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この世界に居場所は無い  作者: 青髭
異国と組織と争いと
17/22

其の老人、暴風

「早速本題に入ろう。まず君にやってもらいたい仕事というのは隣国からの亡命者を此処に無事連れてくることだ。受け取ってもらえるかな?」


 そう言ってリオードは机の引き出しから一通の手紙を取り出す。

 それを机に置いてハイルに取るよう手で促す。

 机の前まで歩いて手紙を受け取ると直ぐにインベントリに仕舞った。


「…やはり」

「何か言いました?」


 か細い声だったのでハイルは聞き取れず顔を上げて聞き返した。

 リオードが「いや」と一言否定するのでそれ以上は聞き返さなかった。


「では、簡単に仕事の説明と行こうか」

「お願いします」

「まず、亡命者の名前はクランク・サリマンという軍人だ、お隣ウィルド・カライで将軍をしている人物だ」

「将軍ですか…」


 将軍となるとかなりの人物ではないだろうか。

 授業で歴史の事は習ったことはあるがそうでなくてもゲームやテレビなどで将軍の名前は聞き馴染みがある。

 特に日本人なら尚更だろう。


「お隣さんは別段大きな国という訳ではなくてね、だがその軍事力は大陸でも上の方にあるのだよ。軍事力に割いているせいか国民の負担も、まぁ、それなりだ」

「一つ良いですか?」

「何かね?」

「なぜ、亡命の手伝いをトラスティック・ファミリーがやっているんですか?」


 亡命というのならそれはこの国の政治家なんかが手助けするのが筋ではないのだろうか。

 それをマフィア組織が担うなんておかしなことではないだろうか。


「それは、彼が我がトラスティック・ファミリーの一員になるからだよ。福利厚生の全く整っていない力任せの雑多な国よりも、それに毛が生えた程度のこの国にも惜しい人材だ。私が使った方が有益に使える」

「はぁ…」


 この世界の情勢に疎いハイルからしたらいまいちピンと来ない話だったがリオードの笑には薄ら寒いものが垣間見えたのだけはわかった。


「勿論だがお隣も黙って将軍を差し出すわけじゃない。まだ彼が亡命するとは気づかれてはいないが、彼の国では国民に人権は無いに等しい。彼のスケジュールは朝から晩までぎっしりさ、それこそ睡眠時間は5時間も無いと聞いている」

「それは…なんて言ったら良いか…」


 そう聞いてしまうとこっちの国の方が見ている限りだが天国に思えてしまうだろう。

 どこのブラック企業なんだその国は。

 自分の父親でもそんな企業には勤めていない…筈である。


「クランク将軍からもまだ来ないのかと催促の手紙が届くぐらいには私も仲が良い」

「わかりました。その人を助ければ良いんですね?」

「勿論だとも、国境まではこの街から直通で行けるように門の停留所には手配済みだ、赤い馬車が目印になっているからその御者に言いなさい。そして国境を抜けて停留所で馬車を乗り一旦はコルクスという街へ入り、そこの街を管理しているナルディオ・ワーガーという貴族に私の遣いだと知らせなさい」

「えっと、取り敢えずコルクスに行ってそのワーガーさんって方に会えば良いんですね?」

「そういうことだ、彼にはこの手紙を渡してくれ。そして君にはこの鍵を渡そう」


 リオードはそう言って別の引き出しから先ほどと同じような手紙と銀色の鍵を取り出してハイルに渡す。

 手紙はさておいて鍵の方はこの屋敷へ入るためのマジックアイテムだった。


「じゃあ行って来ます」

「ああ、よろしく頼むよ」


 ハイルは足早に部屋を出ると直ぐに外へと出るのであった。

 どこに出るのかと思うとどこかの路地裏で人のいる方へ出るとそこが宿が立ち並ぶ出入り口の大通りであるとわかった。

 ハイルは言われた通りにまず停留所へと向かって赤い馬車を探した。

 すると一つだけ赤く塗装された馬車を発見した。

 皺だらけで丸眼鏡にニット帽を被った御者のお爺さんが暇そうに鼻提灯を膨らませていたので近づく。


「すいません、ちょっと良いですか?」

「……」


 眠りが深いのか、はたまた歳で耳が遠いのか、御者の老人がこちらに気づく素振りは見せなかった。

 仕方がないので座席に近づいて肩を揺すってみる。

 すると反応して鼻提灯が割れた。

 しかし直ぐに眠りについてしまった。


「ふぉ!?……」

「って、寝るな!!」

「な、なんじゃ!?何事じゃ!?」


 流石に寝られては困るので声を大きくして老人を起こした。

 老人は何事かと周りを見渡してハイルに気づく。


「お前さん誰?」

「この馬車で国境まで行けと言われた人です」

「この婆さんでほーほけきょと言われた人じゃと?」

「どういう耳してんだあんた!」

「はっはっは、冗談じゃよ冗談、話は聞いておるから早う乗りな」


 一発ギャグをかます老人に思わず突っ込んで仕舞うハイルを見て気持ちよく笑う老人は後ろを親指で指差して乗るように行ってくる。

 既に疲れたハイルだったが取り敢えず扉を開いて中へと乗り込む。

 中は意外なことにソファになっていてただの馬車ではないと理解した。

 それこそ貴族などが乗るような内装であった。

 流石はトラスティック・ファミリーであるというべきか。

 馬車の前に付けられた小窓から外を覗いてみると馬車を引く二頭の馬も素人目だが毛並みの良い白と黒の馬が繋がれている。


 そして、老人の合図で馬たちが動き出してゆっくりと門の方まで向かっていく。

 門では兵士が老人と簡単な会話をして外へと出た。

 生憎話の内容まではわからなかったが何故か兵士が窓から覗いている俺を見て不敵に笑ったのだ。

 首を傾げてソファへと戻る。

 と、変化が現れたのは門を出て直ぐだった。


()くぞ、ソシリウス、ヴァインダリス!!瞬きを許す前に駆け抜けるのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 豹変した老人が座席で立ち上がり手綱を思い切り振るい上げる。

 それを合図に二頭の馬は暴れ馬並に叫んで走り始める。

 そのスピードたるやいなや、スポーツカーを彷彿とさせる勢いであった。

 いや、それ以上かも知れない。

 それもそのはずでこの二頭の馬は単なる馬では無かった。

 その話はまたいずれ。

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