信じる勇気
その日の夜。悠貴の部屋でカンナは目を覚ました。
「お前、大丈夫か?」
悠貴がカンナの方へ手を伸ばす。が、「触るな。」とカンナに拒まれてしまう。カンナは悠貴たちから距離をとり、
「何故、何故ウチを殺さなかった。ウチは死を受け入れ、覚悟をしていたのに…」
「そんなこと知らねえ。俺は俺のしたいようにしただけだ。お前も全て受け入れるって言っただろ。」
「違う…そんなこと…ウチは望んでない…」
カンナの目から雫が落ちた。
「ウチは竜人族から見放されて、人間たちからは酷い仕打ちを受けて、ウチは、ウチの運命は、死ぬ方にしか向かってないのに…なんであなたはウチの望みを叶えさせてくれない…!?」
これがカンナの望みなのだろうか?
これがカンナが叶えたいことなのか?
「違う。そうじゃないだろ。お前は生きることを望んでいるはずだ。」
「そんなこと望んでない…」
カンナの声が小さくなっていく。悠貴は構わずカンナに凶器を並べる。カンナの心の底に眠る、本当に望むものを彼女の口から吐き出させるために。
「お前の望みは人間と亜人が仲良く暮らすよ…」
「黙れニンゲン!!何も知らないくせに、ウチのことを語るんじゃねぇ!!」
カンナの腕が竜化した。カンナは悠貴の首に飛びつき締め付ける。
「あなた!さすがにそれは!そんなことしたら悠ちゃんが死んじゃう!」
「ッかぁぁぁ!!」
苦しい。息ができない。酸素が足りない。視界が眩む。しかし悠貴は自分の頭を殴り、意識を戻す。
「お前らは…手ぇ出すな…」
「──でも…」
「大丈夫だ…安心しろ。」
悠貴のはもう何も考えていない。考える程の酸素が行き通っていない。ただカンナから本音を吐き出させるまで言葉を紡ぐだけだ。
「お前は人間が大好きなはずだ…ほかの亜人たちにもそれをわかってもらおうとしている…」
「もうそんなことどうでもいい…ウチは死にたいの…」
さらにカンナが言葉を紡ぐ。
「人間は信用できない。あの時もそうだった。みんなのこと信じてたのに、ウチが酷い目にあっているのを見て嗤ってた。いつか人間はウチを殺す。そんな恐怖を持ちながら生き永らえるぐらいだったら、今ここでウチは死にたいの…」
「知らねえ!てめぇの過去なんざ知らねえよ!知りたくもねぇ!ただ俺はお前がこれからどうしたいか知りたいだけだよ!!」
「だからさっきからウチは死に…」
「そんな嘘通じるとおもってるのか!!嘘で誤魔化すな!!」
「何も知らないくせに!!ウチのことなんか何も知らないくせに…!!」
「あぁ、知らねえよ!!でもな、お前が望みを言ってる時の自分の表情、お前は知らねえだろよ。」
「─────?」
カンナの頭に疑問符が打たれた。そんなこと考えたことなんかなかったから。自分の表情なんて最後に見たのはいつだろう。そんなことすっかり忘れた。
「お前が望みを言う時の顔は悲しい顔してんだよ。そんなの望みを言う時の顔じゃねぇ。」
「ニンゲンなんか…信じてない…人間はウチを騙して上手い言葉で言いくるめようとしてる…」
「フフフフwハハハハハw」
不意に笑いがこみ上げてきた。何故だ?わからない。笑う理由などないのに。
「あぁそうだ。その通りだよ。お前の言う通り俺はお前を騙そうとしている。」
「────?」
「ここにいるミラや凛だってそうだ。俺が騙している。」
「えっ?」
「えっ?」
後ろの二人から「ウソっ?」って感じの声が聞こえた。が今は前のカンナ・カムイを騙すのが先だ。
「こいつらは俺に騙されて、辛い過去の記憶も、亜人と人間との境も忘れて、今の生活を楽しんでいる。」
「─────。」
カンナから言葉が返ってこない。
「お前も俺に騙されて、楽しい生活をおくろう。お前の人間と亜人が仲良く暮らす世界っていうのはこいつらだって望んでいる。俺はこいつの夢を叶えるために全力で走る。そう決めた。だからお前も…」
「人間はウチのトラウマだ…信用できない…過去に酷いことを…」
「またそれか!!お前ら亜人はどいつもこいつもタチが悪いのか!?もっとマシなのはいないのか!?」
「人間が亜人を馬鹿にするな!」
「過去のトラウマを原因に自分がしたいことをしない怠惰なやつに、自分の叶えたい夢を諦めて死のうとするやつに、バカなんて言われたくねぇ!!」
カンナの頬を雫が伝う。
「そうだな、人間を信用できないなら…」
「────?」
「人間を殺してみろ。」
「──────ッ!?」
悠貴は部屋の窓を開け、ベランダへ向かった。悠貴は9階建てマンションの最上階に住んでいる。夜風が悠貴の髪を優しく撫でる。悠貴はベランダの柵に足を掛けた。
「待って!悠貴!やめて!」
「死んじゃうよ!悠ちゃん!」
「─────ッ…」
悠貴は後ろを振り向き、無理に笑顔を作った。ぎこちない笑顔。でも、優しい笑顔、嘘偽りを感じない、素直な笑顔がカンナの心を動かした。
「ッこれが!俺の!覚悟だぁぁぁぁ!!!!!!!」
悠貴は体を前に倒してベランダから飛び降りた。風が顔にぶち当たる。痛みを感じる程に強く。
悠貴の体は地面に叩きつけられ、紅い血が華のように飛び散る。
ようなことにはならなかった。
純白の体毛をした、体長3メートル程の竜によって悠貴は空中で拾われた。
カンナ・カムイによって悠貴は空中で拾われた。
「やっぱりお前は人間が大好きで、見殺しにはできないんだな…」
「これは、その、違います…」
「照れなくてもいいって。」
「照れてませんから…」
「で?何で俺を助けてくれたんだ?」
「その理由をわかってあなたそれを言わせるんですか?」
「もちろん!」
「一つの人生の選択肢として#人間__あなた__#を信じてた見ようと思ったので…」
「そうか。だったら期待してもらって構わない。」
「─────ッ?」
「明日から、お前の人生は今まで経験したことない程楽しいからな!」




