2話
俺と陸は駅前のマックに辿り着いた。無駄に競争した結果、汗だくだ。陸の背中がワイシャツに張り付いて、素肌が透けて見える。俺も同じことになっているだろう。
ちなみに勝負は俺の負け。先には着いたのだが、暗黙の了解たる道路交通法の遵守に引っかかってしまった。黄色信号で突っ込んだつもりだったが、アレはアウトだ。
まあ、負けたペナルティもないのだが、プライドの問題だ。
マックの自動ドアが開く。「いらっしゃいませー」の声と共に、涼しい風が俺たちを包んだ。極楽。暑い外にいるのが馬鹿らしい。
「タモっちゃん、またサボり?」
カウンター内の美人さんに声をかけられた。顔が小さく、手足が長い。俺の好みとしてはもっとボインボインでもう少し肉が付いていた方が良いが。
コイツは友達の彼女で、俺らと同い年だが高校には行かず、モデルとして働いているらしい。コイツが載っている雑誌を見たことがないけど。いかがわしい仕事でないことを祈るばかり。
「エリコちゃーん。クーポン持ってないけどクーポン価格でお願いー。あとスマイル三つ」
「二人しかいないのにスマイル三つとは贅沢な!にこにこにこ!」
「タモツ、口でにこにこ言ってるだけで全然笑ってないぜ、この子」
「で、注文は?」
「俺、テリヤキセット。クーポン効果でポテトとドリンクはLサイズで頼む。クーポン持ってないけど!」
「俺はダブルバーガーセット!同じくで!」
こんな感じで注文が終わる。エリコがいなかったら我らの食が寂しくなるか、お値段が跳ね上がる。エリコ様々。
ハンバーガーなどの乗ったトレイを持って三階に上がると、既に見知った顔がいた。
「マサル、アンノ、来てたのか」
「タモツー!!会いたかったよぉぉ!」
マサルは急に立ち上がると俺に抱きつく。身長百八十五センチのイケメン、マサルが百七十五もない俺に覆いかぶさる。暑いというか熱いよマサル。口がポテトの油まみれだぞ。
なんでか知らんが、懐かれている感じ。俺もコイツは好きだから良いけど、コイツ、多分うちの学年で一番ヤバいヤツなんだ。学校内の先輩のテリトリーに乱入して、気にくわないって理由で数人ボコって逃げたりしていた。
なんで俺が懐かれているかというと、喧嘩の強さの問題ではなく、マサル的なフィーリングの問題らしい。
出会って少し話すようになって、わりとすぐ、「苗字で呼ばないで!俺もタモツって呼ぶから!」と来た困惑はしたが、これがコイツの親愛の表現だとはすぐに気付けたから、以来、俺はマサルと呼ぶし、仲が良い。
余談だが、俺の前ではこんな感じのマサルだが、特に女の前だとクールを気取っている。
アンノはサッカー部。いつもイタズラをしている少年のような目をしている。顔の造形的に俺のお眼鏡にはかなっていないのだが、コイツが非常にモテる。サッカー部効果だろうか。世の中は理不尽だ。
俺たち四人は同じテーブルに着いた。こだわりがあるわけではないが、窓際のこの席になることが多い。遊歩道の陰になって、特に面白い光景はないが、通りすがる女子を眺めたりする。
とりあえず黙々と胃を満たしていく。残りがポテト少々とドリンクになってから、やっと一息ついた。
「そう言えば今日、レジスタンスとキタムラが会合だって聞いた。なに、タモっちゃん噛むの?」
アンノがイタズラっ子の目を俺に向けた。
「その予定。なんかレジスタンスで新しい情報持ってないか?」
「最近になってひとりメンバーが増えたって聞いたな。レジスタンスってさ、入団条件不明だし、メンバーみんな地元も学校も別みたいだから、興味湧いちゃうよね」
アンノは何気なくこの手の情報に詳しい。アンノも含めてアンノの周りには噂好きな友達が多いらしく、虚実入り乱れた噂話を持ってくる。
「あとね、興味本位でレジスタンスの奴らが会議してるところに潜入して盗み聞きした勇者がいてね、奴ら、『空の時計が……』とか、『魔物が……』とかって話してたんだってさ。絶対なんかクスリやってるよね」
「……!?」
俺は驚きを隠せなかった。そんな俺にみんなが驚いていたが、気にしていられない。
「レジスタンスって、服装のどこかに赤いものを使うルールとかあるか!?」
「なんだ、タモツ、知らなかったのか? そんなルールは確かにあるらしいよ。とは言え、赤い小物なんて誰でも持っているからな、それでメンバーの判別はできないけど」
陸が呆れ半分で答えた。
俺は、バカデカイ『異形』を囲む集団の姿を、鮮明に思い返していた。
……判別は、できる。停止した世界のなかならば。
停止した世界は色をなくしたかのように、灰色一色になる。しかし、『動ける』人間の色は失われない。灰色の世界の中で、赤い色は確かに目立っていた。味方を視認するには最適だと思われる。
こりゃ、思わぬところで思わぬものを拾ったかな。




