兆し
次の日からグレンは夜な夜なうなされるようになった。
普段見る夢は自分を後ろから見ている様な他人の視点からでなんとなく自分だけど自分ではない感覚で見ていた。
それに大抵の夢は目覚めた時に半分は忘れているので気にすることもなかった。
だが発掘から帰って次の日に見た夢は今まで見ていたなんとなくで済まされるようなものではなく、もっと、生々しいものだった。
リアルというだけなら然程の事でも無いがそれが人を切り捨てるだけというおぞましいものだったので寝ても寝た気になれなかった。
研究者なので睡眠を削るというのはよくあることなので少し徹夜しようとしたがどこかでぱったりと記憶が途切れてしまう事が必ず起きた。
寝落ちしたのだろうと思っても何故か疲れは残ったままで正直なところ辛いものがあった。
そして、都市内で人殺しが出たと聞いてグレンは身の毛もよだつ感覚を覚えた。
もしかして、あれは夢じゃないのか?
そんなことを考えてしまうのだ。
思い当たるフシがなければそんなことを思うことはなかったがグレンにはそれがあった。
あってしまった。
あの日、馬車に揺られながら眠り首都に戻ったグレンは発掘品の中に漆黒の剣を見つけることはできなかった。
純白の剣は刀身を布で包まれて保管されていたが何処を探しても誰に聞いてもそんなものは最初から無かったと言われてしまった。
グレンは自分の右腕を見る。
いつも見ていたなんの変哲もない俺の腕。
長年ともにあった本当に違和感一つ無い自分の腕にしか感じられないのだ。
それが逆にグレンに恐怖を与えていた。
犯人は未だ見つかっておらず目撃者もいない。
わかっていることは兵士や傭兵等の戦闘力に秀でた者だけを狙っているということ。
そして、グレンが決定的に恐ろしく感じている事がある。
それはレベルが明らかに上がっているのだ。
それが恐ろしくてたまらなかった。
「…ちょう?団長?」
「…あ、えっと、なんだったっけ?」
「大丈夫ですか団長、目に隈ができてますよ?しっかりと休みはとられていますか?発掘品に熱中するのもいいですけど注意散漫で怪我するってのは研究者としてダメですからね。発掘品が壊れでもしたらどうするんですか?」
「ああ、すまん。どうも寝つきが最近悪くてな」
そう言ってグレンは目頭を揉み解して机の上に置かれた騎士団からの情報提供書を隅へと避けた。
「今日ぐらい休んでも問題はないですよ?」
「断る」
机には他にも物がゴチャゴチャと置かれて手前には様々な資料が置かれていた。
現在グレン達が行っているのは発掘品がどの時代の物なのかを調べる作業だった。
とは言ってもやることは決まっていて似たものが資料にあるかとか歴史書を参照したりと基本的に書物を使うことが多い。
パリドネルの歴史は600年程で前の時代の事は不明となっていた。
パリドネルの歴史書にもあの場所の存在を記した項目はなかったのでそれ以前のものであると確信していた。
そもそも、同じような遺跡が各地にあるので元々この大陸にはとても巨大な大国があったのではないのかと言われている。
賛否両論は当然あるが以前のことを知る国は無いので否定しきれないのもそれに真実味を足す要因だった。
「あ、そうだ団長。今日上に申請しておきましたよ鑑定魔法の」
「どうだった?」
「えっと、高位の呪文を使う魔術師が今出払っていてしばらくは待つことになるが良いか?ですって」
「なら待つしかないな」
「でも良いんですか団長?団長は呪文で調べ物をするのって嫌いでしたよね?」
「…俺にも事情がある。この発掘品だけは確実に真実を知りたいんだ」
「固執し過ぎだとおもうなぁ」
「そんなことよりもアルクは資料の整理に行ってこい」
ボサボサの茶髪をしたアルクはあからさまに嫌な顔をする。
そしてグレンは急な睡魔に襲われ始める。
今は耐えているが時間の問題だろう。
「い、今からですかぁ!?」
「今日も張り切って徹夜だ、資料整理の後は他の発掘品のスケッチの残りが待ってるからな」
「うへぇ~地獄だぁ~」
アルクが部屋を出て扉を閉めると同時にグレンは意識を手放した。
―――
ハイルは国境で一度足止めをくらった。
理由は簡単で馬車の激突が攻撃だと勘違いした兵士達に一時の間連行されてしまったからだ。
しばらく尋問されて身の潔白を証明してやっと開放された。
それがつい先ほどのこと、今は馬車の停留所にて馬車を待っている最中だった。
兵士の話ではあと少しで来るとのこと。
それまで暇だったのでハイルはインベントリから刃渡り30センチ程の短剣、いわゆるダガーを取り出していた。
なぜダガーを取り出したのか。
それは確信を確信したかったからだ。
変なことを言っていると思うだろうがそれは大切なことだった。
盗賊に襲われたとき感じた異様な気持ち。
それを再度確認する。
ハイルは手に現れたダガーを見つめる。
そしてはっきりとわかった。
俺はどうしようもなく剣というものが怖く感じている。
今手に持っている短剣ですら胸の動悸が激しくなるのを感じた。
今はそれだけで済んでいるがこれがインベントリ内にあるロングソード等だったら体が震えてしまっているかもしれない。
はっきり言ってそれでは駄目だとハイルは思っていた。
これは明らかなバッドステータス。アイテムじゃ直せない負荷だ。
ハイルは初めてトラウマというものを体験した。それを克服したい。
その為には、やはりあの事件を、どうにかするしかないと思った。
神様がしたことだがあのままあの国に居たらどうなっていたか想像しただけで恐ろしい。
だからあれが最初で最後の逃げでありたい。
手がかりはもうすぐだ、この遠回りの寄り道を終えれば知りたい情報が手に入る。
最悪の場合武力に頼るかもしれない。剣も使えない今の俺がどう戦うと言われるかもしれないが。
ステータス的に殴るだけでもかなりのダメージになるだろう。
ああ、もう少し頭が良ければもっと上手い考えがあったのかもしれない。
こんなことになるのならもっと勉強しておけばよかったな。
と、馬車が一台停留所に入ってきたのでダガーをインベントリに戻して向かった。
御者のおじさんに行き先を告げて賃金を払って乗り込む。
先程乗った馬車とは違いこちらは後ろに壁は無く、横に扉もない一般的な馬車だった。
そしてハイルは最初の目的地コルクスへと向かった。




