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桜の封印―エピローグ

花びらが舞い上がり、

桜の記憶が

彼女の中に流れ込んだ。


彼と同様、彼女も

流れ込んでくる記憶に

耐えられないのか、

その場に座り込み、叫ぶ。


「う、そ・・・よ」

耳を塞いだまま

彼女は呟く。

そんな彼女を

彼は抱き寄せ、

「嘘じゃないんだよ」と言う。


「ごめんな」

「守ってやれなくて・・・」

彼はそう呟くと、

零れていた涙が

見えないよう顔を逸らす。

彼女は首を

何度も横に振った。


「じゃあ、これも夢なの?」

そう聞かれ、

彼は僕に視線を向ける。


「どうなのかな?」

「夢・・・なんだろうか?」


―夢というには、

あまりにも切なく、

現実というには

残酷すぎた。

僕は何も言えずに

彼を見つめる。



彼は彼女を見ると

「―俺」

「そろそろ行かなきゃいけないんだ」

そう言った。

顔を上げる彼女に

「あっちで待ってるから」

「お前はそれまで」

「元気でな」と言う。


「嫌・・・」

小さく彼女が呟くが、

彼は立ち上がり、

「―そう言えば」

Gパンのポケットを探る。


そしてそれを

そっと彼女に渡し、

「見せるって約束してたよな?」

そう笑う。


彼女はそっと掌を広げる。

桜の花だった。


彼がさっき握っていたもの。

彼女のために

今年一番の桜を

持ってきたのか―。



「―!」

彼女はそれを見つめ、

声にならない声で泣いた。


彼はまた彼女を抱きしめ、

「じゃ、またな」

そう言うとそっと離れる。



「ゆう!!」

彼女が彼の名前を呼ぶ。

彼は振り返った。

その頬には

また涙が伝っていたが、

今度は顔を

逸らすことはなかった。


彼女は掌の桜を

そっと抱きしめ、

「一緒に見る約束」

「覚えててくれたのね」

「ありがと・・・」


目に涙を

いっぱい溜めながら

彼女は笑顔でそう言った。


彼はその愛しい人の姿を

焼き付けるように

しばらく見つめていたが、

彼女に笑顔を見せると

背を向けた。







彼が僕の元へ戻ってきた。

「―もういいのかい?」

そう聞くと黙って頷く。


「これであいつは目覚めるんだよな?」

「封印は解けたからね」

そう言うと

少し俯いたが、

すぐに顔をあげ、

「そっか。良かった」

そう僕に笑う。


「さっさと連れていけよ」

「ダラダラしてると逃げるぞ?」

彼は悪戯をした

子供のように笑う。


「―あぁ・・・」

ぼんやりと呟くと

彼は一瞬、

困ったような顔をした。


「あんた、泣いてるの?」


いつの間にか

頬に涙が伝っていた。

僕は顔を逸らす。


そして、大鎌を振りかざす。



「―貴方の魂を今、解放します」



涙で霞む彼を、

僕は静かに引き裂いた。


「ありがとな―」

彼の穏やかな声が聞こえる。


「ありがとうなんて・・・―」

僕は声に出せずに

一人泣いた。






毎年、この時期になると

彼女は桜の樹を見上げる。


その手には、

満開になった

桜の枝を持って―。






―第参話 降幕―





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