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鬼の愛し歌   作者: 雪国竜
第1章 封印
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序章

拙作ですが。どうぞよろしくお願いします。

 雨雲に隠れ、日はまだ登らない。暗がりの中、大地を打つ音が響いていた。

 雨の音と巻き上がる土草の匂いだけが五感を支配している。

 そんな暗闇の中で一人の青年の姿あった。

 雨の降る最中、雨避けになるものを一つも持たずに、その青年はただそこに有る城を見上げていた。

 年齢は二十代に達しているかいないかといった所だ。長身で、強い光を宿す黒い瞳、少しだけ広めの肩幅、頬から顎の線が細く、その肌の色は雪のように白かった。黒の狩衣(かりぎぬ)を纏い。腰には刀を差していた。雨に濡れた白い髪。

 美丈夫であったが普通の人と違う所は右目の上の額の所に角が突き出ていた。

 青年は人では無く鬼であった。

「あれが、上妻(あがづま)(じょう)か?」

「左様で御座います。御大将」

 青年の後ろに控えていた側近が答えた

「結構大きい城だな。これは守りも堅そうだな」

「我らの軍勢の拙僧の操る死人兵ですから、いかに難攻不落の堅城といえども四半刻(約三十分)あれば落としてご覧にいれましょう」

 側近が力強く断言した。

 側近の名は、羅門という。かつては名僧だったが、呪術を探究しすぎて、その身を妖へと変えた為自分の師に退治されたのだが、死の直前に禁忌と云われる術を使い、その身をただの妖から不死者へと変える事で逃げる事ができた。そのまま各地を流浪して青年の父の元やってきた。その父が死んでからは青年に仕えている。

「そうか、城攻めは羅門に全部任せる。俺はいつも通りにさせて貰う」

 青年は右手を面倒くさそうに振りながら指示をした。

「それは構いませんが。またですか?」

 羅門は表情を歪めながら青年を見つめる。

「お願い申し上げます。一人で城に潜入するという無茶はお止めください。御身にもしもの事がありましたら我々は途方に暮れてしまいますぞ。」

「―――そう言って俺の楽しみを奪う気か? 羅門」

 青年は唸った。

「当然です。貴方様は我らを率いる大将ですぞ。大将たる者みだりに動かずどっしりと構えていれば良いのです。それなのに御大将ときたら、敵対勢力と戦いでは敵の(まっ)只中(ただなか) に一人で突撃する、今回の様に城を攻める時などは勝手に潜入したりなどをしているのですぞ。その様な無謀な事するのはお止めください」

「ったく、その言葉は何十回も聞いているから聞き飽きたぞ。もっと別な事を言う事は出来ないのか?耳にたこができるぞ」

 青年は小指を耳の中をほじりながら答えた。

「御大将が拙の話を聞いてくだされば何度も申しませんぞ!」

 羅門は雨音にも負けない大きな声を出したが。青年にはまったく聞いていなかった

 他人事のように青年は耳の中から指を出しふっと息をふいた。

 羅門はまだ言い足りなさそうであったが、ふうーと深いため息をついて気を落ち着かせた。

「さてと、羅門そろそろ兵を動かせ。門を攻撃するのは良いが城の中には入らないようにしろよ」

 青年は振り返りながら指示を出した。

「御意、拙の操る兵は細かい指示は出来ませんが大丈夫です。本当に御一人でゆくのですか?」

「くどいぞ、羅門」

 青年は側近の心配の言葉に辟易していた。

「御大将を御一人で行かせるのは危険だから申し上げているから何度も何度も言っているのです。せめて護衛として銀牙か風雅をつれて行ってはくれませんか?」

「要らん。第一にして銀牙は敵が城から出てきた時の迎え打つのに必要で、風雅は伝令役として要るだろうが。俺が居なくてもお前ら三人居れば十分だ・・・いや違うな、羅門が居れば十分だろう頼りしているぞ。我が軍師よ」

 青年は羅門を頼もしそうに見ていた。

 羅門は見た目の年齢としては三十代ぐらいで男としては中肉中背で鷹のような鋭い目。黒く染めた網戸笠をかぶり顔には覆面衣を着けて目から下を覆い隠し、黒い袈裟を纏っていた。衣の隙間から見える肌の色は青白く人間では無いのがよく分かった。

「それに護衛なんぞ連れて城に行ったら楽しめないだろう。だから必要ない」

 青年は子供が今にも悪戯をしようとしている顔をしていた。

「果たして人間共に御大将を楽しませる程の武士があの城に居るでしょうか?」

 羅門の言葉には嘲笑が含まれていた。

(できれば居てくれたら嬉しいといった所なので居なくても構わんし。それに今回の目的は別に城を落とす事ではないからな)

 青年は城に潜入しても城を攻め落として自分の物にするつもりはなかった。

 それよりも聞きたい事がこの城の城主にあったから攻めているだけなので目的が達成できたらさっさと根城に引き揚げるという考えだ。

「御大将。くれぐれもくれぐれもご無理はなさらないで下さい」

 羅門はしつこく念を押しつづけた。

「わかったよ!お前もしつこいぞ・・まったく俺は後先考えない牡丹じゃないぞ」

 羅門はその言葉を聞いて心底驚いた顔をしていた。

 牡丹とは猪の事を指す。肉の色が牡丹の花の色に似ているのでそう言われている。

(ご自分の事をよく理解してないのか?困った方だ)

「なんだ!解ってなかったのか?こいつって顔はっ」

 青年は心外と声を張り上げた。

 羅門はその様子を見て目を瞑りながら深い溜め息をはいた。

「そんな事よりもそっちの攻め手は任せたぞ。そっちの攻め方次第で俺が上手くいくかどかなんだからな」

「そちらの方は万事抜かりなく、攻撃開始はいつでも」

 羅門は頭をうやうやしく下げながら命令をまった。

 後はそちらの指示一つで敵の城を蹂躙も出来、又はこの城を自分達の物にも出来る。

 羅門は言葉に出さなくともそう言っている様に見えた。

「良~し。羅門!こうげ・・・・・・・・・・んあ?」

 青年は足元を見てみると足に白い毛玉が転がっていた。

 白い毛玉を胸元まで持ち上げてみるとその正体は子兎だった。

 その赤い目でじっと青年の顔を見ていた。

「おいおい。俺達はこれから怒濤の攻撃をするって時にこんな所にいたら危ないだろう。ほら森に帰りな」

 青年は膝を曲げ優しく地面に下ろし自分の住処に戻るように促した。

 子兎は帰るどころか逆に青年に体を擦り付けてきた。

「はっはは、可愛い奴だな」

 懐いてくる様子が嬉しいのか自分の胸元まで抱き寄せて頭を撫でた。毛が湿っていたので拭った。          

 それが気持ち良いのか子兎は目を細たり青年の胸に頬ずりしていた。

 そんな兎で和んでいる時。

「ゴホン‼」

 後ろから咳払いが聞こえてきた。

「あの・・・御大将」

「なんだよ?今和んでいる最中だろうが」

「これから我らは戦をしようとしているのですぞ。畜生に和んでいる場合ではありませんぞ。」

「これぐらい目くじら立てるなよ。ほら、母ちゃんの所に帰りな」

 子兎を地面に下ろすと元気よく走って行った。

 走って行く先に目を向けると草むらから親兎が心配そうに見ていた。

 子兎が親兎の腹に自分の顔を押し付けて甘えている様が少し離れているが良く見える。

 なんとなく親兎は頭を下げている様に見えたので手を振った。

「危ないからどいていろよー」

「御大将・・・」

「わかっているよ、気合入れ直すぜ」

 もう一度大きく息を吸い。

「よーし、羅門!改めて、攻撃だぁっ!」

「御意‼」

 羅門はそう返事をしてからブツブツと小さい声で何か言っていた。

 これは死人兵を呼び出す為の呪文だった。

「黄泉に眠りし(つわもの)どもよ、我が声に答え冥府より蘇りたまえ」

 そう唱えた途端。

 地面から人の手が出てきた。

 手が出てきた所から甲冑を着た人らしき物が出てきた。その恰好もバラバラで陣笠を被っている者も居れば兜を被っている者もいた。

 この地面から出た人らしき者達は皮膚の色が青白く目に光りが無く体もどこか腐敗しているし皮膚が剥がれて中の筋肉が見えたりしていた。

 手に持っている物は槍だったり刀だったり弓を持っていた。

「我が声に答えし死人どもよ、攻撃せよ!」

 死人兵はその声に答えきびきびと動き出し城門を攻撃しだした。

「陽動は任せたぞ。羅門」

「御意。何度も申しますが・・くれぐれも無茶はお止め下さい!」

「解っている。気をつける」

「左様ですか。」

 羅門はまったく信用していない目で青年を見ていた。

(まぁ日頃の行いが悪いから仕方ないな)

「羅門。ちょっと行ってくるぞ」

 まるで厠に行くような軽い口調で城に行こうとしたその背に。

「くどいようですが無謀な事はお控え下さい。貴方様は我らを率い統率する義務があるのですぞ。御大将覇吐(はば)()様」

 覇吐鬼はその声に答えずさっさと歩いて行った。


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