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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
アキバdays
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82.


「・・・うちらは、明日の朝アキバに発とうと思うてます」


コンコンは目の前に座るダーシーに、落ち着いた声で伝える。

黒髪の彼は、コンコンの言葉を静かに聞いていた。


「そうですか」

「・・・そちらは、どうしはるん?」


表情の読めないダーシーを対峙しながら、コンコンは遠慮気味に問いかける。

正直、この質問を彼女がする権利があるか、謎だ。

むちゃくちゃな提案で場をかき混ぜ、僅かに得ていた信頼もなくした今、彼女は相手の顔色を窺う事しかできなかった。


「我々も、先攻部隊を送ることにしました。

移動に際して、馬車が必要なので、その調達もかねてアキバまで頼れる者を送る予定です」


そんなコンコンの内心を見透かしてか、ダーシーは顔色を変えないでいる。

こうして顔色を変えないことで、彼女たちへの不信感を募らせているようにも見えるだろう。

あわよくば、彼女がそう誤解してくれることを望みながら、ダーシーは彼女に冷ややかなグレーの瞳を向ける。


(これは駆け引きだ。少しでもこの人を、俺たちの糧にするための駆け引きだ・・・)


内心では、彼らに愛想をつかされる事を恐れつつ、ゆがみそうな顔を作ろう。

アキバへの移動に関しては、移動手段もある程度考えがある。

コンコン達に頼らなくても、問題はないだろう。

だが、馬車の調達に関しては別問題だ。

土地勘のないこのヤマトで、こればかりは彼らのコネなり、知恵を借りるしかない。


「馬車・・・、そんなん、そうそう手に入らんのんとちゃうか?てか、高そうやなぁ」

「そうじゃな。元々、〈冒険者〉には縁のないもんじゃけぇな・・・」


赤司と丹波は、それぞれ小声でつぶやき合う。

馬が主要な移動手段である〈エルダーテイル〉で、馬車が無い訳ではないだろう。

だがそれに乗っているというと、〈大地人〉の貴族などが思いうかぶが、〈冒険者〉にとってはただの費用のかかるお荷物でしかないように思える。


「うちのメンバーには、馬を召喚できない者が相当いる。

安全性を確保するのにも、馬車が一番手っ取り早いんだ。多少の出費は仕方あるまい」


タオローは、ダーシーの右側から至極当たり前な風に口を挟む。

その顔も、彼らのリーダーと同じく感情を押し殺した顔だった。

長身のせいで、相手を見下ろし逆に威圧感さえ醸し出しているのは無意識だ。


「馬車ねぇ・・・、赤司はん、あのばぁさんの店、どう思います?」

「・・・ばぁさんの店?」


コンコンのざっくりとした問いかけに、赤司は眉をひそめる。

なんのことだかさっぱり分からないのだ。


「ほら、あの〈式神使い〉のNPCがいる・・・」

「あー、道具屋か?・・・どうやろうな、ゲームの頃はあれやったけど、今でも同じシステムで動いとるんやろうか?」

「あー、あのレアな素材をめっちゃ高額で売ってるとこか」


コンコンや丹波、赤司など高レベルなプレイヤーになってくると、どうしても装備を揃えるにレアなドロップアイテムが必要になってくる。

そしてそういうアイテムは、ドロップする確率がしこたま低いのだ。

時間に余裕はないが、コインには余裕がある玄人たちは、このショップで足りない数枚を補ったりしていた。


身内だけで納得しているアキバの住人に、メイズはイライラとしてくる。

前から思っていたが、彼らとの会話はいつも大切な部分が抜けていて、解釈に困るのだ。


「・・・なにか心当たりがあるのですか?」


メイズの苛立ちを感じ取ったのか、ダーシーがごにょごにょ話しているコンコン達の間に割り込む。

ここで何か引き出せたなら、御の字だろう。


「あ?・・・まぁ、無い訳やない。その代わり、あの店はぶんどられるやろうなぁ・・・」

「なにせ、あのがめついばぁさんやからねぇ」


どうやら、彼らが心配しているのはその料金らしい。

元々ゲーム内のNPCでも、特殊な存在にはかなり詳しい性格付けがされている場合がある。

今回、コンコン達が話題にあげているのは、なかりお金に細かいらしい。


「がめつい・・・」

「ぼったくられるということ・・・?そんな店進めるとか、どうかしてるんじゃない?」


手厳しいメイズの言葉を、コンコン達が聞き流してくれたことに、ダーシーは安堵する。

さすがに今のは少しやりすぎだったかもしれない。


「ぼったくりと言うよりかは、必要な物を『なんでも』売ってくれる代わりに、そのなんでもを準備する対価が求められるんや。

要は、なんでも出てくる宝箱やけど、その利用料はお高いですよってやつやな」

「でも、馬車とかも出せるんやろうか?もともと〈エルダーテイル〉で〈冒険者〉が買い求めるもんとちゃうからなぁ」


コンコンの疑問を聞いて、赤司も黙ってしまう。

ゲーム時代と同じシステムなら、レアアイテムを高額で購入ができるはずだ。

一覧から必要なアイテムを選択するだけの、安心簡単設計だ。

(登場当初は、名称検索がなく何千ものアイテム一覧から探すのに手間がかかり、プレイヤーたちを辟易とさせていたが。)

ただ、馬車がそのラインナップに含まれているかは、不明だ。

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