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鬼の愛し歌   作者: 雪国竜
第2章 覚醒
7/13

新しい出会い

 そんな時に、目に留まった店があった。

 店はまだ開店はしていなかったが、店の前に多くの人が並んでいた。

 昨日の話では、人間は美味しい物が食べらる店では並ぶらしいと聞いていたので、そこは美味しいのだろうと判断し並ぶ事にした。

 行列はそれ程長くは無かったので、直ぐに並べた。

 前には十五人くらい並んでいた。その年代層は家族連れが多かった。

(そういえば今日はどようびになるもの? だと羅門は言っていたな)

 曜日と言われても最初は分からなかった。

 外を歩けば、家族連れが多い日が土曜日と日曜日であると聞いて、なんとなく分かった。

 並んでいると後ろにも人が並んできた。見ると数えないと解らないがかなりの人数であった。それだけこの店が美味しいのだろうと解り腹が余計に鳴った。

 まだ開店していないから列が進まないが、期待でそわそわした。腹がすき過ぎて並んだが、店名を見ていないと思い店名を見た。

 「『洋食屋 ホスピタ』か美味いと良いがな」

 このホスピタの店内ではウエイトレス二人が忙しなく動き回っていた。

「ああ、もう、お母さんが居ないだけでこんなにも忙しさが増すなんてっ」

「お姉ちゃん、それは言っても仕方がないでしょう。お母さんだって事故に遭って怪我しているのだから」

「でぇも、それで忙しさが倍増したでしょう。はぁ、お父さんに頼んで誰か雇ってくれないかしら。ホールに一人でも増えたら違うのに」

「それより、キッチンだと思うな。お父さん一人じゃあきついだろうし」

「お父さんもそれが分かって要るでしょうけど、何も言って来ないから分からないわ」

「じゃあ、お母さんが帰って来るまでわたしたちで頑張るのかな?」

「それは分からないけど、頑張りましょう」

 ***

 ようやく開店してから、どれくらい経っただろうか。

 時計を持っていないので、分からなかったが気にもしなかった。

 時間に関しては適当な所があった。

 別に義重がそうでは無く昔の時代の人間は時間に適当なので仕方が無かった。

 そうしてぼんやりと立って待っていると店から客が出て行った。

「有難う御座いました!」

 元気な声で送り出した少女がこちらを見てきた。

「お待たせしました。御一人ですか?」

 頷き、この少女を見た。

 美少女と言っても不思議では無いくらいの美貌。髪は赤みがかった茶髪。

「・・・・・綺麗だな。とても似合っている」

「お、お客様?」

 いきなりそんな言葉を言われて、何を言っているのだろうこの人という顔をしていた。

 つい口から出てしまった。それだけ綺麗なのだから仕方がないと思う事した。

「コホン、何でもない。それよりも案内をしてくれないか?」

 少女は言われて、直ぐに店の中に案内してくれた。

 店に入るとそれ程大きくない店内で、客がこれでもかというくらい入っていた。

 席は約三十六席であった。今日は家族連れが多いので店が余計狭く感じた。

 空いている席に座る。そこはカウンターと言われる所で作っている所が良く見えた。

 座って少しすると先程案内してくれた子が水とお品書きを持ってきてくれた。

「御注文が決まりました、御呼び下さい」

 それだけ言い離れた。

 水を飲みながら品書きを見ると色々な料理の名前が書かれていた。

(さて、どれもこれも美味そうだな。思わず涎が出そうだ。良し、お勧めにするか)

 品書きには本日のお勧めで ハンバーグステーキセット(二百グラム) 九五〇円と書かれていた

 それだけでは足りないからな何か食べようとまた品書きを観た。

 その中でらーめんと書かかれていた。

 らーめんとは聞いたところ大陸から流れてきた料理と聞いている。

 味も塩、醤油、味噌、とあった。

 それに気になりこれも食べる事にした。

 決まったのでさっきの子を探したが、食器を下げようとしていてこちらに気付いていなかった。終わるまで待っていようとしたら。

「御注文をお伺いいたします」

 左後ろから声をかけられ振り向くと先程の子と同じ服を着た女の子が居た。

 こちらは可愛らしい容姿をしていた。先程の子に少し似ていた。

 違うのは向こうが茶髪だったの対し、こちらは黒い髪を肩口に揃えていた。

 もっとも違う所は目の色であった。

 この子の左目は青空のように青く、右目は黒真珠のように黒かった。

 片目が青い女の子に会うのは、初めてなのでじろじろと見てしまった。

 向こうはそんな不躾な視線を感じたようで、身を強張らせている

「あ、あの、ご注文は?」

 それを言われて頼むのを忘れていた。

「ああ、このお勧めのハンバーグステーキセットを一つ」

「はい、ハンバーグステーキセットですね。AセットとBセットが有りますが、どちらになさいますか?」

 そこまで見ていなかったので、どちらにしようか迷った。

「面倒くさいな。両方頼む」

「はい⁉」

 それを聞いていた子は驚いていた。

「ああ、それと塩ラーメンを一つ」

「「「え⁉」」」

 それは注文を受けていた子だけでは無く、回りに居た客も同様に驚いていた。

「らーめんって品書きに書かれているぞ?」

 書いているから頼めるだろうと思い頼んだだけだが、そんなに驚かれるとは思っていなかった。しかも回りに居る客まで驚くとは。

 少し驚いていたが、注文を受けていた子は改めて訊いてきた。

「お客様、本当に食べられるのですか?」

 体型が太いならまだ解るが、覇吐鬼の体は、それ程太く無いので食べきれ無いと思い訊いたのだろう。

「大丈夫だ。あと全部大盛りで」

 それを聞き少女は愕然とした。ライス大盛りにすると値段が少し上がり千百五十円になる。

 ラーメンは七五〇円だが、大盛りにすると九百円になる。

 実は食べきるきれない関係なく、食い逃げでないだろうかと怪しんだ。

(逃げない様に注意しよう。お(・・・・)ちゃん(・・・・・・)にも後で言っとかないと)

 そうして注文票には頼んだ物をしっかりと書いた。

「御注文を確認させて頂きます。ハンバーグステーキセット AセットとBセットをライス大盛りで二つ、塩ラーメン大盛り一つ以上でよろしいですか?」

 頷いたら、うえいとれすの少女は頭を下げて離れて行った。

 早く来ないか待ちどおしかったが水を飲んで気分を落ち着けた。

 待つこと三十分。

 そうして美味しい匂いと音がして出てきた。

「お待たせしました。まずはハンバーグステーキセットのAセットです」

 名前は解らないが右目が青い子が持ってきてくれた。

 そうして並ばれたのは熱い鉄板の上にハンバーグがあり、付け合わせとして茹でた人参と緑の野菜皮のついた野菜だ、確か緑がブロコッリーと言い、皮がついているのはジャガイモと言っていた。

 それにサラダとライスがついたのがAセットだ。

「続いてBセットです」

 Bセットは添え物としてスープがついていた。ソースは日替わりで今日は自家製のケチャップだった。

「ラーメンはもう少々お待ち下さい」

 ナイフとフォークを置いて離れた。

 ようやく来たと言わんばかりに右手にナイフとフォークを束ねるように持っていた。

 それを見た客と少女達は奇妙な食べ方をしていると思った。

 その食べ方でまずはハンバーグを口の中に入れた。

(これはジュワッとジュワーとした肉汁だ。初めて食べる味だ、切った時はそれ程出てこない肉汁が口に入れて噛んだ瞬間出て来る。またこのケチャップがそんなに酸っぱくなく甘いから肉汁とよく合う事。初めてこの時代に来て良かったと思えるぜ)

 手が止まらなかった。その食べている様子は綺麗に食べられていた。

 口に動かしている手は止まらなかったが、食べ散らかす事が無く見苦しく無かった。

 食べている顔は子供が、笑っているかのような笑顔なので回りに居る人もじっと観ていたが気にせず食べた。それだけ食べる事に夢中だった。

 両方のハンバーグのセットを食べ終えたのを計ったかのようにラーメンが出てきた。

「大変お待たせしました。塩ラーメン大盛りです」

 ラーメンどんぶりに透明なスープが入った麺が置かれた。

「伝票はこちらに置かせて頂きます。ごゆっくりどうぞ」

 それを右から左に聞き流してラーメンに取り掛かった。

(まずはスープを飲んでみるか。これは‼ 鳥と豚と牛で取った出汁に海産物で取った出汁を合わせる事で美味さが倍になっている。この麺も腰があるし昨日食べたぱすた? とやらに比べると少し太いな。それがスープに絡んで美味いし、上に載っている焼いた豚は味を付けてから焼いたからスープに浸して食べても下味がついているから噛む度に染みた味が出る)

 啜りながら口に出していないが味の評価をしていた。

 やがてスープを全て飲み、てーぶるの上にあった紙で口を拭きこの店の味に驚いていた。

(この店の主良い腕をしている⁉ まぁ、だからこの店はこんなに混んでいるのか)

 回りの客を見ると、家族連れが多いし食べている顔が満足そうだった。

 だが一部の客――というか男達が料理そっちのけに、別の方に視線を寄越している。

 その視線の先を見ると、先程から忙しそうに動き回っている給仕している少女達に向けられていた。二人はそんな視線を受けているのを知りながら、気にせず働いていた。

 いくら仕事とはいえそんな視線を受けていたら、少しは嫌な気分になるものだが顔に出ていなかった。

 かなりの美人なのは認めるが仕事しているだから、そんな不躾な視線を送るのは失礼と思うが、自分には関係ない事だろうと思い直した。

 満腹だし勘定を済ませようと、伝票とやらを持ち、金を払う所を探した。

「お客様、こちらがレジです」

 声をかけられそちらに向かった。居たのは片目が青い方の子だ。

(こんな子が金勘定出来るのか? 大丈夫か?)

 そう思わせる程可憐だ。

 小動物を思わせる瞳。保護欲を誘われる感じだ。

 だがそんな見た目とは裏腹に仕事はきっちりこなしていた。

「ハンバーグセット大盛り二つ、塩ラーメン大盛りで三千二百円になります」

 羅門から渡された財布とやらを取り出した。昨日お金の価値を教えられたのでばっちりだ。

 中を見るとお札の一番高いのが数十枚入っていた。仕事をしていないのに何処からこんな金がるのだろうと不思議に思ったがあまり気にしない事にした。

(俺も今使うからな。気にしても仕方がない)

 一枚取り出し相手に渡した。

「一万円お預かりしました。おつりは六千八百円になります」

 お釣りが返って来たが。

(これが小銭と言われる物か?)

 触ってみると、それぞれ違った感触であった。

 間違って手から落とすと甲高い音を出した。少女はそれを拾った。

 これでは財布に入れると音がうるさいであろうと分かった。

 妖力が落ちたといえ妖なので、視力も聴力は人間の二倍も三倍も有るから財布が揺れて小銭がじゃらじゃらと音がして五月蠅いのが嫌だった。

 考えていたらお釣りを用意してくれた子が所在なさげに見ている。

「お客様、如何したしました? 何か問題でも?」

 少し困った顔を浮かべているのを見て閃いた。

 お札だけ貰い財布の中に入れ、小銭は手の中に握ったままにした。

 少女は貰ってくれたのでほっとしていたが、小銭を握ったままで動かないので不審に思っていたら。

「手を出せ」

 と言われても何がしたいのか分からないので、少女は如何した物かと考えていたら。

「いいから、手を出せ。良い物やるから」

 そう言われて、おずおずと手を出してきた。

 その手に小銭を無理矢理握らせた。

「えっ⁉」

「やる。お駄賃にしろ。ばれて困るなら黙っていろ。それにしても綺麗な目だな」

「そ、そうですか? 別に綺麗では無いですよ」

「謙遜か? 何処をどう見ても綺麗だろう。俺が保障する」

 笑顔を浮かべて真っ直ぐ見た。

「あ、有難う御座います。この目は母からの遺伝です」

「その照れた顔も可愛いな、じゃあな」

 それだけ言い店を出た。

「・・・・・・・・・・・・・」

 少女は声をかける事を忘れて見送った。

玲奈(れいな)、お客様が店を出たら『有難う御座いました』でしょう。何で言わないで見送ったの?」

 少女の様子が変なので声をかけるついでに観てみた。

 声をかけられ、少女――玲奈ははっとして声を掛けた方を見た。

()(れん)お姉ちゃん、このお金どうしよう?」

「? その小銭が如何したの?」

 貰った経緯を話した。姉はそれを聞き不審な顔をしていた。

「お釣りを駄賃に渡すなんて、そんな人今どきいるのね。変わっているわね」

「如何しよう? お姉ちゃん」

 華怜は少し考えて答えた。

「くれたのだから貰っておきなさい。善意かどうかは別にして」

「でも・・・・・・」

「相手はお釣りをくれたのだから気にしないの。それよりも早く片付けて次のお客様呼ぶよのよ」

「うん、お姉ちゃん」

 華怜はそれだけ言い接客に戻って行った。玲奈は義重が出て行った店のドアを見た。

(変わった人だったけど、また来るのかな?あんなに真っ直ぐな笑顔で眼の色を褒められたのは初めて)

 来てくれるのは嬉しいが、またこうしてお駄賃と言って貰っては心苦しいからその時は断ろうと決めて玲奈は接客に戻った。

  ***

(あの店美味かったな、明日にもまた行くか。金はまだまだ有るのだから、まだ品書きに書かれていた物の半分も食べていないからな。今度は何を食べようか?)

 もう行く事を考えながら、あたりをうろついた。途中でげーむせんたーという所で遊んだ。

 どうやって遊ぶのか分からないので、先に人がやっているのを見てから遊んだ。

 帰る時にはくれーんげーむとやらで取った人形を両手に抱えていた。

 捨てるのも勿体ないので、そのままほてるに持って帰った。

 部屋に入ったら羅門と見知らぬ女が居た。

 年齢は二〇代ぐらいで。伸ばした金髪に、美人だが怜悧な顔なので冷たさを感じさせた。

 ダークスーツを着ていて、両手を前で組んで立っていた。

 その佇まいに隙が見つからないから只者では無いと思わせた。

 その女を、敵を見るかのように睨んでいる羅門がこちらに視線を寄越した。

「お帰りなさいませ。先程から客が見えております」

 不機嫌さを隠さない声で言った。

 普段はこんなに感情を表に出さないので、珍しかった。

(この女が協力者の代理か? 聞いていたが綺麗だな)

 じろじろと見た。それが向こうを不快にさせると分かっているのだが見てしまった。

 特にその胸。その大きさには驚いた。

 街を歩いていたらそれなりの女が居たが、この女の胸より大きい者は居なかった。

 ついその豊かな胸に視線を送っていたら、ごほんと咳払いが聴こえた。

 それを聞き相手の顔に慌てて観た。

「お初にお目にかかります。覇吐鬼様、わたしは(りん)と申します。我が主に代わり来ました。以後御見知りお気を」

 内心はどう思っているか知らないが、にこりと笑い会釈した。

 顔に笑みは浮かべているが、目は笑っていなかった。

 その目は見定めている様だ。

(美人にじろじろろ見られるのは悪くないが。こいつが来た理由は何だ?)

 いくら封印を解くのに手を貸してくれても、敵か味方か分からない、警戒はしても不思議では無い。

 不測の事態を考え手に持っていた人形を、べっどに置く最中にちらりと羅門を見た。

 それだけで分かってくれたのだろう、いつでも戦闘できるように上体を低く沈んでいた。

 そんな不穏な空気の中、鱗は顔をピクリとも動かさず立っていた。

 その胆の太さには称賛されるものだ。

「我が主からの言付けを預かっています」

「言付け? 聞こうか」

 べっどに座り聞く体勢をとった。

 羅門は壁に寄り掛かり腕を組んだ。

「はい、では読み上げます。」

 懐から紙を出して読み上げた。

「『覇吐鬼様、本来なら直接お会いして声を交わしたかったのですが、急な用事ができお会いできない無礼をお許し下さい。封印から解かれて外を見た感想など聞きたく思いますし、わたくしもお話したい事が沢山有りますが、それは又の機会の楽しみに取らせて貰います。そちらかもこちらに連絡が出来る様に鱗にその方法を教えるように言っておりますから、どうぞ何時でもご連絡下さい。こちらの条件を聞いてもらう為預かった者に対しては近日中にお返し致しますからご安心を。では近い内にお時間を作ります。それまでお元気で。

 追伸 滞在しているホテルの掛かる経費はこちらが全額持ちますのでお気になさらず』以上です」

 手紙の内容を聴いていたら。

(まるで、恋人に送るような内容だな)

 読んでいる最中も顔色一つ変えない鱗が手紙を懐にしまいだした。

「何か要る物があれば伺いますが?」

「それよりも訊きたい事があるが良いか?」

 頷いたので早速訊きたい事を訊いた。

「風雅を返すとは本当か?」

「はい、明後日にこちらに寄越します」

「本当だな?」

「嘘はつきません。本当にお返しいたします」

 断言した。言質は取れたのでこれで良いとして。

「もう一つ良いか?」

「何でしょう?答えられる範囲であればお答えします」

「お前の主人は女か?」

「はい、手紙からそう判断されると思いますが?」

「手紙だけで判断する程お人好しではない。女と分かれば、知り合いか如何か解ると思ったが。駄目だな、こんな上品な書き方する奴は知り合いに居ないな」

 こめかみに手を当てて考えたが、あてはまるのが居ないと分かった事だけだ

(それだけ分かって良しとするしかないな、現状では)

 それだけ分かるだけでも良いと思い直した。

「何も無ければこれで帰らせて頂きますが。宜しいですか?」

 何も言わないからそれを肯定と取り一礼して部屋から出て行こうとしたその背に。

「ちょと、待った」

 声をかけ止めた。

「まだ何か?わたしから話す事は全て話しましたが」

 振り返り不満を隠した声で、訊いて来た。

「いや、用という訳では無いが、実はなこの人形をやろうしただけだ」

 自分のベッドの上に置かれている人形を指さした。

「これを全部ですか?」

「全部欲しければやるが好きなだけ持って行け」

 人形の種類も色々とあった。熊の人形もあれば、犬、猫、鳥、後は良く解らんモチーフを模した物、見た事も無いアニメの人形等々を見せた。

 それらを観て鱗は人形を渡す意味が分からず、覇吐鬼の顔を見た。

「何か魂胆でも有るのですか?」

「そんな物は無い。こんなにあっても困るから、おすそ分けとお礼だ」

「お礼ですか?」

「俺の封印を解くのに手を貸してくれたのだからその礼だ。今はこれくらいだがその内利子つけて返してやる」

 その気持ちが通じたか、分からないが鱗は人形を観て。

「では、お言葉に甘えてこれとこれを貰います。宜しいですね」

 猫と犬の人形を選んだ。

「二つだけか? もっと持っていっても良いぞ」

「これだけで十分です。それにしてもこれは中々可愛いですね」

 男の自分が見ても その二つは可愛い部類入る出来だった。

「これらはどなたがお取りになったのですか?」

「俺だ」

「そうですか」

「それは、だれにあげるの?」

「わたしの主に。喜びますから」

「では好きにしろ。他に無いな」

 羅門を見たが、首を横に振り何も無いと言っている。

「ではわたしはこれで、連絡の方法はそちらに居るお坊様に教えておりますからお聴き下さい」

 言い終えたら、そそくさと出て行った。

 その両手にはしっかりと人形を持っていた。

(急いで出て行く事でも無いだろうが、まぁ、良いか)

 それよりも連絡する方法を聞きたかったので、羅門に訊いた。

「その連絡の方法とは何だ?」

「これです」

 手に折り畳まれていた紙を持っていた。それの中を見ると数字と住所が書かれていた。

「用が有れば此処に来いか。どう見る?」

 二人に訊いた。これに書かれているのは嘘かも知れないから慎重になってもおかしくない。

「事ここに至っては嘘をつく必要は無いと思いますが」

 羅門はそう答えた。

「まぁ、何があっても死ななければ、挽回は出来る。その為にも今は力の回復に努めよう」

「御意」


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