36/57
2 いただきます
おはしで摘まんだのは、
一つの亡骸。
「死が思い出せない」
一昨日食べた朝食が何だったか、
思い出せない。
お肉だったか、お魚だったか。
お野菜だったか、果物だったか。
いつも座る台所の椅子は覚えていても、
昨日食べた朝食が何だったかは、
思い出せない。
「魚の小骨」
のどをひっかく、魚の小骨。
煮物になった、魚の小骨。
箸でのぞかれることもなく、
あなたは私の口の中に、
するりと入ってしまったよ。
少しだけ、
私ののどをひっかいた後、
胃の中でとけてしまうのでしょう。
海で泳いでいたころを、
思い出させる小骨のひっかき。
仄かに残るのどの痛みに、
小さな命の鼓動を知る。
◇『めめんともり』より
「死が思い出せない」
◇『魚の小骨』より
「魚の小骨」