ニンゲン
ある1人の竜人族の少女がいた。
その少女は人間が大好きだった。
人間と仲良くなることを試みた。
その少女は毎日のように人間界に行き、人間の子供と遊んだ。もちろん周りの竜人たちには
「人間なんて生物と一緒にいちゃいけないの!もう人間界にも行っちゃダメ!」
それでも竜人族の少女は人間界に足を踏み入れ、人間の子供と遊んだ。
楽しかった。嬉しかった。
この喜びをほかの竜人族にも教えてあげたかった。みんなは勘違いしているんだって、人間は優しい種族なんだって。
そんなある日、いつものように人間界にやって来た少女は、人間に捕まってしまった。
磔にされた。鎖で体を縛られた。杭を打たれた腕からはとてつもない量の血が吹き出ている。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
野次馬たちが集まってきた。人間たちは異世界への行き方を聞こうとしたり、亜人を連れてこいと命令したり、平気で罵倒してくる。
昨日まで一緒に遊んでいた人間の子供たちも嗤ってこちらを見ている。
「─────ニンゲン…。」
少女はニンゲンを信頼することができなくなった。みんなが言ってたことが正しかった。自分が間違っていた。言いつけを守っていればよかった。
「────ニンゲンが…調子に乗るな…!」
少女の体が竜になった。体を縛っていた鎖も引きちぎれた。腕に打たれた杭を抜き、戦闘態勢をとる。周りのニンゲンどもは石や槍を投げてくるが竜の硬い鱗にそんなもの通用するはずがない。
「───たかがニンゲンが…気高く尊き竜を…!!!!!!」
少女は怒りに任せて辺り一面に無数の青白い雷を落とし続けた。ニンゲンを感電させた。ニンゲンを爪で斬り殺した。ニンゲンを尻尾で叩き潰した。ニンゲンを噛み千切った。ニンゲンがまるでゴミのように、塵のように吹き飛ぶ。
いつの間にか竜の純白の美しい体毛は、紅い血の色に染まっていた。
辺り一面はニンゲンだったこともわからなくなった無数の死体と、焼け焦げた死体で覆われていた。
鼻が曲がりそうな臭気が漂う中、竜人族の少女は呆然としていた。
「────ニンゲン…なんか…嫌い…。信用できない…。」
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「─────っ!?」
「早く俺に呪いを掛けろ!」
「悠貴、頭おかしくなったんじゃない!?死にたいの!?」
「ッバカ言うんじゃねぇよ!死にたくなんかねぇ!頭おかしいのは認めるが…」
「ほっ…本当にいいのね?」
「あぁ、だいじょ…」
『能力吸収』
「ッぐあぁぁぁぁぁ!!」
悠貴は喘ぎ声をあげ、その場に倒れた。悠貴の全能力を吸い取られた。
「悠貴!?大丈夫って言ったからやったのに!」
「ミラ!いくらなんでもやっていいことと悪いことっていうのが…」
「ウフフフ。無様ね。無様な死に方ねぇ。」
嗤う。嗤っている。カンナが悠貴の死を嗤っている。
「同じ聖龍軍として言わせてもらうが、貴様には情というものがないのか!」
「下等種族に奴隷に言われたくないなぁ。エルフともなるあなたがこんな男に…可哀想に…」
正義感というものが今はカンナカムイから感じない。今のカンナカムイは狂気に満ちている。狂っている。
「人を勝手に殺すな…まだ生きてるよ!」
「悠貴!大丈夫?」
「バーカ、大丈夫って言ったろ。それより、お前、今の聞き捨てならないな…」
悠貴は立ち上がって、1歩1歩カンナに近づく。悠貴の拳に力が入る。
「凛が奴隷だと…?」
体中に力が漲る。呪いを掛けられたはずなのにいつも以上に力が。憤慨しているからだろうか?
悠貴が再び口を開く
「竜人族が人間嫌いなのは分わかった。わかってる。でもなぁ、同じ亜人を、ましてや俺の仲間を…」
悠貴の体は風になり、カンナに向かって走る。
「仲間を馬鹿にする奴は許さねぇ!!!!!!!」
悠貴の鋭い拳がカンナの頬に直撃した。