エピローグ03
というわけで、順番的にはめちゃくちゃだが、最後に入ったメンバーの話をしよう。
《魔剣》ヨグドルゼプスを宿した彼女の名はヴィルマ・アルスフェルト。遠くドイツから連れてこられた女性だった。
もっとも、まだ《魔剣》たちとは言葉を交わすに至っていなかったので、ヨグドルゼプスの名を知ることになるのはこれよりしばらく後のことだ。
そして彼女の――彼女の《魔剣》の能力は、同種別個体の持つ力を自分の身に引き出すというもの。身体能力を数十億倍にする能力――程度では、常識を超えた僕らの戦いにおいては戦力にならない。
その能力の真価は、人類が発現している超常的な異能力をすべて引き出して使うことができる点にあった。
読心術、念動力、発火能力といったオーソドックスなものに始まり、己の身を無敵化する能力や、壊れたものを直す能力、消しゴム代わりに文字を消す能力なんていうのもあったし、僕らがドイツ人の彼女と会話できるのも意思疎通の能力によるものだった。
そんな彼女の役割は、状況に応じた異能力を使っての遊撃と補助。
必然的にオフェンス担当である僕とは意思疎通しながら戦うことになり、そのうち戦い以外のところでも会うようになった。
彼女は甘いものが好きだった。
戦闘時の男らしい様子からは想像もつかない嗜好だ。でも、そのうち一緒に甘い物巡りをするようになった。クレープを食べてアイスを食べてパフェを食べて、街中の喫茶店の甘味をコンプリートして、やがては県外まで足を向けるようになった。
そんなある日、ふと違和感に気づいた。
「あれ、ヴィルマさんって左利きでしたっけ?」
「いや。ちょっと怪我しちまったみたいでね。右は痺れて動かないんだよ」
「なんか能力で治らないんですか?」
「それがどうにもならんのだわ」
そいつは妙だ。たとえ異能力をなしにしても、彼女は並の人間の数十億倍の治癒能力を引き出すことができる。腕が吹っ飛んだって瞬時に再生できるはずなのに。
「宗玄さんには相談したんですか?」
宗玄さんというのは僕を迎えに来たスーツの老人だ。
彼は『疑問に思ったことの答えを知ることができる』という能力を持っていて、僕らのリーダーをしていた。
「いや。アイツは……なんか苦手でな」
「絶対調べてもらったほうがいいですよ、それ」
「ま、そのうちにな。それより、それ、溶けちまうぞ」
「おっと」
グラスの外に倒れかけていたパフェの頭をすくい取り、口に運ぶ。
そうして有耶無耶になってしまった。
――後になって、このときにもっと強く言っておけば、あるいは僕から宗玄さんに言っておけば、なんて考えたこともある。
けれどいずれにしても結末は変わらなかった。
僕らは逃れようもなく役目を背負っていたのだから。
彼女が宗玄さんに相談をしたのは両腕が動かなくなってからだった。
理由を調べた宗玄さんの答えは『《魔剣》の能力の代償』。
そして対処法は、『ない』とのことだった。