どうしてこうなった?
小松の婆さんの家に着き、持ってきた荷物を玄関に置いて、俺はホテルに戻ろうとしたら。
「そんなに急いで帰らなくても、ホテルは逃げないわよ。重い物を持って疲れたでしょう。お茶でも飲んで少し休んだら?」
と言われ、最初は断ろうとしたが、何時の間にか茶と茶請けを用意されていた。
そこまでされて、断るのも悪いと思い上がらせてもらった。
「ズズー、美味い茶だな」
これは世辞ではなく本心からそう思った。
俺がいた時代では、茶は高価な物で、子供の頃に一度だけ飲んだ事があった。
飲んでみて思ったのは、苦くて変わった味がするだった。
今飲んでいる茶は苦いのだが、その苦みに負けないくらいの甘みがあった。
美味しくてお代わりしたくなった。
流石にそれは厚かましいので、自制した。
茶請けは、漬物だった。
「これは何の漬物だ?」
「タクアンですよ」
「たくあん? か、どれ」
爪楊枝で刺して、口に入れた。
噛むとポリポリと音を立てる。
「美味しいな、これ」
丁度いい塩加減だ。そんなにしょっぱくないので、茶請けに最高だ。
「そう、わたしが去年漬けたタクアンだから、少し味が濃いと思うのだけど」
「いや、丁度いい味だ」
婆さんと話しながらたくあんを食べて、茶を飲んだ。
茶も飲み終わり、まったりとしていた。
時計を見て、そろそろ帰る事にした。
俺が立ち上がると、婆さんも立ち上がってくれた。
「もう、帰るのね。では、そこまでお見送りしますね」
「いや、そこまでしなくていいから」
俺は断ったが、婆さんは「そこまで見送るだけですから」と言うので仕方がなく好きにさせた。
婆さんに見送られ、俺はホテルに向かう。
教えて貰った道の通りに行くと、直ぐに見覚えがある通りに出た。
それで安心していると、目の前に見知った顔が見えた。
向こうは仲良く話しており、こちらにはまだ気付いていないようだ。
(見つかると、めんどくさい事になるな)
そう思い、来た道を引き返そうとしたら。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「なに? 玲奈」
「あの人、十河さんに似てない?」
「あ、言われてみれば」
「試しに手を振ってみましょうか」
紅葉が手を振っている。
無視すると、店に行った時に何か言われそうだったので、仕方がなく俺も手をあげて応えた。
すると、三人がこっちにやって来る。
「ちょっと、あんた、さっき何で何も言わず行ったのよ?」
「お前に言う必要あるのか?」
「有るに決まっているでしょう」
「なんか、あったか?」
「あんたの代わりに、警察に事情を説明したのだから、借りがあるでしょう?」
「いや、それを言ったら、俺はお前等を助けたぞ?」
「あんな奴ら、あんたの手なんか借りなくても、ちょちょいのちょいで簡単にのせたわよ」
「そうかい。そいつは余計なお世話をしたな」
俺は肩を竦めた。
「十河さんは、これから何か用事でもありますか?」
「いや、これから泊まっているホテルに帰る所だ」
「つまり暇ね」
華怜の目がキラリと光った気がした。
「簡単に言えばそうだな」
「じゃあ、買い物するから手伝って」
「はぁ⁈ 何で、おれが」
「丁度、荷物持ちが欲しかったのよ。ほら、行くわよ」
「いや、ちょっと待て。なんで、俺が、って引っ張るな!」
俺は華怜に引っ張られた。
玲奈は慌てて、そのあとをついて行き。紅葉はクスクスと笑いながらゆっくりと着いて行った。