エピローグ02
僕について思い返すことはそんなにない。
ありきたりでありがちで、敷かれたレールの上を法定速度で走ってきたのが僕という男だ。
だからあえて語ることがあるとすれば、それはクララギィエルと出会った後、そして僕らの活動が始まるまで、という極めて短い時間のことしかない。
さて、僕とクララギィエルの出会いが、果たしていつどのタイミングだったのかは、正直なところわからない。
別の宇宙で生まれた精神寄生体である彼がいつこの宇宙に来て、地球に来て、そして僕に宿ったのか僕にはわからないし、時間の概念というものが非常に希薄なクララギィエルにもよくわかっていないらしい。
とにかく高校二年生になってしばらくした頃に、急によくわからない音や映像が頭の中に流れてくるようになった。それはまるで宇宙に網を突っ込んで底をさらったら出てきそうな何かで、さながら知らない言葉で語りかけられているような感覚だった。
はてさてどっかで頭でも打ったかなぁ病院に行くべきかなぁなんてぼんやり考え始めた頃に、黒スーツをきっちりと着こなした細身の老人が現れた。
彼は「信じられないかもしれないが」と前置きして説明を始めた。
曰く、この宇宙に危機が迫っている。
崩壊因子という光の塊がどこかに現れ、世界を消し去ってしまう。
それに対抗するために《魔剣》を宿した人間を探している。
そして僕がその一人だ、とかそういう話だった。
そこから話が進むのは早かった。転がるというより飛び降りたような速度で事態は進んだ。
敷かれたレールの上を法定速度で走ってきた僕は、そのとき初めて特急券を与えられたのだ。
まずは目の下にクマを作ったお兄さんを紹介されて、彼らの能力と僕の能力を教えられて、間もなく最後のメンバーに《魔剣》が宿ることと、それを以って正式な活動が始まることを説明されて。
まあ、おおよそそんな流れで、僕は宇宙の危機と戦うことになったわけだが、当時の僕らは《魔剣》――クララギィエルたちが何を糧にして力を発揮しているのかを知らなかった。
それが発覚するのは、最後のメンバーを迎え入れてしばらくしてからだった。