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エンディングストーリー  作者: 有坂紅
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エピローグ04






 宗玄さんがどんな人物だったか、簡単には言い表せない。

 最古参の《魔剣》使いであり、僕らのリーダーであり、いつも正しい道を示してくれる偉大な人であり――そして不屈の心を持つ茶目っ気老人でもあった。

 だが、そんな宗玄さんを以ってしても、今回ばかりはどうにもならないようだった。

 いつも作戦会議に使っていた宗玄さんの部屋。

 調度品もエアコンの温度もLEDの明かりも何一つ変わっていないのに、ただ雰囲気だけがいつも違った。


 重い空気が、場を支配していた。


 最初にため息をついたのは誰だっただろう。わからない。でも、そんなのは順番の問題でしかなく、その場の全員が同じ状態だった。


「……俺の認識不足だぁな。これだけの力、リスクがないわきゃなかった。《魔剣》の力としか考えなかった俺が、全面的に悪い」


 宗玄さんはそう吐き出した。


「いや、仕方ない。仮に事前にわかっていたとしても、使わないという選択肢はなかった。使わなきゃ宇宙が滅ぶなら、わかっていても使ったはずだ」


 黒星さんがフォローする。


「強いて言えば、アタシが日常生活でポンポン使っていた異能を、少しは控えていたかもしれないくらいかね」


 ヴィルマさんがそう茶化した。

 僕はどう言っていいものかわからず、沈黙する。

 宗玄さんの『解答を得る』能力によって判明した各自の代償はそれぞれこうだ。

 宗玄さんが《記憶》。

 黒星さんが《未来》。

 ヴィルマさんが《肉体》。

 そして僕が《感情》だ。

 いかなる手段をもっても失われた代償の補填はできないし、別のものを代償として支払うこともできない。

 そして代償が不足した場合、《魔剣》の力は行使できなくなる。


「でだ。お前らにゃ悪いが、ここからはもっとひどい話だ。俺たちは全員が揃ってようやく意味を成している。誰かが力を使えなくなれば崩壊因子に対抗できなくなる」


 宗玄さんが出現を察知し、黒星さんが抑え、ヴィルマさんがみんなを守りながら外殻を剥がし、僕が中枢にあるものをバラバラする。

 この戦闘スタイルは、どこにも手を加える余地はないし、誰が欠けてもいけないのだ。


「つまり代償が払えなくなった者は《魔剣》を譲渡して抜けなきゃいけないんだが、ここにな、大きな問題が二つある。一つは譲渡する相手。《魔剣》に適合する人間は俺たち以外にも多少はいる。だが、寝たきりの老人だったり、性格が邪悪すぎたりして、候補のうちに入れられない。俺たちが選ばれたのはある程度必然だったってわけだな」


 宗玄さんは自嘲気味に笑って続けた。


「もう一つは、譲渡した後のこと。《魔剣》は宿主の魂に深く食い込んでいて、譲渡した場合よくて廃人、悪いと死ぬそうだ」

「気の重い話だねぇ……なんかいいニュースはないの?」

「あるぞ、一つだけ」

「なら、それを先に聞かせてほしいね」

「そうか。じゃあ教えてやろう。俺たちが効率よく戦闘と譲渡を繰り返した場合――最後の一人を使い潰す寸前で、すべての因子を撃破できる」

「……そいつがいいニュースなのかは議論の余地があるな」


 真顔で考え込む黒星さんに、宗玄さんは苦笑した。


「けどま、そう思わないと救われねぇよ。誰かさんが開けちまったパンドラの箱の中に、それでも小さな希望は残っていた――ってなことにしといてくれないか?」

「しょうがないね」

「しょうがないか」


 ヴィルマさんと黒星さんがうなずく。

 そんなみんなの様子に胸が痛んだ。痛んだけれど、かける言葉が浮かばなかった。

 ただ押し黙って、下を向いて、仮にここにいるのが僕でなく委員長だったらどんな言葉をかけただろうと、そんなことを考えた。


「で、宗玄翁。その効率のいいプランの内容を聞かせてくれ。自分はどうすればいい?」

「おうよ。まず俺が七つめの後、八つめの前にガス欠になる。そこで黒星、お前が俺のを受け継いでくれ」



 そうやって僕らは――いや、僕以外の全員が、《死ぬ予定》を立てていった。



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