♯10 絶望
文目さんにお願いして、今、僕とカメレオンが居る少し開けた空間を、丸っと
[探知上位遮断結界]で覆ってもらった。
急にカメレオン以外から不意打ち食らってGAME OVERとか、冗談じゃない。
魔法による強化を受けてなお、ステータス的にはギリギリ上回っているハズのカメレオンに、僕の攻撃は満足に通っていないのだ。
『なんたるインチキ!』
心の中で毒づきながら、なんとか襲いかかってくる尻尾を回避して、拳を叩き込んでいく。
『左下から来るわよ!』
『文目さんナイスゥ!』
戦闘中でも、いろいろサポートしてくれる文目さん、マジ軍の女神。
因みに今の残り体力は
カメレオン 722/940
僕 210/215(各種補正込)
だ。
攻撃を避けきれない時には[四編結界]を、自身と尻尾の間に発動させて、バリアもどきによる防御の補助。
攻撃手段は、魔法は取り敢えず使わないで(遮断結界を飛び越えて、魔法を感知する敵が居たら困るのと、MPが相変わらず文字化けしてて分からないので、無駄に魔法は使いたくないので)肉体言語よろしく、拳と脚で物理攻撃を慣行中。
敵のHPを見る限り、一撃平均3くらいのダメージなので、尻尾の猛攻を避けながら、神経をすり減らしつつ、ようやく30発近く叩いている事になる。
残り240発前後‥‥、途方もない道程になりそうだった。
ともあれ、文句を言っても始まらない以上、避けて叩き続けるしかない。
カメレオンが降参してくれるなら、この上なく助かるのだけど‥‥。
「フハハハハハ!毛ホドモ効カヌワ!虫ケラメ!大人シク無様ニ砕ケ散レィ!」
降参は期待できないかも知れないなぁ‥‥。
■■■
『ねぇ、いつまで遊んでるつもり?』
敵のHPを戦闘開始から三割程削った辺り
※今の残り体力は
カメレオン 502/940
僕 209/215
で、文目さんから退屈そうな声が上がった。
補助を頂いてこっち、文目さんの警告も不要なくらいには、僕の目と動きが慣れてきていたので、実際つまらないのだろう。
50発目くらいの攻撃が当たった頃からだろうか、何故か体が思うように動くようになり、ヒット&アウェイが、面白いほど決まるようになり始めていたのだ。
『まぁ、時間的にはもう3時間は戦ってるしなぁ‥‥』
その間、文目さんの補助は一度も切れていない。
時間延長の魔法を使っていないのに効果が切れないのは、どうやら僕のMPを消費しながら発動を続けているから。らしいのだけど、一向に枯渇しないところを見るに、バグかチート級のMP量なのだろうか‥‥。
『あー、っと、しりとりでもします?』
『バカ言ってないで、サッサと終わらせて』
けんもほろろにあしらわれた。
■■■
とはいえ、このままでは普通に疲れるだけだし、相手は疲労知らずのモンスター。
いつまでも叩き続けていたって、埒があかないのも、また事実だ。
正確には、或る程度、相手の体力は減らし続けられているものの、このまま続けていてもカメレオンが降参するかは分からないし、そろそろ何か決め手が欲しいとも思っていたのだ。
そして[四編結界]を思い出した。
『防御に使えるなら、攻撃にも使えるんじゃないだろうか』
思い立ったが吉日とばかりに、迫りくる尻尾の軌道を予測して、指定位置を尻尾が通る瞬間を狙って、結界を発動。
サイズは10センチ角程度の大人しいものだが、効果は覿面だった。
不自然な位置で急に曲がり方を変えた尻尾(瞬間、肉の千切れるような、嫌な音がしていた)がブルンブルンして、尻尾自身を叩く。それと同時に、カメレオンが大音響で悲鳴を上げた。
「グゥアアアアアアアア!!!」
遮断結界がビリビリと震えるほどの爆音だった為、慌てて周囲を見回したが、音に呼ばれて敵のおかわりが現れる事は無かった。
『心臓に悪い‥‥』
「オノレェッ!獣!!貴様何ヲシタァァァァアアア!!!!!」
[四編結界]は絶賛発動中の為、尻尾を引っ張っても移動できずにもがきながら、カメレオンが此方を忌々しげに睨みつけつつ大口を開け、怒鳴り、今度は長い粘着質の舌を射出した。
一撃目は右に少し飛んで回避。
僕の足元にあった地面は、直径50センチ程度に爆散し、パラパラと土が降ってきた。
『地味に危ない‥‥』
『直撃したって死なないから、早く終わらせなさいったら』
文目さんの無茶振りに心の中で愛想笑いを返しつつ、今度は全身を使いだしたカメレオンの攻撃を避けていく。
大上段からの舌の振り降ろし。
流石に顔をそんなに振り回しては、どう振るうのかがまる分かりだった。
左に小さくジャンプして回避。
続いて巨大な前腕による薙ぎ払い。
初動が速すぎてギョッとしたが、後方に飛び退いて躱わす。
避けきれずに掠っただけで、左足の甲に傷が付いた。
『いたっ!』
『なにやってんのよ!』
スンマセン‥‥。
多彩になった攻撃を、前に後ろに右往左往しながら避けつつ、相手を観察する。
多分だけど、そろそろ奥の手が来るだろうから。
確証はないけれど、なんとなくそんな気がしたのだ。野生の勘だろうか。
■■■
程なくして、カメレオンは体色を変え、既に日が昇り、多少の蒸し暑さと、極々微かな木漏れ日が昼近くを知らせる樹海の景色に溶け込んでいった。
※今の残り体力は
カメレオン 151/940(結界による一撃で結構削れた)
僕 197/215(足の甲の怪我ですこし減った)
「ヌゥゥゥ!ナカナカにヤルヨウダガ、獣ヨ、貴様ニハ最上級ノ苦痛ヲ以ッテ、ソノ罪ヲ償ワセテヤロウ!!大イニ感謝スルガ良イ!!」
『小物臭半パない』
『小物臭凄いわね』
心の声が重なると同時に、カメレオンが魔法を行使した。
『食ラエ![絶望ノ声]!!』
極大の悲鳴が、空間を満たしていく。
[絶望の声]は、相手のHPと耐久力を聞いている時間に比例して奪っていく魔法で、範囲内に存在する生命の有る者は、すべてが効果の対象となる。
遮断結界は、探知可能な事象の全てを、結界の強度限界まで遮断し続けてくれる為、魔法の効果が外に漏れる事は無いけれど、代わりに内部には、嵐の様な死の暴風が吹き荒れた。
その威力は、使用者であるカメレオン自身の肉体をも、ボロボロにする程なのだから、なんとも、恐ろしい威力である。
『素で食らったら、何分耐えられます?』
『10秒持たないわね』
えげつない威力だった。