1.転生できる、かもしれないそうです
享年17歳、突然突っ込んできたトラックにプチっとされるという冗談みたいな死に様を経験することになった私の耳に響いてきたのは、
『異世界に行きたいかー!』
「へ?」
そんな冗談みたいにテンションの高い場違いな声だった。
突然だがちょっと私のことを聞いてほしい。私の名前は御堂可楠。なんということの無い極めて普通の女子高生だった。引っ越しが常とか、幼馴染がいるとか、特別美人であるとか、実は重度のオタクであるとかといったわけでもなければ、クラスのボスに小間使にされてるわけでも(そもそもそんな人いなかったし)、実はスポーツ万能だとか、特別ファッションセンスがあるとか、昔銀行強盗に巻き込まれたりとかもない。ちょっと頑張って勉強して近所の高校に入り、バスケ部に入ってそこそこ真面目に練習してレギュラーを取り(といっても私以外に2年生が4人しかいないだけだったのだが)、ファッションは雑誌は買わないけどネットで軽く調べるぐらいはするし、ゲーム機は無いけど軽くスマホゲームぐらいはする。友達は両手の指で数えられるぐらいだし、特別目の敵にしてくるような人もいない。要は長々と何を言いたいのかといえばー
『あれー?ノリ悪いなー。さてもう一度。君たち、異世界に行きたいかー!』
ー死んでからこんな事に巻き込まれるような覚えは断じてないということなのだ。
「えっ、え?」
なんだこれどういうこと!?私はいつも通りに学校に行こうとして、曲がり角で突っ込んできたトラックでぐしゃっといったはずだ。でも意識があるってことは実はそこまで重症じゃなくて病院に運ばれて今見てるこれは夢?
「それはそれで嫌だなぁ…」
これが夢なんだったら私はつまり『死んで異世界転生!』とか頭の片隅にあるようなやつだったということで、それはどうにも恥ずかしいというか痛々しいというか…
『夢じゃないよ?』
「ひっ!」
口!口が浮いて寄ってきて喋った!何これ気持ち悪い!っていうか断じてこれが私の夢であってたまるものか私はこんな意味不明なホラーちっくなことをいつも考えてるようなサイコな人ではありませんのでとりあえず寄ってこないでぇぇぇぇぇぇ!?
『聞こえてるー?とりあえずこれ時は夢じゃなくて現実…ともちょっと違うか、まあ取り敢えず君の一人芝居ってわけじゃないから周りの皆さん共々話を聞いてくれない?』
「わかった、わかったから取り敢えずすとっぷ!すとっぷ!寄ってくるのやめてっていうかなんで口だけなの!?」
『冷静になれるかなって』
「なれるかぁ!」
どんな思考回路だ!目の前に浮いた口が近づいてきたら冷静になれる人って何⁉︎もうそれいろいろ振り切れちゃってるだけでしょ⁉︎
『さてそれではみなさん、落ち着いたところで周りをご覧ください』
落ち着けてないよ絶賛取り乱し中だよ!というか無視か、私の動揺は無視か!
「って周り?」
言われて混乱する頭で見渡してみれば果ての見えない白い部屋...?に結構な数の人が、というか
「何ともバリエーション豊かだね」
ざっと見渡した限りでも黒人ぽい人やターバン巻いた人、頭からやたら長いアンテナ?モヒカン?が立ってる人など、まあ国際色豊かな取り合わせなことで。というか
「いっそ夢だと思いたい…」
取り敢えずここまで真っ白で床とそれ以外の境目がよくわからない床なんて私は知らないし、夢だと思おうとしても、さっきからこれは現実だと言い聞かせられているかのような感じで、夢だと思えなくなってしまっている。
「何だってこんな意味不明なことに…」
そもそも私死んだんじゃないのか、角曲がったら長身の男子どころか2tトラックが見えて絶対死んだと思ったのに。
『ここにいる総勢1000名の皆様はお亡くなりになりました』
あ、やっぱり死んだんだ。いやでもじゃあこれ何よ?周りの人たちも同じように思ったのか一気に騒がしくなってきた。何人かは罵声をあげてる(多分)けどこれ何語?英語も怪しい私めには全くわからんのですが…
『せーしゅくにーー!!』
「!!」
うわびっくりした!騒がしいのが嫌だったのかいきなり飛行場の方が静かなんじゃないかと思うような大声を出してきた!というかこの声どっから聞こえてるの?
『それではみなさん上を見てください』
上?見上げてみたらいきなり何もないところに巻物みたいにスクリーンみたいなものが広がった。
「わーおファンタジー...」
スクリーンに映ったのは女の子?ていうか幼女?が映っている。
『突然ですが…私が神だ!』
【悲報】神様はただのおバカな幼女だった。みんなあっけにとられてポカンとしてるし。まあ私もだがな!
『むー、はいリアクション!』
「「「「ナ、ナンダッテー」」」」
!?今口勝手に動いたよ!?何これ気持ち悪っ!
『現実逃避されたり駄々こねられても面倒臭いので皆さんにちょっと干渉してます。まあ実害ないのであまり気にしないでくださいねー』
いや気にするよ!けど誰も大声とか出さないっていうか出せない?
『騒げず、現状を強制的に受け入れるようにさせてもらってるのでとりあえずちゃっちゃと話を聞いてくださいねー』
何てこった。本当にファンタジーだよ…
『先ほども言いましたが、貴方達はお亡くなりになりました。そりゃもうグッチャリと、確実に』
『本来なら今世はそれで終わりですが、こちらの事情で特定条件を満たしている方から1000名に今回異世界へ転生するチャンスが与えられました!はい、拍手!』
マ•ジ•デ⁉︎
『ただし、1000名全員が転生できるわけではありません。皆さんにはこれからテストを受けていただきます』
全員じゃないの⁉︎ていうかテスト⁉︎終わった…儚い希望だったなぁ…
『あ、ペーパーテストじゃないんで大丈夫ですよ、実技試験みたいなものですね』
実技試験?
『私としても向こうの世界であっさり死んでしまうような人はわざわざ送りたくないんですよ、面倒くさいから』
あんまりな言い草だがまあそうでしょうよ。せっかく助けたのにすぐ死亡とか私でもアホらしくなるよ。
『基本的には脱落式で最後に残った8人に転生の権利が与えられます。各々の背後に本人のみ認識し、入ることがが可能な部屋を設けましたので、待ち時間の間は基本的にはそこで待機していてください』
おお、本当だ。いつの間にかなんかあるよ。でも安全な個室は嬉しいんだけどこれかなり時間かかるってこと?
『それでは皆さんには今から4人パーティーを組んでいただきます。皆さんの身体能力は一律で鍛え上げた才能のない20代の男性のものぐらいに調整してありますし、武術を修めていた方はその技術を発揮できなくさせてもらいました』
『どうやって、なんてどうでもいいことは気にしないでください。まあつまり何が言いたいかというと、個人間の能力差はほぼないので、気の向くままに組んでいただいて大丈夫です。あ、あと今から言語を統一しますので言葉が通じない、何てことも無いですよ!パーティーが組めた方々から順に第一試験の会場に転送します。ではスピーディーに決めちゃってくださいねー』
と、盛大になんでもありっぷりを見せつけてからスクリーンは消えた。
「えっと...」
正直頭がついていかないっていうか、あんまり色々ありすぎてもはやよくわからないっていうか…周りの人も結構呆然としちゃってる。
「まあでも、ぼけっとしてるわけにもいかないか…よしっ!」
せっかく生きられるチャンスがあるんだから行動しないとね!動いたり喋ったりしてれば気分も紛れるだろうし。そうと決まればまず、
「女の人探そう」
ここで男性と組むのはいささか以上に怖いしね!みんな同じぐらいの身体能力ってことは一対多になったら絶対勝てないってことだしね。ザ•普通の女子高生の私ならやることやってれば恨まれることも妬まれることも無いだろうから心置きなく女性と組める!さてさて、みんなも動き始めたし私も探しますか!
正直私は舐めていた。実技試験だと言われて何をやらされるんだろうと思っても、危険があるなんて思いもしなかったし、貞操の心配なんてする余裕もあった。詰まる所私は『生きたい』などと言いながら、こんな無茶苦茶が叶うと聞いていたのに危険は無い、あっても私は大丈夫などと思い込んでいたのだ。だからー
グチュ、ザリッガリッブチブチブチッ
みんなしんでしまった