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第漆話 罪と罰

人の命を奪った者はこれくらいの罰は受けても

いいと思う。

加害者側について少し偏見ぎみに描いております。

気分を害されるようでしたらお戻りください。

一人の男が

少女を誘拐し、殺害した。

僕はその魂を

迎えに行くよう、命ぜられた。



僕はその少女がいる場所へ降り立つ。

少女の身体は

まだ家にも戻れず、

淋しく暗い部屋に男と共にいた。


男は自分の犯した罪を悔やんでいるのか

座り込み、じっと佇んでいる。


―今更後悔しても無駄だ。

もうその少女の未来は

君の手によって

永遠に閉ざされてしまったのだから。


僕は振り返り、

「君を迎えに来ましたよ」

少女にそう言うと

「―怖いの」

「早くここから出して」

そう悲願する。




僕は大鎌を振りかざし


「―貴女の魂を今、解放します」


そう言って少女の魂を引き裂いた。


「ありがとう―」

少女は解放され、

安堵の表情を浮かべる。

「これでパパとママの所に帰れる?」

そう聞くので僕は首を横に振る。


「ごめんね」

「もうパパとママとは」

「一緒に居られない」

そう告げると

「どうして・・?」

少女は涙を零した。

何も言えずに

僕はそっと少女を抱きしめた。


「でも最期に会わせてあげるよ」

「それしか出来なくて・・・ごめんね」


僕は溢れる涙を抑えられなかった。



僕は男の方に振り返る。



そして―

また大鎌を振りかざし、

宙を引き裂いた。



男は僕に気づき、

驚愕の顔を浮かべ、

「―誰だ」と脅えた目で言う。


「―貴方が殺した少女の魂を」

「迎えに来た者です」

そう言うと

「お前、死神か・・・?」と問う。

僕は黙って頷くと

今にも泣き出しそうな顔で

「俺も連れてってくれ!」と叫ぶ。


「罪の意識から逃れるつもりですか?」

静かに僕が問うと

「殺すつもりはなかった」

「気づいたら・・・」

男は両方の掌を見つめる。


「つもりはなくとも」

僕はそう言って少女を指差す。

「あの子の未来を閉ざしたのは」

「紛れもなく貴方なのです」


その言葉に顔を上げ、

「本当なんだ!」

「騒いだから黙らせようとしただけなんだ」

そう叫ぶ男に

僕は首を横に振り、

「貴方を連れて行くことは出来ません」

そう応えた。


「貴方にはまだやるべきことがある」

「この罪を、後悔を」

「生涯背負って生きるのです」



―本当は今すぐ

ここで引き裂きたかった。

だが、そうしても

少女は戻ってこない。

そして彼もこの罪の重さが

判らぬままになってしまう。



「―背負って「生きろ」だって?」

「命を奪う死神が何言ってるんだ」

男がそう呟く。



その言葉を聞いて

僕の中で何かが壊れた。



「―では」

「この少女が受けた苦しみを」

「お前にも受けさせてやろう―」


僕の中の「死神」がそう告げ、

冷ややかな目で彼を見下げ

大鎌を振りかざす。

その突然の変貌に

彼は困惑の表情を浮かべる。


「な、何をする気だ・・・」

震える声でそう問うが

「死神」は静かに大鎌を振り下ろした。




―目の前の自分が

「黙れ!」と叫び、

首に手をかける。

恐怖のあまりに顔が引きつり、

「や、止めてくれ・・・!」

必死にそう言うが

鬼のような形相で

その手は更に強く締め付ける。


「死にたくない・・・!」

心でそう叫んでも届かなかった。



息が出来なくなり、意識が遠のいた―。




「―判ったか」

「死神」が彼にそう言うが

彼は震えたまま動かなかった。


「お前はこの少女の未来を」

「そうやって奪ったんだ」


「死神」がそう言うと

彼は悲鳴のような

叫び声を上げ、泣いた。


「お前はこれから長い懺悔の時間を過ごし」

「この罪の深さを」

「存分に思い知るがいい―」


「その深さが判った時に」

「魂を引き裂きに来てやろう」



「死神」はそう告げると

少女の魂を抱き、翼を広げた。





その後、彼は世間から

多くの非難を浴び、裁きを受けた。

刑に服し、模範囚として出所し、

紹介された仕事先で真面目に働いていたが

その事実はどこまでも付いて回ってきた。

身分を隠し、各地を転々としても

それは変わらなかった。


変わらぬ世間の冷たい風に耐え切れず

彼は何度も

自ら命を投げ出そうとしたが

全て失敗に終わった。


世間からも見放され、

家族も疎遠になる。

彼は人生の半数を

孤独の中で過ごした。

何度も辛い病に冒されたり

全身打撲、複雑骨折数箇所という

事故にも遭った。

その後遺症で今では

思うように身体が動かせない。

心身ともにボロボロになり、

いつ執行してもおかしくない

状態であったが、

それでも命令が出ないのは


「まだ罪の深さを理解していない―」

それが理由だった。


そしてまだ彼は

その苦しみから解放されてはいない。

うわ言のように

「殺してくれ・・・」といつも呟いている。

意識だけははっきりしている分

相当の苦痛であろう。



あの時、罪の深さから

逃れるためだけに

自らの命を投げ出そうとした

それが彼への「罰」。


彼はいつ、その「罰」から

解放されるのだろうか―。





―第漆話 降幕―



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