7-邪龍
「ふぅ、大変な目にあったな……。楽をしようと思ったのだが、そんなに甘くはないか」
数分後、咲哉の姿は再びワイズの前にあった。
一瞬で姿を消したかと思うと再び現れる。
いったい何処で何をしてきたのだろうか。
「ワイズ。ちょっとこれを見てくれないか?」
咲哉がそういうとワイズの前に突然、巨大な西洋風の黒龍が姿を現した。
咲哉はモンスターサモンのスキルを発動したのだ。
モンスターサモンは、モンスターイートで体に取り込んだモンスターを召喚するスキルである。
「これは……1200年前にアスナルドの天災といわれていた邪龍ですな。破壊の限りをつくし、瞬く間にひとつの国を消滅させたそうです。このことで、さすがに目に余った神は邪龍をモンスタープリズンに閉じ込めました」
「破壊の限りをつくした邪龍って……。そんなに凶悪な龍だったのか」
◆ ◆ ◆
咲哉は何をしてきたのかというと、時間は数分前にさかのぼる。
「瀕死のモンスターはと……こいつだな。さっさと取り込んで帰るか。モンスターイート!」
崖の底だろうか、弱りかけて今にも死にそうな黒龍が横たわっている。
西洋風の外観を持つかなり巨大な黒龍だった。
咲哉は急いでモンスターイートで取り込む。
ワイズの前から一瞬で姿を消した咲哉が何故こんなところにいるかというと、世界構築スキルを使って転移してきたからである。
転移の条件付けとして、『モンスタープリズンにいる瀕死モンスターの前、なおかつその近くに他のモンスターがいないこと』としたのだ。
黒龍をモンスターイートで取り込んだ咲哉は転移をしてすぐに帰るつもりでいた。
しかし、そのとき、咲哉に向かって巨大な物体が猛スピードで落下してきたのだ。
頭上に気配を感じた咲哉は振り返ることなく横っ飛びでそれをかわす。
巨大な地響きが起こり、揺れる体を足で支えながら、辛うじて体勢を整える。
何が起きたのかと慌てて上を見上げると、大きな巨人が咲哉を見下ろしていたのだった。
「で、でかい……」
肌は黒ずんだ紫色をしており、禍々しい雰囲気をまとっている。
「上から飛び降りてきたのか!?」
何処までも上に続く岩肌。
崖の上がどうなっているのか確認することすらできない高さだ。
突然崖の上から降ってきた巨人に圧倒され、茫然としていると、巨人が大きく息を吸い込む動作をはじめた。
「ヤバい!!」
直感的に命の危険を感じた咲哉は、世界構築スキルを使用し、その場から緊急転移を行う。
咲哉のいなくなった後には、死のブレスが蔓延する光景が広がっていたのだった。
◆ ◆ ◆
「我を邪龍と呼ぶではない」
「しゃべれるのか?」
「我にかかれば人の言葉を話すなど造作もないことじゃ」
「ふーん、異世界だし、そんなもんか。しかし、破壊の限りをつくした邪龍のくせに、何故、邪龍と呼ばれのは嫌なんだ?」
黒龍がいうには、人に襲われたから返り討ちにしたという、ごくごく自然で当たり前のことをしたという認識らしい。
「襲われたら反撃をする。それは当たり前のことじゃろう?」
「まあ、確かにな。襲われたらやり返す、当たり前のことだよな。しかし、国を消滅させるとかって、やり過ぎじゃねえの?」
「やつらは次から次へと襲ってきてな。切りがないから、国ごと破壊しつくしてやったまでじゃ」
いっていることは分かるが、『やっぱ、やり過ぎじゃねえの』と思う咲哉だった。
「ところで、我はもうすぐ寿命が尽きて地に帰るはずだったのじゃが、生きておる。これはどういうことじゃ?」
「ワイズ、黒龍はああいっているが、大丈夫なのか? 寿命が来てぽっくりすぐ死ぬってことはないか?」
「大丈夫でございます」
ワイズの話によると、モンスターイートで咲哉に取り込まれた黒龍は不老不死となり、寿命が存在しなくなっているとのことだった。
例え戦闘中に首を跳ねられて即死したとしても、自動で咲哉の体に戻り、24時間後に完全復活するらしい。
しかし、モンスターイートで解放された後はその限りではない。
「というわけで、お前は不老不死らしい。良かったな」
「不老不死とは……。静かに死ぬつもりであったが、感謝をしたほうがよいな。これで、あやつに一泡吹かせてやれるかもしれん」
「あやつに一泡?」
「そうじゃ。わしの宿敵、赤龍にじゃ!」
そういうと、黒龍の体から視認できるほどの闘気が溢れ出していた。
西洋風のドラゴンは『竜』という漢字で表記するのが理想かもしれませんが、都合により『龍』としておりますので、ご了承ください。