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鬼の愛し歌   作者: 雪国竜
第1章 封印
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城を攻める理由

 覇吐鬼が見えなくなってから、羅門は城を見ていた。

 (この城には音に聞こえた豪の者はいないと聞いている。並大抵の者なら死人兵で十分に迎撃できる。問題ない)

 問題が有るとしたら御大将の事だ。

 この城を攻めると言った時、何故攻めるか理由を聞いてみたら。

「理由など無い。ただ暴れたいだけだ」

 明らかに本音を隠しているのが解った。

 心当たり(・・・・・・・・)はあったので恐らくはそれで城を攻めたのだろう。

 正直に言えばそんな理由で戦をするのは止めてほしいが、変に揉め事起こすよりマシだrと思っている。

(まぁ、後は大将としての自覚に目覚めて義務を真面目にしてくれていたら文句は無いのだがこればかしはあのような性格だから是非もなし)

 雨足が少し強くなってきた中、羅門はただじっと城を見ていた。

 どんな理由で戦をするにしろ回りの者の意見を聞いてから行動に移すべきだと言っても聞かないのは解っているが言わないといけない自分の性分を恨んだ。

(昔に比べたら大人しくなったと喜ぶべきか、悲しむべきか)

 内心愚痴ると、気持ちを切り替えて指揮に専念した。

 羅門が城を攻撃している時。

 城に潜入した影が一つ辺りを警戒しながら見た。

 その動きは目に留まらない速さであるので警備にあたっている足軽は潜入していた事すら気づいていない様子だ。

 もちろんその影とは覇吐鬼の事だ。

 この城が平城(ひらしろ)だという事を前もって報告で聞いていたので、堀を飛び越え城壁を登り潜入した所だ、後は城主がいる所に行くだけだ。

 ここで出た平城とは平地に(きず)かれた城の事を言う、ほかには険阻の山に築かれた城の事を山城と言い、平野の山、丘陵に築かれた城が平山城と言う。

 足軽達があちらこちらと忙しなく動いていた。

 覇吐鬼は陽動が上手くいって、難なく潜入した事でつまらないという顔をしていた。

 そんな感傷を振り払って早く、城主の居る所を探そうとしていた。

 ちょうど良い所に警備で見回っていた兵が、覇吐鬼の隠れている草むらの近くを通ろうとしていた。

(良い時に来た。あいつに訊いてみるか)

 草むらから飛び出し兵の口に手を当て草むらに引きずり込んだ。

「っっっ⁉」

「静かにしろ‼」

 声は大きくないが、少し強く言った。

 それが効いたのか黙った。

「よし、いいか。訊きたい事を教えてくれたら命だけは助けてやる。だから教えろ」

 兵は頭を何度も縦に振った。

「城主は何処に居る?」

 それを聴き何も言わず指で大きい館を指した。

 そこは本丸のようだ。

「そこに居るのだな?」

 確認をとると、頭を縦に振った。

 それが分かると頷き。

「ありがと・・・・・・よ‼」

 腹に拳打を叩き込んだ。

 兵は声もあげず気絶した。それを確認すると指を指した建物に向かった。

 見つからない様に慎重に歩いたら、目的の場所についた。

 入り口には警備の兵が二人立っていた。

 警備の兵が立っている所を見るとと、教えて貰った事が外れていないと確信した。

(さて、目的の場所が分かれば、後は強行突破だな!)

 暴れられるのが嬉しいのか顔に獰猛な笑みを浮かべていた。

 もう見つかっても良いのか、隠れないで堂々と歩いた。

 警備の兵はその姿を見咎めたのか。声をかけた。

「貴様、何か用か?」

 夜で雨が降っているで、覇吐鬼だと分からなかったようだ。

 それに答えず、近づいた。

「答えぬか‼さもなければ・・」

 二人とも持っていた槍を構えた。

 だが、何時の間にか二人の前に覇吐鬼がいた。兵達はいきなり目の前に現れ驚いた。

 驚いている兵にまずは、右にいる兵の顔に拳打を叩き込んだ。

 その衝撃でボキっと音を立てた。鼻と口から血を出して倒れた。

 それを見て茫然自失としていた、残った兵の腹に一撃を叩き込んだ。

 腹を貫ぬき、口から血を大量に出し事切れた。

 手を抜き、血で濡れた手を振り落として本丸に入った。

 入ると兵が居たので、声を挙げさせずに倒した。

 これで強い者が居るのであれば問題は無いが襲いかかって来るのは弱くて話にならない。

 今にも鬱憤を爆発しそうだが、城主も殺しかねないので自重しろと心に言い聞かせた。

 そうして歩いて四半時。

 警備がついている部屋を見つけた。

 そこに城主がいると思い、警備の兵を倒し障子を思いっきり開けた。

 開けた先には床几に座っている武士が十人程居た。その一番奥には、綺麗で傷が一つもない一番派手な甲冑を着た四十代の武士が床几に落ち着き無く座っていた。

 それが城主だとすぐに分かった。

「妖風情が‼ 此処は貴様が来る所では無い! 某が打ち取ってくれる‼」

 床几に座っていた武士の一人が、刀を抜き八双に構えて切りかかってきた。

 刀は覇吐鬼に当たったが、半分に折れた。

 その折れた刀身を見て、唖然としている顔に拳打を叩き込んだ。

 吹っ飛ばされれ、壁にへばりついた。

 それを見て胆をつぶしたのだろう。皆口を開けていた。

 だが、直ぐに気を取り直し、城主以外床几を蹴り飛ばして立あがり刀を抜いた。

「皆何としても殿を守るのだ‼」

 その声を合図に一斉に襲ってきた。

 覇吐鬼は襲いかかってきた連中を、掴んでは投げて天井に頭から叩きつけた。

 全員天井にめり込ませたら、城主の方を向きニヤリと笑った。

 その笑みを見て逃げ出そうと覇吐鬼に背を向け、掛け軸がかかっている床の間に走った。

 そこには秘密の通路があると分かり、逃がすかと手を伸ばし襟を掴んだ。

「は、離せ! 離さんか‼ 儂が誰か分かってこの様な暴挙をしているのか?」

 うるさいので近くの壁に叩き付けた。

「ぐぇ。貴様! このような事をしてただで済むと思うのか?」

 言っている事は立派だが、体が震え、目が怯えていた。虚勢を張っているのが分かる。

「勿論だぜ。城主様。俺はあんたに訊きたい事があるからこうして会いに来ただからな」

「訊きたい事だと?」

「ああ、そうだ。それさえ訊ければ帰ってやるよ」

「ならば、早くそれを言え。儂で叶えられるものであれば叶えてやろう」

 助かりたいが為か急かしてきた。

「まずは、つい数日前の事だ。俺が森を歩いていたら突然、甲冑を着た武士達が襲い掛かってきた。まぁそいつら全員返り討ちにしたが、そいつら何処の奴らなのか分かる物が無くてな困っていた。まだ息がある奴が居てな、そいつに聞いたら「あ・あがづま・じ・・ょう」と言って事が切れた。それがこの城を攻めた理由の一つだ」

 城主は顔を真っ青にしていた。それで襲うように命令したのはこいつだと分かった。

 犯人は分かったが何故そんな事をしたのか訳を知りたかった。

 それを訊こうとしたら、向こうから言ってきた。

「む・娘が貴様に誑かされたと思ったのだ!」

「娘?」

 この城主の娘と言われても会った事が無い。

「娘が貴様に懸想していた。妖に誑かされたと思い兵を送り、貴様を始末しようとしたのだ!」

 その言葉には嘘が無いのは分かるが、どう思い返してもその娘とやらには会った事が無かった。

(まぁ、会ったら分かるか)

 これで一つ訊きたい事が分かった。もう(・・・)一つ(・・・・)の(・・)(・・)を訊く事にした。どちらかと言えば此方が本命だった。それを訊く事にした。

「あともう一つだが。これを訊いたら帰るぜ」

「そうか、それでもう一つの方は何だ?」

 掴んでいる襟に少し力を込めた。

「お・おい、く、苦しいから力を抜いてくれ!」

 それだけで苦しそうにして掴んでいる手を叩きだした。だが、覇吐鬼は全く問題にしていなかった。

「もう一つの方はだな」

「それは何だ?早く言え」

 じれったく思ったのかそれとも息が苦しくて早く解放して欲しかったのか急かしてきた。

「それは・・・お前があいつ(・・・・・・)を妾にしようとしている事だ‼」

「あいつ? 誰の事だ?」

「とぼける気か? 綾瀬村に居る巫女の事だ!」

 それを言われて分かったのだろう、顔に何故知っていると書かれていた。

 ―――綾瀬に美しき巫女が居る。その巫女が放つ矢は百里先の的であろうと射抜くものなり、手を水に翳せばたちまちあらゆる病を治す霊水になる、その巫女の美貌は月すら霞み、花も恥じらうであろう、だがけして巫女に手を出してはならない、巫女に手を出すものが居れば鬼が現れその者を食らうであろう、故に巫女に手を出してはならない――――

 という噂が巷に流れているので興味本位で家臣に見に行ったらその美貌を絶賛した。直ぐに巫女の父親に娘を城主付きの侍女にせよと要請した。

 この城主付き侍女とは、言い換えれば妾にするのと同じだ。

 それを知っているのか、父親は頑として首を縦に振らなかった。

 何度も手紙を送ったが返事は同じで、それに腹が立ち娘を送らなければ村を燃やすと手紙を送った。

 それを見て、無効は慌てて返事を寄こした。

 娘は準備ができ次第、そちらに送ると書かれていた。

 その日が来るのを楽しみしていると、手紙を書き送ったのが四日前の事だった。

 噂に出てくる鬼とはこやつの事かと分かっても、もう遅かった。

「さて、何か言いたい事はあるか?」

「ま、待て! 確かに儂は巫女を妾にしようとしたがそれがお主に何か関係有るのか?」

 思わず理由を訊いた。

「関係だと?」

 拳を顔の横にぶつけた。その速さは目にも止まらない速さだ。

「わるいな。蚊が止まっていたから」

 それには背筋に寒気が走った。

 今の拳にしたって壁に当たるまで全く見えなかった。この鬼がその気になればいつでも殺せると改めて感じた。

 顔を蒼白にしている城主に襟を両手で掴み。

「いいか! あいつは俺の女だ。もしこれからもあいつに迷惑をかけるつもりなら、この城を攻めて何もかも燃やしも良いが。それが嫌なら分かるな?」

 頭を縦に何度も振り。

「わ・分かった。み・巫女を妾にするのは止める。め・迷惑もかけないから頼む! 命だけは!」

 城主は目から涙を流し、鼻からも鼻水をたらして命乞いしてきた。

 それを見て哀れに感じ手を離した。

 げほ、げほと咳をして息を整えだした。

「もう一度言うがあいつに何かしてみろ、その時はお前が死ぬ時だと覚えとけ‼」

 言いたい事を言えてすっきりした、部屋から出て行った。

 用事が済んで早く帰りたかったので、本丸を出て一番近い門に向かった。

 本丸を出た時には、雨が止んでいて月が黄色く光っていた。

 その月を見て何か良い句が浮かばないかと考えた。

 覇吐鬼の趣味の一つで詩を作る事だ。

 今は亡き母が生きていた時教えて貰った。母は貴族だったらしく歌舞音曲に優れていた。

 早く帰ってから、じっくり考えた方が良いと思い直し門に向かった。

 その門には外からの攻撃に対する為に、兵がうじゃうじゃいた。

 覇吐鬼を見つけると。

「鬼が居るぞ!皆囲んで打ち取れ!」「いつの間に此処まで潜入された?」「それよりも早く打ち取れ!」

 そうした声が色々と聴こえてきたが、覇吐鬼は動かずじっとしていた。

 兵達は動けないのは、何かあると思いながら包囲した。

 覇吐鬼が動くと包囲の輪もそれに連動して動いた。

(面倒だな。無理にでも突破するか?)

 そう考えていたら、突然、城門から大きい音がした。

 見ると城門が破られていた。

 城門を破った者は誰だと、煙が上がる中兵達は注視した。見るとそれは大きい悍馬であった。

 黒く艶がある体、並の馬より遥かに大きかった。毛も炎ように赤く、まるで燃え上がっているかのように毛並が良かった。

 そこいらに居る馬と違う所は他にもあった。呼吸をする度に口からも火を吹き出て、足が進む度に地面が焦げていた。

 兵達には目もくれず覇吐鬼に向かって進んだ。途中進んでいる先に兵が何人かいたが全員踏み殺した。

 覇吐鬼の前につくと歩みを止めた。

「またせたな。(えい)(おう)

 そう言われて、影王は膝を曲げた。覇吐鬼を乗りやすくする為だろう。

 影王に乗り、外に向かって駆けだした。

 兵達は何も言わず道を開けた。門まで何も無く一直線だった。

 門を出たら、腰にある刀を抜き合図を送った。

 合図を送られた途端死人兵が攻撃を止め地面に潜りだした。

 全部潜ったのを確認したら、覇吐鬼は北に向かって駆けた。


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