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鬼の愛し歌   作者: 雪国竜
第2章 覚醒
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覚醒

『貴様、妖だな。此処で何をしている?』

『お前、名は何と言う?』

『覇吐鬼、お前は面白いな。こんなに笑ったのは初めてだ』

『覇吐鬼、その傷は如何した?・・・何、妖と戦ってついたものだと⁉ 見せろ‼』

『覇吐鬼、お前はわたしと話していて面白いか? わたしは仏頂面だ。それにお前みたいに趣味が無いからお前を楽しませる事が出来ないだろう』

『わたしと話せているだけで良いだと。・・・・うつけ者』

『覇吐鬼、わたしはお前の事が好きだ。お前はどうだ?』

『例え死んでもこの気持ちは変わらない。覇吐鬼、お前を愛している』

 暗い闇の中思い浮かぶのが今まで竜胆と話していた言葉一つ一つだった。

 それが忌々しくもあり嬉しくもあった。

 永遠に続いた。闇の中なので永遠に続いたのかは分からない。

 懐かしい思い出だが、何度も見せられると飽きる。

 退屈ならば体を動かせばいいのだが、体が闇と同化しているので体という存在が無かった。自分という存在の意識はあるが体が無くては何も出来ない。

 自分と一緒に封印された、竜胆は居るのかも分からなかった。

 闇の中では、自分の存在が分かる程度なので他の存在は感知できなかった。

 この退屈はいつまで続くのだろうと思っていたら。

 突如暗闇の中から一筋の光が見えた。

 その光は、いつの間にか増えていき闇が晴れてきた。

 闇が晴れていく事で、覇吐鬼の足、腹、胸、手、顔と形作られてきた。

 闇が完全に消え去り真っ白な空間が出来た。

 そこで何か聞こえてきた。

 良く聞くとそれは声だと分かった。

 それも唯の声では無く妖力を込めた言霊だと聴いていて分かった。

「・・・・・目覚めよ、我が主よ、猛威を振るい人々を畏れた鬼神よ・・その猛威を今一度振るいたまえ・・・目覚めよ・・鬼神よ・・・暴虐を撒き散らせし我が主よ・・・・この声に応え目覚めたまえ・・・・」

 その言葉は懐かしく感じる声だった。

 声に導かれる様に歩き出した。自分の足で歩いているのがこれ程嬉しいとは思わなかった。

 そうして進んで行くといきなり光が強くなり目をつぶった。

 光が収まるまで目をつぶり耐えた。

(何が起きたか分からないが。とりあえず成り行きに任せるか)

 そう考えていたら光が弱くなってきた。完全に光が消えて回りを観ると森の中に居たのが分かった。後ろには自分の背丈より遥かに大きい岩が割れていた。

(森だと⁉ 俺が封印されたのは洞窟だったはずだが?)

 回りをどう見ても洞窟らしい物は何処にも無かった。丘もあったはずだが、それすらも影も形も無い。分かった事と言えば今は夜である事だけだった。

(ここはいったい何処だ?)

 ぼんやりと考えていたら。

「おお、お目覚めなられましたな! 喜ばしい限りです」

 声をかけられたので見ると僧侶の格好をした男がいた。

 顔は暗く良く見えなかったが声は聞き覚えがあった。

「お前は、誰だ?」

 少し警戒しながら尋ねた。

「拙は羅門に御座います。お忘れですか?」

 そう言われて観るとそうだと分かったがもう一人は覚えが有る顔なのだが名前が出てこなかった。封印された影響で少し記憶に混乱しているようだ。

「久しいな、羅門」

「お久しゅうございます。覇吐鬼様」

「羅門、ここは何処だ?」

「それについては歩きながらお教えいたしますので、まずは此処から早く離れましょう」

「何故だ?」

「貴方を封印した巫女の一族がいつ感づくか分からないからですので、お早く」

(巫女の一族だと? 訳が分からんが、ここはこいつの意見をきいて動くしかないか)

「だが、何処に行くのだ?行く場所の宛はあるのだろうな?」

 動くにしてもそれが不安だった。

「それは御心配有りません。宛は有りますのでご心配無く」

 それを聞き安心したので夜目が効く銀牙を先頭にして封印されていた岩から離れた。

 覇吐鬼は一度だけ振り返ったがそこには何も無いと分かるとさっさと行ってしまった。

 封印された場所から、三十分位走った所で止まり息を整えた。

 封印されていた影響だろうか覇吐鬼は少し歩いただけで息が切れていた。

 前はこんな事は無かったのだが。

「ここまで来ればひとまず安心でしょう」

 そう呟いた羅門に疑問を尋ねた。

「羅門、ここは何処だ? 俺が封印されていた場所は洞窟だったのに、なぜ岩に封印されていたのだ?」

「落ち着いて下さい。そういっぺんには教えられません。順にお教えいたしますので」

「では分かりやすくな」

「では、分かりやすく教えます。まずは、ここは何処かですが。この場所は貴方が居た国です」

「はぁ⁉ 何を言っている?」

「そこから教えます。気を静めてお聴きください」

 羅門は説明しだした。

 今居る場所は覇吐鬼が居た場所で間違いは無いが、封印された年月が五百年と聞いた時は驚いた。封印された当初は覇吐鬼の元に居た軍勢で、封印を解こうとしたが、あまりに強固な封印で簡単に解くことが出来ない事と、覇吐鬼を封印した功績で朝廷から神社を建てる事が出来た竜胆の一族がその縁で神社に強力な法力を持った神官達を呼びこんだ。その者らが封印を守っていたので手を出すたび多大な被害をだすので封印が解けなかった。

 そうして時がどれだけ流れても封印を解こうとする覇吐鬼が居ない間は羅門が率いた軍勢と封印を守ろうとする神官の一団の戦いが続いた。

 その戦いは一進一退が続き、このままでは決着はつかないのではと思っていた矢先。

 二百年程前に羅門が率いる軍勢に手を貸してくれる者が現れた。

 何処からか集めた妖の軍勢を率いて、向こうから交渉してきた。

 その者が言うには、手を貸す代わりにこちらの出す条件に従って貰うと言ってきた。

 最初は羅門はそんな条件は飲めないと突っぱねた。

 突っぱねられた方は、まずはこちらの力を見せるので、それで必要か如何か考えろと言ってきた。

 羅門は最初からあてにしていないので、向こうの言い分を呑んだ。

 いざ任せてみると、封印を守っていた神官達を簡単に始末していった。

 おかげで封印の守りが薄くなり、解除する事に可能になった。

 実力が分かり羅門はは条件を呑み、手を借りる事になった。

 手を借りる事が出来ても、封印を解除するのに三百年掛かった。

 それがようやく実り。覇吐鬼に会える事が出来た。

 それまで話し続けた羅門は息を吐いた。

「貴方が封印されていた(あいだ)にあった事です。それだけ長い間時が経っているのです。人間たちの暮らしも変わります。おお、丁度良い所で。覇吐鬼様、あちらをご覧ください」

 羅門が指を指した方向を見たら、そこには明かりが灯った建物があちらこちらと建っていた。覇吐鬼が居た時代では有り得ない高さの建物だと一目で分かる。

 それより一番目を引いたのは、明かりが沢山灯っていた事だ。

 あんなに沢山灯っている所など見た事が無かった。

(そうか。俺は本当に時を流れてきたのだな。実感がわかないが。そういえば楓が別れる前に)

 ――覇吐鬼様、こうして会えるのはこれで最後でしょうが。長い時の果てでまた会える事を祈っています。それまで、お元気で――

 楓に会うのが最後と言えば少し悲しかった。将来の義理の妹になったかもしれないのだから

 それにしても、あの時代で生きた者からしたらこの時代は摩訶不思議な事だらけだ。

 自分の意思で時を流れた訳では無いが、流れてきたものは仕方がないと思うとこにした。

「さて、羅門、これから如何する?」

「それは、覇吐鬼様がお決めになる事です。いかなる道であろうと拙は何処までもついて行きます。ですがその前に・・」

「うん?何だ?」

 羅門はどう言えば良いのか困っている様に見えた。

「如何した?はっきり言ったらどうだ?」

 羅門は意をけして言った。

「覇吐鬼様、その角が・」

「角が如何した?」

「有りません。後、髪も黒いです」

「何だと⁉」

 慌てて自分の額を触った。どれだけ触っても角が無く、髪を何本か抜いてみると黒かった。

「これはいったい⁉」

「恐らく封印の影響で妖力が衰えたのが原因でしょう。今の覇吐鬼様の妖力では中級の妖を倒すのがやっといえる程です」

 それを聞き覇吐鬼は愕然とした。自分が今まで好きに生きる事が出来たのは妖力が強大だったからだ。

 それが無くなりはしなかったが、持っていた力の何割かしか使えないのが問題だ。

 これでは何かするのも不便であった。

「そんなに気を落とさずに妖力などいつでも元に戻りますが。覇吐鬼様とこうして生きてお会い出来たのですから、まずは再会を喜びましょう」

「まぁ、そうだな。それよりもこれから如何するかだ」

 はっきり言ってあてなど無かった。

「羅門、何か良い案は無いか?」

 考えても出てこないので、ここは配下の中で一番頭が良い羅門に頼った。

「有る事はあるのですが」

 何故か口籠った。そんなに嫌な所なのかと思わせたが。

「そこに案内しろ」

 短いが異議は認めないと力強く言った。

「御意・・・・・・」

「ところで協力者の条件とは何だ?」

「それはですね。その何と言えば良いのか」

「そんなに面倒な事を突き付けられたのか? やってくれる!」

 交渉が上手だなとまだ見ない協力者の手腕を称賛した。

 なかなか見る目を持っているようだ。

「いえ、そうでは無く」

「うん?」

「条件というのは三つありまして」

「三つか。内容は?」

「一つ目は向こうの要請には全て受け入れる事。二つ目は我らが無暗(むやみ)に人を襲わない事。最後の三つ目は覇吐鬼様が封印から解放されたらいの一番に連れて来る事。の三つです」

「一つ目の要請で我らの手勢が協力者の元であずかりになりました」

「手勢と言っても、羅門が呼び出す死人兵と風雅の眷属だけだぞ?」

「主に風雅の眷属を使っているようです。偶に拙の死人兵を呼び出せと言われます」

「つまり、向こうに俺たちの手勢の指揮権を取られたという事だな」

「面目次第も有りません」

 羅門は頭を下げた。

「いや、お前らは出来る事をやったのだ。別に構わん。それよりも最後の連れて来いとは変な話だな?

そいつ何者だ?」

「はぁ。会う時は代理を立てて来るので良く解りません」

「代理? どんな奴だ?」

「女の妖でして何の妖かは解りませんが、妙齢の方でした」

(ほぅ、女か。しかし、封印を解く為に協力する知り合いなど居ないが?)

 今はそれよりもその場所に向かうのが先決だと思った。

「それよりも早くその場所に案内しろ。俺は封印から解かれたばかりで土地勘が無いのだから」

 こんな所で男二人が色々と言っていても何も始まらない、かなり怪しいが夜露をしのげる所があるならそこで寝泊りした方が、かなり良いと思い急かした。

「では、その恰好では問題が有りますので、少々お待ちを」

 羅門がそう言うと、何もない空間から、着物らしき物をだしてきた。

「今着ている物ではこの時代には合いませんので、こちらに着替えて頂きます」

 羅門が持っている物を広げてみた。

 服の作りも色も、覇吐鬼が生きていた時代に着ていた物とは比べられない程の作りと色だった。

 渡された服とやらを早速着てみた。

「これは如何する?」

「それは袴を着る様に足に通すのです」

「むっ、これは頭が入らんぞ?」

「頭を入れるのは逆です。広い方から頭を入れて下さい」

「これは足に履く物か?」

「この時代では足にこのような履物を履くのが一般的ですので」

「っと、これで良いのか?」

 そうして苦労して着て二人に変な所が無いか見せた。

 黒いタンクトップ、ジーンズとラフな格好で、背中に鬼の絵柄が描かれている革ジャンを着た。

「少し袖が短いが、丁度良いぞ。羅門」

「はい、それはよう御座いました」

 自分の見立てで選んだのが褒められて嬉しいのだろう。喜色満面の笑顔だった。

「それより、これは何処で手に入れた?」

「そこら辺の服屋で簡単に買えますよ」

「そうか、この時代は本当に俺が居た時代とは違うのだな」

 着ている服一つで、自分がどれだけ長く眠っていたか分かる。

(あの頃には、もう戻れないのか」

 何となく、寂しい気持ちになった。

 しかし、何時までもそんな気分ではいられないので、気持ちを切り替えた。

「よし、その指定された場所に行こうか?」

「御意」

 羅門が懐から紙を出してそれを見た。

 その紙に書かれている所に行けというのだろう。

「おい、早く其処に書かれている所に行くぞ!」

 我先にと街の方に駈け出した。

「お待ちください。覇吐鬼様は道が解らないのに先頭で行かないで下さい!」

 覇吐鬼はそれを聞いていないのだろう。早く街に行きたくて駈け出した、その後を羅門は追いかける。

 二人の関係は五百年経っても変わらなかった。


            ***


 そうして街につくと、見た事が無いものだらけなので色々と訊いた。

「あれは何だ?」

「あれは信号機です」

「あの四角い乗り物は何だ?」

「車という物です」

 覇吐鬼はまるで子供が初めて物を見るような顔をしていた。

 見るのは初めてでも、覇吐鬼の見た目は年齢が青年といえる位なので、知らない人から見たら田舎から初めて都会に来た人と思えるだろう。

 回りに居る人達も、覇吐鬼にはそんな生暖かい視線を送った。

 覇吐鬼はそんな視線など気にせず、羅門に話し掛ける。

「後どれくらい歩く?」

「書かれている地図を見ます、と後少しでしょう」

 それを聞き、また回りに視線をやった。

 言われた場所に着くよりも、こうして街を見るのが一番の関心なのだろう。

(まぁ、この方はこれで良い)

 そうして地図を見て歩いていたら、目的の場所についた。

此処(・・・・)で良いのか?」

「ええ、ここで間違い有りません」

「羅門、本当にここで良いのか?」

「先程からそう申しております」

「しかし、これは何とも・・・・」

 二人は建物を見上げた。

 それもその筈。そこにあったのはホテルであった。

 ただのホテルでは無くいわゆる高級ホテルといわれる部類に入る館前だ。

 覇吐鬼も協力者の考えている事が分からなくなった。

 協力の見返りに代償らしい物を求めず、封印を解くのに手を貸すだけでは無く、こんな高そうな寝泊りできる所を用意してくれた協力者の本心が解らなかった。

 二人は地図上下逆さにして何度も地図に書かれた所を見直した。

 どう見ても地図に書かれている所は此処だった。

「これは、何か有るのでしょうか?」

「罠か? 今の俺を捕まえて何になる?」

「ですが。これは怪しいとしか言えませんが?如何します覇吐鬼様。」

 羅門は覇吐鬼の判断に任せる事にした様だ。

「如何したもこうしたも無い。此処を指定してきたのだから行くしかないだろう!」

 覇吐鬼はさっさと中に入って行った。


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