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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
開く道
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81.


丹波との連絡を終え、疲労の表情を浮かべた赤司が、念話の連絡先一覧を触る。

彼の頼れる仲間の名はすぐに出てきた。


『お疲れさま』

少ないコール数ですぐに対応した相手は、穏やかな声でねぎらってくれた。


「ほんま、疲れたわぁ・・・」

『中国人プレイヤーはそんなに手強かった?』

相手側のBGMが少し賑やかなのを気にしつつ、赤司は返事をする。


「・・・それで、そっちはどんな様子や?アキバで何か、耳に入れておくべきことはあるか?」

『もうね、いろんなことが同時にあってさ、目まぐるしかったね。報告することには事欠かない感じ』


AGEはそう前置きすると、赤司のためにこの2日間のアキバの様子を掻い摘んで説明し始める。

赤司は、こういう細かな情報交換を、今後のためにも習慣づけたいと思うのだった。


『まず、〈円卓会議〉っていう、〈冒険者〉の自治組織が設立された』

「〈円卓会議〉ぃ?自治組織って・・・。なんやねん、それ?いつできてん?」


自治組織と聞いて、赤司の脳裏にミナミのことが浮かぶ。

こんなにも早く、こういった組織がアキバにも出現してしまうとは思っていなかった。

赤司の不安そうな声を察してか、AGEは努めて明るく話しを進める。


『できたのは、今日のお昼くらい?で、発表されたのがついさっき。いやーすごかったよ」

AGEの言葉の続きを待って、赤司は黙っていた。

少しの沈黙のあと、赤司の意図を察してAGEはあらましを話し始める。


『大手から中小までのギルドが集まって、アキバを緩やかに自治していくことを目的としてる。

とは言いつつ、〈ギルド会館〉を所有しているから、かなりの拘束力というか、脅迫力?を持ってるかな』

AGEは、自分が仕入れた情報を惜しみなく赤司に伝える。

こういう情報は、彼自身が持っているよりも、赤司が持っているほうがうまみが多いのだ。


「〈ギルド会館〉を抑えとるんは、えげつないなぁ・・・」

『実際、初心者への搾取をしてたギルドが、会館への出入りを禁止されたらしいよ』

「はー!そりゃ、穏やかな自治やなぁ・・・。まぁ、自業自得やけど」

AGEからの返答に、少し嫌味を込めて赤司は鼻を鳴らした。

念話の向こうから、AGEが苦笑する声も聞こえる。


「しばらくは「穏やかな」自治がどれくらい穏やかか、様子見するしかないなぁ。

今は下手に移動をしたい時期でもないしな・・・」

やっとアキバに落ち着いたばかりだし、次に行く場所がない。

それに、そういった大掛かりな計画を実行するには、現状は問題が多すぎる。


『そうだね。今のところ大きな混乱はないみたい。

それから、味のある食べ物と、手作業の秘密が公開されたね。

街はお祭り騒ぎだよ。ご飯がおいしい。あと、いろんな発明がされてるみたい』

街がお祭り騒ぎなのは、赤司にも伝わる。

何を隠そう、AGEが今いるのもお祭り騒ぎの街の中心部だ。


「それは、お前の念話のBGMでよう分かるわ。何食べてるんや?」

『あ、バレた?焼き鳥が旨くてさー』

ごっくんという嚥下の音をさせて、AGEは『はははー』と笑った。

まぁ、久しぶりの食事らしい食事だ。我慢させるのは酷だろう。


「はぁ、俺も早くいろいろ実験したいんやけどなぁ。・・・他にはなんかあるか?」

赤司は溜息をつきつつ、AGEの話を促す。


『あ、うん、あともう1つ。これは、帰ってからもう少し詳しく話したいとは思うんだけど・・・・』

急にAGEの声がピリピリと緊張を帯びた。

それまでの、焼き鳥に現を抜かした機嫌の良い声はなりを潜め、妙に神妙な声になる。


『ちょうど、3人がアキバを出発した日に、クロノがPKに巻き込まれたんだよね。

まぁ、これ自体はまだ〈円卓会議〉もできてなかったし、そんなに問題だとは思わないんだけど・・・』

AGE自身もこの判断が正しいかは分からない。

だが、話を進めるにあたって、先にこのことを話しておかなければならないと感じた。


「知り合いがPKにあったんに、えらい言いようやな・・・」

赤司が、揚げ足をとるようなことを言うと、AGEは『そうじゃなくてー』と、言い訳がましい声を出した。


『まぁね、初心者へのPKなんて珍しくないじゃん?

ただ、その襲われてた初心者の方に、気になることがあってさ・・・』

「気になる初心者なんか?知り合いとかか?」

どうもはっきりしないAGEの言い方に、赤司は矢継ぎ早に質問をする。


『いや、初心者は普通の6人組のパーティーだったんだ。バランスも悪くなかった・・・。

でも、正気だったら、この状況で街の外に出るとは思わないレベルだね』

普段から初心者プレイヤーに対して目をかけているAGEが、そう判断するのだから間違えないだろう。


『あと、PKの方も少し変だった。

たかが初心者のために、あんなにバランスのいいメンツを割くとは思えない・・・。

初心者狩りなら、前衛プレイヤー中心で、もっと攻撃的なメンバーだけで来ると思うんだ。

まるで、何かに備えてるみたいだなって、ちょっと勘ぐりすぎかな・・・?』


AGEは自信なさ気に笑う。

初心者プレイヤーにたかるようなギルドだ、決して大きなギルドとは思えない。

すると、この先の見えない現状で、十分に戦闘ができるメンツを割くのはかなりバカだ。


『でも、1番気になったのは、そこじゃなくて。

その初心者パーティーのリーダーと、その他の〈冒険者〉のギルドタグが違ったことなんだよな・・・』

AGEの報告に、赤司も眉をひそめる。

〈大災害〉からこっち、そんな話は今まで聞いたことがなかった。


「それは、気になるなぁ・・・。他所のギルドの初心者を連れた、冒険者か・・・」

『だろ?・・・なんか、こう、腑に落ちなくてさ。どんだけお人よし?みたいな』

AGEも、彼と同じように気持ち悪さを感じているようだった。

お互い、同じ気持ち悪さを感じながら、念話を終えることになった。


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