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今日から学校と仕事、始まります。①莞

家族のアラーム

作者: 孤独
掲載日:2016/01/13

ジュアアアア



「………………」


ピリリリリリ



「……んっ……」


幼少、小学、中学、高校、大学、専門、社会人と昇ってきた。

それは時に逆らえないことと同じく、人は進歩を促されて社会の歯車に乗らなければいけない。抗うも、止まるも、構わないが。

怒りという感情、挫折という閉塞。現在進行形のままにしてはいけない。

平常と安定、安心は愚かだ。



ピッ



「ご飯だよー」

「わーってるよ。起きてるさ」


当たり前だと思っていた。それだけで自分と、これらを感じられている人間は幸福なのだと思い知る。

早朝に鳴るアラーム音はいつも変わらず、意識を呼び戻す音と震動を発生させる。寝巻き姿で汗を掻いている俺は、布団から苦しそうに抜け出しながら時計を止めた。


「今は携帯。いや、スマホか」


時代の進みが分かるかもしれん。本当に便利なもんだ。

目覚ましを置く場所はいつも、布団から抜け出さなければいけない位置に置いている。意識を取り戻すだけではダメなのである。二度寝、三度寝の恐怖がある。意識を取り戻し、即座に目的を遂行するための行動力をすぐに持たなければいけない。アラームを止めるというのは、それだけでも価値ある行動なのだ。

布団から出れば体は自然と立ち上がれる。背伸びをしながら両腕を伸ばし、疲れの度合いを朝の内に確認しておく。

だるさはない。しかし、疲れが残っている。まぶたがちっと重い。いつもの目薬が必要だな。



朝ご飯の用意は家族がしてくれている。彼女なんていない。妻もいない。まだこっちの家族環境は随分とつまんねぇ。生まれた時から衰えていく身体の、いつもの調理姿が朝から映っている。

アラーム音よりも早く鳴っていた音。熱したフライパンの上で食材が踊っている音だと分かっていれば、卵焼きではない。朝から味が濃い目、どっかのワイドショーかクッキングレシピに載っていたか知らないが、健康を考えた食事作りを実践しているみたいだ。



「今日はジャーマンポテトとパン、かぼちゃスープ(缶詰の奴)。デザートはプリンよ」

「あんがと」



起きてすぐにこれだ。トイレ行くか、行かないか。顔を洗うか、洗わないか。その2つくらいが、朝食前にやるかどうかのIF行動。起きて5分くらいにはもう、パンを握って、飲み物を口に含んで、お世辞じゃなくてちゃんとした言葉で『美味しい』と口にする。風邪とかじゃなければちゃんと、出された物は全部食べる。

母は朝が楽しいのかもしれない。まだこーいったところが、自分の子供らしさだからか。家事をやるにはもう少しだけ、仕事の負担が軽くなってくれるのが良い。



「今日も遅いの?」

「いつも通りだよ。終電に間に合うなら、電話するさ。22時以降になきゃ、家までこれねぇよ」

「タクシーとか使っても良いのよ?」

「そこまでするなら、いつも通り会社に泊まるさ」

「…………お金は良い方なの?こんなに正明が頑張っているのに、そーいった面がないなんて」

「母さん達にはわかんねぇだろーけど。俺達は、今のことが好きでやってんだ。金は二の次どころか、何も考えちゃいねぇさ。結果出せば勝手に転がり、道中を楽しめば金よりも価値ある思い出、経験になる」



それに俺はあいつ等ほどじゃねぇし。



「ともかく、ごちそうさん。美味しかったぜ」

「そして、いってきますね?」

「そーだな。よー分かってる」


朝飯を食べて、すぐに支度をして電車のラッシュ時刻よりもわずかに早く、駅に乗り込む。

スーツの着方が雑。会社の階段を昇る時に直しながらだ。歯磨きは家で一度、会社で一度の計2回は朝に行なう。


「瀬戸ー!新着はどーなってる?」

「な、なんとか。今日の朝に終わったよ……。あとは9時に来る、松代さんにデータを渡すだけ……」



ドタァッ



「かーー…………」


社内はいつも戦場。死人というか、倒れる人が出るほどだ。


「これで俺が楽だなんて言えねぇーだろ?」


楽しいこと、馬鹿みたいにやっている連中だ。

だから普通から観れば異常で。異常から観れば平常だった。白と黒の染め合いみたいなもの。それがどこか不安を作るものだ。

実家に帰れる機会なんて、月に4,5回くらいだ。仕事のない休みなんてそれよりも少ない。


ピリリリリリ


「俺のアラーム音と同じだな、安西」

「三矢さん。デフォルトの音にしたままなんですね。私も面倒でしてないだけですけど」


だからか。身体には汚れのように染み付いた癖がある。アラーム音は朝しか聞かないが、電車の中で誰かの着信音と同じだと意識が湧きあがる。

自分の意識を深いこと眠らせたことなど最近はない。働き始めてからはまずない。いつもの動き、行動がすでに身体と脳に刻まれている。

心配されるところも分かっている。


「ただいまー」


ドアを開けて、帰ってくる頃はすでに翌日になっていた。それでも両親が起きていたのは今日が日曜日だからだった。

風呂を用意していてくれ、ちゃんと掃除もしてくれた。


「明日は休みなんでしょ?」

「ああ。珍しく、日曜日が休めた」


帰ってきて、風呂がすでに沸いているのも良い。定食屋は外にあれど、銭湯なんてそうあるもんじゃない。それだけじゃない。服を洗濯してくれるのも嬉しい限りさ。え?1人でやれって?暇がねぇのは分かっているだろ?あれこれ考えず、すぐに眠れるのが幸せだったろう。


「おやすみー」


眠りにつける技術も過度な労働のおかげで身につけることができた。両目を閉じて、温かい布団を被れば一瞬だ。

明日は休みだが、アラームがまた身体を起こしてくれるだろう。音が鳴るまで、この至福な休息を存分に楽しむ。それが休日の楽しみだ。……寂しいかな?休日の過ごし方を思い出せなくなるのが。奴隷根性の嫌な気分だな。仲間と付き合うことが、一番好きで。滅多に出会えない日曜日が嫌いだったりするんだ。


…………


……………………


………………………………


…………………………………………


……………………………………………………



日が昇り始める。

とても深い眠りだった。

目覚めるスイッチは一切鳴らなかった。

日曜日が少しだけ、本当に少しだけ不快だというのは、家族だって分かっている。それでも気持ちは分からない。不思議な、とても変わった息子なもんだ。



「今日は休みなんだし、いくらでも寝ていなさい。正明」



母は三矢正明のスマホを部屋から取り上げていた。目覚めるスイッチがないのなら、夢の中でゆっくりとできるだろう。

家族なりの息子への計らいであった。



家族のアラームは無音なのである



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