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3 美醜の感覚
美しいとか醜いとか、
綺麗だとか汚いだとか、
そんなことばっかりで。
まっくろなものが、
肺を満たした後、
思わず咳き込んだ。
「きれいなままで」
きれいなままでいたいとおもう
けれど
それはむりなはなし
ここまで生きてきても
それがむりなことはすでに
じゅうぶんすぎるほどわかってる
だって、生きることはきたない
けれど
そのなかにうつくしさがあるから
(そうやってごまかしているのかもしれない)
うけいれるしかないのかしら
まだまよってる
「違う、そうじゃない」
きれいな顔で
うまれたかった。
違う、そうじゃない。
きれいな声で
うまれたかった。
違う、そうじゃない。
きれいな心で
うまれたかった。
違う、そうじゃない。
きれいかどうかは
そこまで
問題じゃなかった。
ただ、
卑屈な思いを
したくなかった。
◇『渇望』より
「きれいなままで」
◇書き下ろし
「違う、そうじゃない」