逃げた先
「ここまで、来たらもう大丈夫だな」
適当に道を走り、これだけ離れたら大丈夫だと思い足を止めた。
そして、周りを見ると、知らない所に来た事が分かった。
「・・・・・・不味いな。ここ、何処だ?」
この時代に来てから、限られた範囲でしか活動していないので、その範囲から少しでも離れると、どうもならなくなる。
連絡を取る手段も無いので、かなりまずい。
どうしたものかと思っていると、視界の端に大きなぺっとぼとるを両手に持った婆さんが前を歩いているのが見えた。
(よし、あの婆さんに道を訊こう)
道を訊こうとしたら、道に足を引っ掛けたようで倒れそうになった。
まずいと思い、慌てて駆けた。
それが功を奏して、婆さんの腰を掴む事ができた。
「大丈夫か? 婆さん」
「え、ええ、まぁ」
***
「すいませんねぇ。荷物なんて持たせて」
「気にすんな。婆さん、道を教えてくれるのだから、これくらいしても罰はあたらねえよ」
何故道を訊こうとして、婆さんの荷物を持っているのには理由があった。
道に迷ってしまたので、何処にどう行けば俺が泊まっているホテルに着くか尋ねた。
すると、婆さんはホテルの名前を聞いて「そのホテルだったら、知っているわ」と言って道を教えてくれた。
これで、なんとか帰れると思った。それで余裕が出来たので、婆さんはその大きなぺっとぼとるを持って何処に行くのだと訊いた。
「この先の神社で、どんな万病にも効く霊水が売られているそうなの。体に良いと聞くから、わたしも買いに来たの」
それで、そんな大きいぺっとぼとるを持っているのだと分かった。
しかし、そんな大きい物に水を大量に入れたら、帰るのは大変だろうと思った。
道を教えてくれたお礼に、水を入れたぺっとぼとるを家まで運んでやろうかと言った。
むろん、婆さんも最初は断った。見ず知らずの人にそんな事させるなんてと言ってきたが。
俺は気にしないでいいからと、強引にぺっとぼとるを奪い歩き出した。
婆さんも根負けして、神社への道を教えながら、覇吐鬼の後を歩き出す。
話しながら、婆さんの話を交わす。
この婆さんの名前は小松と言うそうだ。
話してみると、品の良い婆さんだ。
色々と話しを聞いた。夫を亡くした事、子供も居ないので一人寂しく過ごしているそうだ。
亡き夫が興した会社の大株主でそれなりの資産家で、生活には困ってないそうだ。
覇吐鬼の事も色々な所をぼかしながら、話した。
そんな事を話ながら歩いていると、ようやく目的地の神社に着いた。
石段の先に、赤い鳥居が見える。
「そう言えば、ここの神社の名前を聞いてなかったけど、何て名前の神社なんだ?」
「ここは羅生鬼神社というのよ」
「あまり聞かない名前の神社だな」
「そうね」
二人は石段を上がっていく。




