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真祖の森  作者: Lika
1章 
1/53

就職難での希望(仮)

 私、橘 茜。

現在無職、25歳。バイトの経験すら一切なし。そして今絶賛就職活動中……ですが。


「また落ちた……」


薄っぺらい封筒が家に届いた。確実に「申し訳ないですが」から始まって「お前はイラン」と書いてある。


ベットにうつ伏せで寝て枕をヨダレで濡らしながら唸る。


「うぅぅぅぅ……こんなに働きたい若者がいるのに……この国はもうおしまいじゃ……」


すでに50社以上受けている。


とある面接で


「ここ受ける前の会社は、なんで君を落としたのかなー?」


しるか! まじでしるか!


うぅぅぅ……と唸りながら面接官の顔を思い出す。


「お前の顔は忘れない……街で会ったら後ろから秘孔を付いてやる……」


そんな事を嘆きながらパソコンを起動させる。慣れた物だ、新しい会社を探すくらい……

しかし、無い。見事に無い。究極に就職難な現在、バイトすら人手が余る時代だ。


「もうダメだ……このまま自宅警備員やるしか……」


母親にコキ使われながら、なじられる未来しか見えない。

もう夢も希望もない。


家に居てもダメだ。そうだ、図書館に行こう……涼しいし……


半分現実逃避している自分を無視して徒歩10分の無駄に設備が整った図書館へ赴く。


「お、新刊出てる……」


と、小説の単行本に手を伸ばす自分を戒める。


ダメだ、こんな事ばかりしてるから就職できないんだ……私は就職することが夢なんだ……

働く場所が……必要なんじゃ……


ス……と手をスライドさせて就職案内の雑誌を手に取る。ネットには無くても……ここになら……


「ふむ、パソコン資格必須……却下……CAD使える人……何それ却下……子供が好きで……殴られても感じない人……却下!」


バンっと机に雑誌ごと頭を机に叩き込む。係り員のおじさんに注意されるも、涙目で助けを求めるように見つめると目を背けられる。


ダメだ……やっぱりない……私はこの世に必要とされてないんだ……転生したい……この祭、タヌキでも犬でも猫でもシロクマでもいいから別の世界に行きたい……


心の嘆きを抑えつつページを捲る。


「んー……ん? 誰でも歓迎、やる気のある方なら……おお?!」


こ、これだ……私が求めていたのは……これぞ地獄に落ちた蜘蛛の糸……掴むしかない!


コソコソと雑誌を持って係り員のお姉さんへ懇願する。ここだけコピーさせてください! と。涙ながらに……私の状況を理解? したのか、お姉さんはコピーしてくれる。


早速家に帰って電話しよう。そして私の夢(就職)が叶う時がくるのだ!

ただのコピーが夢の切符に見える……


この時は思わなかった。


あんな所に就職するハメになるとは。







後日、凄まじいド田舎でバスを降りる。バスの時刻表を見ると4時間に一本しかない……と絶望感を覚える。


「なんだ、ここは本当に地球なのか……」


あの日、図書館で見つけた募集に食いついた私。そのまま家で速攻電話をかけ、


「じゃあ来週面接にキテクダサイ、あ、交通費は出しますので~、あと迎えに行きますね、私暇なんで~」


と、事務のお姉さんっぽい人から言われ電話を切ったあとに私は気が付いた。募集しか見てなかったが、私が電話をかけた勤務先は自宅から電車で3時間、バスで1時間という未知の領域だった。


「田舎すぎる……たんぼしかない……そして暑い……私の健康的な肌が……」


ぼやきながら歩く。スーツなんて着るもんじゃない……母親に買って貰ったスーツが汗でぐっしょりになってしまう……汗臭さで面接落ちるかもしれない……


「君はなんで……そんなに汗臭いんだい? って聞かれたらなんて答えよう……お前の会社がド田舎のど真ん中で果てしなく外が暑いからです、なんて答えたら……落とされるかな……っていうか、もういいかな……こんな遠い所……通勤なんて出来ないし……」


ブツブツ一人言を言いながら歩く。


ひたすら田んぼしかない村? の道を歩く。たまにチャリンチャリン、と自転車にのった爺ちゃんとすれ違う。


「あのお爺ちゃん……クワなんて持って……あれか、タケノコ掘るのかな……いいな、タケノコ……私もタケノコ掘って……」


いけぬ……いけぬのだ、現実逃避している場合ではないっ、私は何としても就職せねば、いけぬのだ…!


就職して……して……どうしよう……とりあえず初任給貰ったら家族で美味しいご飯食べに行こう……なんて親孝行者なんだ、私は……


そんなこんなで、受付のお姉さんとの待ち合わせ場所に着く。駄菓子屋。


「やばい、ラムネ飲みたい……」


誘われる様に駄菓子屋に入り、爺ちゃんからラムネを買って……一気飲み。私は炭酸飲料を一気に飲める特殊能力がある……! と自分に言い聞かせながら一気飲み。


「あー……旨い……」


ミーン、ミーン……とセミの鳴き声が「バーカ」と聞こえる。


私は一体ここに何しに来たんだろう……と、空を見上げて飛行機雲を見上げる。


「飛行機雲って……なんで出来るんだろ……」


「翼の間の空気が気圧で冷やされて出来るらしいですよ……」


と、いつの間にか隣に凄い美人さんが……


「ようこそ~、こんなド田舎まですみませんね~」


気さくに荷物を奪われてセダンのトランクに積み込む美人。


「ささ、行きましょう~」


は、はい、と気押されるように助手席に乗り、私は新たな人生のスタートを切った。


はずなんだけど……


「ぁ、あの……森の中ですか?」


周りは木……木……木……木しかない……


「すみませんね~ 不便なところで……私も、もっと都会に行こうと団長に言ってるんですが……」


だ、団長?! 社長じゃなくて?! 


「は、はぁ……あの、あとどのくらいで……」


延々と車は森の中を彷徨っている気すらしてくる。


「あと少しですよ~、ほら見えてきました」


美人の受付嬢に言われて前方を見る……なんか洋館……? みたいのが見えて……


「え、え? あ、あれですか?」


なんかゾンビゲームで出てきたような洋館が……


「あれですね~」


そして車は洋館の門を超えた駐車場へ。思わず声が出る。


「でか……」


デカい、相当にデカい、お城のような洋館が目の前に広がっていた。

というかここって……なにしてる会社だっけ……と今さら自分のマヌケさに気が付く。そんな事も知らずに募集の誘惑に誘われてここまで来てしまった。


「ぁ、あの……」


圧倒される私に笑顔で答えてくれる美人。そのまま私の荷物を持って洋館の玄関らしき所に向かう


「いや、あの、っていうか、自分で持ちます!」


「いいんですよ、私力持ちですから~」


そういう問題じゃないし……! と思いつつも洋館の玄関……大きな扉の前で美人はインターホンを押した。


よかった……まだインターホンがあるんだ……と思っていると、ガチャリ……と扉が開く。


「ささ、どうぞ~」


あれ? 今誰が開いたの……? と思いつつ中に……妙に涼しい……というか広い……


ホールのように開いた空間、入った瞬間目についたのは階段、まるで映画に使われるセットのように左右に階段があり、正面にも階段……そして正面の階段の先に、昔の貴族のような女性の肖像画が……


「ではでは、これより面接を開始しますね~」


は、はぁ……と洋館に圧倒されている私は適当な相槌を打ちつつ……


「合格ですっ、きゃ~おめでと~」


………………?



しばし沈黙。何言ってんの……この美人……


「ではでは、入社式といきましょ……」


「いやいやいやいやいやいやいやいやい! ちょ、ちょ…ちょちょっ…ちょっと待って……くだしあ!」


「はい? ぁ、お腹空きました?」


「違うんです! いや、あの……面接は?! というかもう合格って……」


ん~~とポリポリ頭を掻く美人、そして超適当に……


「じゃあします? 面接」


ダメダ、いやな予感しかしない、帰りたい。


「ではでは、面接しましょう! いいですね、そのやる気!」


意味不明な事いいながら階段を上る美人、もちろん私の荷物は拉致されたままだ、ついていくしかない……


階段を上り、細い廊下を歩く……なんかホント……ゲームに出てきそうな……


「団長ー、連れてきましたよ~」


美人がノックも無しで団長と呼ばれた人のドアを開く。私も美人に続くように中に入る……


コーヒーのいい香り、机に向かっている一人の男性。黒いジーンズに黒い長袖のシャツ……


「ん?」


こちらを振り向くその男性は、見た目30台そこそこ、この美人と似合いそうな……そんな清潔感溢れる男性だった。




そして、しばしの会話の後。その部屋の中央に机とソファーがあり、向かい合うように座る。





んで……私の希望により面接が開始される。いや、別に希望したわけではないが……


「えーと……じゃあ名前は?」


「橘 茜と申します……」


「趣味は?」


「読書……に、映画鑑賞……です」


「身長いくつ?」


「160cmです……」


「3サイズは?」


「えっと……上から……って、ちょ……セクハラ面接ですか?!」


そんなやり取りをしつつ面接が進められる。というか履歴書みれば分かるだろ! と突っ込みたくなる質問ばかりされ……そのあげく……


「合格! ようこそ~、我が探偵派遣会社、「真祖の森」へ~」


キャーと受付の美人が手を叩きながら二人で盛り上がっている……というか……探偵派遣会社って……


「あ、あの……いくつか質問があるんですが……」


「うむ、なんだね、ワトソン君」


違う、私はワトソンじゃないです、ホームズ先生


「あの……ですね……会社……ですよね?」


「そうだよ~、探偵派遣会社だよ~」


なんだ、このノリ……というか本当に大丈夫だろうか……


「いや~、普通の子が欲しかったんだよね~、事務とかしてくれる子……俺しかいなくてね~事務やってるの」


普通の子って……他の社員は普通じゃない……もしかして相当な爺ちゃんとか……


「ところで君……家遠いね~、どうする? 寮あるけど……通うの大変でしょ」


なんかもう正式採用されている……まずい、押し込まれてしまう……と思いつつも、私は……


「は、はぃ、じゃあ寮で……」


言ってしまった……めでたく社員になってしまった……


「じゃあ今日の所はコレで終わりってことで……今度歓迎会やろう! と、言うわけで……家まで送ってあげて~」


と、美人に命令する団長 美人は二つ返事で了承し……


そのまま美人のセダンで家に帰還する私。


「それじゃ、3日後にまた迎えにくるね、私ヒマだから~」


事務やれよ、と突っ込みたくなるが


「じゃあね、楽しく一緒にお仕事できる日を楽しみにしてますよ~」


そんな事をいいながら帰って行く美人。


どうしよう……就職できたのに……できたのに……


自分の部屋に入りベットにうつ伏せになって、枕をヨダレで濡らす。


「不安だ……これが……新入社員が抱える不安なのか……?」


違う、コレじゃない……と思いながら妙に疲れた私はそのまま寝落ちする。

これから始まる新生活にとてつもない不安を抱きながら……





いけぬのだ! にハマりました。とある漫画より

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