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7 いつもと違う自分

目が覚めた時、最初に見えたのは見慣れた天井だった。


――ここは自宅か、俺は生きているのか?


身体が痛かったがゆっくりと起き上がる、そこで気がつく

なんだかいつもより視線が低い気がする。

どうなっているんだ?


辺りを見渡す、やはり少し視線が低い。

どうしたもんかと考えているとドアが開いた。

そこにいたのはフィルとジーク殿下だった。


俺の顔を見ると二人は目を見開いた。


「あっ、ちょうどよかった、あれからどうなったんだ?」


あれ、なんか声も高いな

低くなることはあっても高くなることなんてないよな?


「……よかった、目が覚めたんですね」

「……」


フィルは珍しくボロボロ涙を流している。

一方ジーク殿下はすごく申し訳なさそうにしている。


「あの、そのなんだ、心配かけてすまなかった」

「本当にですよ、しらせを聞いて旅先から帰宅してきたレイア様にベル様、それにライト様も心配しておられました」


レイアとは俺の母親だ。

いつも心配なんてしない人なのに珍しいこともあるもんだ。



「そうだ、ジーク、無事だったんだな、よかった」

「貴方はどうして……」

「なんか変なこと言ったか?」

「いえなんでもありません」


なんだろうかジーク殿下の表情が悲しそうだし様子が変だな。

まさか、事故の後遺症でもあったのか!?


「ジーク、まさか怪我とかしたのか?」

「……貴方のおかげで僕は傷一つありませんよ」

「ならよかった」

無事だったことに安心して俺は少し微笑んだ。

ジーク殿下はそんな俺を見てさらに悲しそうな顔になりそのまま黙った。


「本当にどうしたんだ?」

「……気が付いていないのですか?」

「何が?」

「こちらをご覧になってください」


フィルはそう言って俺に大きい鏡を手渡す。

そこに映っていたのは

ベルを大きくしたような女性が映っていた。


いや正確にいうと俺を二回りほど小さくした女性が映っていた。


茶色髪に翠の瞳、紙の長さは短めだがくくれるぐらいの長さだった。

胸がかなり大きいので、これでは剣を振るのが大変だと思った。


いやいやそんなことよりも女性になっている?


なんで?


いや本当になんでだ。


俺がボー然としているある男。

銀色の髪に紫色の瞳をした男が現れ呟くように言葉を紡ぐ。


「ようやく目が覚めたか」


そこで我に返った俺は話しかけてきた男――我らのご先祖様にて神様でもある存在

クウラに視線を向けた。


「クウラ、珍しいな我が家に来るなんて」

「まあ説明と新たな名前を授けるためにまっておった」


彼は基本的に我が家に来ることはない。


子供が生まれたときに名づけに来るぐらいだ。

それ以外は一年に一回ほど彼が住んでいると言われている神殿にお供え物を持って会いにいくぐらいだ。


それがなんでここにいるんだ?


「お前さんの事だから気が付いていないとは思うが」

「あー女性になっているのはさすがに気が付いている」

「さすがにそれは気が付くか、では説明をしたい、込み入った話になるから二人には下がってもらってもよいか」


クウラは目線だけ二人に見る、フィルは心得たようで頭を下げて、部屋から出て行った。

ジーク殿下は口を開こうとしていたが結局開かずにこの部屋から出ていった。



「さて、ではどこから話そうかのぅ」

「まあ、最初から頼む」

「では、話そうか、お前さんは呪いにかかり死にかけた、それはわかるか?」

「いや、全然」

「まったく、鈍感なのはどうにかならんのか」

「申し訳ないです」


周りに鈍感、鈍感言われるので慣れてはいるが

ご先祖様兼神様に言われるとさすがにへこむぞ


「まあ、よい。それでお前さんはジークにかかっていた神の呪いによって命を落とすところだった、彼が人を愛し、その人のものになろうとした時に彼自身の命を失う呪いだ」



誰かのものになると死ぬということは


そのことに気が付くと俺は体が痛いのも忘れてベッドから出ようとしたがクウラに止められてベッドに戻された。


「まさか神の贄に選ばれたのか!?」

「そのまさかだ、彼は邪神の贄に選ばれた」


邪神、言葉でしか聞いたことがなかったが

この国を建国する前に戦姫様たちが倒した存在だ。


戦姫様たちがどうして邪神を倒すことにしたのか

歴史に何も残っていないが倒したことは歴史に残っている。


建国した理由は確か、邪神によって苦しめられた人を守るために国を作ったと歴史書には記載されていた。


ちなみに神様がいるんだから聞けばよいという人がたまにいるのだが

意図して残さなかったのだから話す気はないと基本的に黙っているのでわからないのだ。


そもそも歴史のためでも何でも神様相手に話しを聞きに行ったり、闘いを挑むものは少ないし、……ご先祖様は例外中の例外だが。



「どうして邪神の贄に選ばれたんだ?、というか邪神は生きていたのか?」

「贄に選ばれた理由は邪神にしかわからんよ、そもそも私たちは邪神の封印しかしていないのだ。邪神といえど神を殺してしまうと世界の理が崩れてしまう」


「なるほど、それでどうして俺が死にかけたんだ?」


「お前さんは無意識に神の呪いをうつしを行ったのだ、神の呪いうつしは呪いがかかっている相手の瞳と同じ色の力のある宝石を神自らがその相手に渡すことによってその呪いをうつすものじゃ」



あのペンダントを渡したのが引き金か。

確かにあのペンダントの宝石はかなり力のあるものだった。



「確かに無意識にやってるな、それで俺に呪いがうつったのか。それなら俺は死ぬんじゃないのか?」


本来の神様がやる分には死なないだろうけど、ほとんど人間の俺にうつしたら俺死ぬよな。

そこで俺は気がついた。


「だからこの状態になったのか」

「そういうことじゃ、神が呪いをうつしをしたぐらいでは死なん、だがお前さんは神の血を引くとはいえほぼ人間ゆえに呪いを処理できずに死ぬしかなかった、しかし……」

「殿下が行った性転換の魔法のおかげでスタード・ベルジュという男が消えたことで死んだという扱いになり、俺はまだ生きているということか」


「理解が早くて助かるよ、さて長々と話したが、お前さんには新たな名前を与えないといけない。その名はもう私たちが口にすることはできん。神が名前を呼べば、存在が認められてしまうからな。せっかく邪神をごまかして存在という一部のモノしか贄にさせなかったのに、存在を認識させてしまうとお前さんは今度こそすべて贄にされる」

「そうか、わかった」


名前を失うことに抵抗がないとはいわないがしょうがないとも思う。

そうしないと俺はいま生きてはいない。




クウラは何かしら準備をしており、それが終ったのか

呪文を唱えはじめている

するとクウラの足元に魔法陣が浮かび、周りに綺麗な光が溢れる、暖かい光だ。

そのまま彼は、声をはりながら、唱える。



「我の名のもとに命ずる、この者に授けし名は、スティ・ベルジュ、今よりこの名を名乗れよ、我が愛しき子」


彼が呪文を唱え終わると辺りに静寂が戻った。


スティ・ベルジュ、それが新しい、俺の名前。


「ありがたく、頂戴いたします、我が神、クウラ様」


俺はその場で頭を下げる。


クウラはそれに対して特に何も感じないのか

そのまま話しを進める。




「さて、スティ、他に聞きたいことはあるかね?」

「そうですね、確認なのですが、殿下の呪いについてはどうなっていますか?」


俺はそれが気になっていた。

殿下の呪いは特殊だ。


なんせ神の贄なのだから、俺の存在が持っていったとはいえ

まだ残っているのならまた同じことが起きるかもしれない。

ただそれを聞いて俺が解決できるかどうかはわからないが


「彼の呪いはお前さんが持っていったよ。だからもう彼が死ぬことはない、ただ持っていったといってもお前さんの一部だけだから、他の肉体や記憶はまだ残っているから、前の姿に戻った瞬間にお前さんは邪神に持っていかれる、そういう意味では呪いは残っておる」


そこでクウラは言葉を切り、少しいいにくそうに言った。


「だからはもう二度と前には戻れん」


「そうか……」


二度と戻れないか……


少し辛いが俺は生きている

生きているからこれからのベルの成長もライトの未来も見届けることができるんだ

それは俺にとってどんなことよりも大切なことだから。


そして何より殿下を助けたことは後悔はないし

それで俺を女性にした殿下を責めるつもりはない。


そうしみじみと考えているとふと気になったことを聞いてみた。


「そういえば、婚約の件はどうなっているのかなぁ?」

「さあてね、まあまだ公にはなっていないから婚約に関しては白紙になるのでないか?」

「そうか、残念だな」


俺の言葉に少し驚いた表情を浮かべてがすぐにいつもの表情に戻った。


「スティ、君は殿下との結婚に困惑していたのにどういう風の吹き回しだい?」

「殿下は俺を愛しているといってくれた」

「愛を囁けば婚約が白紙になっても残念に思ってくれるのかい?」

「そんなわけない、とうか微妙に話しをすり替えるな」

「おや、失敬」


こいつ、悪いと思っていないな

まあいいや。


「それでだ俺は殿下の愛に対して何も返していないし、愛を囁いてくれたのは嬉しかったら、婚約がなかったことになっていたら、残念だと思っただけだ」

「では、婚約が解消されてなかったら?」


あーうん、これはまあ

認めるしかないのだが



「素直に嬉しいな」


この言葉に呆れたのか

ため息を吐きながら言葉を投げ捨てるように呟いた。


「お前さん、相手に愛を囁かれたらコロッと行くタイプか、チョロインか」

「何いってんのお前?」


いや、まじで何言ってんの?


「だって、普通に考えたら愛を囁かれたぐらいで残念に思うなんてことないじゃろ?」


「いやだってあんなに熱心な瞳に見られられたら少しぐらいは気になるじゃん、ならない?」


今思い出しても綺麗だった、あの瞳に見つめられたら、誰でも気になるじゃないのかと俺は思うわけよ

……っていうか、恥ずかしいな、もうすぐ30になる男だったのにそんなこと思ってるのクウラにばれたらからかわれるな

でも殿下がきいたらどう思うだろうか?


「……顔が面白いことになっとるぞ。というかお前さん確実に殿下に惚れかけているな」

「なっ、なに言ってんだよ、そんなわけ……」



ある、めちゃくちゃある、なんだよ初恋があるから愛することはないとか言ってたのに俺

こんなじゃ、いけない気がする


いや本当にどうしよう


いやでも本当にあんな表情で見つめられたら嬉しいし、それに俺殿下の顔結構好きなんだよなぁ

リヒトはかっこいい系で殿下は中性的なかっこよさ、あーうん、かっこいいわ。


そこまで考えて、もしかして俺、思考が女性よりになってるのか?


「なぁ、クウラ、もしかして俺って女性になったことで思考まで変化してんの?」

「いや、していないぞ。もし殿下の事がかっこいいと思っているなら、最初からだから諦めた方が楽になるぞ」

「……そうか」



俺がその言葉に対して短く答えることしかできなかった。


「さてと、私はそろそろおいとましょう、どちらにせよ、今後の事は家族で話しあうことをお勧めするよ、なんせ私は神だから現世については疎いからのぅ」

「わかった、来てくれてありがとうなクウラ。それと頼みたいことがあるんだが」

「何かね?」

「考えごとをしたいから私室にこないように伝えてくれないか?」

「お前さん、神様に頼みごとを軽々するなんてすごいのぅ、まあよい、伝えておくぞ」

「ありがとう頼むよ」


クウラが扉から普通に出ていくところを確認した後、俺は殿下について考えた。


というか殿下について知っていることをまとめた。


10歳下でリヒトの弟の第二皇太子で母親が確か

リヒトと違うということだったな。


あれ、俺全くあいつのこと知らないんだな……



俺はそのままジークについて何が知っているか考えていたがそれ以上の事は思い浮かぶことはなく

いつの間にか眠っていた。




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