだけでいいんで」
「待ってな」
女性が水筒を受け取ると後ろに置いてあった樽からコップで水を掬って水筒へと流していく。
少しして戻ってくるとそれをハイルに返した。
「ありがとうございます。いくらですか?」
「500バドルで良いよ」
「共通通貨で良いですか?」
「なら銅貨6枚貰おうかね」
「はい、どうぞ」
「確かに」
水を一口飲んで酒場を出る。
馬車に戻ると御者のおじさんは丁度馬に食事を与えていたのでもうしばらく馬車の中で待つことにした。
そして、その日の夜にはコルクスの街へと着くことができた。
コルクスも賑わってはいるが案の定だった。
カルカよりは酷くない程度である。
門番の兵士に屋敷の場所を聞いてナルディオ・ワーガー氏を訪ねる。
大きなお屋敷で門から見える庭には毎日庭師が整えているのだろうと思われる草木が客人を出迎える形になっていた。
両脇には見張りの兵士が居てなんとか今日中には間に合ったようだった。
「すいません。こちらがナルディオさんの屋敷であってますか?」
「ああ、そうだがあんたは?」
「えっと、ナルディオさんに会いに…リオード・トラスティックという人物の紹介です」
「トラスティック…?しばし待て」
そいういうと門番の一人が屋敷の中へと入っていった。
恐らくだが取り次いで貰えるのだろう。
リオードとナルディオは知り合いだろうしその遣いなら通してもらえるに違いない。
しばらく待っていると一人の男性を連れて門番が戻ってきた。
男は三十前半ぐらいの見た目で品の良い軍服に身を包み、左胸には何かの功績で得たであろう三つもの勲章をつけていた。
男がハイルを見ると口を開く。
「リオードの遣いというのは君のことかね?」
「はい、ハイル・フィロードと言います」
「入りなさい、案内しよう。君たちも今日はもう上がってもらって構わない」
「「はっ!」」
門番は敬礼してどこかへと行ってしまった。
ハイルはナルディオに連れられて屋敷へと入っていく。
吹き抜けの玄関を真っ直ぐに進んで右側にある階段で上に上がり直ぐにある扉を開けて廊下を少し進む。
一つ目の部屋が彼の部屋らしくナルディオは扉を開けてハイルを中へ入るように促した。
「さぁ、入ってくれ」
「お邪魔します」
中は書斎になっていて奥にナルディオの机、両脇に棚、真ん中にソファが二つと長机が一つあった。
ハイルはソファへと腰掛け、ナルディオも対面するように座った。
「早速本題に入らせてもらうがハイル君、我が友クランクの亡命という事であっているかね?」
「はい」
「そうか…」
そう言ってナルディオは深く溜め息を吐きながら腰を落とした。
疑問に思っているとそれに気がついたのかナルディオが補足した。
「少し、遅かったのだ…」
「ッ!それじゃ…」
「いや、まだクランクの亡命が失敗したわけではない。だが今奴は軍に監禁されている状態だ、そう易々と逃げられない状態になってしまった」
「どうしてそんなことに?」
「わからない…バレるようなヘマはしていないはずなんだが…手紙のやりとりだって暗号を使用したものだ。傍から見たら近況報告にした見えないだろう」
「けどバレたんですよね?」
「…悔しいがそうだ。このままではクランクは処刑されてしまう。もう時間がないのだ」
これはまた、大変な事になってしまった。
ハイルは厄介な仕事を受けてしまったのだと肩を落とした。




