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この世界に居場所は無い  作者: 青髭
異国と組織と争いと
15/22

まだ遠く

ディルクの名前がディレクになってました。

既に修正済みです。

 薄緑の液体が石畳に吸われて消えて行く。

 残ったのは割れた小瓶と濡れた道だけだった。


「はははは!これでお前は助からないぞゼスター!」

「…それがお前の答えか?」

「なに?」

「それがお前の答えなんだなディルク」

「ああ、そうさ、トラスティック・ファミリーは俺が頂く!そのためには邪魔なお前に消えてもらう必要があるんだよ!」


 よろめく中ゼスターはゆっくりと立ち上がった。

 そして一歩ずつディレクに近づいていく。


「く、来るな!」

「ゼスター殿、動いては毒の周りが早くなります!」


 ゼスターは掴んできた手を払いのける。

 気迫に押されてディルクは離れようと後ずさりする。

 ティスタリアはワイズマンがどんな動きをしても反応できるように呪文で牽制する。


「ミスティ・ステップ……マジック・ソード!」


 瞬間的にティスタリアはワイズマンに詰め寄り杖の先端に現れた魔力の剣で斬りかかった。

 突然迫られた事に驚きつつもワイズマンは持っていた刀で刃を防いだ。

 しかし次の一手がワイズマンを驚かせた。


「ストレングス・ブースト!」

「ツイン・マジックだと!?」


 本来、呪文というのは一度に一個のものしか発動ができない。

 先ほどの攻撃はミスティ・ステップ後の連携という形の行動だったので一度に一回という範疇に収まっていた。

 しかし今は違う。

 ストレングス・ブーストを発動したのにも関わらずマジック・ソードの効力はいまだに健在のままである。

 これは同時に二つの呪文を発動していることにほかならない。

 魔術師(ウィザード)だけに限らず職業(ジョブ)には戦闘職、魔法職の二系統に分類される。

 そしてその職業を10レベル分ずつ修めると職業で得られる物とは別に特殊技能が手に入るのだ。


「うおぉぉぉぉぉ!!」

「ぐはっ!?」


 ワイズマンはそのまま押し切られて体に赤い線を書きながら後方へと吹き飛んだ。

 刀が道端に滑り落ち数回転がってワイズマンはぐったりと倒れた。

 ティスタリアは手応えを感じて直ぐにゼスターたちの方へと向いた。

 そこには既に壁に追い詰められているディルクの姿があった。

 ゼスターを見上げるその目には俺はこいつには勝てないという恐怖ともうこいつは助からないという余裕の感情が混在していた。

 と、そこへ戦闘音を聞きつけたシュワリーが到着した。


「こ、これどういう状況よ!?」

「シュワリーさん、裏切り者が判明しました。情報屋の方はつい先程ティスが倒しましたがゼスター殿に毒が、解毒薬はありません、高位のポーションでもないと…」


 と、ディルクが口を開いた。


「俺を殺す気か?」

「親父ならそうするかもな…」

「お前はもう助からないんだぞ?」

「そうらしいな、まあ、どうでも良いが」

「どうでも良い?どうでも良いってなんだよ!」


 ゼスターはディルクに視線を合わせてしゃがむとにっこりと笑った。

 戸惑った様子のディルクの頭に手をそっと置いた。


「ひっ!?」

「俺はファミリーを抜けるよ」

「へ?」

「そうすればお前は嬉しいんだろ?」

「なんだよそれ…」

「元々俺なんかにマフィアは向いていないのさ、暗殺業も好きでやってたわけじゃないしな、これがいい機会になったよ」


 ゼスターはわしゃわしゃとディルクの頭を撫でる。

 そこにいるのはただの兄だった。


「やめろよ!」

「ディルク…」

「ムカつくんだよ、お前のそういう態度が!お前は全部持ってんだ!俺には無い全部を!暗殺術も俺より格段に上!その上長男で人望も厚くて親父もあんたを次の頭って考えてる!なのになんなんだよ!仕事は受けるくせにどこかいやいやで、挙句にファミリーを抜ける?ざっけんな!そう言う所が昔から嫌いだたんだよ!…なんだよその顔は!?俺を哀れんでるのか!?どうせもう毒で死ぬしかないんだ、とっとと何処へ成りとも行けよ!」


 息を荒げてぶちまけるディルクにゼスターは背中を向けた。

 そしてそのまま転がっていた刀を拾い上げると鞘に収めてディルクのもとへ戻る。


「やるよ、もう俺には必要の無いものだ。じゃあな…」


 そう言って刀を手渡すと今度こそゼスターは背中を見せる。

 その背中は余りにも無防備で、まるで一般人の様だった。


「…最後までお前は……俺を憐れむのか!」

「ゼスターさん!!」


 ディルクは刀を引き抜くと叫びながらゼスターに斬りかかった。

 止め様にも距離がありティスタリアも呪文を使うのが間に合わなかった。

 不出来だろうがディルクは暗殺術を父親から学んでいた。

 その成果は確かなものだったのだ。


 ぐさりと刀が肉を貫いて血が滴る。

 刺さったまま手を押し込んで鍔を掴む。


「れ、レギュスト…」

「イテーじゃねえか、ディルク」


 レギュストは自身の右手に刺さった刀をディルクから取り上げると引き抜いた。

 深々と刺さった刀が抜けたことで風穴が空きレギュストの右手から血が吹き出る。

 ディレクはというと観念したのか力無くその場に座り込んだ。


「ほんとにイテー、ハイル頼めるか?」

「キュア・ウーンズ…レギュストさん本当に?」

「ああ、事が終われば情報をやるよ」


 既にハイルの首にはなにもついてはいなかった。

 あの後直ぐにレギュストが取り外したのだ。

 ハイルは血と刀を見るのを我慢して呪文を唱えた。


「あの人は確か…」

「あ、あんた、僧侶(クレリック)だったのか…」


 ゼスターが驚いた表情でハイルを見やる。

 ハイルも彼がトラスティックの関係者だったとは思いもしなかったので内心では驚いていた。


「そうです、僧侶ならあるいは!ハイル殿!ゼスター殿は今毒を体に貰っています!どうにか解毒できませんか!?」

「毒だって?」


 僧侶であるというのなら2レベル呪文に存在するレッサー・レストレーションという状態異常を回復できる呪文があるはずだ。ただし、毒がそれ以上の強さを誇っていた場合には意味を成さないが。

 だが助かる見込みが少しでもあるのならとライガンはハイルに助けを求めた。

 しかし、ライガンが予想もしない呪文をハイルは唱えた。


「ゼスター毒を貰ったのか?」

「ああレギュスト、解毒薬は地面が使っちまってな」

「なるほどなぁ、ハイル、頼めるか?」

「わかった、グレーター・レストレーション!」


 呪文が発動するとゼスターの周りを淡い緑の光が包む。

 すると顔色が悪くなり始めていたゼスターに血の気が戻ってきた。

 ホッとする面々だったがライガンは一瞬聞き間違いかと思いつつもハイルの口にした呪文を復唱する。


「グレーター・レストレーション…5レベルの回復呪文…」


 そのつぶやきは誰にも聞かれることは無かった。


「おお、気分が良くなった…僧侶なんて久々に見たわ」

「正確には僧侶じゃないんだけどね…」

「そうなのか?」

「そんなことよりもそこで伸びている情報屋を縛り上げるぞ」


 ティスタリアが前へ出てきて呪文を倒れている情報屋に向けて発動した。

 魔力の縄が倒れている情報屋を縛り上げようとするが次の瞬間には霧散して空中に溶けていった。

 それを見たティスタリアが急いで情報屋のもとまで駆け寄ると驚きと悔しさの表情が順で出た。


「やられた、こいつは偽物だ!」

「いつの間に…」


 ティスタリアが服を掴んでそれを仰向けにする。 

 すると顔の部分が木製の人形であるとわかった。

 ライガンが駆け足で近づき鑑定の呪文を発動する。


「これは…ただの身代わり人形では無いようです。使用すると対象を別の所へと移動させるマジックアイテムの様です」

「じゃあ逃げられたのか?」

「いえ、移動できる距離は最大でも100メートルの様です」

「けれど姿を変えられる様な奴が使うとなると、もう一度探し出すのは至難の技だろうな」

「シュワリー姉さん、それにレギュスト、後のことは頼めるか?」

「まさかお前、本当に出て行くのか?」

「ああ、そこに嘘は無い」

「ゼスター、俺は別にお前を止める気は無いが…お前がボスになってくれたらと常々思っていたよ」

「すまないな…」


 それだけ言うとゼスターは自分たちの前から姿を消した。

 誰もその姿を追うことはなく、ただじっと見守っていた。


「それじゃあ一度戻るぞ、シュワリーはおっさんに事は終わったと伝えに行ってくれ」

「ああ、わかった」

「さあ、ディルク、お前も立て」


 レギュストはディルクの腕を掴んで立たせると鍵を使って扉を開いた。

 そこへディレクを放り投げると他の残っていたライガン、ティスタリア、ハイルを促した。

 最後にレギュストが入って扉が閉まる。


「ボスの所へ行くぞ」


 ハイル達が出たのは屋敷の廊下で後から入ってきたレギュストが先頭に立って四人を連れて行く。

 しばらくしてボスの書斎に着くとレギュストはノックをした。


「レギュストです。今回の件が終わったので報告に来ました」

「入りなさい」

「失礼します」


 レギュストが扉を開けて中に入る。

 一旦四人は此処で待たされ、数分後にレギュストが出て来てハイル達を中へと入れた。


「皆事件解決に尽力してくれたようで私の予想以上に早く終わったようだ。感謝する」


 そう言ってリオードは頭を少し下げた。


「それで、情報屋兼殺し屋を雇い入れたのはお前だったのか、ディルク…」


 名前を呼ばれてずっと下を向いていたディレクの体から汗が吹き出る。

 それだけではない、拳を強く握り緊張に耐えようと必死で体が震えていることには気づいてなさそうだった。


「やれやれ、今回の事でトラスティック・ファミリーはかなりのダメージを受けた。何故だかわかるか?」

「ぜ、ゼスターが抜けてしまったことでしょうか?」


 震えた声でそう答えた。

 いまだ直視できなくて下を向いている。


「それも一つだ、だがそれだけじゃない、情報屋をこの建物内に招き入れたのだ、我々の情報が抜き取られたと言って間違いないだろう。書庫に足を運んでみたが案の定だったよ」

「……」

「ゼスター一回分の仕事はお前が請け負う仕事の四、五回分程度だ、仮にそこはなんとかなるかもしれない、しかし盗まれた情報というのはどうしようもないのが現実だ。それを他の組織や国に買われでもしてみなさい」


 リオードの視線がライガンとティスタリアに一瞬だけ行く。


「我々の組織は潰れてしまうかもしれない、そこら辺はどの様に考えていたディルク?」

「…なにも…考えていません…でし…た…」

「この埋め合わせをどうする?」

「あの…えっと…その…」

「はぁ、ディルク、お前は一度部屋に戻りなさい」

「わかりました…」


 ディルクは結局最後までリオードの眼も顔も見ないまま帰ろうとして呼び止められた。


「ディルク、お前の持っている鍵は此処に置いていきなさい」


 ピタリとディルクの足が止まって方向転換する。

 ポケットから鍵を取り出すと机にゆっくりと近づいく。

 鍵を机に置いたかと思うとディルクは早足に逃げるように書斎を出て行った。


「君たちもご苦労だったね。残念だが護衛対象であるゼスターはもういない。君たちの任もこれで終わってくれて構わない、今日はもう遅いから部屋で休んでから帰ると良い」

「わかりました」

「清々するよ」


 そう言ってライガンとティスタリアが出て行く。

 残ったのはレギュストとリオードとハイルだけだった。


「ハイル君と言ったかな?」

「はい、ハイル・フィロードです」

「なんでも我々から聞きたい事があるとか」

「はい、シーフィールドという貴族が住んでいる国に存在する裏組織について知りたいんです」

「シーフィールド?確かエイリオン王国にその様な家名があった気がするが…」

「ほ、本当ですか!?」

「まあ待ちなさい、私もそこまでのことを記憶しているわけじゃない。確信を得る為には調べる事が必要だ、シーフィールド家だけが唯一の手がかりとなると時間もかかる。その間君は暇だろう?だから取引をしよう。君にとっても難しい仕事じゃないし、しかも人助けだ、どうかな?」

「本当に人助けなんですか?俺は…人をもう傷つけたくないんです」

「何か訳有りの様だね…けど心配はいらない。本当に人助けの仕事なんだよ」


 少しだけ迷ってしまう。

 相手はマフィアだ。まともな仕事があるとは思えない。

 しかし頼っているのは自分でこれは妥当な提案だとも思えた。


「もし、言っていた仕事と違っていたら…その時は」

「ああ、やめてもらっても構わない。その事でこちらが情報を渡さないということも無いと約束しよう」

「それなら…わかった」

「期待しているよ聖騎士殿」


 一瞬どきりとしてしまったが先程レギュストが教えたのだろう。

 別に隠すようなことでもないし此処には三人しかいない、問題はないだろう。


「そうだ、君も疲れているだろう?部屋を用意させるからレギュストについて行きなさい」

「じゃあお願いします」

「レギュスト、頼んだよ」

「わかりました親父(ボス)、ハイルこっちだ」


 そう言って二人は書斎を出て行った。

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