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この世界に居場所は無い  作者: 青髭
異国と組織と争いと
11/22

捕まり、そして謎の男?女?

 三人と別れたあとハイルは聞き込みを開始した。

 と言っても普通に旅人向けに出ていた屋台で串焼きを買うついでにという風にさりげなく聞くといった感じである。

 どうも見知らぬ人間に面と向かって話しかけづらい傾向にあるのだ。

 人の目を見るのが少し怖かった。

 昔はそんなことも無かったのに、あの一件以来ハイルはどうも自分でも気づかない変化があるのだと感じた。


「おじさん、トラスティック・ファミリーって知ってる?」

「トラスティック・ファミリー?知らねぇな」

「そうですか」


 屋台の店主は焼いていた串を陳列網に置くと次の串を焼き始める。

 仕方がないので別の屋台でデザートに複数入った丸いカステラのようなお菓子を買って話を聞いてみると先ほどと同じ対応をされた。

 どうやらトラスティック・ファミリーのことを聞いても一様に同じ対応をとられるので聞かれてもそう返せと言われているのかもしれない。

 ハイルはどうしたものかと路地裏に置かれていた木箱へ腰掛けた。

 左側では道行く人が楽しそうに歩いているのが見えた。


「見た感じは普通の街なんだよなぁ…」


 まるで平和でこの街にそんなマフィア組織があるようには思えなかった。

 ハイルはまだ残っていた丸いカステラを口に運ぶ。

 と、路地の奥から人の声がした。

 もしかするとトラスティックの関係者かもしれないと思い音を立てないように近づいてみる。


「あ…かぎま…です」

「なるほ…わか…」


 角で身を隠すように聞き耳をたてるが遠いのか阻害されているのかまだ聞きづらかった。

 しかしこれ以上身を乗り出すわけにもいかず手をこまねいていると野良犬がハイルの足元まで近づいてこちらを物欲しそうに見ていた。

 野良犬はハイルの持っているお菓子の箱の匂いに釣られた様で涎を垂らしている。

 ハイルはシッシッと手で払いのけよとするがそれが不味かったのか野良犬は元気よく吠えた。


「ワンッ!!」

「ッ!」

「誰だッ!」

「しまっ!?このバカ犬!」


 路地裏に居た人物に姿を見られるとまずいのでハイルは持っていたお菓子を箱ごと捨てて通りへと逃げる。

 路地裏の奥から出てきたのは頭を丸刈りした屈強な男でお菓子を食べる犬を見つめる。

 と、先ほどハイルが串焼きを買った店主も顔を出してきた。


「な、なんだ、野良犬の様ですね」

「馬鹿か、よく見ろ、誰かが居たんだよ」

「まさかさっきの男が!?」

「近頃俺たちの周りを嗅ぎまわっている奴がいるとは聞いていたが此処までたどり着くとは…」

「ええ、この街に本拠地があるのを知っているのは関係者とごく一部の者だけ、我々が組織を裏切る理由もございません」

「国も親父が話をつけたって話だ」

「なんと、ということは実質的にはもう」


―――


 急いで通りに出たハイルは一度後ろを振り返って誰も追いかけてこないのを確認すると足を緩めた。

 一息ついて取り敢えず宿をとることにした。

 とは言っても所持金にも限りがある。

 当分はまだ大丈夫だがいつ必要になるかも分からないので何か稼ぐ方法を見つけたかった。

 宿を探すのはバーカスよりも簡単にできた。

 大きな街なので人の出入りも激しく門の周辺には宿が立ち並んでいた。

 その中でも一番安そうな所を探す。

 その方法として一々宿に入っては聞くを繰り返した。

 それしか方法が無いからだ、この世界にはネットワークは無いので足で探すしかないのだ。

 なんとなく刑事みたいだなとも思う。


 結論から言うとどの宿も少なくともバーカスより高く最低で共通銀貨三枚と言われた。勿論食事抜き。

 三倍も取られると聞いてしまうと流石のハイルも泊まる気にはなれなかった。

 手持ちはある。だが現在収入が無いのでできる限り出て行くお金は減らしたかった。

 最悪インベントリにあるアイテムや装備を売ることも考えてはいるがそれは緊急時だけにしたかった。

 仕方なく宿を出て通りをあてもなく歩く。

 

「ちょっとそこのお兄さん」


 と、何者かが後ろから声をかけて来た。

 咄嗟に振り返って距離をとる。もしかしたら先ほど裏路地にいた人物かも知れないと思ったからだ。

 そして振り返るとそこには薄汚れたフードで顔の下半分しか見えない小柄の、声から察するに男が立っていた。


「な、何者だ?」

「ヒヒ、いえねぇ、貴方が先程から宿を出ては入るのを見ていたものですから…宿、探しているのでしょう?」

「…それが?」

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。私はただ貴方にオススメの宿を教えてあげようと声をかけただけですのでヒヒ…」


 警戒するなとか絶対に無理な話である。

 しかし宿を探していたのは事実で一応聞いておく。


「…い、一泊いくらぐらい?」

「一泊400バドル、共通通貨なら銅貨五枚で泊まれます。勿論、食事付きで」

「是非、案内を!」


 怪しげな男が右手の指を四本、左手の指を五本立てる。

 ハイルはその安さに飛びついて男の手を掴んだ。


「ヒヒ、毎度あり…」


 男に連れられて宿が並ぶ通りの横にある路地裏へと入っていく。

 少し不安に思いながらもついて行くとあばら屋というのが相応しい建物に連れてこられた。

 見上げると二階建てらしく、よく倒壊しないものだと感心した。


「え、ここ?」

「ええ、ほらあそこにも書いてあるでしょ?」

「えぇ~」


 指をさす方を見ると留め具が片方外れた看板が垂れ下がっており掠れた文字があるとわかる程度だった。


「昔はこれでも繁盛とは行かないまでもそれなりに切り盛りしていたのですよ?ですが時代の流れですかねぇ、建物は増え、私の宿も他の建物に遮られるようにこの様なかたちに…」

「なるほど、おじさんも苦労してるんだね。わかった。俺泊まるよ!」

「ほ、本当かい!?いやぁ、声をかけた甲斐があったよ。ささ、入ってくれ」

「お邪魔します」


 勢いで宿へと入ると中も外観に負けず劣らずボロボロだった。

 テーブルやイス、床に壁とささくれ、日当たりが悪いせいかカビ臭かった。

 空気も湿気っており陽も沈んできたせいか肌寒く両腕を抱えて体を摩る。


「と、取り敢えず部屋に案内してもらえるとありがたいんだけど…」

「え、ええ、案内しますよ……宿じゃないけどなっ!!」

「な、なにをするんだ!…ガッ!?」

「へへ、後ろだよ間抜け」


 突然振り返って棍棒を振りかぶる男を咄嗟に避けて距離をとったが入口に人がいることに気がつかずに頭を殴られてしまう。

 そのまま意識を失って床に転がる。


「こいつが例の奴なのか?」

「ヒヒ、ああ、近頃俺たちをこそこそ嗅ぎまわってた奴に違いない」

「こいつを拷問して洗いざらい吐いてもらうとするか、親父(ボス)も納得するような情報が出ると良いんだがな」

「ああ、全くだ、ヒヒ…」


 それがハイルが気を完全に失う前に聞いた会話だった。

 バシャンと突然水を浴びせられてハイルは目を覚ました。

 驚いて目を覚ますと目の前には先ほどの男とおそらくだが自分を後ろから殴った革鎧を着た角刈りの男が立っていた。

 周りは薄暗く窓も無く、両手を後ろでイスに縛られているのでステータス画面の時刻も見れず今が何時なのかわからなかった。

 辛うじてロウソクが部屋の四方についていたので部屋の様子だけはわかった。

 石造りの部屋で男達の奥には鉄格子が見えるのでここが牢屋であると瞬時に悟った。


「気がついたか」

「な、なんなん…がっ!?」

「ヒヒ、許可なく喋るんじゃねぇ、お前が口を開いていいのは俺たちの質問に答える時だけだわかったか!!」


 ハイルが喋ろうとするとフードの男が棍棒で思い切り腹を殴った。

 フードの男が早口に喋るなと言うと最後にもう一度腹を殴られる。


「げほっ!げほっ!な、なんで…」

「黙って聞け、お前はなぜ俺らを嗅ぎまわっていた?どこのもんだ?」

「お、お前らはトラスティック・ファミリーなのか?だったら教えてくれ!シーフィールドという貴族がいる国の裏組織について知りたい…うっ!」


 今度は腹では無く顔の右側を思い切り棍棒で殴られた。


「言ったはずだ、質問に答える以外で喋るな、おい」

「ヒヒ、了解」

「な、なにを…」


 ローブの男がハイルの後ろに周る。

 何をするのかハイルは焦る。


「やれ」

「ヒヒ、はいよ」

「ひぐぅっ!?」


 男の合図と共にハイルの右手親指に痛みが走った。

 咄嗟に出た悲鳴を食いしばって押し殺す。

 きっと前の体だったら耐えられずに泣き叫んでいたことだろう。


「今、お前の爪を剥いだ」

「なっ…」

「指示に従わなければもう一枚行く、わかったか?」


 ハイルはこくりと頷いた。

 ここで暴れても意味はないだろう。

 なら嘘偽りなく話したほうが身の為だ、それにうまくいけばこちらの知りたいことがわかるはずだ。


「では最初の質問だ、お前はなぜトラスティック・ファミリーについて嗅ぎまわっていた?」

「嗅ぎまわっていたんじゃない、探していたんだ」

「ほう、なぜ?」

「とある組織について知りたくて、その道のプロであるトラスティック・ファミリーなら知っていると思ったんだ。だから探していた」

「ふむ…トラスティック・ファミリーについてはどこで聞いたんだ?」

「バーカスという街で聞いた」

「誰から?」

「旅品なんかを売っている店のおばさんに聞いたんだ」

「…少し待ってろ、おい、見張っておけ」

「ヒヒ、了解」


 角刈りの男は牢屋から出ると直ぐ横にある階段を上がる。

 上がっていくと何処かの部屋に繋がっているようで長机にソファと応接室であると思われた。

 そこの一人用のソファに腰掛けると男は考える。


 あの男はどうも引っかかる。

 だがあの男からは嘘を言っている感じはしなかった。

 しかし男にはそれが間違いであると思わずにはいられなかった。

 トラスティック・ファミリーという名前を知っていること自体はこの国にいるのなら聞くこともあるだろう。

 しかしトラスティック・ファミリーの本拠地を知る人間は関係者だけだ、それを簡単に、しかもまるで世間話の様に話すはずがないのだ。

 当たり前である。組織の団結力は確かなものでその力も遂には国を黙らせるまでに至ったのだから。

 故に男は考えた、この金髪の男はそそのかされただけではと。

 だが、確証も無い。一度親父に相談するべきか?

 しばらくの間男は思考を巡らせたのだった。


―――


 角刈りの男が出て行ってしばらく経った頃、後ろで見張りをしていたローブの男がクスクスと笑っているのに気がついた。

 不審に思い可能な限り後ろに振り向いてみる。

 角度的に見えなかったがそこにフードの男が居るのは間違いなかった。


「何を笑っているんだ?」

「いや、なに、おかしくてな」

「…誰だ?」


 質問に返ってきた声はフードの男のものでは無かった。

 明らかに若い女の声だった。


「誰だ?私は私さ」


 女がこちらにまわってくる。

 そこにはフードをとった耳の長い女が立っていた。

 それだけではない、それ以上に驚いたのは身長だ。

 明らかに30センチは伸びている。現在は170センチはあるように思えた。


「女だったのか?」

「違うさ」

「男なのか?」

「外れだ」

「???」


 クツクツと目の前の女はおかしいのか笑う。

 と、女はもう一度フードを被る。

 すると変化が起きた。


「なっ、身長が…」

「身長だけじゃないさ」


 身長が150程に縮むと声も老けていった。

 そして再びフードを取り払う


「あ、あんたは」


 そこにはハイルにトラスティック・ファミリーの存在と本拠地を教えた店の中年女性が立っていた。

 そして再びフードを被り直すと最初の小柄な男に戻っていた。

 おそらくはその羽織っているフードの外套がマジックアイテムなのだろう。

 男は腕を組んで壁にもたれかかる。


「これでわかっただろ?」

「何が目的なんだ?」

「俺はフリーの情報屋でね、仕事なら何処にだって潜り込むのさ、ただこの組織は中々に用心深くてね。この街に本拠地があるのまではわかったんだけど何処にあるかはわからなかったんだ。その点に関しては感心したよ、組織の人間はこの街の至る所に居てその一人に変身して調査もしたけど本拠地の場所までは末端には知らされていなかった。知っているのはリーダー格の連中とそれをまとめ上げる幹部以上の連中だけだ。しばらくして嗅ぎまわっているのがバレたのかトラスティックのボスに追われてね。一時的にバーカスに避難してたのさ。結果的にたどり着いたけどね」


 コンコンと男が壁を叩く。


「ちょっと待て、まさか、ここが…そうなのか?」

「正解」

「偶然にもあの街に組織のリーダー格のさっきの男と小柄の男が来ていて手下の方と入れ替わったのさ、更に君が裏組織に関して情報を聞いてきた時には天啓かとも思ったよ。直ぐに計画を練ったさ」

「まんまと踊らされたわけか」

「いいじゃないか、君も知りたがっていたわけだし、リーダー格の男の方はどうにかして組織をのし上がりたいみたいで手柄に焦っていた。扱いやすかったよ、そう言えば最近ボスが嗅ぎまわっていた奴を取り逃して不機嫌だってね、そいつを捕まえたら出世間違いなしですってね?」

「その犯人はお前で俺に罪を擦り付けたのか」

「いやぁ、ホント助かったよ。で、物は相談なんだけど取引をしないか?」

「俺の爪を剥がしたやつにか?」

「ポーションで付けてあげるから」


 ポーションで付くのかと驚いた。

 男がフードを被り直し次は先ほどの角刈りの男へと姿を変えた。


「取引というのは簡単だ、俺がリーダー格のこいつに成りすますから君はここで待っていて欲しい。大丈夫、問題はない」

「信用できるか」

「なら、拷問されて死亡。それでこの事件は終わりってなるけど?」

「それのどこが取引なんだ?脅しの間違いじゃないか!」

「違うよ、前者は君も生きてる。後者は死んでる。ね、違うでしょ?」


 男はどうする?といった表情でニヤついている。

 と、先ほどのリーダー格の男扉を開けて戻ってきた。

 会話に集中していて気がつかなかった。


「おい、しっかりみはっ、な、何者だって俺!?」


 次の瞬間変身していた男が入ってきた本物の首をどこからか取り出したナイフで跳ね飛ばした。

 その手際は鮮やかでこいつがただの情報屋じゃないと直ぐに理解できた。


「どうする、時間がないぞ?」

「…わかった」


 ハイルは血の付いたナイフから目を逸らしながら呟いた。

 人が、また死んだ。俺の目の前で。

 死んで当然の人間だったかもしれないが、それでも命がなくなってしまうことにハイルは抵抗があった。

 それを、平然とやってのけるのがこの世界の住人ということなのだろうか。


「ありがとう、じゃあ取引成立だ。爪を付けてあげるよ」


 男はそう言って剥がした爪を拾って指にあてがうと懐から取り出したポーションかけた。

 すると本当にくっついた感触がしたのでもしかすると手や足なんかも同じことができるのかもしれない。


「じゃあしばらく待っていてね」


 男はそいうと出て行った。

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