平穏な日常
覇吐鬼と羅門がご飯を食べていたと同じ時間。
二人の女性がある家の中で話をしていた。一人は鱗であった。
もう一人の方は何も言わずただ花の手入れをしていた。その手つきは手馴れていた。
鱗はただその女性の背を観ていた。
「それで向こうには何と言われたの?」
「向こうは何も言いませんでした。あっさりとしていたので少々拍子抜けしました」
「そう、それは良かった」
手入れが終わり、鉢に入った花に水をやっていた。
切れ長の眼差し、すっと通った鼻筋。腰まで伸ばした黒髪。誰もが見惚れる美女だ。
花に水をやる姿はどこかの姫だと思わせる気品があった。
「姫様は本当にその花がお好きですね。これまでどれくらいの量の花を育てていたのですかね」
「それはわたくしにも解らないわ、それと姫様というのは止めなさいと前にも言ったでしょう。いい加減に名前を呼びなさい」
「失礼しました。柘榴様」
「出来ればその様も止めて欲しいのだけど。あなたとわたくしは乳兄弟なのよ」
「それは無理です、ご理解下さい。乳兄弟でも言ってはならない事がありますから」
自分の主君を馴れ馴れしく呼べないので、話題を変えようと今育てている花の名前を聞く事にした。
「今育てている花の名前は何というのですか?」
「花の名前は杜鵑草よ。いつかあの方にこの花を渡せたら良いのだけど」
「それ程に良い意味を持つのですか?わたしは知りませんでした」
「ええ、わたくしはこの花言葉が一番好きよ」
杜鵑草の花言葉は『秘めた思い』だがもうひとつあった。
それは『永遠にあなたのもの』だ。
その花言葉は知らないが、花を誰に送りたいのかは、鱗は知っていた。
「ふっふふふふふふ、もう少し、もう少しでお会いできますよ。またお目にかかれてわたくしは嬉しゅうございます。ふっふふふふふふふふふ」
心底嬉しそうに笑っていた。まだ会えない愛しい人の顔を思い浮かべて。
「それと帰る時にこのような物を貰いました」
初めて柘榴は振り返った。そこにあったのは人形だった。
猫と犬のヌイグルミが何故此処に?と顔に書かれていた。
「覇吐鬼殿が封印を解くのに手を貸してくれた礼の前払いにとくれました。如何しますか?」
そのヌイグルミを観て両方とも手に持ち。
「わたくしの部屋に置きましょう。良いわね」
それを聞き、鱗は内心がっかりした。どちらかを貰えるだろうと思っていたので当てしていたのだ。鱗はこういったぬいぐるみが好きで、密かに部屋にいくつも置いていた。
柘榴は両手にぬいぐるみを抱き抱えた。
「あの方からの贈り物。嬉しくて嬉しくて今夜は眠れそうに無いわね。ああ、早く問題を片付けて会いたいわ」
「もう少しで解決致しますので。今少しお待ち下さい」
「なら、良いわ。早く片付けなさい」
柘榴はそれだけ言い自分の部屋に行った。
「畏まりました。ではお休みなさいませ」
「ええ、お休みなさい」
柘榴は部屋についたらヌイグルミをベッドに置いた。
「さて、貰ったのだから名前でも付けましょうか。この子は猫だから・・・・チシャにしましょう。この子は犬だから・・・・ハウンと名付けましょう。さて、眠れないけど、明日の為に眠るとしましょうか。この子達はは此処に置いて」
ぬいぐるみを枕の近くに置き、部屋の明かりをけした。
脳裏には一人の男の顔が浮かび嬉しい気分を浸り眠りについた。
3
朝を迎えたが、覇吐鬼は気持ち良く目覚められなかった。
夢の中で般若の面をした女が出てきて『もう二度と離したりしない。逃がさない。あなたはわたしのもので、わたしもあなたのもの』と言いだして迫ってきた。
それで目が覚めたら、寝汗がびっしょりとかいていた。
部屋にしゃわーという所で汗を流したが眠気がなくなり二人が起きるまでぼーっとした。
羅門が先に起きた。覇吐鬼が先に起きている事に驚いていた。
「覇吐鬼様⁉ 如何しました。お体の調子が悪いのですか?」
「俺が先に起きていただけでそこまで驚く事か?」
早く目が覚めただけでこんな言われ方されるとは思いもしなかった。
(俺が早く起きるのがそんなに有り得ない事か?)
そう内心思っていたら。
「貴方はいつも二度寝するからですよ」
二人が同じタイミングで同じ事言ってきた。
それが二人の見解の一致だと解っていても受け入れられなかった。
「おれが朝はいつも二度寝すると思っているのか?お前ら」
「正しくその通りです」
こいつには口で敵わないので、これ以上言うのは止めた。
それよりも今日の行動はどうするかを決める事にした。
「拙らの予定ですが。昨日と同じで良いでしょうか?」
「各自好きに行動でいいか」
そうして朝食をとり、その足で各々好きに動く事にした。
覇吐鬼は、昨日と同じ道をぶらついた。
正午になると、足早にあの店に行った。
あの美味さを味わいたくてまた来たくなった。それで足早に店に向かった。
そうして三十分ほどしたら、お目当ての店が見えた。
もうすでに客が並んでいた。少しでも遅れると席に並ぶのが遅くなるので早速並んだ。
並んでいたら、ウエイトレスをしている子が店から出てきてお客様を案内してきた。前が居なくなってきた。進んで行くと目があった。