♯12 頭痛
♯11を含めて、重蔵の移動速度と、背景描写を少し改変しました。
多分、違和感は無いと思います。えぇ、多分‥‥。
走る。とにかく走る。
全力で足を動かし、姿勢を何とか保ちながら、木の枝や背の高い草に体がぶつかるのも無視して、息を切らしながら遮二無二走る。
途中、文目さんにお願いして、敵性感知と周囲探知を発動して貰って。
走り出した瞬間に、一瞬体が軽くなったのは、恐らくあのカメレオンが命を落とし、図らずも経験値が流れてきたからだろう。
頭痛が激しくなっていく、息が苦しい。でも、足は止められなかった。
途中の川も小さな湖も、四編結界を足場にとにかく真っすぐ走って、走って、走った。
それでも滑るように僕の後を音もなく追ってくる、赤く激しく点滅する矢印は、数時間走り続けても、静かに付いて来るのだった。
▼ルゴナ大森林パゼロ山南側付近
既に走り続けて四時間が経過したらしい。文目さんに、転移魔法を使えないか確認した時に、だいたいの時間を教えてもらった。
因みに、転移魔法は使っても無駄だと言われた為、理由も聞かずに諦めた。
『無駄な物は無駄なのだろう』
そして周りには、日の光に照らされて、夜はどこかへ、静かに沈んでいったかのように、辺りには木漏れ日が差し始めていた。
追われてとは言え、かなりの距離を走った以上、十日で付く道を数時間ちょっとで踏破しても、おかしくは無い話だと思う。
何せ獣の脚力だ。チーターなんかは、時速100㎞を超える速度を出せるのだし、不思議はない。‥‥無いと思う‥‥。
景色も途中から一気に入り口と同じ程度の密度になって、樹海や密林から、森林に戻った感じに見受けられた。
で、問題は後ろに有った気配。
夜の暗がりと一緒に消え去るなんて事はなく、相も変わらず僕の後ろで存在感を発揮していた。
『アレが近付くと頭痛が激しくなるんですけど、文目さん、原因分かります?』
『分からないけど、多分、倒すなら今よ』
『へぇあ?』
間の抜けた声が出た。心の中でだけど。
■■■
文目さん曰く
『朝が近づくにつれて、敵の大きさと、存在感、感じる強さがどんどん小さくなっていっている』
らしい。
言われてみれば、敵性感知の矢印は、サイズが小さく、点滅も緩やかになっていた。
因みに、点滅の仕方で此方に気が付いている。とか、敵対する意思の強さ(実際は、強い意識の向き)が分かったのも、或る意味収穫と言えば収穫と、言えなくもない。気がする。
こんな形じゃなければ、尚良かったんだけどね。
『はっきり言って、行き合った瞬間だったら、重蔵、‥‥アンタ多分死にかけたわ』
でも今なら戦える。と続いた文目さんの言葉に愕然としながらも
『自身満々スね‥‥』
としか言えないのは、僕が弱いからだろうか。
っていうか、あんな巨大なパック○フラワー(闇)みたいなのと戦って
死にかけるだけで済むって、相変わらず文目さんの補助魔法の異常さが際立つ話だと思った。
まぁ、文目さんが言うなら、何とかなるかな。
頭が痛いままってのも嫌だし、原因が分かり切っているなら、取り除きたい。
僕はゆっくりと迂回して体勢と息を整え、○ックンフラワー(闇)と向き合うのだった。
■■■
立ち止まってしばらくすると、目の前に現れた巨大な顎と、ソレに付随する小さなワニの体。
いや、体を見る限り、目も鼻の穴も見つけられない大きな顎も、ワニのソレなんだろうか‥‥。
なんか汗だくになりながら、ゼェハァしつつ、ゆっくり歩いてきた。
「お、おmヴェッホ!ゲーホ!オェ!!」
緊張感の欠片も無くて、心底申し訳ないけれど、黒いワニは人語を話した。
割と若めな、青年と言えるような声だった。
■■■
頭が痛くて、眉間に皺が寄るのを隠す気すら無くしながら、ワニに声をかけてみた。
「あの、敵対するつもりは有りませんので、出来れば追いかけてこないでもらいたいのですが‥‥」
未だにむせているワニに、あくまでお願いをしてみるも、ワニの矢印は相変わらず点滅している。
『これじゃあ、無理かなぁ』
などと思っていると、漸く落ち着いてきたらしいワニが、人の形に変貌しながら、口を開く。
「ふん、獣人風情が舐めた口を叩くな」
『ムッ』
『かっちーん』
え、それ口で言うんですか?文目さん。
「私の名前はバル・エネス・ソルザード!闇の魔法をこの身に宿し、世界を破滅に導く、最強の騎士だ!」
『あっ(察)』
『よし、やっちゃって良いわよ』
良くはないです、文目さん。
「どうやら身体能力は悪くないようだし、毛並みも美しいものと評価してやる。私の奴隷になる事を許すぞ?獣人よ!」
『伸します』
『GO!』
頭痛に任せて、バッキバキに折りたたんでやるので、文目さん、魔法だけお願いしまーす。
苛々を解消すべく、平和主義者の僕は話し合い(打属性)で決着を着ける事にしたのだった。