6彼が決めたこと
今回はジーク視点でお送りしています。
なにが起きたかまるで分らなかった。
いやわかろうとしなかった。
自分の目に映るのは血まみれで動かないスタードの姿だった。
自分はどうして無事なんだ、どうして彼はああなったんだ。
まわりが悲鳴をあげて、医者を呼ぶような声が聞こえたが
そこから動けずに地面にうずくまってしまった。
そしてただ地面を見つめていた。
これからどうすればいいのか
完璧に現実逃避をしている僕を叱責する声が聞こえた。
「うずくまるな、まだあのこは生きておる」
その声に顔をあげるとそこには
銀色の髪に紫色の瞳をした男が立っていた。
「貴方は?」
「今、名乗る気はない、それよりもあのこを運ぶぞ」
「っ、はい!」
僕は男に言われるがままにスタードを運んだ。
運んでいる途中、回復魔法をかけながら
この区間にある宿に駆け込んだ。
宿は防音の魔法がかけられているこの地区でも高級な部類に入る宿だったが
そんなことを気にする余裕はなくただただ僕は彼を抱え
宿の主人に向かって叫んだ。
「すいません、部屋を貸してください!」
僕の剣幕に驚きながらも宿屋の主人は部屋を貸してくれた。
急いで彼をベッドの上に寝かせ、回復魔法はかけ続けた。
しかし顔色は変わらずに血も流れ続けている。
「どうして、きかないんだ」
そもそも彼は魔法の耐性がないはずなのにどうして
魔法がきかないんだ
それでも僕は魔法をかけ続けた。
かけ続けるしかなかったというべきだった。
「これは、呪いの一種だ」
その言葉に僕は男のことを今のいままで忘れていたことに気が付いた。
だが気が付いたところで僕のやることに変更はない。
「どうやら、それは無駄に終わりそうだぞ」
「無駄かどうかなんかわからないじゃないか」
男は少しだけ憐れむような表情を浮かべた。
「わかるさ、これは神によってかけられた呪いの一種だからのぅ、君は神にかけられた呪いを解けるようなヒトではない」
「……本当に神の呪いなら、神の血をひく彼にかかったんだ」
手は止めずに彼は怪しい男に聞く。
それが本当ならどうしてなんだ。
「むしろ、神の血をひくからこそ、まだ生きているのだ、それにこの呪いはこの子のものじゃない」
「それじゃあ誰のものなんだ」
男は怪しい笑みを浮かべていた。
「それは君のかけられた呪いだよ、ジーク・ストレイガー」
僕は足元から崩れるような気持ちになった。
僕にかけられた呪いだって?
「それはどういう意味」
「そのままの意味だよ、君は生まれながらに邪神の贄と決まっていた。だから君は誰かのものになることをしてはいけなかったんだ」
「そんなのは知らない」
「贄になったという神託はお前さんが生まれた時にくだされたと我が妹は言っていたが……まあそれは今はよい、君の呪いは君が誰かのものになった時に君が死ぬ呪いだ」
「それならばなぜ彼が死にそうになっているんだ!」
「それはこの子が無意識にお前さんの呪いをうつしたからじゃよ」
呪いうつし?
きいたことはあるが実際にそんなことが起こるなんて
でもそれが本当なら
「僕の呪いのせいで……」
僕のせいで彼は死ぬのか
元々が僕の呪いなら
僕が死ねば彼は助かるのか?
傍にいる男はその思考を読んだのか
的確に答えを紡ぐ。
「……君は死んでも、今の状態ではこの子も死ぬ」
「もう彼を救うことはできないのか……」
もう彼と共にいられないのかどうにかできないのか
「彼から呪いをかえしてもらうことはできないのか」
「無理だねぇ、そもそも呪いうつしは神からしかできんのよ」
「それじゃあ、もう何も手がないのでは……」
それでも僕は考えた、考えた末、一つの方法にたどりついた。
「……彼が彼じゃなくて別の人間になれば彼は生きることができるのか」
「この子の存在と名前を贄にして、この呪いを引き受けてもらい、この子の肉体と記憶だけでも助けようと考えているのかい?」
「それができるのであれば、そうしたい」
「名前と存在を贄にしてしまったらはたしてそれは彼だと言えるのかねぇ」
「それは……」
正直わからない、だけどそれでも
「彼には生きていて欲しいんだ」
「お前さんの気持ちはわかった。さりとて記憶だけも助ける方法があるのかね?」
「……とある魔法を使う」
性転換の魔法を使う、きっと彼は怒るだろう、あの時以上に。
でも、僕は彼を失いたくない、彼は彼じゃなくなる。
だけど彼自身の意識や意志は残る。
僕はそれでもよかった。
……きっと嫌われるだろう。
いや元々感心なんてなかっただろう
ごめん、スタード、僕にかけられていた呪いのせいでこんなことになって。
でも僕は貴方を愛しています。
それは貴方がどんな姿形になっても変わらずに言えることです。
……ありがとう、そしてさようなら。