6-偽造カード
「龍族が襲来してきたのは五日前からになります。数え切れないほどの龍族が昼過ぎに襲来し、夕方には山へ帰っていくということが、それから毎日繰り返されているのです」
「毎日だと? その割に街が破壊された様子はなかったようだが?」
「ええ、街には緊急時に備え即座に展開できる結界が用意されていますので、結界のお陰で特に目立った混乱が起きることもなく、人々は平穏な生活を送れているのですが……」
カイツの話によると現状は結界で持ちこたえているが、結界の魔力が二日から三日後には切れてしまう可能性が高いとのことであった。
「結界の魔力が切れてしまえば街は確実に壊滅してしまいます……」
「なるほど……。魔力があるうちは大丈夫ってことか。しかし、街の外にいる者は襲われたりしないのか?」
「はい。それが不思議と龍族は街に進入しようと試みるだけで、外にいる者を襲おうとはしないのです」
「ほう……。何か理由がありそうだな。よし、せっかく冒険者になったんだ。依頼として引き受けようじゃないか」
「本当ですか! ありがとうございます!」
美味しい紅茶とクッキーを食べて気分をよくしたサクヤは冒険者の依頼として引き受けることにしたのだった。
「ただし、条件がある」
「……条件ですか? こちらからお願いしている立場ですので、もちろん可能な限り条件は飲ませてもらいます」
「まず一つ目は、俺のジョブが神の使徒であることを公にしないことだ」
「私共が公にしなかったとしても冒険者カードは身分証として提示することもありますので、どうしても公になってしまうのですが……」
「その点は問題ない。ギルドカードは俺の方で偽造する」
ギルドマスターを前に堂々と偽造するといい放つサクヤの性格は最悪としかいえない。
救世主より破壊者になりそうなのは気のせいだろうか。
「偽造ですか……。背に腹は変えられないので認めますが、ギルドカードはそう簡単に偽造できないようになっています……」
「あー、おそらく大丈夫だ。ちょっとトイレを借りることはできるか?」
そういうとサクヤはカイツのステータスをアナライズスコープで素早く確認する。
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【ステータス】
名前:カイツ・ヴォルティス
種族:人間
種別:達人
年齢:62才
称号:ギルドマスター
ジョブ:ソードマスター
セカンドジョブ:ヘイローフェンサー
サードジョブ:幻影剣士(LV:10)
LV:97
HP:8932/8932
MP:4952/4952
STR:272
INT:187
DEX:238
AGI:261
STR系スキル:ストライクエッジ・ファストスラッシュ・ダブルスラッシュ・ソードラッシュ・クロスインパクト・ソニックブラスト・シャイニングスラッシュ・リフレクトフィールド・セレスティアルソード・ソードサンクチュアリ・セイクリッドデルタ
INT系スキル:マナスラッシュ・フォースブレイド・イリュージョンソード・ファントムラッシュ
DEX系スキル:ツイスターソードダンス・デストロイソードダンス
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サクヤは一瞬渋い顔をしてしまう。
理由としては、ジョブにLV表記があったのと、サクヤが予想した以上にカイツのステータスが低くすぎたことであった。
「……どうかなさいましたか? トイレにご案内いたしますが?」
「あっ、ああ、ちょっと我慢の限界が来そうでな」
恥ずかしい言い訳であるが、うまく誤魔化すことはできたようである。
「こちらが男性用のトイレでございます」
案内されたトイレの小便をするスペースは、二メートルくらいの細長い溝が掘られているという物だった。
大便の方を覗いてみると、扉の奥に手すりと直径三十センチほどの丸い穴が確認できた。
手すりにつかまって用を足すようだが、お尻がはまらないように注意が必要そうである。
サクヤがトイレに来たのは用を足すためではない。
城にある自室へ転移するため一人になりたかったのだ。
一旦自室に戻ったサクヤは、世界構築スキルを使ってアスナルドに存在する全てのジョブが解説されている冊子を作り出す。
「結構な数のジョブが存在するんだな……。なるほど、ジョブのLVはこういう意味だったのか。よし、この三つにするか」
ジョブのLVは上限が十であり、ジョブスキルを使用することでLVが上がっていく。
そして、上限の十に達すると、上位ランクのジョブに転職できるということだった。
サクヤの神の使徒やモンスターイーター、カイツのソードマスターにヘイローフェンサーは上位ジョブが存在していないためLV表記がされていないのであった。
冊子からジョブを三つ選んだサクヤはギルドカードを偽造し、さらに二つの指輪を作り出す。
「よし。これでオーケーだな。次は……」
続いてワイズを呼び出し、龍族襲来の原因を聞き出したのであった。
「なるほどな。そういう事情だったわけか。場所は分かるか?」
ボーケン街とアスナルドの世界地図を作り出し、ワイズに場所を確認する。
「こちらの建物でございます」
「街外れの建物か。その龍族はどこにいる?」
「こちらの山のこの辺りでございます」
「よし、分かった。また出かけてくる」
「いってらっしゃいませ」
一通りやることを済ませるとサクヤは再び転移でトイレへと戻るのであった。
トイレを出ると受付嬢が入口でサクヤを待っていた。
「あー、待たせたな」
「いいえ。大して待っておりませんので、大丈夫です」
相変わらず素敵な笑顔で素晴らしい対応をする受付嬢であった。
「このカードを見てもらえるか?」
執務室へ戻ったサクヤはカイツに偽造したギルドカードを見せる。
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名前:サクヤ・カンバヤシ
冒険者ランク:F
ジョブ:ウォーロック
セカンドジョブ:召喚師
サードジョブ:エンチャンター
LV:97
HP:7972/7972
MP:11035/11035
STR:182
INT:294
DEX:193
AGI:219
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「これは……!? 見事に偽造されていますな。いったいいつの間に……」
「まあ、詮索はするな」
「はい……。詳しく確認させていただいてよろしいでしょうか?」
「ああ。問題ない」
「依頼書とチェッカーを持ってきてもらえるか?」
受付嬢に依頼書とチェッカーを持ってくるように指示を出すカイツ。
チェッカーとはギルドカードのチェックと更進を行う魔道具である。
ギルド職員しか使えないように認証機能を備えたアスナルドでは高性能な部類に入る魔道具であった。
「他の条件を伺ってもよろしいでしょうか?」
受付嬢を待つ間にカイツは次の条件を確認してくる。
「ああ、二つ目の条件は依頼についてだ。街と世界を救って欲しいということだったが、まずは街を救おう。この依頼は龍族が街を襲ってこなくなればいいんだな?」
「はい。それで問題ありません」
「よし。依頼達成後はギルドマスターの権限で可能な限り冒険者ランクを上げて欲しい。俺のギルドカードにはFランクと記されていた。冒険者にはランクがあるんだろ?」
「はい。ランクがございます。Fランクからとなりますと、私の権限でAランクまででしたらランクアップが可能ですが、それでよろしければ……」
「ランクの上限は何ランクなんだ?」
本来なら冒険者に登録した次点で簡単な説明と、規約やシステムなどを記した冊子が渡されるのだが、特例の扱いを受けたサクヤはギルドマスターへとそのまま面会させられてしまったのだ。
カイツの説明によると冒険者のギルドランクは下からF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとなりAランク以上から一流の冒険者と判断されるとのことだった。
最低ランクのFから一流冒険者であるAランクにアップした前例はないが、街を救った功績があればギルドマスターの権限でランクアップが可能であった。
ちなみにSランクはギルドマスターと支部長一名の承認、SSランクはギルドマスターと支部長二名、SSSランクはギルドマスターと支部長三名の承認とランクアップする条件が上がっていく。
アスナルドでSランク冒険者は五名、SSランクは三名、SSSランクは一名しかおらず、ランクアップの敷居はかなり高いといえた。
「Aランクか。Fからだったら、それでも充分だな。あと、世界を救う依頼だが、漠然とし過ぎている。その都度というか、もっと細分化して依頼をしてもらえるか?」
「分かりました。予言書から依頼内容を定め、細分化して依頼をするようにいたします」
「失礼いたします」
細かい話を煮詰めているとノックと共に受付嬢がノートパソコンのような形をした魔道具を持って部屋へと戻ってきた。
ノートパソコンといってもキーボードが付いているわけではなく、形が似ているだけである。
「こちらが依頼書になりますが、依頼内容はボーケンの街に襲来する龍族の殲滅、または龍族が街を襲来しないように対処をすること、この場合は一週間の経過を見て龍族の襲来がなければ依頼を達成したこととする、ということでよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない」
カイツは依頼書に依頼内容を書き記し、ノートパソコンのような魔道具に依頼書を置いた。
「ではお預かりしたギルドカードをチェッカーで確認させていただきます」
ノートパソコンのような物はチェッカーという魔道具だった。
チェッカーに依頼書と並ぶようにギルドカードを置き、カイツが何やら操作を始めるとギルドカードが淡く光を放つ。
「……偽造は完璧のようですね。正直、こんな簡単に偽造されてしまうとは思ってもみませんでした……」
チェッカーはギルドカードに依頼の受理や達成を記録、ランクアップの書き込みなどを行う魔道具だ。
偽造が失敗していた場合はギルドカードが発光することはなく、依頼内容が記録されることもない。
「まあ、俺以外に偽造はできないだろうから、そう悲観するな」
「ええ……。そう願いたいものです」
偽造を認めつつも予想以上にショックを受けているカイツであった。




