桜の封印―5
僕は彼の問いかけには答えず
翼を広げる。
「まさか、俺を連れてくってんじゃ
ないだろうな?!」そう叫ぶ彼に
「君にはまだやるべきことがある」と
答えた。
「・・・さっき言ってた解放とかってやつか?」
僕は頷く。
やがて大きな病院が見えてきた。
僕らはその一角の窓辺に降り立つ。
ベットに横たわる姿を見つけ、
彼は愕然とする。
「さよ!!」
名前を叫び、彼は駆け寄った。
「良かった、お前は助かったんだな」
そう呟くと一筋の涙を流す。
「本当の彼女は、そこにはいない」
僕がそう言うと彼は振り返り、
僕を見る。
「いないって?いるじゃないか、ここに!」
「呼吸だってちゃんとしてるぞ?!」
そう叫ぶ彼に僕は静かに首を横に振る。
「彼女の時間もまた・・・」
「君のようにあの日のまま」
「止まってしまってるんだ」
「あの日のままで・・・君を待ってる」
そう告げると彼はその場に座り込む。
「そんな・・・」そう呟き、俯く。
「永遠に来ないって言った理由も判ったよ」
「俺と同じだったんだな・・・」
「もう、目覚めないってことなのか?」
彼は僕を見上げ、そう聞く。
「解放する方法がひとつだけある」
「それは、君が目覚めさせること」
そう言う僕をじっと見たまま
「俺が?」と眉をひそめる。
「彼女を解放してやれるのは」
「君にしかできないんだ」
僕は一呼吸置く。
彼はじっと僕の次の言葉を
待っているようだった。
「でも―彼女を解放したら」
「君はもう」
「僕と行かなければならない」
「彼女には二度と会えなくなってしまうんだ」
ゆっくり切り裂くように、
そう彼に告げた。
彼は僕の言葉にしばらく俯き、
黙り込んでいたが、
やがてゆっくりと顔をあげ、
「・・・今すぐじゃなくても」
「大丈夫だよな?」と聞く。
僕は一瞬躊躇ったが、
「う、ん」と答えると
彼はゆっくり立ち上がり、彼女の傍へ行く。
彼は彼女の耳元で
「あともう少し待っててくれな」そう呟いた。