♯20 恐怖
脇腹に一度だけ視線を落とす。
血は止まったけど、見事に赤く染まっていた。
毛皮も相まって、なんだか紫色に見えなくもない。
取り敢えずの脅威は去ったと判断して、視線を戻す。
『慌てていたとは言え、相手の観察もしなかったとか‥‥』なんて思いながら何ちゃらードさんを見て、僕は固まった。
バル・エネス・ソルザード Lv,35
[冒険者 30]
HP 53/700(+500) MP 12/290(+10)
攻撃力 350(+25)
防御力 400(+50)
素早さ 80(+15)
耐久力 350(+60)
知力 300(+10)
魔力 290(+20)
[救い出す者]
『思ってたより強い!こわい!!』
戦って感じた強さは、カメレオンの方が上だったと思った
しかしどうやら、そうとも言い切れなさそうな強さだ。
カメレオンの経験値で、僕のレベルも上がったのかも知れない。と、納得しておく。
っていうか、数値だけみたら、普通にカメレオン並じゃないですかー、やだー。
[絶望の声]が無かったら、カメレオンとこの人だと、この人が勝つかもしれない。
あの魔法の咆哮も、対抗手段が有れば普通に戦っても勝てるかも知れないけど。
物は序でとばかりに、自分にも意識を向ける。
ジュウゾウ ミシロ Lv, 9
[式術師 40]
HP 4/2900(+500) MP `€~p/t!$,(+l%\.a)
攻撃力 511(+300)
防御力 230(+350)
素早さ 800(+750)
耐久力 150(+550)
知力 250(+300)
魔力 210(+920)
[喚び出す者]
‥‥‥‥‥‥‥。
『思ったより強くなってる!こわい!!!』
動揺を悟られない様に立ち上がり、相手を見据えつつ、助けを求める。
『文目さん!何か能力値がおかしい事になってるんですけど!?』
『知らないわよ、そんな事より、来るわよ?』
三歩半程しか離れていなかった距離が、一呼吸で縮まる。
冒険者が剣を上段に振り上げて、迫ってきている。
先刻の強烈な一撃と比べて、明らかに鈍い斬撃を、円月で受けようとして、相手の剣身の根元辺りに刃を向け
チュイン
間の抜た音が聞こえた。
両刃の剣が柄だけになった。
「なっ!?」
「え"‥‥」
『あ~ぁ』
居たたまれない空気が生まれた。
■■■
一瞬でついた決着に、お互いが一瞬、言葉を失う。
決着というか、何というか‥‥‥。
『早く止め、刺しちゃいなさいよ』
文目さん、不穏すぎます。
「え‥‥と、‥‥あ!投降していただけるのなら、貴方の命は保証します。抵抗せずに、此方の言う事に従って下さい」
『ちょっと!』
「‥‥承知した。其方の要求を全てのもう」
うん、これで良い。ビバ、ラブ&ピースだ。
▼ルゴナ大森林パゼロ山南ルノロア川付近
その場で話を始めるのもなんだったので、遭遇・戦闘地点から少し山側に移動した、綺麗な川の近くに来ていた。
「先ずは、先ほどの礼を失した発言を撤回させていただく。本当に失礼した」
座るのに程良い倒木を見つけ、お互いが向かい合うように腰を掛ける。
一本だった巨木が、何が原因かは分からないけれど、ちょうど良く平行に近い形で横たわっていて助かった。
命を奪われかねない状況だった以上、隣り合って座るとか、余り気分の良い話では無い。
『勿論、相手が地べた、僕が木の上とかってのもイヤだし』
気持ち的な話。NOったらNOだ。
話を聞くに、どうやら悪い人では無いらしい。
事情を説明して貰ったところ、ギルドからの依頼で、森の異変に対応する為に、魔物の討伐に来たらしい。
遭遇時の言動については、服も着ていない獣人=文化圏を知らない野生の獣であり、弱肉強食。
自然の摂理を以って対応するのがこの世界の常識らしく、止むに止まれず、といった感じ。
攻撃をしてきたのも、自衛の為。という事だった。
僕は話を聞かせてもらえるなら気にしない旨を相手に伝えて、言動についての諸々は無かった事にする。
面倒臭いし。
正直、日本人の御得意スキル[話せばわかる]が発動するなら、安心感は果てしないのだ。
そんな便利スキルが有ればだけれど‥‥。
ともかく、この世界の文明レベルとか、生活様式。冒険者制度に奴隷制度やらの、異世界特有の懸案事項を、知識として得られたのは大きい。
こうして、第一村人。もとい、王国生まれ、平民育ち、貴族生活満喫中の、現冒険者、バル・エネス・ソルザードさんとの対話は、夜近くまで続いた。
僕は特に問題無かったけど、文目さんは終始不機嫌そうに
『勝てる内に殺しておいた方が良いのに‥‥』
とか、危なっかしい事を、事あるごとにつぶやいていたので、その度に宥めつつ、この世界についての知識を、僕は吸収したのだった。
第二部の終りが近づいてきました。
チート成分の一端が出てしまいました。気に入って貰えるか、戦々恐々です(汗