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刻の守護者たちのメソッド  作者: TKM
第1章 邂逅
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1話

「あぢぃ……」

 俺、吉田保(よしだ・たもつ)は俺が通う高校のそばにある『神社』にいた。『神社』と呼んではいるが、宮司も神主もいない、公民館の脇にくっついている、形だけの神社だ。


 地方のターミナル駅から自転車かバスで15分ほど走った場所にある我が高校。

 駅前はそこそこ高いビルが立ち並び、商業施設なんかも多く、人で溢れているが、ここまでくるとのどかなものだ。国道がそばに通っているが、もう少し奥まれば川原もある。


 時刻は朝十時。完全に完璧な遅刻。もう面倒になって、ベンチでバリバリくんソーダ味をかじっている次第だ。

 残り一口になったバリバリくんは、俺の口には入らずに落下する。


「ちっ!またか!」

 これで五連続、バリバリくんを最後まで食べることができなかった。何かに呪われているとしか思えない。

 俺は地面に染みを作る溶けたバリバリくんをながめながら、せめて蟻の美味しい餌になることを祈る。


 うちの高校の制服は、基本的にブレザーだ。ネクタイなんて面倒だと思っていたが、育ちがよく見える気がして、冬場はわりときっちりした着方をしている。ズボンは腰履きだけど。

 夏は半袖のシャツと、冬服と似た柄のズボンだ。「シャツは第二ボタンまで開けるのが作法」という、どこぞのファッション誌の助言を忠実に守っている俺だ。


 何もしてなくとも汗が首筋を垂れ落ち、広げられた胸元に吸い込まれていく。

 俺はタバコに火をつけ、空に向けて煙を吐き出した。


 空にはタイマー。どこで見ても俺の視界の端から端までの半分を横断する大きさだが、意図的に見ようとしなければ邪魔にはならない。

 そのタイマーの残り時間は九時間ほどだ。今は十時を少し過ぎたところだ。このままいけば十九時に世界が止まる。

 どんな仕組みか知らないが、大抵はもう少し残時間があるうちに二、三週間分は回復するのだが、今回は無理そうだ。


 せめてもの時間稼ぎにと、俺は足元でバリバリくんの染みをみつめている、ソフトボール大で半透明の『異形』を踏みつぶした。

 またタイマーを見上げると、十分だけカウントが増えていた。

 『異形』はどこにでもいるが、時が動いている間は、大抵がソフトボールからバスケットボールの間の大きさだ。


「こら、吉田! 学校をサボってタバコとは何事か!」

 俺の肩が一瞬跳ね上がる。しかし、聞き覚えのある声だと理解して振り返った。


「やかましい。お前も登校前の一服だろうが」

 そこには悪友である富山陸(とやま・りく)がいて、二ヘラと笑っていた。その笑顔はとてつもなくだらしないが、うちの高校でトップスリーを争うイケメンだ。


「悪い悪い。お前がまた空を眺めていたから、つい、からかった」

「また? 俺はそんなに空を見ているか?」

「最近になって、また頻度が増えたな」


 そうかも知れない。

 前回の時間停止は約ひと月前。俺はその時に見てしまったのだ。俺以外の人間、それも集団が、止まった世界の中で動いているのを。


 そいつらはバカデカイ『異形』を囲み、攻撃していた。剣や槍などの武器を振るう者、銃のような物を扱う者、手から雷のような何かを放つ者。少し離れた場所から集団に指示を出していると思われる者もいた。

 そして、そいつらが『異形』を消滅させた瞬間に世界は動き出し、タイマーも二週間ほどの時間を回復させていた。


 遠すぎて顔までは判別できなかったが、服装のどこかに赤いものを付けていたように思う。灰色の世界で、その赤はとても印象に残った。


 それ以来、そいつらのことが気になって仕方がない。俺と同じようにタイマーが見えて、俺と同じように止まった世界の中で動くことができ、俺と同じように『異形』を見て、俺とは違いその『異形』と戦っていた。

 そして、そいつらのことを考えるたびに、空のタイマーを見上げている気がする。


「ほら、また見てる」

 苦笑い混じりの陸の言葉で俺は我に帰った。

 陸は自らのタバコに火をつけると、俺と同じように空に煙を吐いた。

 煙が、空に、タイマーに溶けていく。


「タモツ、今日って暇?」

「暇なわけあるか。俺はこれから学校で勉学に励むんだよ」

「既に遅刻なくせに。でも放課後のことだよ。分かってるでしょー」

「合コンか。仕方ねーな、行くよ。可愛い子いる?」

「それも違うっつーの。誘っても来ないくせに」

「するってーと、『仲裁』?」

「するってーとの『仲裁』だよ」


 『仲裁』。もちろんそのままの意味じゃない。この辺りのガキどもの情勢に詳しい俺が、勢力争いに加担することの隠語。

 ガキどもの中では腕と弁が立つ俺が、少しだけ依頼主の都合の良いように抗争を終わらせるというバイト。「抗争の終結は俺にお任せ! 変に怪我人をだすことも、変に警察沙汰になることもなく平和的に終結させます!」てヤツだ。

 たまたま知り合いが困っていた抗争の落とし所ってヤツを、俺が何件かまとめたのが広まってこんなことをやっている。不本意ではあるが、良い小遣いになる。


「今回はどこ対どこ?」

「もと西中のヤツらが中心のノースビレッジと、レジスタンス」


 西中学校卒業生のヤツらが中心なのにノースビレッジ。初代リーダーの名前が北村だからそうなったらしい。

 そして、レジスタンスとは、最近になって名前を聞くようになった、出どころも繋がりも不明なチームだ。ただ、自ら抗争を起こしたりするチームではなかったはずだ。

 俺も話だけでしか知らず、実際にはリーダーはおろか、メンバーの一人として会ったことがない。


「なんでレジスタンスが?」

「それは完全に被害者。キタムラがちょいちょい絡んで、レジスタンスが返り討ちにしてたら、キタムラのメンバーの一部が逆恨みをしてね、暴走してるみたい」

「どっちからの依頼?」

「キタムラの頭から」

「暴走してる異分子でなく?」

「今日、それぞれのメンバーが集まった場所で、リーダー同士での話し合いが持たれる。そこで、キタムラのリーダーは全員に向けて手打ちをアピールしてこの問題を終わらせたい。しかし、頭は下げたくないってことだね」


 頭を下げるなんてタダ。何も損をしない。と思うが、ガキのお山の大将の頭は、下げるたびに色々と減る。威厳だとか、カリスマ性だとか、チームメンバーとか。


 他のチームならそれが分かるから、少しの裏取引で済むが、レジスタンスにその常識が通じるかは分からない。情報が少なすぎるし、ほかのチームとはその在り方から違うからだ。例えるなら、レジスタンスからは宗教の臭いがする。さて、どうするか。


「陸、その会合の前にそれぞれのリーダーに会うことは可能?」

「キタムラは可能だけど、レジスタンスは多分無理だね」

「だよねー。それなら勝手に少し動くわ。会合の時間と場所は?」

「十九時、バツマル公園」

「オッケー。それまでにレジスタンスとはコンタクト取ってみる」


 レジスタンスはわりと広域に行動範囲を持っているが、主要メンバーは同じ場所にいることが多い。今回もそこに行ってみるつもりだ。

 俺は空腹を覚えた。親にどやされながら家を出たために、朝メシを食っていない。


「陸、もう二限も始まってるじゃん? もう午後から行けば良くない? 俺、腹減った」

「だな。マック行くか」


 俺たちは自転車を駅の方に向け、ハンバーガーショップへと走り出した。


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