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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
開く道
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80.


結局、ヨコハマで一泊し、今日も帰れそうにないコンコンは、ミナミに向けて飛びったってしまったアニアのことを思う。


「うちのやったことは、何でこんなにも裏目にでるんやろうなぁ?優・・・」


彼女のせいで、アニアはひとり孤独な戦いをするはめになってしまった。

そのことに責任を感じながら、アキバから持ってきた味のするお茶を煽る。


「そんなん知らんやん。てかそれ、ほんとにアルコールちゃうんやんな?」

「ちがいますー。お茶ですー」

「いや、素面には見えへんけんな」


酔っ払いかのように、床にだらしなく横になったコンコはプリプリと怒っている。

その話し方は、しっかりしているようで、どこか危うかった。

第一、丹波のことを本名で呼んでいることも珍しい。


「失礼やねぇ。ちょっと悲観的になってるだけで、素面ですー」

「皐月は、泣き上戸やんけ」

「こんなときまで酔いまへん」


ため息とともに立ち上がったコンコンは、丹波の隣に座り込み、全体重を預けてくる。

べったりを貼りつかれては、うっとおしくて仕方がない。

しかし、一度こうなった彼女がどうにもならないことは、丹波はよく知っていた。


「そんなん、自分ひとりで抱え込むからやって赤司にも言われたろう?」

「あんなガキンチョに言われて、腹立つわぁ!」

「いや、あながち間違いやないと思うで?」

「丹波はんまで、そんなこと言わはるん?ショックやわぁ」


コンコンは不幸そうな声をあげた。

さっきから、丹波に対する呼びかけが安定しない。

アルコールがなくても酔えることはあるのか、調べる手段がないのが困ったものだ。


丹波の膝の上でだらだらとしている、彼女の相手をするのに疲れてきたころ、念話の呼び鈴が鳴る。

助かったと喜んで出た丹波だったが、赤司の開口一番の発言に撃沈することとなる。


『お取込み中悪いな。今きちんと話せる状況か?』

「それってどういう意味や?」

『お2人さんでお楽しみ中ではありませんかって意味やー』


赤司は軽く返答してくる。

丹波としては、はた迷惑な勘違いであった。


「お前未成年かほんまに?年齢詐欺ってるやろ?今時の若い子の話し方ちゃうで、それ?」

『だれが年齢詐欺やねん!』


いらぬ言い争いをしつつ、赤司はすぐに本題を話たがった。

そして本題は、案の定アニアに関してだった。

さっきと変わらぬ軽い口調で話す赤司だが、そこにはしっかりと不安が垣間見れた。


『ミナミにおる知り合いに様子を聞いたんやが、あんま良くないみたいや』

「それ、コンコンには言いなや」

『やからお前にかけてるんやろうが』

「俺も聞きたくなかったわ」


何言うてんねんとどやされながら、丹波は自分の膝の上にいるコンコンの様子を盗み見る。

ぶつぶつと何事かを言っている彼女は、ジロリと彼を見返してきた。


『まぁ、アニアにはもともとからファンがおるからな、何とかなるとは思う。

どう立ち回ったらええかも、一応念話しといた。あとはあいつの手腕次第やな』

「ほんで?あっちの様子はどうなんや?」


何でもないと、彼女に身振りで伝えながら、赤司の話を促す。

聞き耳をたてるコンコンには、あとでどう説明するかが悩みどころだ。


『いやー、すごいで。元〈茶会〉のお嬢さんが、女の武器使いまくって無双してるらしい。

〈大神殿〉購入の計画が実行中や。もうミナミは落ちたな』

「ひえぇ。恐ろしい。おちおち死ねへんなぁ」

『今が、ミナミ脱出のラストチャンスとも言われてるわ』


ミナミの惨状を聞きながら、コンコンの〈忌み鏡〉に映った2人の女性を思い出す。

どちらも魅力的な女性だったことは確かだった。

あの2人に魅了され、下に着いた者が何人いるか?丹波はそれを考えないようにした。

そんな場所に、仲間の1人を送り出したことに軽い後悔を感じる。


「それは、どういう結果を予想しとる?」

『アニアたち2人の強行脱出があるかもしらんってことやな。

今は、戦闘系ギルドによる脱出補助が、あっちでビジネスになっとるくらいやからな』

「はぁ。また、ぶんどりそうなビジネスやなぁ」

『ギルドによっては荒稼ぎしとるみたいやで』


何がビジネスになるかを、良く分かっている〈冒険者〉たちは賢く立ち回っているようだった。

そのしたたかさに、丹波は少しあきれた。

たしかに、今の状況ではいくらあっても安心はできないだろう。しかし今がその時とも思わない。


「まぁ、最悪その手段も考えなあかんな・・・」

『そうやな・・・。アニアにも、そのあたりの決断は早いほうがいいとは伝えとる。

連絡も密にとる予定や。あとは、神頼みやなぁ』

「ま、アニアは〈施療神官〉やん?きっと神様がついとるわ」


明るく言ったつもりだったが、赤司のお気に召さなかったらしい。

数秒の沈黙が流れる。


『・・・あほか』

「えー」


念話の向こうから、赤司の大きなため息が聞こえた。

それが何にたいするものかは定かではないが、彼の眉間に刻まれた皺の深さを物語っている気がした。


『はようアキバに帰りたいわ』

「俺も。じゃぁ、また明日」


念話を切ったあと、自分の膝の上で眠るコンコンに気付いた丹波はまたため息をつく。

その泣きはらした目を撫でてから、寝支度を始める。

ミナミの現状を聞き、明日戻るアキバの街を思って丹波は複雑な気持ちになった。


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